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第3章
3-2 モテ期?
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代表者たちの打ち合わせが終わったらしく、オツさんと美那が来た。
「それじゃ、今日の段取りを説明する。3時間で6試合だから、単純に1試合当たり30分だが、余裕を見て25分以内に収めよう、ってことになった。試合時間は10分とはいえ、ハーフタイム1分と各チームのタイムアウト30秒、試合前の軽いウォーミングアップとか、コートの清掃とかもあるから、結構ギリだ。ナオもリユも運営の協力を頼む」
「はい」
「うっす」
「それから試合の組み合わせというか、順序だが、こういうことになった」
オツさんがクリップボードを差し出す。
1 スクリプツ(白) 対 モンスターズクッキー(青)
2 キュームラス(水色) 対 Z―Four(白)
3 スクリプツ(白) 対 Z―Four(緑)
4 キュームラス(白) 対 モンスターズクッキー(青)
5 スクリプツ(赤) 対 キュームラス(白)
6 Z―Four(白) 対 モンスターズクッキー(青)
「ペギー達は青いユニフォームしか用意できなかったから、全試合、青だ。俺たちは2試合目と3試合目で連続だ。ほとんど休む時間はないから、特にリユ、体力の配分に気をつけろ」
「うっす!」
「それからコートを使える3時20分になったらすぐに始められるよう準備が必要だ。タイマーと記録係用の机と椅子は借りてある。あと、スクリプツさんが会社所有の大型ディスプレーを用意してくれた。パソコンと繋げて、得点とショットクロック、試合時間、ファウル数が表示できるそうだ。スコアシートはナオとリユはシートは付けられないよな?」
「いや、まったくわかりません」と俺。
ナオさんも頷く。
「美那はパソコンを使いなれていないらしいから、俺がパソコン係で、美那がスコアシート係だな。スクリプツの人が自分たち以外の試合はパソコンは担当してくれるそうだ。それからスクリプツさんからの提案なんだが、ドローンを飛ばして俺たちの試合を記録してもらおうと思っている」
「なにに使うんですか?」と俺が訊く。
「なんでも、ほぼリアルタイムで会社のサーバーに送って、プレーヤーの動きをAI分析できるそうだ。さっき、以前分析したものをちょっと見せてもらった」
「俺たちもその分析を利用できるんですか?」
「試合前に見るのはスクリプツだけだ。つまり3試合目の俺たちとの対戦でそのデータが活用される。それと、俺たちのチームの分析結果は後日くれるそうだ」
「じゃあ、俺たちのプレーは、どのくらいかわかんないけど、裸にされて、不利になるってこと?」
「そういうことだ」
「なんでわざわざ……」
ここで美那が口を開く。
「この間の練習試合でリユも試合前のウォームアップで無意識にやってたけど、大会では、スカウティングといって、相手チームの選手の特徴とか作戦とかいった特徴を調べるの。それをコンピューターでする感じかな。今回の試合では確かに不利になるけど、本番で相手に徹底的に調べられたりした時の対応の練習にもなるでしょ。ただ、チーム全員の合意が取れたらという条件だから、ナオさんとリユがOKならね」
「わたしは本番の役に立つならいい」とナオさん。
「リユは?」
いつもはやや強引な美那がちょっと控えめに訊いてくる。
「俺は……勝ちたい」
「分析されても負けるとは限らないじゃない」
「だけどサニーサイドの3試合目並みなんだろ?」
「らしいけど、そのくらいで勝てないと優勝は無理かも。ちょっと知り合いに聞いた話だと、今度の大会には、えげつないくらいスカウティングするチームも出場するみたい」
「そうなんだ……」
美那のことだから、前田俊のチームを指してるんだろうな。あいつのことだから、あらゆる手段を使って勝ちに来そうだよな。
「わかったよ。OKだ」
「ありがと」
「ああ」
試合モードになってきたら、いつもの美那に戻ってきたな。さすが、バスケ少女だ。バスケ少女といえば、ルーシーのプレーも早く見てみたいな。
美那が今回の各チームのメンバー一覧(背番号、名前、性別)を配ってくれる。
【Scripts】
0番 佐倉みなみ 女
1番 菅生大樹 男
2番 河野英春 男
3番 山本勇輝 男
【Cumulus】
