上 下
81 / 141
第3章

【番外編】緑のたぬき(一話完結)

しおりを挟む
小説投稿サイト・カクヨムの『「赤いきつね」「緑のたぬき」幸せしみるショートストーリーコンテスト』用に書いたものです(参加はせず)。
 ほとんど会話だけで書いていますが、読者の方はきっと雰囲気がわかってくださると期待しております(感謝!!)。
 なお、本編とは直接関係ありません。
—————————————————————————————— 

   緑のたぬき

「ねえ、リユって、たぬきを見たことある?」
「小学校の時、動物係で世話をしてたぜ。においがきつかったけど、可愛かった」
「ああ。それならわたしだって同じ学校だったんだから、知ってるよ。そうじゃなくて、なまの、じゃなくて、自然の」
「あの狸だって、怪我をしてたのを保護したんじゃん」
「まあ、そうだけど、そうじゃなくて、自然の中で生きてるやつ」
「実は、この間も、ちらっとだけど見た」
「うそ? どこで」
「いや、このちかく。どっかからすっと出てきて、俺に気づかれたのに気づくと、どこかの家の入り口の扉の下をくぐり抜けて行った。覗いてみたけど、もういなかった」
「この辺にもまだいるんだ……」
「横浜は結構、緑が多いしな。生きて行けんじゃね?」
「そっか。わたしは見たことないけど」
美那みなが気づかないだけじゃねえの? まあ俺も滅多には見ないけど。だけどなんで急に、タヌキ?」
「実は、昨日、珠代たまよが面白いからってDVDを貸してくれてさ。超マニアックなやつ」
「ああ、あいつ、映画マニアだもんな。おまけに、ホラーとかそういう系。しかもDVDって……」
「それに、そのDVD、『緑のたぬき』っていう、ドイツのホラー」
「なんだよ、そのカップ麺みたいなタイトル。それに、ドイツのホラーって……微妙に怖そう」
「そうなの。最初の方を観たけど、怖くてすぐやめた。一緒に観る?」
「えー、俺、ホラー系は苦手だもん。お前、それ知ってるよな?」
「知ってるけど。だって、珠代が、どうだった? 面白かったでしょ? って感想を訊いてきて、まだ観てないって言うと、面白いから、絶対観て! ってしつこいんだもん」
「まーなー。あいつ、映画のことになるとほんと節操がないっていうか……俺も前に、これ、森本くんに合うと思うから観た方がいいよ! って勧められた」
「何を?」
「『君の膵臓をたべたいキミスイ』」
「ああ。あれはまあ普通に恋愛映画じゃん。タイトルだけ見たら、ホラーっぽいけど。ま、わたしも北村きたむら匠海たくみくんのファンだから、普通に観たけど」
「え、お前、北村匠海、好きなの?」
「……うん、まあ、最近、結構」
「へえ……」
「なに、その、へえ、って言いかた!」
「いや、ちょっと意外? だって、お前って、もっと背が高くてクールなイケメン風のが好きなのかと思ってた。まあ、北村匠海は北村匠海でカッコいいとは思うけどな。それにやつ、演技うまいもんな。ま、お前は、バスケじゃ決してイケメンってタイプじゃないカイリー・アービング(※NBAの選手)の大ファンだから、誰のファンでもおかしくはないけど」
「カイリーはルックスじゃないでしょ。プレーでしょ」
「だけど、スラムダンクSLAM DUNKじゃ、お前、流川ファンじゃん」
「そんなこと言ったっけ?」
「最初の練習試合に行くオツさんの車の中で、俺のポジションは五人制バスケで言ったらどこ? って訊いたら、流川のポジションだって言ってさ。俺がかっこいい役じゃんって喜んで言ったら、『流川君がカッコいいのは、プレーとルックスと性格だし!』ってムキになってたぜ。しかも〝君〟まで付けてるし」
「うわー、バレたか……」
「お前って、意外とわかりやすいとこ、あんのな」
「そんなこと、ないでしょ。学校じゃ、明るくてクールで美しい、山下美那でとおってるし」
「まあな、学校じゃな」
「幼馴染だし、リユにはちょっと気を許しちゃうんだよ」
「てか、お前、俺の前じゃ油断しすぎだろ。まあ男として意識してないんだろうけど。この間だってさ、あーんな短いスカートで俺の部屋に来て、しかもベッドに脚組んで座るから、じつは、下着、ちらっと見えてたぞ」
「うそ。うそだ。じゃあ、何色だった?」
「ま、ちらっとだからよくわかんないけど、青か、水色?」
「うわー、見られたー。リユ、ヘンタイ!」
「変態って……ま、俺、青系の下着、結構、好き、だけ、ど……」
「え、自分がじゃなくて、女の人が着けてる下着のこと?」
「ああ、うん……」
「普通、黒とか赤とかピンクとか、場合によっては白とかじゃないの?」
「いや、普通とかよくわかんないけど、俺は好きなの」
「へぇー」
「なに、いまの、〝へぇー〟って言いかた。お前、やっぱリユって変態だとか思っただろ」
「さあ、どうでしょう?」
「ちぇ。ま、いいけど」
「それより、映画どうする?」
「どんな話だよ、それ」
「パッケージに書いてあったあらすじだと、アジアのある国で緑色に発光する狸が発見されて、その狸が人間を襲うようになるんだって。それに興味を持ったドイツ人の研究者がその国で調査を始めて、その原因が生息地に捨てられた産業廃棄物が原因だと突き止めるらしいんだけど、狸はすごく賢くなっていて、その人は発光する狸からも襲われるし、産廃を捨てた企業からも命を狙われる。とか、なんか、そんな話」
「うぇー、なんか、B級、いやC級感、たっぷりだな。ホラーとサスペンスのミックス? 環境問題が背景にあるのがドイツらしいな。でも思ったより面白そうじゃん」
「じゃあ、観る?」
「俺ん家は今日は無理。かーちゃんが今、忙しいから」
「加奈江さん、また締め切り?」
「なんか、急な仕事を頼まれたっぽい」
「そうなんだ。じゃあ、うちでもいいよ」
「園子さん(※美那の母親)は?」
「いるけど、最近はリユのこと、お気に入りだし、大丈夫。もしかしたら、一緒に観るかも」
「よし、じゃあ、1on1して、負けた方がオゴリな」
「なにを?」
「いや、だって、緑のたぬきとか言ったら、食いたくなんね?」
「じゃあ、わたしは赤いきつね」
「お前、そっち派?」
「どっちかっていうと。お母さんも、かな」
「よし、じゃあ、3人分な」
「何点勝負にする?」
「3人分だから、30点だな」
「いいよ。ラインもあるし、2ポイントシュートは有効ね?」
「もちろん」
「ま、そうじゃなきゃ、勝負にならないもんね」
「そんなことねえだろっ。この間だって、学校の体育館であと一歩だったじゃん」
「あの時は、ちょっと前半、油断してたしね」
「くそ。今度こそ、負けねえからな」


