カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-20 オツからの提案

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【前回のあらすじ】
 覚悟はしていたがオツのシリアスな対応にショックを隠せない美那。リユの言葉に元気付けられた美那は、忘れていたマッサージをリユにほどこす。コートに降りたリユと美那に走り寄ってきたナオは、説得は試みたものの、オツの結論は読めないという。ナオから、オツが自分を高く評価していると聞いた美那は涙を流し、リユに抱きつく。



 スクリプツのメンバーと話をしていたオツがゆっくりと俺たちの方に歩いてきた。
 表情は硬い。
「ウォームアップは5分後からだ」
 俺たち3人とは少し離れたところで、オツは誰にともなく言う。
 そして、俺と目が合う。
 めちゃ気まずい。
「リユ、ちょっといいか?」
 え? なんで、俺?
 壁際に歩いていくオツに黙って従う。
「さっきの美那の話だが……」
「はい」
 だいぶ親しくなったとはいえ、状況も状況だし、近い距離で花村さんオツにマジ顔でにらむように見られると、ちょっとビビる。やっぱ、大学生って大人だよな。
「お前、美那と付き合ってないとか言いながら、そんなデートみたいなことしてるのか?」
「え?」
 そこかっ⁈
「その、美那と3on3の試合を観に行ったっていう……」
「いや、それは、参考としてプロの試合をなまで観ておいた方がいい、みたいなことを美那に言われて、誘われるままに、行ったっていうか……でも、確かに身体からだの当たりとか、ハンドリングとか、勉強になりました。スクリプツのメンバーみたく、みんなマッチョで、それにファウルとかも技術のうちなのかぁ、とか」
「……なるほど。それは今日の試合でもかされていたみたいだな」
「はい」
 話の流れが読めん……。
「俺としては、まだ納得していない。できていない」
「ああ、はい」
 やっぱ、その話だな。でも、できていない、ってことは、納得したい、って気持ちがあるということだよな?
「その男はどんなだった? イヤな野郎だっていうのはわかったが、対戦相手として」
「そうっすね……いや、俺も話をした、というか、美那に絡んできたんで、もうちょっとで喧嘩ケンカになりそうになったし、でも野球部もまだ県大会中だったし、もうひとりがあいだに入ってくれて、助かったというか……これじゃ答えになってないか。そうだ、俺はちょっとは名の知れたストリートボーラーなんだぞ、とか言ってました。それと、体格的には花村さんと同じくらいの背で、もうちょっと筋肉質かな。あと、俺のこと、勝手に誤解して、高校のバスケ部くらいで調子コクな、みたいなこと言ってました」
「なるほど。名前は?」
前田まえだしゅん。前後のまえに田んぼの田に、俊敏の俊、です。シャープな顔立ちにちょっと長めの髪で、ブランド物っぽいカジュアルな服をラフに着ている感じ。まあ、確かに女からはモテそうな奴でした」
「前田俊、な」
「はい。それと、美那の話だと、フリースタイルバスケもちょっとやってたみたいです」
「もしかして、お前がときどき見せるハンドリングは、そこから来てるのか?」
「……ええ、まあ。美那から聞いて、どんなのか動画で見て、ちょっと試してみた、ってくらいですけど。それよりもカイリー・アービングの影響が圧倒的ですけど」
「あー、アービングな……なるほど。ところで、お前の3x3バスケへの情熱、モチベーションは、すべて美那を助けるため、ってことか? あ、これはポジティブな意味でな。それはそれで俺はいいことだと感じているんだ」
「まあ、そうっすかね。あ、でも、最近は、普通に楽しくて……」
「うん。わかった」
 オツの表情が和らぐ。
 え? もしかして、チームを離れないでくれる?
