上 下
84 / 141
第3章

3-7 しっとりお肌と美那の笑顔と深視力

しおりを挟む
 Cu攻撃のチェックボールから試合再開だ。
 13番女子から33番男子に変わった。
 俺たちはとりあえず美那がアウトでナオがイン。
 ゴールに向かって右側に22番女子がいて、ナオがマーク。左側の長身1番は引き続きオツがマークしている。
 審判からもらったボールを33番にトスする。
 いきなり33番が俺に1on1をいどんでくる。
 だけど俺は中に入れさせない。そういや、前よりもステップが軽くて、縄跳びの成果が出てる気がする。
 33番は強引に前に出てこようとする。
 阻止しようとすると、なんと33番は、右斜め後ろにパスを出す。
 と、ナオマークの22番女子が走りこんできていて、パスをキャッチ。
 ナオのマークが遅れて、22番はくるっと回って、アークの外から2Pシュート。
 でも、たぶん短い!

 俺はゴールに向かって、ダッシュ。
 リングから跳ね返ってきたボールを、ジャンプしてキャッチ!
「ナイス、リバンリバウンド、リユ」と、オツの声が飛んでくる。
 だけど、すぐに33番が寄ってきて、パスを出せねえ……。
 33番に背中を向けて、仕方なく、ドリブルでアークの外に出る。
 今度は俺から1on1を挑戦だ。
 だけどなかなかフェイントに引っかかってくれねえ。やっぱ、まだ、スピードが足りないんだ。
 時間が過ぎていく。
「リユ!」と、ナオの声が飛んでくる。
 寄ってくれたナオになんとかパスをつなぐ。
 けど、ナオも22番女子の圧に身動きが取れない。
 オツがカットインしていく。
 ナオがパスを出すけど、Cu1番長身にカットされてしまう。
 ボールはサイドラインを割る。

 ここでオツがアウト、美那がイン。
 美那がナオに耳打ちする。ナオがうなずく。
 Z攻撃のチェックボール。
 またワンサイド・トライアングルのフォーメーションだ。
 美那が左フリースローレーンの奥、ナオがアーク外の左奥に陣取る。それぞれ22番女子、1番長身がマークに付いている。
 そして美那が胸の前でVサイン。じゃねえ、「ワンサイド」の②か。
 33番から俺がボールを受けると、美那が前に走り出てくる。俺は美那にパスをするとともに、左奥に走り込んで、ナオのマーク・Cu1番長身にスクリーンをかける。
 俺が1番に体を寄せて動きを封じると、ナオの2Pシュートの可能性を警戒した33番がナオのマークに回る。
 そこで美那が、スペースの生まれたゴール方向に、背面からのバウンスパス。
 走りこんだ俺がナイスパスをキャッチして、ステップからレイアップに入る!
 余裕と思いきや、後ろに気配が。ちらっと見ると、なんと、1番の手を伸びてくる。
 俺の手を離れたボールは、軽々と1番に奪われてしまう。
 た、たっけぇ……。
 なんか、トンビにハンバーガーを奪われた気分。

 くそっ。上手く行ったと思ったのに、もしかして作戦を読まれてたのか?
 1番はそのままドリブルでアークの外に走り出る。俺はディフェンスに走る。
 振り向きざまに2Pシュートを打とうとする1番に対して、ジャンプで対抗。
 と、思いきやシュートフェイントだぁ! 1番が、着地する俺の横を抜けていく。
 やられた!
 美那がカバーに入ってくれるけど、間に合わない。
 Cu1番にダンクシュートを悠々ゆうゆうと決められてしまう。

