76 / 141
第2章
2-31 オトモダチからの連絡
しおりを挟む
8月2日金曜日。
今日も夏だー!
昨日のルーシーからの挑発的とも思えるメールが気になって、朝飯前に縄跳びをやって、朝食後はひとりサスケコートだ。
ルーシーは一体どんなプレーをするんだろうな。そして、ルーシーが加わって、ジャックとテッドも本気になったモンスターズ・クッキーはどんなチームなんだろう。美那が心沸き立つ気持ちもわかるぜ!
午前中のサスケコートでは、美那から教わったトランジションオフェンス(※相手のゴールやシュートミスから攻撃に移行)のパターンを、本を参照しつつ、ひとりシミュレーション。やってるうちに、相手がこのパターンで攻撃してきた場合のディフェンスの動きもわかってくる。
あとは、ペギーとの対戦をイメージしながらの、ドリブルとシュート練習。
結局、9時から11時半ごろまで、やってしまった。
明日はライディングスクールでうんざりするほどバイクに乗るので、Z250はお散歩程度だ。
3時半ごろから美那先生による、戦術講習。今回は、チェックボールからの攻撃パターン。
基本的に、味方3人で三角形を作って、パスとトス――ハンドオフとも言うらしい――、それにスクリーンを組み合わせて、時間をかけずに2ポイントシュートに持ち込むか、味方へのスペースを作ってドリブルで切り込ませるか、という感じだ。12秒という短いショットクロック (※攻撃開始からシュートするまでの時間制限)があるから、〝素早く〟が大事なのだ。
サスケコートは5時くらいで切り上げ。一度家に帰ってシャワーを浴びて着替えてから、美那の家で戦術の復習。園子さんも歓迎してくれてる感じだ。
「リユくん、門が音をしないようにしてくれて、ありがとうね。あれ、ほんと、嫌だったのよ。だいぶ古くなっているし、こんなものかと諦めてたの」
「いや、まあ、大したことじゃないんで。ほかにも何かあったら言ってください。僕にできることならやりますから」
なんて調子だ。
それはまあいいとして、美那の部屋で例のボードを使って戦術の復習をしているのだが、気のせいか、今日はなんか美那が若干近い。まあ、この間、スタバで戦術の本をふたりで見た時もそうだったけど、今は閉鎖空間だしな……。時々、腕と腕が触れ合ったりしちゃうと、すげー感触良くて、ドギマギしちゃうぜ。まー、美那は全然、気にしてない感じだけど。
そうか、有里子さんの時と一緒か……。意識してんのは、俺の方だけだな。
8月3日土曜日。
3回目のライディングスクールだ。
今日はバランスコース。実はこれ、中級レベルのハードルの高いコースらしい……知らなかった。
定員10人(初級とかは20人)で、参加者は8人だけ。しかも今日のインストラクターは過去2回とも教えてもらった吉田さんではない。
午前中は一人一人スペースを与えられて、延々と8の字を描く。実は俺、これ苦手。パイロンの距離は自分のレベルに合わせて、調節できるけど……。
それでも、時折アドバイスをもらいながら、何度転けてもめげずにやっていると、きれいに回れることが偶にある。だけど、どうして上手くいったのかを分析するほどの余裕はない。
昼休みに入るタイミングで、船橋さんというインストラクターに少しでもいいからタンデムのこつを教えてもらえないか、ダメ元で頼んでみた。
かなり渋い顔をされたが、「森本君か……吉田さんから話は聞いてるよ。ちょっと考えさせて」と言ってくれたので、もしかすると、やってもらえるかも。
午後は、打って変わって、多くの課題だ。スラロームが3種類と数種の一本橋。千鳥スラロームとかマジ無理だし。
普通のスラロームは、縦に並べたパイロンの間をS字を書くように縫っていく。
課題は、2種類のオフセット・スラロームと千鳥スラローム。
