カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-14 オツとナオのコンビネーション

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【前回のあらすじ】
 Zに対抗するようにフリーな攻撃を始めた対戦相手のScスクリプツ。リユは3番から替わった1番にファウル。でも与えたフリースローは失敗で助かる。リユとオツが交代した直後、0番女子に1ポイントシュートを決められるが、すぐに美那がカイリーりのシュートで取り返す。ナオと替わったリユが1Pを決めて、残り時間は3分38秒(前回の最後の残り時間を訂正しました)で、(Z)14対16(Sc)の2点差まで追い上げた。


 0番女子がゴール後のボールを取る。
 とりあえず近くにいる俺がディフェンスに入る。
 間近に見ると0番女子の表情に精彩せいさいがないのが分かる。相当キツイのだ。だからと言って、守りの手をゆるめるわけにはいかない。
 0番が、フォローに寄って来た1番男子に短いパスを送る。
 ここで俺と美那が本来のマークにスイッチ。美那が0番女子に付く。
 逆に1番男子は中盤に休みを取っていたせいか、まだまだ動ける感じだ。
 アークの外にいる3番男子はオツががっちりマークしていて、1番もパスを出せない。
 ドリブルでアークのトップに戻った1番が、俺にまたまた1on1をいどんでくる。というか、たぶんそれしか手がないのだ。
 1番のドリブルは基礎はしっかりしてる感じだけど、多彩な技を繰り出すわけではない。リズムも割と単調で、守りやすい。
 ショットクロックはかなり経過したはずだ。1番に焦りの色が出ている。
「タイキ!」
 後ろから男の声が聞こえる。たぶん3番男子がカットインしたのだ。
 1番がインサイドにパスを出そうとするけど、俺はそれをブロック。
 ステップバックした1番は否応いやおうなしに2Pを打たざるをえない。
 間合いを詰めた俺は、1番に合わせてジャンプ!
 指に当たった!!

 振り返るとオツと3番男子がボールに飛びついている。
 リーチにまさるオツがボールを左のオープンサイドにはたく。
 1番より反応が速かった俺がボールをゲット。
 グッドジョブ、オツ!

 ただ1番もすぐにディフェンスに来ている。
 俺がドリブルでボールをアークの外に持ち出すと、美那がカットイン。
 0番女子は付いて行けない。
 3番男子が美那のディフェンスに回る。
 オツがフリーだ!
 俺は、美那へのパスフェイクを入れて、アークの外に出たオツにパス。
 フリーのオツは躊躇ちゅうちょなく2Pシュートを打つ。
 いい軌道。

 ボールはリングの根元の方に当たってしまう。
 しい!
 カットインしていた美那と3番男子とのリバウンド争い。
 さすがに身長差がありすぎて、美那は3番にり負けてしまう。

 今度は3番が、フリーになっていた0番女子にパス。
 でもすぐにオツがディフェンスに付いて、攻撃を阻止そしする。
 スピードの落ちた0番女子は、オツをドリブルでかわすこともできず、20センチ近くある身長差で2Pシュートにもいけない。
 ショットクロックはどんどん減っていく。残り3秒。
 3番男子が美那のディフェンスを強引に破ってカットイン。
 オツが気付く前の一瞬の隙を付いて、0番女子が低いバウンスパスを出す。
 弾かれた美那はマークに戻るのが遅れる。
 難しいパスを3番が拾い上げるようにキャッチする。だけど体勢が悪くて、すぐにはゴールに行けない。
 美那が追いつく。
 3番男子と美那とゴール下での攻防。
 無理やりシュートに行こうとする3番男子を美那が体を張って止める。
 そこで12秒超過。ブザーが鳴る。ショットクロック・バイオレーションだ。