(Z)11対13(Cu)
 残り時間は4分16秒。
 まだまだ時間はある。

 ゴール後のボールを美那が拾う。
 33番が俺のマークに戻ってきて、ナオには22番が付いている。
 リーチの長いCu1番のディフェンスに美那もパスを出せない。
 アークの外のトップに出た美那がCu1番に1on1を仕掛ける。
 けど、中に行かせてはもらえない。腕、長すぎだろ、1番長身。
 俺はフェイントをかけて33番を少しだけ引き離して、右のアークライン沿いを走り、美那のフォローに入る。
 美那が横に出してくれたパスを、俺はしっかりと受け取る。
 だけど33番が、もうきっちり付いてきてやがる。
 ドリブルからフェイントをかけて、抜こうとしても、許してくれない。
 苦肉の策でバックステップから2Pを打とうとするけど、それも阻止されてしまう。
 げ。もうドリブルにも行けないじゃん。
 33番はじりじりと間合いを詰めてきやがる。
 ナオが右奥に走りこんでくるのが見える。
「リユ」と、ナオの声が聞こえるけど、22番がナオをがっちりカバーしていて、俺はパスを出せない。
 ショットクロックがどんどん消費されていく。
 左から「リユ!」と美那の声。
 ピボットの足を意識して向きを変えようとした瞬間、33番の圧が強まる。あえなく足がずれてしまった。
 笛が吹かれる。また、トラベリングだ……。

 俺がアウトでオツがイン。
 代わりぎわ、オツが俺の肩をポンと叩く。
 残りは4分5秒。

 Cuが攻撃のチェックボールだ。
 左ハイポストのCu1番長身をオツがマーク。右のフリースローレーンのミドルにいる22番女子をナオがマークする。
 美那がトップで33番にボールを渡す。
 33番は、左の高い位置にいるCu1番にパス。そこに右のミドルポストにいた22番が走ってきて、ボールがトスされる。
 これは……「センタートライアングル」のどれかだ!
 オツはCu1番が邪魔で、すぐには22番のディフェンスに行けない。
 22番はその時間差を使って、ほぼフリーで2Pシュートを打つ。
 でも……これも、たぶんちょっと短い。
 よし、ラッキー!

 リバウンドはオツがゲット。
 ただCu1番のワイドなディフェンスにパスコースはふさがれている。
 オツがドリブルで左サイドのアーク外に出たタイミングで、美那がトップ付近からゴールに向かって、ダイブ。
「オツ!」と、走りながら美那が叫ぶ。
 ここでなんとオツがCu1番の股下を通す低いパスを出す。
 だけど、さすがに美那の動きとは合わなかったぁー!
 美那はハンブル。22番とのボールの取り合いになって、ヘルドボール(※両チームの選手がボールをつかんで、どちらのボールとも判断できなくなった状態)となる。

 Zの攻撃でヘルドボールになったので、Cuの攻撃で再開となる。
 残り時間は3分50秒。11対13で、2点ビハインドのままだ。

 ナオがアウトで、俺がイン。

 Cuは左右にワイドに広がる布陣。「フラットトライアングル」っぽい。
 左サイドは1番長身でオツがマーク。右の22番女子には美那が付く。
 トップの俺が、33番にチェックボールをトス。
 右サイドにドリブルで走り出す33番に22番が走り寄る。
 ところが美那が二人の間に入って、ボールの受け渡しを阻止。
 このパターンだと、22番のカットインに33番がパスか?
 やっぱり!
 22番がゴールに向かってダイブしていく。
 で、俺にできるのは?
 33番のパスを邪魔か?
 案の定、33番がパスを出そうとする。
 俺はわずかにインサイドに入り込んで、そこに腕を伸ばす。
「ちっ」
 パスのタイミングがずれて、33番が舌打ちする。
 パスは22番のやや後ろに飛ぶ。
 22番は体をひねってなんとか取ろうとするけど、うまくキャッチできない。
 ボールはサイドラインを割る。
 っしゃぁっ!

