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第3章

3-3 ドローンとフォーメーション作戦

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 ウォームアップの残りが30秒であることを知らせるブザーが鳴る。他の利用者の迷惑にならないように音量は抑えられている。
 各選手が、最後の仕上げに、ドリブルからレイアップシュート、外からの2ポイントシュート、フリースローなどを打っていく。
「モンスターズ・クッキーのお手並み拝見ってとこね」と、ナオさんが楽しげに言う。
「そうっすね」
 ナオさんは苦手だった1on1もだいぶ強くなってきたし、自信がついてきたのを感じる。俺も負けてられねえな。

 さあ、いよいよ第1試合の開始だ。
 スクリプツ(Sc)は、紅一点の0番・佐倉みなみさん(165センチ程度)、2番河野さんと3番山本さんの男2人(共に175センチ程度)でスタート。
 チェックボールを受け取ったペギーが、いきなり、例のワイドで超速いフロントチェンジのドリブルでスクリプツの2番を幻惑する。
 鋭い動きであっという間に振り切って、レイアップシュートに持ち込む。
 きれいに決まる。
 0対2。
 スクリプツのメンバーは唖然としている。
 「す、ごい」とナオさんが呟く。
 どうやら、ジャックやテッドもスクリーンでディフェンスの動きを封じているっぽい。俺も少しはそういうのが見えるようになったみたいだ。
 スクリプツ3番がゴールのボールを拾って、攻撃交代。
 ペギーがボールマンをディフェンス。ジャックとテッドは、相手よりふた回りくらい大きな体を忙しく動かし、相手のパスを潰している。明らかにこの間より動きがいい。
 出しどころのないSc3番はドリブルでなんとかアークの外に。でもショットクロックは残り5秒。Sc2番にパスを出すけど、ショットクロック・バイオレーション(12秒超過)で攻守交代。
 ここで、Scは3番山本さんがアウト、1番菅生さんがイン。
 チェックボールからモンスターズ・クッキー(MC)が素早くパスを回し、32番テッドが2ポイントを決める。
 0対4。
 今度はS0番佐倉さんが2ポイントシュートで逆襲。女子2倍ポイントの4点で一気に同点だ。
 4対4。
 でもすぐにMCがペギーの2ポイントシュートでお返し。
 4対8。
 その後は、Sc1番菅生さんのゴール(5対8)、MC4番ジャックのゴール(5対9)、Sc0番佐倉さんがショットクロック・オーバー、MC32番テッドの2Pシュートが外れるなど、一進一退の展開になっていく。
 試合直後からお互いに積極的な攻撃で見応えがある。マッチョなScはジャックやテッドに対抗できているけど、ペギーの速い攻撃を防ぐのは難しそうだ。
 MC1番ペギーのレイアップシュートの2点(5対11)、Sc1番菅生さんのゴール(6対11)、両者の攻防が続き、Sc0番佐倉さんの2Pシュートが外れて、外に出たタイミングで、特別ルールのハーフタイムとなった。
 残り時間は4分51秒だ。