「じゃ、リユ、ごちそうさまでした」
「悪いわね、リユくん。こういうのってなんか時々食べたくなるのよね」
 園子さんもちょっと楽しそうだから良しとしよう。
 ちくしょう、次こそは絶対に勝ってやる!!

                          おしまい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蒼き春の精霊少女

沼米 さくら
青春
 少年はこの日、少女になった。  来宮シキは夜行性の不登校ニート男子。けれど、とある夜中、出かけた先の公園で出会った少女と融合し、精霊にされてしまう。そして、女性の身体に性転換してしまう。  それから彼の生活は変わっていく。幼馴染の少女に性転換したことがバレたり、長いこと行っていなかった学校に登校したり、襲い来る敵『魚介人類』と戦ったり。  さらに精霊仲間との出会いや『黒精霊』という新たな敵の出現などに翻弄されつつも、次第に明るく人間的な感情を取り戻していくシキ。  しかし、充実していく生活とは裏腹に、世界は彼(彼女?)を翻弄していく。  第十八回MF文庫Jライトノベル新人賞第二期予備審査、一次選考落選作品供養です。  カクヨム、ノベルアッププラス、小説家になろうにも掲載いたします。

モブキャラだった俺は受験勉強の息抜きにヤンキー狩りを始めました。

きんちゃん
青春
ヤンキーなんぞ時代遅れだ?軽犯罪集団を美化するな? いやいや、そんなに目くじらを立てないでやって下さいな。彼らは彼らで、この九条九郎に狩られるという立派な存在意義があるのですから。 とはいえ、私自身も単なるしがないガリ勉のモブキャラ。ヤンキー狩りを楽しめるようになるまでには、それなりに努力も工夫もしたのです。 お暇な方はそんな私の成長日記を見ていって下さいな。 ※※※ 自称モブキャラの九条九郎はとある事件をきっかけにヤンキーへの復讐を決意する。 しかもあえてヤツらの土俵であるケンカの道でだ。 勝ち目のない戦いになるかと思いきや、持ち前の考える力で九郎は勝利をもぎ取ってゆく。果たしてその先に何が待っているのだろうか?

新陽通り商店街ワルツ

深水千世
青春
乾いた生活を送っていた憲史が6年ぶりに実家の写真館に戻ってきた。 店があるのは、北海道の新陽通り商店街。 以前よりますます人気のない寂れた様子にげんなりする憲史。 だが、そんな商店街に危機がおとずれようとしていた。押し寄せる街の変化に立ち向かう羽目になった憲史が駆け抜けた先にあるものとは。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体などとは一切関係ありません。 カクヨム・小説家になろうでも公開中です。