「オフセット」は、縦に並んだパイロンを抜けた先に、左右にオフセットされた――横に離れて置かれている――パイロンがある。その部分を、靴紐を通す感じで抜けていく。これは午前中に8の字で鍛えた甲斐があって、とりあえずクリアすることはできる。オフセットの距離が近い方が楽で、距離が離れている方は、パイロンの間を加速して、パイロンの手前でブレーキングしなければならないという難しさがある。
一方、「千鳥」は、オフセット部分だけを取り出し、しかも曲がる部分が2本のパイロンで制限されて、その間を抜けていかなければならない。バイクがやっと1台通れるくらいの狭いゲートが2本のパイロンで作られている感じ。ほとんど止まりそうなスピードで曲がっていかなければならない。一つ目をなんとか抜けられても、次のところに真っ直ぐ入れない。結局、一度も成功せず、だ。
それから一本橋。
これは免許の実技試験でもあるけど、なんか幅がスゲー狭いヤツとか、曲がりくねったヤツ(通称スネーク)、さらには橋の断面がかまぼこ状の、丸っこくなってるヤツがある。でも、一本橋は、自転車でスタンディングスティルとかして遊んでいたことがあるから、割と得意。なんと、ベテランの方々も苦手らしいスネークやかまぼこを2、3回の挑戦でクリアしてしまった。
そして残り時間が少なくなったところで、「今回は特別に」ということで、興味のある人を集めて、なんと、タンデムライディングの短い講習をしてくれた。
同乗者の跨り方とか掴まり方とか、ライディング上の注意とかを、手短に説明してくれる。
しかも、俺が呼ばれて、実演者だ。最初は俺がライダー役で、インストラクターが同乗者役。そのあと、ちょっとだけバイクを動かすところは、役割を交代。アクセルの軽い煽りやポンピング・ブレーキで、同乗者に発進や停止を知らせる方法なんかまで教えてくれた。ありがとうございますっ!
講習がすべて終わって解散した後、インストの船橋さんが来て、「一本橋は見事だったけど、スラロームとかはまだまだだから、タンデムをするにしても、同乗者と一緒に練習するつもりで、最初はごく短い距離にしておいた方がいいよ。なるべく交通量の少ない見通しのいい道路とかでね」と、追加のアドバイスもくれた。
免許取得1年が経ったら、とりあえず近場で美那と練習すっか。あー、ヘルメットとかどうしよう。有里子さん、余ってるヤツとかないかな。でもサイズとかもあるしな。まあ、美那も有里子さんも小顔だから、合いそうな気はするけど。
最寄り駅までの送迎バスから、美那にメッセージを送る。
<――ライディングスクール、無事終了。タンデムも特別に少し教えてもらえた。まだ先になるけどな。
――>マジで? ちょーたのしみ❤️
<――だから、まだすぐにじゃないけどな。色々準備もいるし。
――>わかった。楽しみに待ってる。
<――明日の練習試合はどうなった? ペギーたち。
――>結局、電車で行く。川崎駅に午後1時集合。だから、12時ごろ出る感じで。お昼、外なら11時?
<――わかった。じゃ、11時な。
――>了解!
しかし、今日のバランスコースは速度域は低いのに、てか、低すぎてスゲー疲れた。なかなかリラックスしてバイクを扱えない。
インストラクターからも指摘されたけど、やっぱ、ステアリングに変な力を入れてしまう。それがバイク自身の旋回力を削いでしまっているらしいけど、言うは易し、だよな。
電車で爆睡して、家に帰って、飯食って、ハンドリングの練習をしていたら、スマホにメッセージが。
美那かと思って、見たら、えっ、香田さん?
――>森本くん、夏休みは楽しんでる? バイトで忙しいのかな。わたしはちょっと燻ってて、家で本読んだりとかばかり……。
ど、ひゃー!
ちょっと、待て。家で燻ってる? これはどういう意味だ?