「このことは、美那とナオには秘密にしてくれ」
「このこと?」
「いまから俺が言う条件を、お前がんでくれたら、俺はチームを続ける」
「……条件? 嫌だと言ったら?」
「その時は、またしばらく考えることにする。とはいえ、もう大会まで時間もない。だから、できれば……いや条件というのは良くないよな。お願いだ。俺からのお願い」
「……お願い?」
〝オツのお願い〟って、むしろ〝条件〟より怖い気がするんですけど。
「ひとつは、さっきマッサージしてもらっている時に言った、木村とのディフェンスの練習だ。それをやってもらいたい」
「いや、でも、それは……」
「体育館で見られたというお前たちの話を聞いたあと、木村に久しぶりに連絡したら、当然のようにこのチームの話になった。木村もお前の才能に驚いていたよ。バスケ部に入ってくれるよう俺からも頼んでくれ、と言われた」
「だからですよ。俺、こう見えても、本気で今から理系を目指しているんですから」
「ああ、わかってる。俺からもそのことは言っておいたよ。残念がってたけどな」
「そうっすか? よかったぁー」
「で、さっき、木村に電話して、お前キムラの練習にもなるから、部活抜きで手伝ってくれと頼んでおいた」
「木村主将の練習? それはないでしょ。で、木村主将はなんて?」
「一瞬考えてたけど、リユにやる気があるなら引き受けるそうだ」
「マジかー」
「なあ、リユ、お前、本気で優勝する気なんだろ? 美那を助けるんだろ?」
「はい。それはマジです」
 俺は真顔まがおになって答える。
「じゃあ、例えば、俺が怪我をしたり、さっきみたいに足をりそうになったりしたとき、俺の代わりをできるのは誰だ? お前しかいないよな?」
「……それは、まあ……」
「俺の抜けたディフェンスのカバーをできる能力が今のお前にあるか?」
「……ない、です」
「大丈夫だ。木村には勧誘しないように釘を刺しておいたから。やってみろよ」
「だけど、練習場所が。さすがに学校の体育館は目立ちすぎるんで。サスケコートも俺と美那しか使えないことになってるし。まだ高齢ってほどじゃないんですけど、夫婦二人だから、色々心配みたいで」
「うん、わかってる。公立の体育館でやればいい」
「でも予約とか簡単に取れないですよね?」
「登録者なら誰でも自由に使えるバスケ用の時間帯があるから、その時間を使え。学校が始まったら木村もバスケ部の練習で一杯だろうから、夏休み中だな。夏休み限定でいい」
「うー……わかりました。そもそもディフェンスが上手くなりたいって言ったのは俺だし」
「俺はその言葉を聞いて、結構嬉しかったんだぞ」
「そうなんですか?」
「確かにお前は攻撃力はあるけど、バスケットマンとしては経験が不足しているし、体格もいい方ではない。でも動きを見ていると、相手のプレーを抑えるセンスは感じる。たぶん自分で攻撃が出来るから、相手の動きもある程度わかるんだろうな」
「それはまあ、そういうところはあるかもしれません」
「だから、お前にディフェンスを学ぶ気があるなら、もっと上手くなる。そしたら、このチームはもっと強くなれる」
「……はい」
「よし。じゃあ、ひとつ目は決まりな」
「え、まだあるんですか?」
「最初に〝ひとつは〟って言ったろ?」
「そう言えば……」
「ふたつ目は、今の話とも関係するが、もう少し体力と筋力を付けろ。筋力の方は無理強むりじいはしない。個人のポリシーの問題でもあるからな。リユもそれなりにトレーニングをしてるみたいだが、どうやってるんだ?」
「最初に美那に教えてもらったメニューとか、ネットで調べたりして、家にある3キロのダンベルを使ったり、できる範囲でやってます。あとはランニングとか、体幹を鍛えるためのプランクとか、テニスでやってた縄跳びとか」
「プランクに、縄跳びか。言われてみると、フットワークが一段と良くなってたな」
「そうすっか? そういや、試合中もそういう気がしてましたけど。テニスでつちかった筋肉もだいぶ戻ってきたみたいです」
