上 下
100 / 141
第3章

3-23 ハイピッチ

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 ペギーの意表を突いたパスからルーシーに得点を許すも、リユの2Pのリバウンドをルーシーに競り勝った美那が得点を決める。MCモンスターズ・クッキーのセットプレーからルーシーのシュートもリユが阻止。中バス女子2人から、美那とリユに声援が飛ぶ。



 得点は(Z)2対2(MC)の同点。
 残り時間は9分29秒。まだ試合は始まったばかり。
 ペギーがルーシーとテッドに何か言っている。
 俺がディフェンスでボールを外に出したので、またまたMC攻撃のチェックボールだ。
 今回はルーシーがトップに来る。なので美那がチェックボールを担当する。
 アークライン沿いの左サイドに回ったペギーに俺が付き、右のテッドはオツがマーク。フラット・トライアングルらしきフォーメーションは同じだ。

 美那からトスされたボールをルーシーが受け取る。けど、ルーシーはすぐには動き出さない。
 と、ペギーがコートの中央付近に向かって走り出す。もちろん俺もマークに走る。
 反対側から、テッドも同じ方向に走ってくる。
 ペギーは右のフリースローレーン辺りまで走り込む。
 テッドはそれよりやや深い位置に走り込んでいる。
 するとペギーがUターンするようにして左サイドに戻る。
 なんか、よくわからんセットプレーみたいだぞ。でも、とにかく俺は、ペギーに付いていくしかない。
 テッドがトップに向かって走っている。オツがそれを追う。
 美那にスクリーンをかけるつもりか?
 やっぱり!
 ルーシーが鋭い蹴り出しのドリブルで右に飛び出す。
 テッドのスクリーンにはばまれて、美那は追えない。
 オツがルーシーのディフェンスに回るけど、すでにスピードの乗ったルーシーには追いつけない。
 スッと軽く飛んだルーシーのレイアップが決まる。
「くっそぉっ!」
 オツが悔しがる。
 やられた、って気持ちは俺も同じ。美那もちょっと呆気あっけに取られた表情だ。

(Z)2対4(MC)。
 俺たちの見た入門書にはなかった動きだったよな……。
 確か、ルーシーは、3on3から3x3に移ってきたとか言ってたから、前からこういう練習もしてたんだろうけど、わずか2日でここまで仕上げてくるとは……。

 オツがゴールされたボールを拾う。
 テッドがすでに、オツをカバーしている。
 ルーシはトップ付近にいる美那のマークに戻っている。
 チームとしての統率も取れてるじゃん。たぶんペギーに2日間かなりみっちりシゴかれたんだろうな……。
 オツはテッドに手こずりながら、ドリブルでトップに戻っていく。
 美那は右サイドをアーク沿いに走っていくけど、ルーシーは速い動きで内側に回ってパスコースをつぶす。オツもパスを出せない。
 じゃ、俺が行くしかないじゃん。
 オツがアークの外に出るタイミングで、インサイドにダイブ。
「オツっ!」
 走りながら、俺は叫ぶ。
 オツがターンしながら、低いバウンスパスを出してくれる。
 スタートダッシュでまさった俺は、ペギーを離している。
 パスを受け取り、ドリブルで若干スピードが落ちると、ペギーに追いつかれる。そして、身体を当ててプレッシャーをかけられるけど、それは想定内。マッチョなスクリプツへの対抗で学んだ重心の使い方で、ペギーの圧力をしのぐ。
 それでもステップを踏んだ時には、走りたいコースよりも右にずらされていて、予想よりもバスケットが少し遠ざかっている。
 伸びてくるペギーの手をかわしながら、右からフックシュートを打つ。
 くそ、軌道がぶれる……。

 ボールは、ボードにも当たらず、バスケットの上を越えて、反対側のリングに当たって、向こう側に落ちていく。少なくともショットクロックはリセットだ。
「リユ、リバン!」
 オツの声が響く。
 とはいえ、ポジション的にはペギーの方が有利な位置だ。
 案の定、リバウンドはペギーに奪われてしまう。
 だったら、せめて、攻撃をしにくいコーナーの方に追い込んでやる。