 残り3分10秒。
 ここで、Scがタイムアウトを取る。
 0番女子の疲労を考えると、当然の選択だろう。
 得点は、(Z)14対16(Sc)で2点差のままだ。

「オツ、脚はどう?」
 美那が息を弾ませたまま訊く。
「ああ、なんとか持ちそうだ。美那もだいぶハッスルしていたけど、大丈夫か? 向こうも、もう女子だからと手加減してないな」
「確かに……最後はかなりキツイ当たりでした。でも、あれですね。いつもリユと練習しているせいか、意外と当たり負けしてなくて、自分でも驚きました。まあ、体格差は仕方ないけど」
 美那が俺に笑いかける。
 俺も思わず頰が緩む。
「そうだな。思いの外、抵抗してたよな」とオツ。
「うん。美那、すごかった」とナオ。
「やっぱ、0番女子は体力的に相当キツそうだよな」と俺。
「完全にスピードが落ちてるな」とオツが続ける。
「そうですね」と美那が答える。「だから0番女子は2Pは警戒しつつも、インサイドへの飛び込みはあまり気にしなくてよさそうですね。もちろん油断は禁物ですけど。特にタイムアウト直後は少しは戻っているでしょうから」
「ああ。次はナオがマークだから、特に最初は要警戒な」とオツ。
「はい。わかりました」とナオが素直に答える。
「あとは向こうのディフェンスをどう崩していくかだな」
「こっちはまだスピードが残っているから、それで切り崩すしかないですかね?」
 オツが示した問題に美那が返す。
「あと、オツの2Pもあるんじゃないか? さっきもハズレはしたけど、かなり惜しかったじゃん」と俺。
「そうだね。向こうは分析で完全に警戒が緩めだもんね」と美那。
「俺もさっきは楽に打てた。手応えも悪くなかったんだけどな」
「いや、あれが普通ですって。かなり精度が上がってますから。リユが特殊なんです」
 美那、なんで〝くん〟付け?
「そうだよな。俺ももうちょっと自信を持っていいよな?」とオツ。
「はい。もう確率的には悪くないです。特殊ケースリユは無視しましょう」
 美那はなかば憎まれ口を叩きながらも、俺に微笑む。
 う、めちゃ、可愛い。
「あと、ナオの高さは、向こうは警戒してるけど、手が出せない感じだよな」と俺。
「うん。この試合はわたしも自信を持っている。前の試合は向こうも高い人がいたから難しかったけど」
「そうだな。じゃあ、俺が2Pをはずしても、ナオのフォローが期待できるな」
「航太さん、まかせて。リユくんの時みたいに狙っていくから」
「よし。じゃあ、この調子で逆転を狙っていくよ!」
 美那がそう言って、4人の真ん中に手を差し出す。
 俺たちもそれに続く。
 そして全員で声を揃えて叫ぶ。
「エンジョーーイ、バスケットボーール!!」

 俺たちは、美那とナオが交代。
 Scは3番男子に替わって2番男子が入る。
 向こうのショットクロック・バイオレーションだったので、Zの攻撃からだ。

 俺がトップの「センター・トライアングル」。
 左にオツ。右にナオ。それぞれ2番と0番女子がマークに付いている。
 オツが胸の前で人差し指を立てる。
 今度はフォーメーションで行くのか。これはナオが、トップの1番にスクリーンをかける形だな。で、俺がインサイドに切り込んで、ナオがオツにボールを受け取りに行って、2Pを狙うパターンか。
 1番からトスを受けた俺は、即座にオツにパスを出す。
 そしてインサイドにカットイン……え? ナオが来てない。
 オツがゴールに振り向いて、ミドルを放つ。
 これ、フォーメーションじゃないじゃん!
 ナオが相手の虚を突いて、ゴールに向かって走り込んでいる。0番女子はまったく付いていけない。
 リングに向かって飛んだナオの手にオツからのボールがすっぽり収まる。
 これは、オツとナオのコンビネーションプレーか!

 滞空時間の長いナオは、そのままボールをリングにそっと投げる。
 ボールがバスケットに落ちていく!

 ネットを抜けたボールが、タンタンと音を立てて、床に弾む。
 味方の俺も裏をかかれたけど、Scは呆然ぼうぜんとしている。
 っしゃー! すげぇー!
「ナオー、オツー」とベンチで興奮した美那が叫んでる。
 ナオも思わず、ガッツポーズだ。
 オツは無茶、嬉しそうな顔。

 女子1Pシュート成功で、2ポイント追加。
(Z)16対16(Sc)。
 残り時間は3分5秒
 ついに、同点だぁっ!
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