いや、まさか、デートに誘ってほしいとか? んなわけ、ねえよな。ただの近況報告だろ。
どー、しよ。なんて返事したらいいんだ? 美那に相談するわけにもいかねえしな。柳本はあり得ない。そもそもオトモダチ交換が秘密だもんな。
さすがに明日の練習試合が終わってから返信とかありえねえだろうし。もう、既読付いちゃったし。
あー、でも、どこかでお茶するくらいならアリか? 美那とは普通にいろんなところに出掛けてるもんな。上大岡のスタバじゃ、柳本に見られたしな。
よし。こんな感じでどうだ。
——もし、暇な時があったら、どこかでお茶でもしますか?
いや、待て。なんか全然やる気ない感じじゃん。しかも、つまんねーし。
なんかもっと具体的なのがいいな。映画とか、水族館とか? いや、それだとデートっぽいな。
香田さんの家は確か、久里浜だったよな。だけどあの辺、土地勘ないしな。
そうだ、香田さんからのメッセージの〝意味〟がイマイチわかんねーし、これまでの図書室での流れで行ってみよう。
——どんな本、読んだ? 俺はなんだかんだと忙しくて、あんまり読む時間がないんだけど、オススメとかある?
これでどうだ? いや、なんかちげーな。
そういや、終業式の日、夏休みは会えなくなっちゃうし、とか言ってたよな。ってことは、会いたいってこと? 外に出たいけど、ひとりじゃ行くとこ、ないし、みたいな? 香田さんは、休み時間とかはクラスメートとかとよく話してるけど、どっかのグループに入って連んでる感じじゃないもんな。なんか、ちょっとみんなから一目置かれちゃって、いい意味での孤立感——孤高って感じだもんな。まー、あんだけ可愛くて、成績もいいしな。同じモテ女子でも、美那とは全然違うタイプだよなー。
やばい、どんどん、時間が過ぎていく……。
<――バイトが終わって、ちょっと一息ってところ、かな。よかったら、どこか行きますか? あ、お茶とか、スイーツとかでもいいし。香田さんの家は、久里浜の方だったよね。その辺あんまり行ったことないから、そっちの方に行ってもみたいし。
これでどうだ? よくわからないけど、あんまり遅くなるより、いいだろ。
えい!
――>実は行きたいところがあるんだけど、一緒に行ってくれる?
(うひょ、即レス! こ、これは? これはどういう展開?)
<――それってどこ? 俺でよければ。
――>うん。三崎の美術館なんだけど。
<――へえ、美術館か。俺、絵画とか全然詳しくないけど、いいの?
――>あ、わたしも詳しくないよ。ただ、美術館の雰囲気が好きなの。図書室とちょっと似てない? 静かで、みんな、自分の世界に入っていて。
<――確かに。言われてみると、似てるかも。
(おおー、なんか、会話が盛り上がってきたじゃん!)
――>じゃあ、来週の土曜日とか空いてる? 10日。
(ライディングスクール中級は17日だし、今のところ、練習試合のスケジュールもないよな)
<――うん、大丈夫。
――>よかった。じゃあ、どこで待ち合わせする?
(ま、待ち合わせだとー! まるでデートじゃん!)
<――俺はどこでもいいよ。香田さんのわかりやすいところで。
――>森本くんは京急本線だったよね?
<――うん、そう。
――>わたしは久里浜線だから、じゃあ、堀ノ内でいい?
<――うん。OK。
――>堀ノ内駅の浦賀方面ホームの真ん中辺りに10時でどう?
<――わかった。10日土曜日の10時、堀ノ内。
――>うん。ありがとう。じゃあ、楽しみにしてる。
(楽しみにしてるー⁈)
<――俺も。楽しみにしてる。
――>じゃ、おやすみなさい。
<――うん、おやすみ。
まじか……。これってほとんどデートモードじゃん。
いやいや、単に一人で行くのが嫌だから、図書室仲間の俺を誘っただけだ。いわば、桃太郎の雉か、犬か、猿だ。
そうだ。練習試合を入れられないように、オツさんと美那に連絡しておこう。
<――10日土曜日に用事が入ったので、練習試合の日程を避けてもらえるとうれしいです。
これでよし、と。まあ、もし決まりかけてたら、そんときはそんときだ。
待てよ。その時、どっちを選ぶんだ、俺?