1番 古川哲也 男
13番 安川みくる 女
22番 岡部愛莉 女
33番 長岡颯太 男
【Monster's Cookie】
1番 Peggy 女
4番 Jack 男
11番 Lucy 女
32番 Ted 男
【Z-Four】
4番 花村航太 男
11番 山下美那 女
12番 藤吉菜穂子 女
25番 森本里優 男
外で軽く運動して、4人でパス回し。俺もナオさんもだいぶ正確なパスが出せるようになってきた。ま、オツさんや美那に比べると力強くはないけど……。
3時近くになって、オツさんと一緒に、スクリプツがワンボックス車から機材を運び出すのを手伝う。ちょっと早めだけど、俺たちの前の利用者の許可を得て、端の方でそいつらのセットを開始する。
まず、かなり重い鉄製のがっちりした台の上にディスプレーを固定する。台には、脚から伸びる感じでL字断面の細長い鋼材を取り付け、前後左右の上端を同じ鋼材で繋ぐ。そして、上部も含めてディスプレーと台を囲うようなネットを被せて、ボールが当たるのを防ぐようになっている。ディスプレーには、ノートPCから無線を受けるアダプターを接続して、表示させる。電源のバッテリーを繋げて完成だ。
それから、端っこの方でドローンの試験飛行。コート中央の高いところでホバリングさせるそうだ。もちろん施設側の許可は取ってある。ドローンを飛ばすのは2試合目と3試合目だけらしい。研究の一環として、キュームラスと俺たちの試合を分析して、スクリプツと俺たちの対戦で、分析結果を自分たちのプレーにどの程度活かせたかを調べるのだと、オツさんが追加で説明してくれた。ドローン画像によるAI分析は、事業化に向けた試験も兼ねているとのことだ。
スクリプツのメンバーが、各チームのPC係と審判を集めて、表示ソフトの使い方の説明をする。俺も後ろから覗き込む。基本的にマウスで操作できるみたいだ。あと念のためということで、ドローンを飛ばすスクリプツの会社の人がPC操作のバックアップにもついてくれる。
前の利用者が片付けを始めたところで、スクリプツのマッチョなメンバーたちが、かなりの重量になるディスプレーの一式を持ち上げて、ゴール下よりちょっと奥まったところに設置し直す。
そうこうしているうちに3時20分になる。
第一試合は、スクリプツ対モンスターズ・クッキー。
審判は黒とダークグレーのTシャツに黒パンツという服装。2人が主審と副審を交代でやってくれることになった。ペギーとスクリプツの代表と審判が握手を交わして、コイントス。ペギーが先攻をゲットした。
両チームが一つのゴールでウォームアップを開始。アップは、各チームの最初の試合は5分間で、残りの4試合は2分。ディスプレーのタイマーのカウントダウンが始まる。
スクリプツのメンバーは一番背が高い人でも俺と同じくらいだけど、かなりの筋肉で、ユニフォームもパンパンに張っている。腕の太さもハンパない。美那と観に行ったプロの3on3の選手に近い感じだ。IT技術者と聞いてたから、もっと細い感じだと思ってたけど、全然違うのな。
あれ? モンスターズ・クッキーのウォームアップにはルーシーが加わっていない。薄い上着を着て、ベンチに座っている。1試合目は3人で戦うのか?
てか、まじ、みんな上手いじゃん!
スクリプツはドリブルやシュートの技術は確かだけど、動きはやや鈍い感じかな。ただ当然ながら当たりには強そうで、ジャックにさえ対抗できそうだ。
ペギーは動きに鋭さを増しているし、ジャックとテッドも動きが鈍くない。だいたい見た目からして体が締まったのがわかる。ただ、技術的にはペギーがダントツだ。
オツさんと美那がオフィシャル席に行ってしまって、取り残された俺とナオさんの居られる場所はゴール裏だけで、どうも所在ない感じ。
「動きがよく見えそうだし、上に行ってみる?」とナオさんが提案する。
学校の体育館と同じで、観客席はないけど、2階部分――試合フロアは3階だから、地上から見るとほんとは4階――は回廊になっている。
「そうしましょうか?」
で、ナオさんとふたりで回廊に上がる。
おおー、確かにここなら全体の動きがよく見えそうだ。
「リユくん、今日は調子はどう?」
「ま、そんないつもと変わんないっすかね。ナオさんは?」
「うん、わたしも」
こんな風にナオさんとふたりだけで話すって、初めてかもな。
やっぱ、綺麗な人だよな。
っていうか、俺、最近、美人ばかりとツーショットになってる?