「うん。俺が感じているのは、短距離走のスタミナ不足だな。短距離走を試合時間中ずっと続けられるようなスタミナが欲しい。もっともそこは5人制と動きが違うから俺も不足しているんだが」
「自分でもそれは感じます。相手が上手ければ上手いほど、スタミナ切れが早いというか。フルタイムで動けるようになれたらとは思ってますけど」
「いや、たぶん、フルタイムを全力で動くのは無理だ。そこはメリハリだな。スクリプツの最後で向こうは体力を温存してあっただろ?」
「確かに俺もそれは思いました……0番女子も途中で休みながら、ここぞという時に力を出して、フル出場を乗り切ってましたね」
「なあ、リユ」
 オツはそう言って、俺の顔をじっと見る。
「はい?」
「お前、ほんと、分析力があるな。観察力もだな。いや、マジで実山のバスケ部に貢献してもらいたいわ」
「いや、それは、ちょっと……」
「ま、それが俺の本音だ。でもお前の人生を考えた時、今は勉強が大事なのもわかってる。だからそのことは安心しろ」
「はい」
「それで体力面だが、ディフェンス練習のついでに、不足している部分のトレーニング方法を木村から教えてもらえ。公立の体育館なら筋トレの設備マシンも揃ってるし。その部分をお前がやりたい、という前提がつくが。マシンを使わない方法も色々あるしな」
「うわー、それも木村さんですかー?」
「そう心配するな。ディフェンスの練習も含めて美那も一緒にやってもらう。もちろん男女では骨格も違うし、それぞれ方法や負荷は違ってくるが。美那には、後で俺から話しておく。お前がやるなら、美那もイヤとは言わないだろ?」
「俺が、っていうより、あいつ、花村さんとチームを続けていきたいとマジで願ってますから、絶対にやると思いますけど。てか、むしろ美那的にも俺の戦闘力向上は大歓迎だろうし」
「だよな。ウエイトを使った筋トレは、まだ成長期でもあるし、お前の考え方の問題でもあるから、やるかどうかや量はお前にまかせる。それこそ部活じゃないからな。ただスタミナだけは絶対につけてくれ。今日はまだ3試合だが、今度の大会は最大16チームまで受け付けるらしいから、決勝までいけば最大5試合になるはずだ。まあ、今日の3チームほどレベルの高いチームばかりじゃないだろうけど、初めて練習試合をしたサニーサイドの精鋭も参加するだろうし、予選プールで強いチームばかりと当たる可能性だってある。それに決勝トーナメントは、当然、技術も体力もある強豪きょうごうだろう」
「はい。スタミナ不足は俺自身も痛感してますから、そこはやります。ただ、あんまり筋肉付け過ぎるのは好きじゃないというか……」
「そうだな。重いとかえって初速が落ちたりすることもあるからな。ルーシーを見ていてもそうだし、車とかバイクもゼロ発進の加速力は車重とパワーのバランスだもんな」
「ただまあ、身体を上手く使うにしても、まだスクリプツのメンバーには当たり負けしちゃうというのも事実ですけど」
「ま、リユはそういう意味じゃ、心配ないな。自分のやるべきことがわかってるんだから」
「いや、そんなことはないと思うけど」
「それに、スタミナを付けておけば、勉強の方も頑張れる。俺もバスケで培った体力があったから、受験の最後の追い込みを頑張れたからな」
「……はい」
 それを言われると、弱い。

 コートにMCモンスターズ・クッキー面々めんめんが入ってくる。
 ルーシーは軽いジャンプを繰り返している。やる気満々みたいだ。モチベーションが一番低そうだったジャックからさえ、ボールの突き方から闘志を感じる。
「航太さん、そろそろ時間」
 ナオが声を掛けてくる。
「ああ、わかった」と言って、オツがナオと美那の方を見て、手を挙げる。
「もうひとつあるんだが、それはまた今度話す」
「まだ、あるんですか?」
「これは本当にお願いベースの提案だから、まあ気にするな。チーム力強化の一環だ」
「わかりました」
「向こうもかなり気合が入ってるみたいだな」
「ですね」
「じゃあ、リユ、この試合は絶対に勝つぞ」
「うっすっ!!」

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