練習試合に俺がいなかったら、練習試合が成立しないもんな。その時は、香田さんに変更してもらうのか? できるのか、俺、そんなこと! これが最初で最後のチャンスかもしれないぞ、香田さんとふたりだけでどっか行くなんてー!
香田さんなら、「そうか、じゃあ、仕方ないね。他の人を誘ってみる」とか、悪気なく言いそうだもんな。
お、オツさんからだ。
――>了解。次の練習試合は18日になりそうだ。よろしく。
おお、助かった。
美那からは連絡なし、か。まあ、さすがに用事って何? とかは聞いてこねえよな。別に彼氏でもねえからな。サスケコートでの練習をどうするか、くらいか。ま、そんなのは直前でもいいしな。
お、美那からだ。
――>わたしもその日、ちょうど用事があるから、練習はナシで。じゃ。
あれ? なんかいつもと文体が違くね?
今日も夏だー!
昨日のルーシーからの挑発的とも思えるメールが気になって、朝飯前に縄跳びをやって、朝食後はひとりサスケコートだ。
ルーシーは一体どんなプレーをするんだろうな。そして、ルーシーが加わって、ジャックとテッドも本気になったモンスターズ・クッキーはどんなチームなんだろう。美那が心沸き立つ気持ちもわかるぜ!
午前中のサスケコートでは、美那から教わったトランジションオフェンス(※相手のゴールやシュートミスから攻撃に移行)のパターンを、本を参照しつつ、ひとりシミュレーション。やってるうちに、相手がこのパターンで攻撃してきた場合のディフェンスの動きもわかってくる。
あとは、ペギーとの対戦をイメージしながらの、ドリブルとシュート練習。
結局、9時から11時半ごろまで、やってしまった。
明日はライディングスクールでうんざりするほどバイクに乗るので、Z250はお散歩程度だ。
3時半ごろから美那先生による、戦術講習。今回は、チェックボールからの攻撃パターン。
基本的に、味方3人で三角形を作って、パスとトス――ハンドオフとも言うらしい――、それにスクリーンを組み合わせて、時間をかけずに2ポイントシュートに持ち込むか、味方へのスペースを作ってドリブルで切り込ませるか、という感じだ。12秒という短いショットクロック (※攻撃開始からシュートするまでの時間制限)があるから、〝素早く〟が大事なのだ。
サスケコートは5時くらいで切り上げ。一度家に帰ってシャワーを浴びて着替えてから、美那の家で戦術の復習。園子さんも歓迎してくれてる感じだ。
「リユくん、門が音をしないようにしてくれて、ありがとうね。あれ、ほんと、嫌だったのよ。だいぶ古くなっているし、こんなものかと諦めてたの」
「いや、まあ、大したことじゃないんで。ほかにも何かあったら言ってください。僕にできることならやりますから」
なんて調子だ。
それはまあいいとして、美那の部屋で例のボードを使って戦術の復習をしているのだが、気のせいか、今日はなんか美那が若干近い。まあ、この間、スタバで戦術の本をふたりで見た時もそうだったけど、今は閉鎖空間だしな……。時々、腕と腕が触れ合ったりしちゃうと、すげー感触良くて、ドギマギしちゃうぜ。まー、美那は全然、気にしてない感じだけど。
そうか、有里子さんの時と一緒か……。意識してんのは、俺の方だけだな。
8月3日土曜日。
3回目のライディングスクールだ。
今日はバランスコース。実はこれ、中級レベルのハードルの高いコースらしい……知らなかった。
定員10人(初級とかは20人)で、参加者は8人だけ。しかも今日のインストラクターは過去2回とも教えてもらった吉田さんではない。
午前中は一人一人スペースを与えられて、延々と8の字を描く。実は俺、これ苦手。パイロンの距離は自分のレベルに合わせて、調節できるけど……。
