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第2章

2-8 JKs対おでん

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 気心知れたバスケ部女子3人「JKsジェイケーズ」と、初対面の3人「おでん」の対戦。蒼山さんの命名だ。「おでん」はいろんな具材が入っているから、とのこと。
 コンビネーションでは劣るだろうけど、こっちは男ふたりで身長も高い。それにもうひとりはバスケ女子のリーダ格。平均身長は、ナカノさんが178センチくらいだから「おでん」は173センチ程度、「JKs」は165くらい。勝てる可能性は十分にある。
 一応の審判は蒼山さんで、ナカノさんの息子のリョウヘイ君が点数を言ってくれる係だ。
 ルールは3x3を基本にして、5分ハーフで間に2分の休憩を入れる。女子の2倍ポイントはなし。ショットクロックの12秒は、蒼山さんがスマホのカウントダウンタイマーを見て、だいたい10秒で手を上げ、あとは感覚ということに。
 立ち上がりは、JKsがコンビネーションのよさで圧倒。チームおでんは、個人技でなんとか対抗する。
 美容師のナカノさんはロングシュートが得意らしく、ミドルショットや2ポイントシュートを打つが、長身の春子ちゃんのマークに苦戦している。それとプレーが止まらない攻撃権交代トランジションオフェンスにまだ戸惑っている様子。
 綾ちゃんはJKsの動きを知っているし、ドリブルの技術も高い。ただシュートの精度が今ひとつ。
 俺は、自分で何が得意かよくわかっていない。でもレイアップシュートも決めるし、2ポイントシュートも決める。
 前半を終了して、6対15とかなりの劣勢だ。ナカノさんと俺が2ポイントを1本ずつ、そして綾ちゃんと俺がレイアップシュートを1本ずつ。
「女子とはいえ、やっぱ現役のバスケ部は動きがいいな」と、ナカノさん。
「コンビネーションなしの単独の動きだけじゃ、難しいですね」と、綾ちゃん。
「俺がおとりになって向こうを振り回してパスを出すから、綾ちゃんがシュートするか、ナカノさんのロングを生かすか。そんな作戦をベースにしたらどうかな。なんとなく綾ちゃんの動きもわかってきたし」と、俺。
「たしかにリユくんの動きは面白いし、読みにくい。ナカノさんは2ポイントの精度を上げられそうですか?」
「そうだな……フリーにしてもらえれば、もう少しいけると思う。あの背の高い子はジャンプ力もあるし、マークに付かれると厳しい」
「じゃあ、3人ともアークの外を基本にして、わたしとリユくんであの子達のディフェンスを撹乱かくらんして、春子のマークを甘くさせよう」と、綾ちゃん。
「具体的な作戦は?」と、俺。
 綾ちゃんが説明してくれるが、ナカノさんはわかったぽいけど、俺はよくわからない。
 今度は3人のペットボトルをメンバーに見立てて、説明してくれる。
「ここがゴールだとすると、こういうふうに、わたしとリユくんでポジションをスイッチして、マークの2人を撹乱。ナカノさんのマークが離れたら、ナカノさんにパスするし、インサイドが空いたら、ドリブルとかカットインでわたしかリユくんがシュートを狙う」
「うん、なんとなくわかった。じゃあそれでやってみよう」
 綾ちゃんが一番背の低い京香ちゃんからチェックボールを受け取ると、右サイドにいる俺の方にドリブルしてくる、俺は綾ちゃんと入れ替わるようにしてアーク頂点に走り込む。
 マーク同士が錯綜さくそうして、たしかにマークがズレる。綾ちゃんがカットインしていき、俺もドリブルで切り込む。綾ちゃんにパス。そのままシュート!(7対15)
 俺もナカノさんも相手の動きが読めてきて、ディフェンス力が上がっている。必然的にJKsのシュート精度は下がる。
 次の攻撃では同じように動きながら、綾ちゃんが長身の春子ちゃんを引き付けるような動きで、ナカノさんがフリー気味になる。俺はすかさずナカノさんにパス。余裕のあるナカノさんは美しいフォームで見事に2ポイントを決める。リョウヘイくんも「パパ、かっこいい!」と、興奮だ。(9対15)
 あれよあれよという間に、得点は18対18の同点。残り1分半。
 ただJKsもおでんの動きを徐々に読んできたらしく、こちらの攻撃も封じられ気味。
 綾ちゃんが「残りはフリーで行こう」と、俺に言う。ナカノさんには「ミドルでもいいから、とにかく打って」と、話しかける。
 まず俺がカイリーユの本領を発揮して、ドライブからシュートを決める。
 19対18。ついに逆転!