 よし、左奥のサイドに追い詰めてやったぜ。
 この場所はアークの外に出ると、サイドラインがすぐ後ろだから、ペギーもドリブル技を繰り出しにくい。
 ペギーはドリブルでゆっくりとテッドとオツのいるトップの方に進んでいく。
 突然、ドリブルのスピードを上げる。俺はわずかに離されてしまう。
 身体をうまく使ってペギーのためにスペースを空けたテッドのふところに、ペギーが飛び込んでいく。
 ボールをテッドに渡したのか、それともそのままドリブルで進んでいくのか、俺からは見えん!
 テッドにボールを渡してる!!
 すかさずテッドは、ペギーにショートパスを送る。
 インサイドには、右サイドからルーシーがダイブしている。
 俺はテッドが邪魔で、ペギーを追えない。
 アーク沿いをドリブルで走るペギーを、オツが追う。
 なんとかすがったオツをあざ笑うかのように、ペギーがドリブル技が始める。
 高速でワイドなフロントチェンジや、レッグスルー、ロールターンのフェイント。左右、前後の揺さぶりをかけ、オツのバランスを完全に崩して、ステップバックからの2Pシュート……さっき、俺が仕掛けたみたいなヤツじゃん!
 綺麗な弧を描いたボールがバスケットに吸い込まれていく。

 まずい、女子の2Pで4点追加だ……。
(Z)2対8(MC)。
 残り時間は9分03秒。
 まだ1分経ってないのに、8失点だとーっ⁈
 考えてみれば、ここまでMCは2勝0敗、俺たちZは0勝2敗。もしかして、全然かなわないのか?
 いや、そんなことはないはずだ。内容的には互角に近い気がする。

 美那がバスケットから落ちてきたボールを拾う。表情は冷静だ。
 最後のプレーの影響で、俺のマークにはテッドが付いている。
 だったら、千切ちぎってやる!
 美那は、ルーシーのディフェンスを防ぎながら、左サイドにドリブルしていく。
 トップ付近にいた俺は、テッドの右側からダイブするフェイントをかけて、くるっと回って、美那の向かう左サイドに走る。いや、特に戦略があるわけじゃないんだけど……。
 気づいた美那が、俺の走る先に、少し弾む緩めのパスを出してくれる。
 ナイスパスだぜっ、美那!
 そのまま、ドリブルでアーク沿いに走る。ゴール下に向かって切り込んでいく。
 美那についていたルーシーが、俺のディフェンスに走り出す。テッドも来ているのが、視界に入る。
 どうする? このままシュートに行く?
 いや、美那がフリーになっているはずだ!
「美那!」
 俺は、背中に向かって呼びかける。
「リユ!」
 よっしゃっ。
 俺は急ブレーキをかけて、ターンする。
 ルーシーと反対側の右手で、テニスのフォアハンド、野球のサイドスローの動きで、美那にパス。
 すこしずれたコースも、美那はなんなくキャッチ。
 美那がそのまま、アークの外からシュートを放つ。
 俺の頭の上を飛んでいったボールは、リングの淵に当たって、そのままバスケットに落ちていく。
 やったぜっ!!
 なんて素晴らしいコンビネーション! 自画自賛じがじさんだけど。

 Zも女子2Pのお返しで、4点追加。
(Z)6対8(MC)。
 残り時間は8分57秒。
 なんか、ボクシングで言ったら、序盤から壮絶な殴り合いになってる試合だぜ。
 でも、めちゃ楽しいじゃん!
 オツも見たことないような笑顔だし。ナオも興奮して飛び上がってるし。
 中バス女子からも、またまた声援が飛んでるし。って、いつの間にか、ギャラリーも増えてるし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある高3の日記

青春
卒業するまでのちょっとした出来事を書いたり、ふと思ったことを気ままに書く予定です。

僕は魔法が使えない

くさの
青春
学校一、浮いている彼は 嘘をついている風でもなく こういうのだ。 「僕が使えるのは、 魔法ではなく魔術です」 私もたいがい浮いてますが なんていうか、その… 『頭、大丈夫?』 なるべく関わらずに 過ごそうと思っていた矢先。 何の因果か隣の席になった 私と彼。 んー。 穏やかに日々が過ぎますように。 ――――――― カクヨム、ノベマ!でも掲載しています。