それでも、時折アドバイスをもらいながら、何度転けてもめげずにやっていると、きれいに回れることが偶にある。だけど、どうして上手くいったのかを分析するほどの余裕はない。
昼休みに入るタイミングで、船橋さんというインストラクターに少しでもいいからタンデムのこつを教えてもらえないか、ダメ元で頼んでみた。
かなり渋い顔をされたが、「森本君か……吉田さんから話は聞いてるよ。ちょっと考えさせて」と言ってくれたので、もしかすると、やってもらえるかも。
午後は、打って変わって、多くの課題だ。スラロームが3種類と数種の一本橋。千鳥スラロームとかマジ無理だし。
普通のスラロームは、縦に並べたパイロンの間をS字を書くように縫っていく。
課題は、2種類のオフセット・スラロームと千鳥スラローム。
「オフセット」は、縦に並んだパイロンを抜けた先に、左右にオフセットされた――横に離れて置かれている――パイロンがある。その部分を、靴紐を通す感じで抜けていく。これは午前中に8の字で鍛えた甲斐があって、とりあえずクリアすることはできる。オフセットの距離が近い方が楽で、距離が離れている方は、パイロンの間を加速して、パイロンの手前でブレーキングしなければならないという難しさがある。
一方、「千鳥」は、オフセット部分だけを取り出し、しかも曲がる部分が2本のパイロンで制限されて、その間を抜けていかなければならない。バイクがやっと1台通れるくらいの狭いゲートが2本のパイロンで作られている感じ。ほとんど止まりそうなスピードで曲がっていかなければならない。一つ目をなんとか抜けられても、次のところに真っ直ぐ入れない。結局、一度も成功せず、だ。
それから一本橋。
これは免許の実技試験でもあるけど、なんか幅がスゲー狭いヤツとか、曲がりくねったヤツ(通称スネーク)、さらには橋の断面がかまぼこ状の、丸っこくなってるヤツがある。でも、一本橋は、自転車でスタンディングスティルとかして遊んでいたことがあるから、割と得意。なんと、ベテランの方々も苦手らしいスネークやかまぼこを2、3回の挑戦でクリアしてしまった。
そして残り時間が少なくなったところで、「今回は特別に」ということで、興味のある人を集めて、なんと、タンデムライディングの短い講習をしてくれた。
同乗者の跨り方とか掴まり方とか、ライディング上の注意とかを、手短に説明してくれる。
しかも、俺が呼ばれて、実演者だ。最初は俺がライダー役で、インストラクターが同乗者役。そのあと、ちょっとだけバイクを動かすところは、役割を交代。アクセルの軽い煽りやポンピング・ブレーキで、同乗者に発進や停止を知らせる方法なんかまで教えてくれた。ありがとうございますっ!
講習がすべて終わって解散した後、インストの船橋さんが来て、「一本橋は見事だったけど、スラロームとかはまだまだだから、タンデムをするにしても、同乗者と一緒に練習するつもりで、最初はごく短い距離にしておいた方がいいよ。なるべく交通量の少ない見通しのいい道路とかでね」と、追加のアドバイスもくれた。
免許取得1年が経ったら、とりあえず近場で美那と練習すっか。あー、ヘルメットとかどうしよう。有里子さん、余ってるヤツとかないかな。でもサイズとかもあるしな。まあ、美那も有里子さんも小顔だから、合いそうな気はするけど。
最寄り駅までの送迎バスから、美那にメッセージを送る。
<――ライディングスクール、無事終了。タンデムも特別に少し教えてもらえた。まだ先になるけどな。
――>マジで? ちょーたのしみ❤️
<――だから、まだすぐにじゃないけどな。色々準備もいるし。
――>わかった。楽しみに待ってる。
<――明日の練習試合はどうなった? ペギーたち。
――>結局、電車で行く。川崎駅に午後1時集合。だから、12時ごろ出る感じで。お昼、外なら11時?