 次は春子ちゃんに2ポイントを決められてしまう。19対20。
 俺と綾ちゃんのパス交換から、綾ちゃんがレイアップを決めて、同点。20対20。
 次のディフェンスでは、リサちゃんのドリブルを俺がインターセプト。後ろ手から綾ちゃんにパス、カットインした俺にトスしてくれる。でもボールを奪われたリサちゃんの体を張った意地のディフェンスにシュートに行けない。さすが体育会系だ。
 ナカノさんが走りこんでくる。ワンバンの低いパス。走りながら受け取ったナカノさんは、必死に食いつく春子ちゃんを振り切り、華麗なフィンガーロール・レイアップシュートを決めた!
 21対20で勝利!
 ナカノさんは完全にリョウヘイくんの尊敬を勝ち取ったな、これは。
 JKsはがっくりと肩を落としている。俺たちは勝利のハイタッチ!
「ナカノさん、リユくん、ありがとうございました。これであの子たちも自分の弱点がわかったはず」
 たしかに綾ちゃんがほかの3人に比べて一歩抜きん出た感じだもんな。そして美那と同じで大したリーダーの資質だ。
 綾ちゃんは蒼山さんに丁寧にお礼を言っている。蒼山さんも嬉しそう。
 まだ5時すぎで、有里子さんとの待ち合わせまで時間がある。夕食があるので、とナカノさん親子は帰っていき、俺たちは近くのたこ焼き屋さんで空腹を和らげることに。
 女子バスケ部の4人は俺が1カ月ちょっとでここまで上達したことに興味津々。
「どんな練習をしてきたの?」と、リサちゃんが聞いてくる。俺のマークについていたから、実感が強いらしい。
「たぶんそんな特殊なことはしてないと思う。幼馴染のバスケ女子の指導に従ってきただけだから。強いていえば、カイリー・アービングの動画を見まくったことと、ハンドリングとドリブルの練習を熱心にやってきたことかな」
「動画研究か……でも2ポイントを3本も決めてたよね」と、春子ちゃん。
「あれは前から自然に打てるというか、体育とか球技大会でも決めてた。でもルールをよく知らなくて、ラインを踏んでて、3ポイントになってなかったりもしてたけど。それを見込んで、あいつは俺をスカウトしたらしい」
「へぇー。その幼馴染の人って、どんな子?」と、綾ちゃん。
「リユくん、写真を見せてやれよ」と、蒼山さんが余計な口を挟む。
「ヤですよ」と、俺。
 もちろん女子高生たちがそれを許してくれるはずもない。「見たい、見たい」と、騒ぐ。
 渋々スマホの写真を出す。どれにするか迷って、かーちゃんが撮ってくれたバイクの前に横に並んでいる写真を見せる。
「うわー、きれいな子!」と、綾ちゃん。
「大人っぽーい!」と、京香ちゃん。
「えー、これって絶対、彼女でしょ」と、リサちゃんが突っ込んでくる。
「いや、違うの。ただの幼馴染だから」
 誰もZ250には注目してくれない……。
「親友じゃなかったっけ?」と、また蒼山さんが余計なツッコミを入れてくる。
「えー、異性の幼馴染で親友って、すっごーい。で、3x3のチーム? それってどう発展してもおかしくないよね」と、綾ちゃん。
「それとも彼女は別にいるとか?」と、リサちゃんがさらに突っ込んでくる。
 これって、完全に女子高生の恋話コイバナだよな! 美那たちもスイーツを食べながら、こんな話をしているのだろうか?