伊予ノ国ノ物ノ怪談

綾 遥人
大衆娯楽
 家庭の事情で祖父の家で暮らすことになった颯馬(ソウマ)。そこで幼馴染の友人、人の眼には見えざるものが見える眼「天眼」をもつ少女、咲耶(サクヤ)と再会する。そこは人に紛れ暮らす獣人と物の怪の街だった。過去の呪縛に翻弄される人狼、後藤雪輪も加わり、物の怪談が始まる。 大蛇の『物の怪』に祖母が襲われ、助けようとする咲耶は『化身の術(けしんのじゅつ)』を使う少年、颯馬に助けられる。大蛇を追っていた狸の獣人、紅(べに)は大蛇を封印し立ち去る。 数年後、咲耶の通う高校に転校してきた颯馬は、紅から依頼されたアルバイトのために訪れた山中で2人組の人狐(人狐)に襲われる。 人狼、雪輪(ゆきわ)と共に狐を追い詰める颯馬だったが取り逃がしてしまう。 なぜ、1000年前に四国から追い出された狐が戻ってきたのか? 颯馬と咲耶は狐達に命を狙われ、雪輪の父親は狐から死の呪いを掛けられる。 狐はあと1年で大きな地震が起こると告げ姿を消した。 みたいな、お話です。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

瑠壱は智を呼ぶ

蒼風
青春
☆前作「朱に交われば紅くなる」読者の方へ☆  本作は、自著「朱に交われば紅くなる」シリーズの設定を引き継ぎ、細部を見直し、リライトする半分新作となっております。  一部キャラクター名や、設定が変更となっておりますが、予めご了承ください。  詳細は「はじめに」の「「朱に交われば紅くなる」シリーズの読者様へ」をご覧ください。 □あらすじ□  今思い返せば、一目惚れだったのかもしれない。  夏休み。赤点を取り、補習に来ていた瑠壱(るい)は、空き教室で歌の練習をする一人の女子生徒を目撃する。  山科沙智(やましな・さち)  同じクラスだ、ということ以外、何一つ知らない、言葉を交わしたこともない相手。そんな彼女について、瑠壱にはひとつだけ、確信していることがあった。  彼女は“あの”人気声優・月見里朱灯(やまなし・あかり)なのだと。    今思い返せば、初恋だったのかもしれない。  小学生の頃。瑠壱は幼馴染とひとつの約束をした。それは「将来二人で漫画家になること」。その担当はどちらがどちらでもいい。なんだったら二人で話を考えて、二人で絵を描いてもいい。そんな夢を語り合った。  佐藤智花(さとう・ともか)  中学校進学を機に疎遠となっていた彼女は、いつのまにかちょっと有名な絵師となっていた。  高校三年生。このまま交わることなく卒業し、淡い思い出として胸の奥底にしまわれていくものだとばかり思っていた。  しかし、事は動き出した。  沙智は、「友達が欲しい」という話を学生相談室に持ち込み、あれよあれよという間に瑠壱と友達になった。  智花は、瑠壱が沙智という「女友達」を得たことを快く思わず、ちょっかいをかけるようになった。    決して交わるはずの無かった三人が交わったことで、瑠壱を取り巻く人間関係は大きく変化をしていく。そんな彼の元に生徒会長・冷泉千秋(れいせん・ちあき)が現れて……?  拗らせ系ラブコメディー、開幕! □更新情報□ ・基本的に毎日0時に更新予定です。 □関連作品□ ・朱に交われば紅くなるのコレクション(URL: https://kakuyomu.jp/users/soufu3414/collections/16816452219403472078)  本作の原型である「朱に交われば紅くなる」シリーズを纏めたコレクションです。 (最終更新日:2021/06/08)

産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ
青春
高校へ入学したことをきっかけに産賀良助(うぶかりょうすけ)は日々の出来事を日記に付け始める。 彼の日々は変わらない人と変わろうとする人と変わっている人が出てくる至って普通の日常だった。

オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

風音
青春
高校三年生の結菜は父の離職によって母と兄と3人の家計を支える事になった矢先アルバイトがクビになってしまう。叔母の紹介で家政婦バイトが決まったが、その家は同じクラスの日向の家だと知る。彼は俳優業をしながら妹と2人暮らしで学校には変装して通っていた。結菜が同じクラスの杏にパシられてる事を知ってる日向は、自分の気持ちを隠して変わろうとしない結菜の一本結びの髪をバッサリ切り落として変わるきっかけを与える。 ※こちらの作品は、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のiらんど、ノベマ!、小説家になろうにも掲載してます。

【完結】桜色の思い出

竹内 晴
青春
 この物語は、両思いだけどお互いにその気持ちを知らない幼なじみと、中学からの同級生2人を加えた4人の恋愛模様をフィクションで書いています。  舞台となるのは高校生活、2人の幼なじみの恋の行方とそれを取り巻く環境。  暖かくも切ない恋の物語です。

処理中です...