<――わかった。じゃ、11時な。
――>了解!
しかし、今日のバランスコースは速度域は低いのに、てか、低すぎてスゲー疲れた。なかなかリラックスしてバイクを扱えない。
インストラクターからも指摘されたけど、やっぱ、ステアリングに変な力を入れてしまう。それがバイク自身の旋回力を削いでしまっているらしいけど、言うは易し、だよな。
電車で爆睡して、家に帰って、飯食って、ハンドリングの練習をしていたら、スマホにメッセージが。
美那かと思って、見たら、えっ、香田さん?
――>森本くん、夏休みは楽しんでる? バイトで忙しいのかな。わたしはちょっと燻ってて、家で本読んだりとかばかり……。
ど、ひゃー!
ちょっと、待て。家で燻ってる? これはどういう意味だ?
いや、まさか、デートに誘ってほしいとか? んなわけ、ねえよな。ただの近況報告だろ。
どー、しよ。なんて返事したらいいんだ? 美那に相談するわけにもいかねえしな。柳本はあり得ない。そもそもオトモダチ交換が秘密だもんな。
さすがに明日の練習試合が終わってから返信とかありえねえだろうし。もう、既読付いちゃったし。
あー、でも、どこかでお茶するくらいならアリか? 美那とは普通にいろんなところに出掛けてるもんな。上大岡のスタバじゃ、柳本に見られたしな。
よし。こんな感じでどうだ。
——もし、暇な時があったら、どこかでお茶でもしますか?
いや、待て。なんか全然やる気ない感じじゃん。しかも、つまんねーし。
なんかもっと具体的なのがいいな。映画とか、水族館とか? いや、それだとデートっぽいな。
香田さんの家は確か、久里浜だったよな。だけどあの辺、土地勘ないしな。
そうだ、香田さんからのメッセージの〝意味〟がイマイチわかんねーし、これまでの図書室での流れで行ってみよう。
——どんな本、読んだ? 俺はなんだかんだと忙しくて、あんまり読む時間がないんだけど、オススメとかある?
これでどうだ? いや、なんかちげーな。
そういや、終業式の日、夏休みは会えなくなっちゃうし、とか言ってたよな。ってことは、会いたいってこと? 外に出たいけど、ひとりじゃ行くとこ、ないし、みたいな? 香田さんは、休み時間とかはクラスメートとかとよく話してるけど、どっかのグループに入って連んでる感じじゃないもんな。なんか、ちょっとみんなから一目置かれちゃって、いい意味での孤立感——孤高って感じだもんな。まー、あんだけ可愛くて、成績もいいしな。同じモテ女子でも、美那とは全然違うタイプだよなー。
やばい、どんどん、時間が過ぎていく……。
<――バイトが終わって、ちょっと一息ってところ、かな。よかったら、どこか行きますか? あ、お茶とか、スイーツとかでもいいし。香田さんの家は、久里浜の方だったよね。その辺あんまり行ったことないから、そっちの方に行ってもみたいし。
これでどうだ? よくわからないけど、あんまり遅くなるより、いいだろ。
えい!
――>実は行きたいところがあるんだけど、一緒に行ってくれる?
(うひょ、即レス! こ、これは? これはどういう展開?)
<――それってどこ? 俺でよければ。
――>うん。三崎の美術館なんだけど。
<――へえ、美術館か。俺、絵画とか全然詳しくないけど、いいの?
――>あ、わたしも詳しくないよ。ただ、美術館の雰囲気が好きなの。図書室とちょっと似てない? 静かで、みんな、自分の世界に入っていて。
<――確かに。言われてみると、似てるかも。
(おおー、なんか、会話が盛り上がってきたじゃん!)