伊予ノ国ノ物ノ怪談

綾 遥人
大衆娯楽
 家庭の事情で祖父の家で暮らすことになった颯馬(ソウマ)。そこで幼馴染の友人、人の眼には見えざるものが見える眼「天眼」をもつ少女、咲耶(サクヤ)と再会する。そこは人に紛れ暮らす獣人と物の怪の街だった。過去の呪縛に翻弄される人狼、後藤雪輪も加わり、物の怪談が始まる。 大蛇の『物の怪』に祖母が襲われ、助けようとする咲耶は『化身の術(けしんのじゅつ)』を使う少年、颯馬に助けられる。大蛇を追っていた狸の獣人、紅(べに)は大蛇を封印し立ち去る。 数年後、咲耶の通う高校に転校してきた颯馬は、紅から依頼されたアルバイトのために訪れた山中で2人組の人狐(人狐)に襲われる。 人狼、雪輪(ゆきわ)と共に狐を追い詰める颯馬だったが取り逃がしてしまう。 なぜ、1000年前に四国から追い出された狐が戻ってきたのか? 颯馬と咲耶は狐達に命を狙われ、雪輪の父親は狐から死の呪いを掛けられる。 狐はあと1年で大きな地震が起こると告げ姿を消した。 みたいな、お話です。

アイドルと七人の子羊たち

くぼう無学
青春
 数多くのスターを輩出する 名門、リボルチオーネ高等学校。この学校には、『シャンデリア・ナイト』と呼ばれる、伝統行事があって、その行事とは、世界最大のシャンデリアの下で、世界最高のパフォーマンスを演じた学生たちが、次々に芸能界へ羽ばたいて行くという、夢の舞台。しかしその栄光の影で、この行事を開催できなかったクラスには、一切卒業を認めないという、厳しい校則もあった。金田たち三年C組は、開校以来 類を見ない落ちこぼれのクラスで、三年になった時点で この行事の開催の目途さえ立っていなかった。留年か、自主退学か、すでにあきらめモードのC組に 突如、人気絶頂 アイドル『倉木アイス』が、八木里子という架空の人物に扮して転校して来た。倉木の大ファンの金田は、その変装を見破れず、彼女をただの転校生として見ていた。そんな中 突然、校長からこの伝統行事の実行委員長に任命された金田は、同じく副委員長に任命された転校生と共に、しぶしぶシャンデリア・ナイト実行委員会を開くのだが、案の定、参加するクラスメートはほとんど無し。その場を冷笑して立ち去る九条修二郎。残された時間はあと一年、果たして金田は、開催をボイコットするクラスメートを説得し、卒業式までにシャンデリア・ナイトを開催できるのだろうか。そして、倉木アイスがこのクラスに転校して来た本当の理由とは。

瑠壱は智を呼ぶ

蒼風
青春
☆前作「朱に交われば紅くなる」読者の方へ☆  本作は、自著「朱に交われば紅くなる」シリーズの設定を引き継ぎ、細部を見直し、リライトする半分新作となっております。  一部キャラクター名や、設定が変更となっておりますが、予めご了承ください。  詳細は「はじめに」の「「朱に交われば紅くなる」シリーズの読者様へ」をご覧ください。 □あらすじ□  今思い返せば、一目惚れだったのかもしれない。  夏休み。赤点を取り、補習に来ていた瑠壱(るい)は、空き教室で歌の練習をする一人の女子生徒を目撃する。  山科沙智(やましな・さち)  同じクラスだ、ということ以外、何一つ知らない、言葉を交わしたこともない相手。そんな彼女について、瑠壱にはひとつだけ、確信していることがあった。  彼女は“あの”人気声優・月見里朱灯(やまなし・あかり)なのだと。    今思い返せば、初恋だったのかもしれない。  小学生の頃。瑠壱は幼馴染とひとつの約束をした。それは「将来二人で漫画家になること」。その担当はどちらがどちらでもいい。なんだったら二人で話を考えて、二人で絵を描いてもいい。そんな夢を語り合った。  佐藤智花(さとう・ともか)  中学校進学を機に疎遠となっていた彼女は、いつのまにかちょっと有名な絵師となっていた。  高校三年生。このまま交わることなく卒業し、淡い思い出として胸の奥底にしまわれていくものだとばかり思っていた。  しかし、事は動き出した。  沙智は、「友達が欲しい」という話を学生相談室に持ち込み、あれよあれよという間に瑠壱と友達になった。  智花は、瑠壱が沙智という「女友達」を得たことを快く思わず、ちょっかいをかけるようになった。    決して交わるはずの無かった三人が交わったことで、瑠壱を取り巻く人間関係は大きく変化をしていく。そんな彼の元に生徒会長・冷泉千秋(れいせん・ちあき)が現れて……?  拗らせ系ラブコメディー、開幕! □更新情報□ ・基本的に毎日0時に更新予定です。 □関連作品□ ・朱に交われば紅くなるのコレクション(URL: https://kakuyomu.jp/users/soufu3414/collections/16816452219403472078)  本作の原型である「朱に交われば紅くなる」シリーズを纏めたコレクションです。 (最終更新日:2021/06/08)

【完結】桜色の思い出

竹内 晴
青春
 この物語は、両思いだけどお互いにその気持ちを知らない幼なじみと、中学からの同級生2人を加えた4人の恋愛模様をフィクションで書いています。  舞台となるのは高校生活、2人の幼なじみの恋の行方とそれを取り巻く環境。  暖かくも切ない恋の物語です。

処理中です...