カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

文字の大きさ
上 下
91 / 141
第3章

3-14 オツとナオのコンビネーション

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 Zに対抗するようにフリーな攻撃を始めた対戦相手のScスクリプツ。リユは3番から替わった1番にファウル。でも与えたフリースローは失敗で助かる。リユとオツが交代した直後、0番女子に1ポイントシュートを決められるが、すぐに美那がカイリーりのシュートで取り返す。ナオと替わったリユが1Pを決めて、残り時間は3分38秒(前回の最後の残り時間を訂正しました)で、(Z)14対16(Sc)の2点差まで追い上げた。


 0番女子がゴール後のボールを取る。
 とりあえず近くにいる俺がディフェンスに入る。
 間近に見ると0番女子の表情に精彩せいさいがないのが分かる。相当キツイのだ。だからと言って、守りの手をゆるめるわけにはいかない。
 0番が、フォローに寄って来た1番男子に短いパスを送る。
 ここで俺と美那が本来のマークにスイッチ。美那が0番女子に付く。
 逆に1番男子は中盤に休みを取っていたせいか、まだまだ動ける感じだ。
 アークの外にいる3番男子はオツががっちりマークしていて、1番もパスを出せない。
 ドリブルでアークのトップに戻った1番が、俺にまたまた1on1をいどんでくる。というか、たぶんそれしか手がないのだ。
 1番のドリブルは基礎はしっかりしてる感じだけど、多彩な技を繰り出すわけではない。リズムも割と単調で、守りやすい。
 ショットクロックはかなり経過したはずだ。1番に焦りの色が出ている。
「タイキ!」
 後ろから男の声が聞こえる。たぶん3番男子がカットインしたのだ。
 1番がインサイドにパスを出そうとするけど、俺はそれをブロック。
 ステップバックした1番は否応いやおうなしに2Pを打たざるをえない。
 間合いを詰めた俺は、1番に合わせてジャンプ!
 指に当たった!!

 振り返るとオツと3番男子がボールに飛びついている。
 リーチにまさるオツがボールを左のオープンサイドにはたく。
 1番より反応が速かった俺がボールをゲット。
 グッドジョブ、オツ!

 ただ1番もすぐにディフェンスに来ている。
 俺がドリブルでボールをアークの外に持ち出すと、美那がカットイン。
 0番女子は付いて行けない。
 3番男子が美那のディフェンスに回る。
 オツがフリーだ!
 俺は、美那へのパスフェイクを入れて、アークの外に出たオツにパス。
 フリーのオツは躊躇ちゅうちょなく2Pシュートを打つ。
 いい軌道。

 ボールはリングの根元の方に当たってしまう。
 しい!
 カットインしていた美那と3番男子とのリバウンド争い。
 さすがに身長差がありすぎて、美那は3番にり負けてしまう。

 今度は3番が、フリーになっていた0番女子にパス。
 でもすぐにオツがディフェンスに付いて、攻撃を阻止そしする。
 スピードの落ちた0番女子は、オツをドリブルでかわすこともできず、20センチ近くある身長差で2Pシュートにもいけない。
 ショットクロックはどんどん減っていく。残り3秒。
 3番男子が美那のディフェンスを強引に破ってカットイン。
 オツが気付く前の一瞬の隙を付いて、0番女子が低いバウンスパスを出す。
 弾かれた美那はマークに戻るのが遅れる。
 難しいパスを3番が拾い上げるようにキャッチする。だけど体勢が悪くて、すぐにはゴールに行けない。
 美那が追いつく。
 3番男子と美那とゴール下での攻防。
 無理やりシュートに行こうとする3番男子を美那が体を張って止める。
 そこで12秒超過。ブザーが鳴る。ショットクロック・バイオレーションだ。