――>じゃあ、来週の土曜日とか空いてる? 10日。
(ライディングスクール中級は17日だし、今のところ、練習試合のスケジュールもないよな)
<――うん、大丈夫。
――>よかった。じゃあ、どこで待ち合わせする?
(ま、待ち合わせだとー! まるでデートじゃん!)
<――俺はどこでもいいよ。香田さんのわかりやすいところで。
――>森本くんは京急本線だったよね?
<――うん、そう。
――>わたしは久里浜線だから、じゃあ、堀ノ内でいい?
<――うん。OK。
――>堀ノ内駅の浦賀方面ホームの真ん中辺りに10時でどう?
<――わかった。10日土曜日の10時、堀ノ内。
――>うん。ありがとう。じゃあ、楽しみにしてる。
(楽しみにしてるー⁈)
<――俺も。楽しみにしてる。
――>じゃ、おやすみなさい。
<――うん、おやすみ。
まじか……。これってほとんどデートモードじゃん。
いやいや、単に一人で行くのが嫌だから、図書室仲間の俺を誘っただけだ。いわば、桃太郎の雉か、犬か、猿だ。
そうだ。練習試合を入れられないように、オツさんと美那に連絡しておこう。
<――10日土曜日に用事が入ったので、練習試合の日程を避けてもらえるとうれしいです。
これでよし、と。まあ、もし決まりかけてたら、そんときはそんときだ。
待てよ。その時、どっちを選ぶんだ、俺?
練習試合に俺がいなかったら、練習試合が成立しないもんな。その時は、香田さんに変更してもらうのか? できるのか、俺、そんなこと! これが最初で最後のチャンスかもしれないぞ、香田さんとふたりだけでどっか行くなんてー!
香田さんなら、「そうか、じゃあ、仕方ないね。他の人を誘ってみる」とか、悪気なく言いそうだもんな。
お、オツさんからだ。
――>了解。次の練習試合は18日になりそうだ。よろしく。
おお、助かった。
美那からは連絡なし、か。まあ、さすがに用事って何? とかは聞いてこねえよな。別に彼氏でもねえからな。サスケコートでの練習をどうするか、くらいか。ま、そんなのは直前でもいいしな。
お、美那からだ。
――>わたしもその日、ちょうど用事があるから、練習はナシで。じゃ。
あれ? なんかいつもと文体が違くね?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・
無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。
僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。
隣の小学校だった上杉愛美だ。
部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。
その時、助けてくれたのが愛美だった。
その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。
それから、5年。
僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。
今日、この状況を見るまでは・・・。
その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。
そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。
僕はどうすれば・・・。
この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
『女になる』
新帯 繭
青春
わたしはLGBTQ+の女子……と名乗りたいけれど、わたしは周囲から見れば「男子」。生きていくためには「男」にならないといけない。……親の望む「ぼく」にならなくてはならない。だけど、本当にそれでいいのだろうか?いつか過ちとなるまでの物語。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
Y/K Out Side Joker . コート上の海将
高嶋ソック
青春
ある年の全米オープン決勝戦の勝敗が決した。世界中の観戦者が、世界ランク3ケタ台の元日本人が起こした奇跡を目の当たりにし熱狂する。男の名前は影村義孝。ポーランドへ帰化した日本人のテニスプレーヤー。そんな彼の勝利を日本にある小さな中華料理屋でテレビ越しに杏露酒を飲みながら祝福する男がいた。彼が店主と昔の話をしていると、後ろの席から影村の母校の男子テニス部マネージャーと名乗る女子高生に声を掛けられる。影村が所属していた当初の男子テニス部の状況について教えてほしいと言われ、男は昔を語り始める。男子テニス部立直し直後に爆発的な進撃を見せた海生代高校。当時全国にいる天才の1人にして、現ATPプロ日本テニス連盟協会の主力筆頭である竹下と、全国の高校生プレーヤーから“海将”と呼ばれて恐れられた影村の話を...。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる