カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

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【前回のあらすじ】
 ScScriptsの0番女子の動きが明らかに落ち始め、攻勢を強めるリユたちZ―Four。マッチョ男子のシュートも美那が体を張って止める。たまらずタイムアウトを取るSc。試合再開後、フォーメーションと見せかけ、オツとナオの抜群のコンビネーションプレーでナオが1Pシュートを決め、ついに同点に追いつく!



 16対16の同点で、残り時間は3分5秒。
 ここからは1本1本が大切になる。0番女子の2Pシュートを抑え込めさえすれば、俺たちが有利なはずだ。

 ナオが決めたゴールのボールを0番女子が拾う。
 2番男子がインサイドに入って、0番女子をフォロー。ボールを受け取る。オツのマークを受けながら、そのままドリブルアウト。アークのトップに戻る。
 左サイドに陣取る1番男子は俺がマークしている。
 緩慢かんまんな走りでアークの外に戻る0番女子はナオがしっかりマークしている。
 Scはショットクロックを消費してでも0番女子の疲労回復を図るつもりか?
 2番男子は、オツのスチールをけながら、その場でドリブルを続けている。
 スペースがひらけると、2番がオツに1on1を仕掛ける。
 俺は1番のカットインを警戒する。
 ショットクロックが残り5秒を切ったところで、1番が動く。
 1番がアークライン沿いに走り、オツにスクリーンをかける。
 ってことは、2番のドライブ?
 やっぱり!
 2番がインサイドに飛び出してくる。
 1番に押さえられているオツに代わって、俺がディフェンスに入る。
 すると今度は、わずかな休息が効いたのか、0番女子がトップ方向に素早く動く。ナオの出足が少しもたつく。
 俺にさえぎられた2番がターンして0番女子にパス。
 まずいっ!
 ただ、0番女子にパスは通されたけど、ナオがすぐに立ちはだかる。
 アークトップとフリスローライン辺りに6人が密集状態だ。

 ナオがいるのに0番は強引に2Pを打とうとする。
 0番のジャンプに合わせて、ナオも飛ぶ。
 けど、0番はまともに飛んでない。
 やばい、俺もやられたシュートフェイントだ!
 ナオの横から0番女子が右サイドに飛び出してくる。
 俺が止めに入る。
 今度は2番がフリーになってしまう。
 それでも0番女子にシュートを決められるよりはマシだ。
 案の定、0番女子は2番男子にパス。
 ショットクロックぎりぎりで、2番男子にシュートを決められてしまった。

(Z)16対17(Sc)。
 残り時間2分53秒。

「いいよ、リユ! OK、OK」と、ベンチの美那から声が飛んでくる。
 よく1点に抑えたということなんだろう。ちょっと悔しいけど。

 俺はバスケットから落ちてくるボールをそのままキャッチ。
 お、逆にアウトサイドはZが数的すうてき優位になってるじゃん!
 ナオがフリー気味だ。

 速攻で出したパスはナオに簡単に通る。
 女子の2Pシュートを絶対に許したくないScは、1番がナオのディフェンスに回る。
 と、今度はオツがフリー。
 ナオからオツにパス。
 2番がオツのディフェンスに走る。
 今度は俺がほぼフリーだ!
 オツからのバウンスパスが来る。
 0番女子がディフェンスに来たけど、楽勝で振り切れるっ!
 と、思いきや、なんと2番まで戻ってきた。
 これってもしかして、ダブルチームってやつ⁈
 これじゃ、シュートにも行けないし、もうすでにドリブルは止めちゃってるし……。
 動けねえ。まずい。なんか3秒ルールとかって、なかったっけ?
「リユ、とにかくシュートに行け!」
 オツが叫んでいるけど、このスペースじゃ無理じゃね?

 ホイッスルの音。
 後ろにいた2番が「よし」と小さな声で言う。
 くっそ。
 審判が親指を立てた3本指を出している。
 やっぱ、そうだ。確か制限区域内ペイントエリアで攻撃側のボールを持った選手がシュートに行かずに3秒以上経過するとバイオレーションを取られるんだったよな。

 ここで、ナオがアウト、美那がインだ。
 残り時間は2分43秒。
 入ってきた美那が俺の肩を叩く。
「ダブルチームされるのは、リユがそれだけ警戒されてるってこと」
 美那は笑顔だ。

 Scの攻撃のチェックボールで再開。
「ワンサイド・トライアングル」の陣形フォーメーションを取っている。
 左のフリースロー・レーンの奥ローポストに2番男子。オツがマークする。
 左側の奥ローウイングの0番女子には美那が付いている。
 トップが1番で、俺がチェックボールを渡す。
 後ろから2番男子が駆け上がってくる気配。
 2番男子が俺の斜め後ろで立ち止まる。
 1番がドライブに入る。
 それにはオツが対処。
 俺にスクリーンをかけていた2番がゴールに向かってダイブしていく。
 そっちは、俺が追う。
 1番が、オツの頭上を越えていくロブパスを出す。
 俺は走りながらジャンプして、手を伸ばす。
 指先にボールが当たった!
 軌道が変わる。
 絶妙だったはずのロブパスは、2番が行き過ぎた形に変わる。
 2番男子と俺でルーズボールの取り合いになる。
 ボールはさらにこぼれ、オツと1番もボールの奪取戦に参加。
 やべ、なんかでかい男たちに囲まれてるんだけど、俺。
 一度はScの1番男子がボールを確保したけど、ハンブルしかけたところを、オツがたたく。
 ボールは今度は美那たちの方に飛ぶ。
 美那がダッシュして、ボールをゲット。
 やった!