「いないです!」と、力強く答える俺。
「じゃあ、片思い?」と、京香ちゃん。
「え、どっちが?」と、春子ちゃん。
「写真を見た限りでは、リユくんが片思い? ごめんなさい」と、リサちゃん。
「案外、彼女の方がリユくんを想ってたりして。彼女はなんていう名前?」と、綾ちゃん。
「ミナ。ヤマシタ・ミナ」
 綾ちゃんがどんな字か聞くので、美しいに那覇市の那と答える。
「へー、美那ちゃんか。会ってみたいな。どんなプレーをするんだろう?」と、綾ちゃんがつぶやく。
「ポイントガードだから綾ちゃんと似てると思うよ。俺はよくわかんないけど、司令塔的な役割で、ドリブルで突破とかが得意。3x3のチームでも大学生が2人いるのに、美那がキャプテン役だし」
「へぇー、すごいね」と、綾ちゃんが感慨深げに言う。
「ほかの写真も見たーい」と、京香ちゃんとリサちゃんにせがまれる。
「あの写真を見せてやれよ」と、蒼山さん。
「あの写真って⁉︎」と、4人が食いつく。
 蒼山さん、頼みますから、JKをあおらないでください。
 抵抗するすべもなく、GRで撮った美那の笑顔を出す。
「うわー、ヤッバ、かわいーい」
 もう、いちいちウルサイですから! たしかに美那は可愛いです‼︎
「これ、誰が撮ったの?」と、綾ちゃん。
 綾ちゃんは比較的冷静だ。
「俺」
「ふぅーん」
「え、なに?」
 何か言いたげな綾ちゃんを感じて、俺は聞く。
「別に。写真、上手だなーって思って」
「たぶん、カメラがいいの、それ。親に借りたちょっと高いカメラだから」
 蒼山さんが声を出さずに笑っている。
 くそ、話題を変えねば。
「そうだ、3x3の18歳以下の大会を目指してるって言ってたけど、いつあるの?」
「11月に長野県の予選会があるの」と、綾ちゃんが答える。
「そうなんだ。いつから3x3の練習は始めたの?」
「5月からだったよね」と、リサちゃん。
「自分たちで考えて自由に動くって難しいよね。部活は監督の指示があるもんね」と、京香ちゃんが続ける。
「リユくんはすごいよね、自由に動き回って」と、綾ちゃん。
「俺のチームでも美那と大学生のバスケ経験者はそう言うよな。逆にバスケをよく知らないことがいい方向に働いているんだな、きっと。バスケの技術を使った別のスポーツって考えた方がいいのかもなぁ」
「あ、それいい考え!」と、綾ちゃんが反応する。「似て非なるもの、とまでは言わなくても、頭を切り替える必要はあるよね」
 3人もうなずく。
「蒼山さん、リユくん。今日はありがとうございました。すごくヒントになったし、刺激ももらった。美那ちゃんにも大会とかで会えるといいな」
「それ、難しそうだな。うちの学校の女子バスケ部は県大会の地区予選も突破できないくらいだから。松本総合はどうなの?」
「わたしたちは自慢じゃないけど結構強くて、県のベスト4の常連かな」
「リユくんたちはなんの大会に出るの?」と、リサちゃん。
「アセンディング・スポーツが主催する大会。試合は9月14日」
 リサちゃんがスマホで検索する。
「あ、これか。経験者2人、未経験者2人で、男女混合、ってやつね?」
「うん。そう」
「女だけって、ありなの?」と、春子ちゃん。
「ありなんじゃない? しかも女性はポイント2倍だって。3人とも女だったら、半分の得点でいいってことじゃない」と、リサちゃんが答える。
「いや、ほんと、この間練習試合をして、女性のポイント2倍ってマジきつかった。だって2ポイント決められたら、一気に4点だもんな。しかも21点先取だろ。2ポイントシュート5本で20点だよ」
「え、じゃあ3ポイントが得意な春子なんて、チョー向いてるじゃん」と、京香ちゃん。
「でもわたしは3x3の動きがまだつかめてない」と、春子ちゃん。
 蒼山さんが俺を肘でつき、腕時計を見せる。うわ、もう6時。
「俺たち、そろそろいかないと」
「そういえば、リユくんって、なんでこっちに来てるの?」
 と、綾ちゃんが立ち上がりながら聞いてくる。
「バイト。カメラマンの助手。ま、雑用係?」
「へぇ、すごいね。高校生でカメラマンの助手とか」
「いや、ほんと、ただの雑用だから。ね、蒼山さん?」
「そう。ただの荷物運びだな」と、蒼山さんが笑う。
「蒼山さんは?」と、リサちゃんが聞く。
「僕はね、喫茶店のマスター。碓氷峠でアレックスって店やってるから、今度遊びに来てね、って、けっこう遠いから難しいかもしれないけど」
「で?」
 リサちゃんは蒼山さんのはぐらかしとユーモアの癖を早くもつかんできたようだ。
「特殊な能力を持つガイドさん」と、俺が答える。「道も詳しいし、美術館とかに顔がくから、撮影もスムーズにできるんだ」
「じゃ、リユくん、そろそろ行こうか」と、蒼山さんが促す。
 綾ちゃんたちは、俺たちが車に乗り込み、出発するまで見送ってくれた。
 空港の向こうには見事な夕焼けが広がっている。
「じゃあ、また、どこかで会おうね!」と、綾ちゃんが窓越しに言ってくれる。
「うん。じゃあ、また」
 なんか旅の醍醐味だいごみって感じだな。
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