美那とはしょっちゅう一緒だし、有里子さんもサバッとした美人だしな。
ナオさんは俺から見るとちょっと大人で、普段はしっとりした感じの長身の美人。性格は可愛いし。
それに香田さんか……。
もしかして、俺ってモテ期?
いや、ちょっと待て。美那とは親友モードだし、有里子さんは同性が好きで仕事関係だし、ナオさんはオツの彼女でチームメイトだし、香田さんに関しては桃太郎の雉か犬か猿だし……ま、香田さんだけはまだ可能性が残ってるか、一応。
「美那はどうしたのかな? いつからあんな調子なの?」
「たぶん、今朝からだと思いますけど。あ、昨日の夜は普通にメッセージのやり取りしてたけど、最後はちょっとおかしかったかな?」
「最後って?」
「ちょっと次の週末に用事が入ったから、練習試合を組まれないようにオツさんと美那に連絡したんですよ。その返事がいつも違う感じだったかなぁ」
「どんな風に?」
「なんか、妙に簡潔で、微妙にトゲトゲしいというか……」
「ふぅーん」
「なんか、わかります?」
「それだけだとちょっとわかんないけど、まー、わたしの予想だと、乙女心絡みかな」
「俺、美那の乙女心とか、わかんないんですよね。あいつ、誰かに恋でもしてんのかな。俺には全然そんなこと話さないから、まったくわからないけど。いや、俺の感じだと今はフリーっぽいんだけどなぁ」
前田俊の件も事後に知らされただけだしな。
そういや、最近香田さんのことを気にしてる感じだし、もしかして、香田さんの好きな男を好きだとか? え、香田さんって、誰か好きなヤツ、いるのかな? 俺には、全然、わかんねーや。
「美那って強そうにしてるけど、そういう部分って、かなりデリケートで、しかも不器用だよね。たぶん、だけど」
「あー、そうかも。そういう気はします」
「リユくんってさ、美那のこと、わかってそうで、わかってなくて、やっぱりわかってるよね」
「なんですか、それ? わかってるんだかわかってないんだか、わかんない言い方」
「ふふ」
「そういや、ナオさん、最近、妙なタイミングで笑いますよね」
「そう? そうかな?」
「はい」
「例えばどんな時?」
「そうだな……あ、この間、マックで、俺が美那に『最近、強い相手だと嬉しそうだな』って言って、美那が『バスケ部の時は強豪と対戦が決まると気持ちがサガるのに』、みたいなことを言った時」
「あー、あれね。なんか、美那が可愛くて」
「え? なんであれが美那が可愛いってことになるんですか?」
「うん、まあね」
「それ、答えになってねえし……」
俺は独り言のように呟く。
「たぶん、そのうち、リユくんにもわかるよ。っていうか、あたし的にはすぐにでなくてもいいから、わかってほしいというか……できれば早めに」
「いや、ますますわかんないですから!」
なんか、蒼山さんとのやり取りみたいだ。
「もしかして、ナオさんって特殊な能力、持ってます?」
「うーん。あると言えば、ある。ないと言えば、ない」
その答え、ほとんどオンナ蒼山ですから!