 ドリブルで左のハイ・ウイングアークの外に戻る美那に対して、1番男子がディフェンスに向かう。
 0番女子は左のローウイングから動かない。動けないのか?
 内側は、Zの俺とオツに対して、Scは2番男子がひとり。
 だけど、1番男子は美那にパスを許さない。
「リユ、外に行け!」とオツ。
 俺は美那と反対側の右ハイ・ウイングに走る。
 2番がマークに来る。
 ってことは、オツが内側でフリーだけど、美那はパスを出させてもらえない。
 1番男子と美那の体格差は、ほとんど『美女と野獣』。アン・フェアとさえ感じる。
 俺は美女を救うべく、美那に向かって走る。
「美那!」
 俺は美那からボールを受け取ると、相手の裏をかいて、来た方向にドリブルを開始。
 2番男子のディフェンスの戻りが一瞬遅れる。
 このまま、シュートまで行ってやる!
 必死で追いすがってくる2番男子を振り切るところまでは、いけない。
「リユ!」とオツの声がする。
 そうだ、オツがフリーのはずだ。
 ドリブルのまま、急停止から急転換して、2番をいた瞬間に、オツへのパスを出す。
 コースは少しずれたけど、ノーマークのオツは楽々キャッチする。
 ショットクロックは11秒経過している。
 オツは、すぐさまシュート。
 簡単に決まった!

 これでまた同点!
(Z)17対17(Sc)。
 残りは2分20秒。
 17点ってことは、女子の2P一本でKOノックアウトじゃんか。どっちにころぶか、わからないゲームってことだ。

 ボールを拾った2番男子を、オツがディフェンス。
 美那がほとんど動いていない0番女子をマークして、俺はトップ付近にいる1番男子の攻撃を防御する。
 2番男子が、ドリブルで右サイドのアークの外に出る。
 すると、1番男子が2番男子に向かってダッシュ。
 俺は負けじと追いかける。
 2番から1番に短いパス。
 パスを受けた1番は、くるっと向きを変え、ドライブでインサイドに切り込んでいく。
 虚をつかれた俺は一瞬出遅れる。だけど離されてはいない。
 今度はなんと、0番女子が鋭い動きでカットイン。
 美那も付いているけど、体格差で抑え込まれている。
 1番から0番女子へのパスが通ってしまう。

 シュートに飛ぶ0番女子に対して、美那が懸命のディフェンスをする。
 でも放たれたボールは、ボードから跳ね返って、無情にもリングの中に落ちていく。
 0番女子がガッツポーズをしている。そのすぐ横にはがっくり肩を落とす美那が立っている。

 同点もつか、また2点はなされる。
(Z)17対19(Sc)。

 0番女子はうまいこと休んで、体力を回復させていたのか……。
 でも、まだ負けたわけじゃない。

 美那がボールを取って、そのまま、速攻でドリブル、オープンになっている左サイドのアークの外に出る。
 0番女子は付いていけない。
 代わりに1番男子が、美那のディフェンスに走る。
 美那は横目でそれを確認すると、すぐに2Pシュートを打つ!

 ちょっと長いか?
 俺はゴールに向かってダッシュをかける。
 ボールはリングに当たって、外にはじかれる。
 そのボールを、俺は難無なんなくキャッチ。
 近くにいた0番女子がディフェンスに来るけど、余裕がある。
 俺はそのまま軽く飛んで、シュート。
 よっしゃっ!
 決まった!

 これでまた1点差。
(Z)18対19(Sc)。
 残り時間は2分7秒だ。

 Scの男子2人が、突然、精力的に動き出す。
 嘘だろ、まだそんな余力があったのかよ!
 0番女子が拾ったゴールのボールをフォローに来た2番男子に短いパス。
 オツがディフェンスするけど、巧みなドリブルで引き離す。
 ダッシュで美那を引き離した1番男子が、アークの外で2番からのパスを受ける。
 美那のディフェンスはなんとか間に合う。
 と、思ったら、美那が来た方向にサイドステップ。
 勢いのついていた美那は対処できない。
 1番男子が、2Pシュートを打つ。

 ボールがリングに吸い込まれ、バスケットのネットを揺らす。
 やられた。終わった。負けた。

(Z)18対21(Sc)。
 残り1分59秒で、KOノックアウト負け。

 周りから、拍手が起こる。
 なんと、向かいのコートと隣のコートで練習していた人たちが、拍手を送ってくれているではないか!
「いや、いいゲームだった」と声をかけてくれる人もいる。

 1番男子が話しかけてくる。
「君だよね、高校生の初心者って。いや、ありえないでしょ。前の試合も観ていたし、分析にも出ていたけど、これほどやるとはね。事前データがなければ、2Pも抑え込めなかったし、たぶん完全にやられていたよ。驚きだな。あとは体力だよな」
 そう言うと、ぶっとい腕を差し出して、握手してくれた。
 2番男子と3番男子も「ナイスファイトだった」と言って、励ましてくれた。
 って、俺、涙が出てるじゃん……。息切れで声も出ねえし。
 0番女子も肩を軽く叩いてくれる。

 なんだよ。オツもナオも、そして美那も笑顔なのに、泣いてるの俺だけじゃんか!
 なんで泣いてんだろ、俺。
「リユ、馴れないフォーメーションでよく戦った。いい動きだった」とオツ。
「シュート数で言ったら、リユくんが一番決めてたみたいよ」とナオ。
 美那は優しく微笑んで、無言のまま、軽く抱擁ほうようしてくれる……。
 ああ、なんか、美那をぎゅーっと抱きしめたい気分。
 だけどさすがにそれはまずいだろうから、俺は腕をぶらりと下げたまま、美那の抱擁をじっと受け入れる。
 10秒くらいして美那はそっと離れる。
 そして、ニヤリと笑う。
「じゃあ、リユ、あとでみんなのマッサージをお願いね」
 って、おい!
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