カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第2章

2-17 衝撃のサスケコート

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 アレックスでのピザトーストが昼飯になってしまったので、関越道の高坂SAサービスエリアで休憩を兼ねて、軽い食事をする。俺はラーメン、有里子さんはうどんを食す。
 関越道を終点の練馬ICまで走って、東京都内を環八で抜ける。圏央道で八王子の方を回るルートもあるけど、有里子さんは圏央道が好きではなく、いつも都内を抜けるルートを選ぶとのこと。時間的にはほとんど変わらないようだ。
 環八から第三京浜に入って、最後は横浜横須賀道路(横横)。横横に入った段階で、かーちゃんに連絡を入れる。そこからはほんと、あっという間だ。
 3時25分、わが家に到着だ。
 休憩も含めて、アレックスから3時間ほどの道のり。高速を使うと、意外と近いんだな。
 Z250君も、ちゃんとフィットの後ろで俺を待っている。
 有里子さんが家の駐車スペースに車を入れていると、美那が出てきた。まあ、来ているとは思ってたけど。ちゃんとバスケできそうな格好だ。
「おかえり」
 美那がちょっとはにかんだような笑顔を見せる。
 美那の顔を見ると、帰ってきたー、って感じがするな。
「ああ、ただいま」
 俺もなんかちょっと照れくさい。
 そういや、もうすっかり落ち着いたけど、キスされて以来、初めて顔を合わせたんだった……。
 有里子さんが車から降りて、俺が後ろから荷物を出していると、かーちゃんが出てくる。出発の時と同じで、ちゃんと身なりを整えている。
「どうもお疲れさまでした。さ、上がって、一息ついてください」
「はい。じゃあ、お邪魔させていただきます」
 俺と美那はすぐにでもサスケコートに行く勢いだったけど、有里子さんに呼ばれた。
「リユくん、加奈江さんにバイトの報告するから、一緒にいて」
「あー、はい、わかりました」
 もうすでにお茶の準備は完了していて、湯を入れて注ぐだけ。
 食卓テーブルでかーちゃんの向かいに有里子さんが座って、俺がその隣。かーちゃんの横、俺の前になぜか美那まで座ってる。
 ま、いいけど。
「息子は少しはお役に立てたのかしら」
「メールでも少し書きましたけど、役に立ったどころか、2年ほど探していた建物まで見つけてくれて、感謝しています」
「そうなんですか? ほんとご迷惑かけるんじゃないかと心配で」
「迷惑どころか、てきぱきと撮影の補助をしてくれましたし、リユくんなしでは今回の撮影の旅はこんなにうまくはいきませんでした」
 有里子さん、それちょっと褒めすぎでしょ。
 笑いを浮かべた美那が俺の脚を蹴る。うるせー。
「それでは、これがアルバイト代です」
 有里子さんがさっきと同じ茶封筒をバッグから出して、かーちゃんに渡す。
「はい。では中を改めさせていただきます」
 かーちゃんが封筒から1万円札を取り出して、数える。
「あら、11枚ありますけど」
「ええ、最初にお願いしていた以外の仕事も少ししていただきましたので」
 さっきの3万がそれじゃなかったのか?
 俺が有里子さんを見ると、いいの、って感じの表情で、俺の口を封じる。
「じゃあ、はい、里優、自分で確認して。そしてオートバイの残りの代金をお支払いして」
「ああ」
 たしかに11万円。
 では1万円はいただきます。
 バイクのカバーとロック、Z―Fourのユニフォームに、3on3のチケット代。これだけじゃ足りないけど、さっきの3万の残りがあればなんとかなるな。
「じゃあ、有里子さん、これ。ありがとう」
「はい。たしかに。これで完全にZ250はリユくんのものね」
「はい。感謝です。大事にします」
「うん。それじゃ、一応、受け取りに署名してくれる?」
 有里子さんは、すでに項目の埋まっている領収書とペンを俺に差し出した。
〝2019年7月22日から7月29日までの撮影アシスタントのアルバイト代として〟、か。
 俺は住所と名前を書き込んで、有里子さんに渡す。
「ありがと。じゃあ、リユくん、バスケに行くならどうぞ」
「あ、でも、有里子さんを見送ってから行くよ」
「あー、もうちょっと加奈江さんと話したいから、別にいいわよ。もう少し、よろしいですか?」
「ええ、わたしの方は」
 かーちゃんは驚きの表情。
 有里子さんはかーちゃんと何を話すつもりなんだろう。もしかして、リユくんは才能があるから、このままわたしの下で写真の勉強をしませんか? とか?
 美那とアイコンタクトで相談。むずむずしているのがわかる。
「じゃ、ちょっと行ってきます。有里子さん、お疲れでしょうから、気をつけて帰ってください」
「うん、ありがとう。また、連絡するね」
「はい。お願いします」
 俺は速攻で部屋に上がって、サスケコート用に着替える。ジーンズが短パンになって、Tシャツは運動しやすいメッシュの、靴下はバスケ用のちょっと厚めのやつ。ボールはちょっと空気が抜けてる感じだったから、美那の持ってきたのだけでいいや。
 あ、杉浦さんのおみやげも持っていかなきゃ。
 おみやげといえば、美那の分はどうするか。いま渡しても邪魔だろうし、帰ってきてからでいいな。
 美那はすでに玄関で待っている。玄関に置いたバッグから、杉浦家へのおみやげと外用ナイキを取り出す。おっと、先に連絡しなきゃ。