「じゃあ、あるとすればどんな?」
「そうだな……予感とか、予知能力?」
「マジで?」
「自信はないけど、けっこう当たるかな? 特に恋愛関係?」
「じゃ、今の話の流れでは、何を予知したんですか?」
「リユくん、質問力、けっこう高いね」
「まあ、こういう話に関しては、この間のバイトで〝ある人〟に鍛えられましたから」
「へえ。でもね、予知したことに関しては、言わないことにしてるの。だって、言っちゃったら、当たってても当たってなくても、その時点で何かを左右してしまうかもしれないでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
ナオさんは、不満げな俺の方を見て微笑むと、俺の肩をポンポンと優しく叩いた。
【著者よりお知らせ】
これまで火曜日と金曜日の朝に更新しておりましたが、諸事情により、今後は水曜日夕方の更新となります。
よろしくお願いいたします。
「それじゃ、今日の段取りを説明する。3時間で6試合だから、単純に1試合当たり30分だが、余裕を見て25分以内に収めよう、ってことになった。試合時間は10分とはいえ、ハーフタイム1分と各チームのタイムアウト30秒、試合前の軽いウォーミングアップとか、コートの清掃とかもあるから、結構ギリだ。ナオもリユも運営の協力を頼む」
「はい」
「うっす」
「それから試合の組み合わせというか、順序だが、こういうことになった」
オツさんがクリップボードを差し出す。
1 スクリプツ(白) 対 モンスターズクッキー(青)
2 キュームラス(水色) 対 Z―Four(白)
3 スクリプツ(白) 対 Z―Four(緑)
4 キュームラス(白) 対 モンスターズクッキー(青)
5 スクリプツ(赤) 対 キュームラス(白)
6 Z―Four(白) 対 モンスターズクッキー(青)
「ペギー達は青いユニフォームしか用意できなかったから、全試合、青だ。俺たちは2試合目と3試合目で連続だ。ほとんど休む時間はないから、特にリユ、体力の配分に気をつけろ」
「うっす!」
「それからコートを使える3時20分になったらすぐに始められるよう準備が必要だ。タイマーと記録係用の机と椅子は借りてある。あと、スクリプツさんが会社所有の大型ディスプレーを用意してくれた。パソコンと繋げて、得点とショットクロック、試合時間、ファウル数が表示できるそうだ。スコアシートはナオとリユはシートは付けられないよな?」
「いや、まったくわかりません」と俺。
ナオさんも頷く。
「美那はパソコンを使いなれていないらしいから、俺がパソコン係で、美那がスコアシート係だな。スクリプツの人が自分たち以外の試合はパソコンは担当してくれるそうだ。それからスクリプツさんからの提案なんだが、ドローンを飛ばして俺たちの試合を記録してもらおうと思っている」
「なにに使うんですか?」と俺が訊く。
「なんでも、ほぼリアルタイムで会社のサーバーに送って、プレーヤーの動きをAI分析できるそうだ。さっき、以前分析したものをちょっと見せてもらった」
「俺たちもその分析を利用できるんですか?」
「試合前に見るのはスクリプツだけだ。つまり3試合目の俺たちとの対戦でそのデータが活用される。それと、俺たちのチームの分析結果は後日くれるそうだ」
「じゃあ、俺たちのプレーは、どのくらいかわかんないけど、裸にされて、不利になるってこと?」
「そういうことだ」
「なんでわざわざ……」
ここで美那が口を開く。
「この間の練習試合でリユも試合前のウォームアップで無意識にやってたけど、大会では、スカウティングといって、相手チームの選手の特徴とか作戦とかいった特徴を調べるの。それをコンピューターでする感じかな。今回の試合では確かに不利になるけど、本番で相手に徹底的に調べられたりした時の対応の練習にもなるでしょ。ただ、チーム全員の合意が取れたらという条件だから、ナオさんとリユがOKならね」
「わたしは本番の役に立つならいい」とナオさん。
「リユは?」
いつもはやや強引な美那がちょっと控えめに訊いてくる。
「俺は……勝ちたい」
「分析されても負けるとは限らないじゃない」
「だけどサニーサイドの3試合目並みなんだろ?」
「らしいけど、そのくらいで勝てないと優勝は無理かも。ちょっと知り合いに聞いた話だと、今度の大会には、えげつないくらいスカウティングするチームも出場するみたい」
「そうなんだ……」
美那のことだから、前田俊のチームを指してるんだろうな。あいつのことだから、あらゆる手段を使って勝ちに来そうだよな。
「わかったよ。OKだ」
「ありがと」
「ああ」
試合モードになってきたら、いつもの美那に戻ってきたな。さすが、バスケ少女だ。バスケ少女といえば、ルーシーのプレーも早く見てみたいな。
