カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-11 フリースタイルバスケ

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 得点は6対14で、Scに8点のリードを許している。
 試合時間はまだ6分2秒残っているから逆転は可能だけど、これまでのゲーム内容を考えると厳しい。Z—Fourらしいフリーなバスケをして、どこまで行けるかだろう。
 美那かナオの2Pシュートが2本決まれば同点になるけど、逆に0番女子に2Pを2本決められれば、そこで終了だ。だから0番女子は、特に外からのシュートは絶対に抑え込む必要がある。
 一方で、出ずっぱりの0番女子は、ナオさんが指摘したとおり、動きが落ちてくるはずだ。
「交代はどうするの?」
 ナオさんが美那に訊く。
「体力面を考えて、交代は今までどおり、プレーが切れたら、その都度つどってことで。ってことは、まずはわたしが交代か。ナオ、お願い」
「うん。わかった」
 タイムアウト後は、オツ、ナオ、俺の3人でスタートだ。
 俺的にはフリーで戦うときは美那がいた方がプレーしやすいけど、このふたりと合わせられるのは練習試合だけだからな。オツの言ってた通り、試合の中で作戦を試してるんだし、コンビネーションも高めねえと。

 さっきは美那がシュートに行ったところを、Scのディフェンスでボールがコートの外に出たから、Zの攻撃で試合再開。
 Scは0番女子に2番と3番の男子のままだ。
 オツとナオは左右に広がるフラット・トライアングルっぽいフォーメーションだけど、オツが胸の前でさっそくOKサインを出してる!
 トップに来たのは、3番男子。ナオに0番女子、オツに2番男子が付く。
 さて、どう攻めていくか。
 得点差があるし、ナオを使うか、俺の2Pか、ってところか。
 でも、先に相手の陣形を崩さないとな。
 3番から俺にボールがトスされる。
 じゃ、まず、これからだ!

 俺は今まで通り、右サイドにドリブルに行く……振りをして、いきなりターンして、インサイドに切り込んでいく。
 3番は置き去りにしたけど、オツに付いていた2番がディフェンスに来るのが左の視界に入る。オツの2Pが今まで入ってないからか?
 このまま行くか? それともフリーになったオツにパスか?
 オツにパスだ!
「オツ!」
 俺は走りながら、オツに向けて、2番の上を越えていくゆるやかなパスを出す。
 ちょっとずれたけど、問題ない範囲だ。
 オツがキャッチ。2番が慌ててディフェンスに戻る。
 落ち着いてひと呼吸置いたオツはアークの外からシュートを放つ。

 よし、来た!
 ボールがバスケットに吸い込まれる。
「ナイス、オツ!」
 俺は思わず叫ぶ。やっと入ったぜ、オツの2Pシュート!
 オツも小さくガッツポーズしてる。

(Z)8対14(Sc)

 2番がボールを取りに来る。近くにいた俺がディフェンスに入る。
 オツが3番のマークに回ったところで、3番は左サイドに動く。右サイドの0番女子はナオがしっかりマークしている。
 いたトップ方向に2番がドリブルで戻る。俺もパスを警戒しながらあとを追う。
 そこに0番女子が走ってくる。2番からパスが渡る。
 すぐに追いついたナオが立ちはだかって、2Pを阻止。
 ナオを越えての2Pシュートは無理と判断した0番女子は、ドライブに切り替える。
 一瞬遅れをとったけど、ナオが必死に0番女子に食らいつく。
 0番がオーバーハンド・レイアップシュートに入る。
 ナオも続いてジャンプする。
 ふわっとしたボールがナオの指先を越えていく……と思ったら、指先に当てたっ!
 軌道が乱れて、ボールはリングに弾かれる。
 やっぱ、すげー。ナオのジャンプ力とボールに対する執念。
 リバウンドも、もう一度んだナオがゲット!