 残り3分10秒。
 ここで、Scがタイムアウトを取る。
 0番女子の疲労を考えると、当然の選択だろう。
 得点は、(Z)14対16(Sc)で2点差のままだ。

「オツ、脚はどう?」
 美那が息を弾ませたまま訊く。
「ああ、なんとか持ちそうだ。美那もだいぶハッスルしていたけど、大丈夫か? 向こうも、もう女子だからと手加減してないな」
「確かに……最後はかなりキツイ当たりでした。でも、あれですね。いつもリユと練習しているせいか、意外と当たり負けしてなくて、自分でも驚きました。まあ、体格差は仕方ないけど」
 美那が俺に笑いかける。
 俺も思わず頰が緩む。
「そうだな。思いの外、抵抗してたよな」とオツ。
「うん。美那、すごかった」とナオ。
「やっぱ、0番女子は体力的に相当キツそうだよな」と俺。
「完全にスピードが落ちてるな」とオツが続ける。
「そうですね」と美那が答える。「だから0番女子は2Pは警戒しつつも、インサイドへの飛び込みはあまり気にしなくてよさそうですね。もちろん油断は禁物ですけど。特にタイムアウト直後は少しは戻っているでしょうから」
「ああ。次はナオがマークだから、特に最初は要警戒な」とオツ。
「はい。わかりました」とナオが素直に答える。
「あとは向こうのディフェンスをどう崩していくかだな」
「こっちはまだスピードが残っているから、それで切り崩すしかないですかね?」
 オツが示した問題に美那が返す。
「あと、オツの2Pもあるんじゃないか? さっきもハズレはしたけど、かなり惜しかったじゃん」と俺。
「そうだね。向こうは分析で完全に警戒が緩めだもんね」と美那。
「俺もさっきは楽に打てた。手応えも悪くなかったんだけどな」
「いや、あれが普通ですって。かなり精度が上がってますから。リユが特殊なんです」
 美那、なんで〝くん〟付け?
「そうだよな。俺ももうちょっと自信を持っていいよな?」とオツ。
「はい。もう確率的には悪くないです。特殊ケースリユは無視しましょう」
 美那はなかば憎まれ口を叩きながらも、俺に微笑む。
 う、めちゃ、可愛い。
「あと、ナオの高さは、向こうは警戒してるけど、手が出せない感じだよな」と俺。
「うん。この試合はわたしも自信を持っている。前の試合は向こうも高い人がいたから難しかったけど」
「そうだな。じゃあ、俺が2Pをはずしても、ナオのフォローが期待できるな」
「航太さん、まかせて。リユくんの時みたいに狙っていくから」
「よし。じゃあ、この調子で逆転を狙っていくよ!」
 美那がそう言って、4人の真ん中に手を差し出す。
 俺たちもそれに続く。
 そして全員で声を揃えて叫ぶ。
「エンジョーーイ、バスケットボーール!!」

 俺たちは、美那とナオが交代。
 Scは3番男子に替わって2番男子が入る。
 向こうのショットクロック・バイオレーションだったので、Zの攻撃からだ。

 俺がトップの「センター・トライアングル」。
 左にオツ。右にナオ。それぞれ2番と0番女子がマークに付いている。
 オツが胸の前で人差し指を立てる。
 今度はフォーメーションで行くのか。これはナオが、トップの1番にスクリーンをかける形だな。で、俺がインサイドに切り込んで、ナオがオツにボールを受け取りに行って、2Pを狙うパターンか。
 1番からトスを受けた俺は、即座にオツにパスを出す。
 そしてインサイドにカットイン……え? ナオが来てない。
 オツがゴールに振り向いて、ミドルを放つ。
 これ、フォーメーションじゃないじゃん!
 ナオが相手の虚を突いて、ゴールに向かって走り込んでいる。0番女子はまったく付いていけない。
 リングに向かって飛んだナオの手にオツからのボールがすっぽり収まる。
 これは、オツとナオのコンビネーションプレーか!

 滞空時間の長いナオは、そのままボールをリングにそっと投げる。
 ボールがバスケットに落ちていく!

 ネットを抜けたボールが、タンタンと音を立てて、床に弾む。
 味方の俺も裏をかかれたけど、Scは呆然ぼうぜんとしている。
 っしゃー! すげぇー!
「ナオー、オツー」とベンチで興奮した美那が叫んでる。
 ナオも思わず、ガッツポーズだ。
 オツは無茶、嬉しそうな顔。

 女子1Pシュート成功で、2ポイント追加。
(Z)16対16(Sc)。
 残り時間は3分5秒
 ついに、同点だぁっ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

処理中です...