<――杉浦さん。アルバイトから戻りました。今から練習に伺ってもよろしいですか?
――>いやあ、リユくん、久しぶり。1日早かったんだね。うちは大丈夫だよ。

 最近は杉浦さんのレスもすっかり早くなった。いつの間にか、リユウからリユに変わってるし。
「大丈夫だって?」
「うん。OK」
「あ、それおみやげ?」
「そう。ちゃんと美那の分もあるから。あとで渡すな」
「うん。ありがと」
「あ、ボールの空気が抜けてるっぽいから、明日にでも空気入れさせて」
「そんなこともあろうと思って、ちゃんと空気入れ、持ってきているから」
「お、気がきくじゃん」
 それからまるで競争するように歩きながら、サスケコートに向かう。
 杉浦さんの家のインターホンを押して、「こんにちわ、森本です」と言うと、入り口の鍵が開く……はずが開かない。もう一度、押してみると、奥さんが出る。
「里優くんね。ちょっと待っててちょうだい」
「おかしいな。さっきは大丈夫だって」
 すると、しばらくして中から解錠する音がして、扉が開く。
 笑顔のご主人が顔を覗かせる。
「あ、杉浦さん。こんにちわ。どうしたんですか」
「いや、ずいぶん陽に焼けて、元気そうだね。待ってたよ」
「あ、これおみやげです。ちょっと長野県に行っていたので」
「お、そうかい。じゃあ、ありがたくいただきます」
 杉浦さんのあとについて、サスケコートへ歩く。俺と美那は、なんかちょっと変? って感じで顔を見合わせる。
 あれ? サスケコートに違和感……。
 ラインが引いてある?
 ラインが引いてある‼︎
 ベージュの敷石の上に3x3用の白いラインが引いてある……。
 ええー!
 声が出ないほどの驚き。
 また美那と顔を見合わせる。
「こ、これは?」
「驚いたかい?」
 いや、それは驚きますって、杉浦さん。
「それは、もう……」
「はは。実は息子と相談して、どうせ自分たちも帰国したらラインが欲しいからってことで、一足先に引くことにしました。リユくんがアルバイトで1週間くらい来ないっていうから、その間にやってしまおうと思ってね」
 まだ呆然とした顔の美那が、俺の手を探して、握る。
「すごいよ、リユ」
「ああ」
 ただバスケットのゴールがあるだけの場所と、きちんとラインが引かれた場所では、まったく違って見える。
 どう違うかというと、おもちゃの車とほんものの車? 壁打ちテニスのコートとネットを張った本物のコート? アイドルの写真とほんものの美那? 我ながら意味わからん。
「それから、これも見てよ」
 杉浦さんは車庫のシャッターの前に横たわった細長いバッグのところに行った。
「リユくん、ミナちゃん、ちょっと来て」と、杉浦さんが手招きする。
 俺と美那は手を繋いだまま、ラインの入ったサスケコートを踏みしめながら、小走りに杉浦さんのところに行く。
「これ、中を出してみて」
 黒いバッグの長さは1メートル以上はある。重さも結構ずっしり。
 ジッパーを開けると、黒っぽいネットと分解された黒いポールが入っている。
「ほら、ボールがシャッターに当たったときとか、音がするでしょう? あれ、息子たちが遊んでた時から気になってて、息子がインターネットで探してくれたんだよ。あとはひとりで練習する時、ボールが転がって行っちゃたりとか。適当に使ってください。使った後はしまって、車庫の端っこの軒下に立てておいてくれたらいいから」
 美那は背負っていたボールのバッグをようやく地面に置く。
 ふたりで説明書を見ながら、組み立てていく。ポールの中に伸縮性のあるコードが通っていて、つなぐのは簡単だけど、かなりデカイから立てるのはひとりだと結構大変かも。
 立ててみると、ゴールネットの下端と同じくらいの高さがある。3メートル弱だ。横はその1・5倍くらいの長さ。これがあれば、横からの2ポイントシュートの練習も気兼ねなくできる。
「杉浦さん、なんてお礼を言っていいか……」
 横で美那もうなずく。
「もし息子に会うことがあったら、そのときにひと言、お礼でも言ってやってください」
「はい……」
「それじゃ、おみやげをどうもありがとう」
 そう言って、杉浦さんは家の方に歩いて行ってしまった。
 杉浦さんが玄関の中に入るのを見届けて、俺たちはあらためてコートの中に踏み込む。
 コート頂点に立ち、ゴールを見る。
「この展開は」と、俺。
「いったいなんなの?」と、美那。
「すっげー」と、両方の拳を突き上げて俺が叫ぶ。
「やったぁー!」と、美那が飛び跳ねる。
 不意に美那が抱きついてくる。
「これはマジで優勝しないとね」と、美那がつぶやく。
「ああ」
 と、俺は答えたものの、ヤバ。
 み、美那の感触がぁー。
 美那がバッと離れる。
「あー、ちょっとなんなの! 感動のシーンなのに!」
「ご、ごめん……バイト中はあれだったから、ちょっと溜まってて……」
「ま、まあ、いいけど。さ、練習しよ、練習」
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