「ナイス、リバンリバウンド!」と、オツが叫ぶ。
 オツが、左サイドからトップ方向に走ってくる。
 俺はそれに合わせて、右サイドに動いて、スペースをける。
 ナオがオーバーハンド(!)でオツに速いパスを出す。
「リユ!」
 パスを受けたオツが、声を出すと同時に俺に向かってドライブしてくる。
 これは、スイッチか?
 俺もオツに向かって走る。
 オツからボールを託される。
 そのままトップ方向にドライブ。
 3番がディフェンスに付いてくる。
「リユ、打って!」と、ナオの声が届く。
 自分のリバウンドを信じろ、ってことか!
 すでに3番が立ちはだかってるけど、ステップバックからやや強引な2Pシュートだっ!
 やっぱ、短いか⁈
 3番を避けるために、軌道が上に行きすぎている。
 ナオがゴール方向に走り出す。0番がそれを追う。
 案の定、ボールはリングの先っちょに弾かれて、上に飛ぶ。
 0番女子とナオのリバウンド競争だ。
 と、思ったら、ナオがジャンプ一番、手のひらで軽くゴールに押し込んだ……。

 スッゲー! やったぁ!!
 ナオとった0番女子も呆気あっけにとられている。
「ナイス、ナオ! リユ!」
 ベンチにいる美那の声がコートに響く。
 振り向くと、美那が顔の辺りに拳を上げる。
 視線が合う。
 満面の笑みだ。

(Z)10対14(Sc)

 プレーは続く。
 0番女子がボールを確保して、左サイドに走った3番にパスを通されてしまう。俺のマークが一瞬遅れたのだ。
 それでも2Pは打たせない。
 0番女子がナオを引き連れてトップに戻ったタイミングで、3番が俺に勝負を挑んでくる。
 3番はやや強引にドリブル突破を図る。俺は遅れずに3番に並走する。
 くそっ、体をガンガン当てて来やがる。ボールに手を出せない。
 ドリブルからステップを踏んでシュートに入る3番。
 俺も腕を上げながら、ギリギリまで体を寄せる。
 押すどころか、押し返される。
 けど、負けねえ。
 3番は体からボールを離したフックシュートを選択。少なくとも普通のレイアップよりは確率が低い。
 軌道が違う! はずれるはず。
 俺はすぐにリバウンドを狙う体制に入る。
 どっちだ?
 向こう側だ。
 俺が有利な方向にボールが弾む。
 よっしゃっ! リバウンド確保。

 でもすぐに後ろから3番が襲ってくる。
 がぁー! パスコースを完全につぶされている。
 しかもエンドライン側に押し込まれている。
 これは、トラベリングに持ち込まれるパターンじゃ……。でも、少なくとも、まだドリブルは始めていない。
 さあ、どうする、俺?
 そうだ! こんなときこそ、密かに練習したフリースタイルバスケの登場だ!!

 辛うじて残されたエンドラインと体の間で低いドリブルを始める。
 背中にいる3番の手は届かない。
 相手がドリブルのリズムをつかんだところで、ボールを強く突く。
 そこでくるっと振り返って、3番と向き合う。
 3番が驚いた顔を見せる。
 俺はにやりとして、背中側でボールをキャッチ。
 そのまま、ボールを上に投げる。
 ボールは3番の頭を越えていく。
 よしっ!
 虚を突かれた3番の脇を抜けて、ボールを追う。
 やった。
 フリーのボールをそのままドリブルに持ち込む。

 と、笛が吹かれる。
 審判を見ると、手のひらを下に向けて、交互に上下させている。
「リユ、ダブルドリブル……でも、ナイス、トライ」
 美那がこっちを見て、苦笑いしている。
 あー、そうか。そりゃそうだ。一回、背中で止めて、もう一回、ドリブルに入ったことになるのか……。
「リユ、いいアイディアだ」
 オツが俺の背中を結構強く叩いて、ベンチに走る。
 美那がオツとハイタッチして、コートに来る。
「惜しかったね、リユ。でも、なかなかイケてた」
 美那が美しく微笑む。
「アイツより、ずっとカッコいい」
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