 ここでCuがタイムアウトを要求する。
「ナイスディフェンス
 美那がそう言いながら、肩を軽くぶつけてくる。さすがに試合中だから、いつものサラサラ肌じゃないけど、しっとりした肌もまた気持ちいい。そして、ようやく美那らしい笑顔を見せてくれる。
「いいぞ、リユ」
 戻ってきたオツが俺の肩を叩く。
 ナオさんが3人をハイタッチで迎えてくれる。
「残りは3分45秒だ。美那、このままでいいんだな?」とオツが訊く。
「はい。これでどこまで行けるか見てみましょう。もちろん途中でチャンスが生まれたら、そこはシュートを狙って」
「ああ。リユとナオは体力の方はどうだ?」
「結構交代できてるから、割と行けそうです」と俺。
「うん。わたしも」とナオも答える。
「じゃあ、今までより、ちょっとだけ、シュートの意識を強めようか?」と美那が提案する。「もっともCuキュームラスのディフェンスは強いから、なかなか難しいけど、多少強引でもいいかなと思う」
「フォーメーションを途中で崩してもいいのか?」と俺が訊く。
「そうだね。ラストのプレーも、リユはちょっと先読みの、予想をはずした動きだったけど、Cuはきっちりフォーメーションで来るみたいから、効果的だったよね。33番のパスが乱れた。次のスクリプツはどっちかっていうと、パワーで押してくるタイプみたいから、フォーメーション重視タイプのチームを崩す作戦を、この試合で少しトライしておくのもいいかな、と思って。どう思います、先輩?」
「そうだな、いいんじゃないか」
「そういや、さっきのオツの股抜きパスは惜しかったよな」と俺。
「ああ、あれか。この間の練習試合でリユがサッカーのジダンの動きでいいんじゃないかとか言ってたろ? 今まであんまりサッカーを見たことがなかったんだが、ちょっと見てみて、Cuの1番は脚も長いし、ふと思いついてサッカーの股抜きパスを応用してみた。ま、NBAの試合でも見たことはある気がするけどな」
「わたしも航太さんのあれ、驚いた!」とナオ。
「そうか?」とオツが照れる。
 それからオツが真顔に戻る。
「そういや、リユは、22番が2Pシュートをリングに当てた時、なんかまるで戻ってくるのが分かってるみたいに突っ込んでいったよな?」
「そう予測したんだけど、え、まずかった?」
「違う、違う。そうか、やっぱりリユはシンシリョクが高いんだな」
「紳士力? レディ・ファーストとか?」
 美那がクスっと笑う。
「違うよ、リユ。深い視力と書いて、深視力。つまり、空間を立体的に捉えたり、距離感を正確に測れる力」
「リユが2Pシュートが得意なのも、それがかなり効いてるんだろうな」とオツ。
「わたしもそう思ってた。テニスを長くやっていて鍛えられたのかしれないけど、元々の才能なんじゃないかな」
「才能、なのか?」と、俺。
「たぶんね」と美那が答える。
「そうだろうな」とオツ。「俺からみりゃ、うらやましい才能だ」
「正直、なんでオツが2Pが入らないのか不思議だったけど、そういうこともあったのか」
「というか、お前がすぐれてるんだよ。ナオも結構、いいセンスしてるけどな」
「そうなの?」と、ナオが嬉しそうに言う。
「わたしもそう思う」と美那。「わたしはポジション的に努力して身につけてきたけど、センスはナオの方がいいと思ってた」
「やっぱり、試合をすればするほど、チームのことが分かってくるよな」とオツ。
「それじゃ、フォーメーションをベースにZの色を少し足して、逆転を狙っていきましょう!」
 美那が右手を挙げると、みんなでハイタッチだぁっ!

 残り3分45秒で、2点差。勝負はまだ、全然わかんねえだろ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

ファミレス的日常生活

トラ
青春
人との関わりが苦手で不登校になってしまった高校1年生の加藤 優希(かとう ゆうき)。 彼が毎日ファミレスで出会う様々な人間との一期一会の物語。 それは恋愛でも友情でもない人の温もりを知る物語。 カテゴリは青春にしてありますが、日常系ののんびりした作品です。 ※この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」でも重複投稿を行っております。

光の花と影の星

楠富 つかさ
青春
乙女達の通う花園、星花女子学園……だがそこは、ゆかしくも清らかな少女のみが過ごす華やかな学園ではない。のっぴきならない事情を抱え、時には道を違う少女もいる。 星花女子プロジェクト番外、少しアングラで少し寂しいお話です。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

処理中です...