美那が今回の各チームのメンバー一覧(背番号、名前、性別)を配ってくれる。
【Scripts】
0番 佐倉みなみ 女
1番 菅生大樹 男
2番 河野英春 男
3番 山本勇輝 男
【Cumulus】
1番 古川哲也 男
13番 安川みくる 女
22番 岡部愛莉 女
33番 長岡颯太 男
【Monster's Cookie】
1番 Peggy 女
4番 Jack 男
11番 Lucy 女
32番 Ted 男
【Z-Four】
4番 花村航太 男
11番 山下美那 女
12番 藤吉菜穂子 女
25番 森本里優 男
外で軽く運動して、4人でパス回し。俺もナオさんもだいぶ正確なパスが出せるようになってきた。ま、オツさんや美那に比べると力強くはないけど……。
3時近くになって、オツさんと一緒に、スクリプツがワンボックス車から機材を運び出すのを手伝う。ちょっと早めだけど、俺たちの前の利用者の許可を得て、端の方でそいつらのセットを開始する。
まず、かなり重い鉄製のがっちりした台の上にディスプレーを固定する。台には、脚から伸びる感じでL字断面の細長い鋼材を取り付け、前後左右の上端を同じ鋼材で繋ぐ。そして、上部も含めてディスプレーと台を囲うようなネットを被せて、ボールが当たるのを防ぐようになっている。ディスプレーには、ノートPCから無線を受けるアダプターを接続して、表示させる。電源のバッテリーを繋げて完成だ。
それから、端っこの方でドローンの試験飛行。コート中央の高いところでホバリングさせるそうだ。もちろん施設側の許可は取ってある。ドローンを飛ばすのは2試合目と3試合目だけらしい。研究の一環として、キュームラスと俺たちの試合を分析して、スクリプツと俺たちの対戦で、分析結果を自分たちのプレーにどの程度活かせたかを調べるのだと、オツさんが追加で説明してくれた。ドローン画像によるAI分析は、事業化に向けた試験も兼ねているとのことだ。
スクリプツのメンバーが、各チームのPC係と審判を集めて、表示ソフトの使い方の説明をする。俺も後ろから覗き込む。基本的にマウスで操作できるみたいだ。あと念のためということで、ドローンを飛ばすスクリプツの会社の人がPC操作のバックアップにもついてくれる。
前の利用者が片付けを始めたところで、スクリプツのマッチョなメンバーたちが、かなりの重量になるディスプレーの一式を持ち上げて、ゴール下よりちょっと奥まったところに設置し直す。
そうこうしているうちに3時20分になる。
第一試合は、スクリプツ対モンスターズ・クッキー。
審判は黒とダークグレーのTシャツに黒パンツという服装。2人が主審と副審を交代でやってくれることになった。ペギーとスクリプツの代表と審判が握手を交わして、コイントス。ペギーが先攻をゲットした。
両チームが一つのゴールでウォームアップを開始。アップは、各チームの最初の試合は5分間で、残りの4試合は2分。ディスプレーのタイマーのカウントダウンが始まる。
スクリプツのメンバーは一番背が高い人でも俺と同じくらいだけど、かなりの筋肉で、ユニフォームもパンパンに張っている。腕の太さもハンパない。美那と観に行ったプロの3on3の選手に近い感じだ。IT技術者と聞いてたから、もっと細い感じだと思ってたけど、全然違うのな。
あれ? モンスターズ・クッキーのウォームアップにはルーシーが加わっていない。薄い上着を着て、ベンチに座っている。1試合目は3人で戦うのか?
てか、まじ、みんな上手いじゃん!
スクリプツはドリブルやシュートの技術は確かだけど、動きはやや鈍い感じかな。ただ当然ながら当たりには強そうで、ジャックにさえ対抗できそうだ。
ペギーは動きに鋭さを増しているし、ジャックとテッドも動きが鈍くない。だいたい見た目からして体が締まったのがわかる。ただ、技術的にはペギーがダントツだ。
オツさんと美那がオフィシャル席に行ってしまって、取り残された俺とナオさんの居られる場所はゴール裏だけで、どうも所在ない感じ。
「動きがよく見えそうだし、上に行ってみる?」とナオさんが提案する。
学校の体育館と同じで、観客席はないけど、2階部分――試合フロアは3階だから、地上から見るとほんとは4階――は回廊になっている。
「そうしましょうか?」
で、ナオさんとふたりで回廊に上がる。
おおー、確かにここなら全体の動きがよく見えそうだ。
「リユくん、今日は調子はどう?」
「ま、そんないつもと変わんないっすかね。ナオさんは?」
「うん、わたしも」
こんな風にナオさんとふたりだけで話すって、初めてかもな。
やっぱ、綺麗な人だよな。
っていうか、俺、最近、美人ばかりとツーショットになってる?