「じゃあ、リユくん、そろそろ下に降りようか」とナオさんに声を掛けられて、階段に向かう。
 やば。ひとりだったら、最後までここで見ていて、慌てて下に降りるところだったぜ。
 次は俺たちにとって今日最初の試合だ。
 初めての練習試合だったサニーサイドとの対戦の時は、いかにも練習試合って感じだったけど、今日はなんかちょっと本番に近い雰囲気だ。本番はあくまでも想像だけど。
 そうか、サニーサイドは俺たちのレベルを見ながらの即席チームだったけど、今回はどのチームも普段から一緒にやっているメンバーみたいだし、ユニフォームもビシッと決めてるしな。
 それと、俺たちZ—Fourの白ユニフォームでの初戦でもある。
 なんかゾクゾクしてきたぜ!
 ゴール裏に戻った時には、すでに試合が再開していた。
 反対側の半面や横のコートで練習をしているバスケのグループも、外国人チームのせいか、ペギーのドリブルがスゲえせいか、なんかちょっと注目しているっぽい。時々、ボールを止めて、こっちを見ている人たちがいる。
 スクリプツは1番がアウトで3番山本さんが入っている。
 MC32番テッドが1Pを決めて6対12。
 スクリプツは女子2倍ポイントを狙って、0番佐倉さんにボールを回すが、ペギーの厳しいディフェンスでショットクロックをオーバーしてしまう。
 MCに点を取られても、Scは粘り強くゴールを返していくが、徐々に点差が開く。
 なんか、ペギーたちの地力を感じるな……。
 最後は、MC32番テッドの2P、さらにMC1番ペギーの2P(4点)で、21点を取られ、あえなくノックアウト。
 やっぱ、マジになったモンスターズ・クッキーはかなり強いみてえだ。あとはルーシーか。ルーシー次第ではさらに強力になるってことだよな。しかも、俺の勘だと、その可能性が高そうだし。
 オフィシャル席から戻ってきたオツさんに言われて、ナオさんとコートをモップがけする。ちょっとばかし、テニスのクレーコートのブラシがけを思い出す。ブラシは後ろのを引っ張るから、前に押すモップとはだいぶ違うけどな。ナオさんはバレーボール時代にもやっていたから堂に入っているけど、俺はなんかまっすぐ進まず、微妙に曲がってしまう。
 人数分くらいのボールが用意されて、5分間のウォームアップに入る。
 キュームラスのメンバーは、スクリプツと違って筋肉はほどほどだけど、全員背が高い。一番低くて170以上で、一番高い人は190近くあるんじゃないだろうか。
 この試合は、スクリプツがドローンを飛ばしている。室内で風もないから、ほとんど止まっているように見える。ゴールの倍くらいの高さを飛んでるから、あえてボールを当てに行かない限り、大丈夫そうだ。
 ほかの選手に接触しないように気をつけながら、ドリブルからレイアップシュートを放つ。リングに弾かれる。
 選手とボールが入り乱れるウォームアップは、まだ慣れてないから、結構難しいムズイ。特に2Pシュートは、外して、リバウンドをバスケット近くにいる人に当てちゃいそうな気がして、なかなか打てない。ナオさんは大学のサークルで慣れてきたのか、わりと普通にやってるじゃん! ほかは皆、経験者ばっかりだし、俺、初心者丸出し……。
 美那がそんな俺に気づいたらしく、声をかけてくれる。
「わたしのあとに続いてやって」
 美那に続いて、ドリブルからレイアップシュート。ボールを拾って、アークの外までドリブルして、そこから2Pシュート。どっちもばっちり決まる。それにしても、美那のレイアップシュートはキレイだよな。
 すると、美那がコートサイドに出て、俺を手招きする。
「カイリーユ、調子、よさそうじゃん」
「ああ、まあまあだな。それにしても、お前、ほんとキレイだよな」
「え?」と美那が驚いた顔で聞き返す。
「いや、その、レイアップのフォーム。後ろから見てて、すげえなって思った」
 いや、まあ、顔もキレイだけどな……。
「ああ、うん。ありがとう。今日も頼りにしてるよ、カイリーユ」
「おう、まかせてくれ」
 やっぱ、いつもの美那より声に張りがねえな。
「あ、それから、とりあえずこの試合は、練習したフォーメーション中心で戦うから」
「え、そうなの? なんで?」
「ほら、ドローン」
 美那がノールックで上を指差す。
 俺はホバリングするドローンをちらっと見上げる。
「先輩と相談して、この試合はフォーメーションで戦って、次のスクリプツとの試合で、フリーに変化させた時にどのくらい効果があるかを見てみようと思って。ほら、リユも言ってたじゃない? JKsとの試合でそういう効果があったって」
「ああ、確かに。ただ、俺、まだフォーメーションを完全にはマスターしてねえから……」
「基本、わたしと先輩でフォーメーションを作るから。そしたらリユもなんとなくわかるでしょ?」
「まあ、たぶんな」
「大丈夫。リユなら直感でわかるよ。それにそのための練習試合でもあるわけだし。というわけで、先輩とわたしを中心に、リユとナオさんを交代させる感じで行くから」
「ああ、わかった」
 美那が無表情に俺を見つめてくる。そして、静かに息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
「先発でお願い」
「ああ」
 そのまま美那は背を向けると、ドリブルをしながらウォームアップに戻っていく。
 俺はアヒルの子みたいに、美那の後ろに続く。美那のミドルの次に、俺もミドル。2つ連続してバスケットに吸い込まれていく。気持ちいい!
 2つのボールを拾った美那が、1個、俺にパスしてくれる。
 美那が笑みを浮かべる。
 おー、いつもの美那だ!
 だけど美那は俺を振り切るように、くるっと向きを変えて、アークの外に向かって走って行ってしまった。
 まあ、俺にしても、いつまでも美那のアヒルの子でいるわけにもいかねえしな。
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