美那とはしょっちゅう一緒だし、有里子さんもサバッとした美人だしな。
ナオさんは俺から見るとちょっと大人で、普段はしっとりした感じの長身の美人。性格は可愛いし。
それに香田さんか……。
もしかして、俺ってモテ期?
いや、ちょっと待て。美那とは親友モードだし、有里子さんは同性が好きで仕事関係だし、ナオさんはオツの彼女でチームメイトだし、香田さんに関しては桃太郎の雉か犬か猿だし……ま、香田さんだけはまだ可能性が残ってるか、一応。
「美那はどうしたのかな? いつからあんな調子なの?」
「たぶん、今朝からだと思いますけど。あ、昨日の夜は普通にメッセージのやり取りしてたけど、最後はちょっとおかしかったかな?」
「最後って?」
「ちょっと次の週末に用事が入ったから、練習試合を組まれないようにオツさんと美那に連絡したんですよ。その返事がいつも違う感じだったかなぁ」
「どんな風に?」
「なんか、妙に簡潔で、微妙にトゲトゲしいというか……」
「ふぅーん」
「なんか、わかります?」
「それだけだとちょっとわかんないけど、まー、わたしの予想だと、乙女心絡みかな」
「俺、美那の乙女心とか、わかんないんですよね。あいつ、誰かに恋でもしてんのかな。俺には全然そんなこと話さないから、まったくわからないけど。いや、俺の感じだと今はフリーっぽいんだけどなぁ」
前田俊の件も事後に知らされただけだしな。
そういや、最近香田さんのことを気にしてる感じだし、もしかして、香田さんの好きな男を好きだとか? え、香田さんって、誰か好きなヤツ、いるのかな? 俺には、全然、わかんねーや。
「美那って強そうにしてるけど、そういう部分って、かなりデリケートで、しかも不器用だよね。たぶん、だけど」
「あー、そうかも。そういう気はします」
「リユくんってさ、美那のこと、わかってそうで、わかってなくて、やっぱりわかってるよね」
「なんですか、それ? わかってるんだかわかってないんだか、わかんない言い方」
「ふふ」
「そういや、ナオさん、最近、妙なタイミングで笑いますよね」
「そう? そうかな?」
「はい」
「例えばどんな時?」
「そうだな……あ、この間、マックで、俺が美那に『最近、強い相手だと嬉しそうだな』って言って、美那が『バスケ部の時は強豪と対戦が決まると気持ちがサガるのに』、みたいなことを言った時」
「あー、あれね。なんか、美那が可愛くて」
「え? なんであれが美那が可愛いってことになるんですか?」
「うん、まあね」
「それ、答えになってねえし……」
俺は独り言のように呟く。
「たぶん、そのうち、リユくんにもわかるよ。っていうか、あたし的にはすぐにでなくてもいいから、わかってほしいというか……できれば早めに」
「いや、ますますわかんないですから!」
なんか、蒼山さんとのやり取りみたいだ。
「もしかして、ナオさんって特殊な能力、持ってます?」
「うーん。あると言えば、ある。ないと言えば、ない」
その答え、ほとんどオンナ蒼山ですから!
「じゃあ、あるとすればどんな?」
「そうだな……予感とか、予知能力?」
「マジで?」
「自信はないけど、けっこう当たるかな? 特に恋愛関係?」
「じゃ、今の話の流れでは、何を予知したんですか?」
「リユくん、質問力、けっこう高いね」
「まあ、こういう話に関しては、この間のバイトで〝ある人〟に鍛えられましたから」
「へえ。でもね、予知したことに関しては、言わないことにしてるの。だって、言っちゃったら、当たってても当たってなくても、その時点で何かを左右してしまうかもしれないでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
ナオさんは、不満げな俺の方を見て微笑むと、俺の肩をポンポンと優しく叩いた。
【著者よりお知らせ】
これまで火曜日と金曜日の朝に更新しておりましたが、諸事情により、今後は水曜日夕方の更新となります。
よろしくお願いいたします。
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