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第2章
2-7 30世紀の入り口と松本の女子バスケ(2)
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長野自動車道の塩尻北インターチェンジにほど近いホテルで、俺もシングルルームにひとりだ。
4時前に蒼山さんから電話が来た。自由に使えるストリートバスケコートが近くにあるから連れて行ってくれると言う。マジか!
Tシャツと短パンにバッシュを履き、ボールを持ってロビーに行くと、蒼山さんも似たような格好。だけどさすがに足元はランニング用スニーカーだ。ちゃんとバッシュを履いている俺を見て、蒼山さんは肩を竦める。
ホテルから車で10分ほど行くと松本空港がある。その周囲に広がる公園にさまざまなスポーツ施設が配置されていて、滑走路のすぐ脇にそのストリートバスケコートがなんと4面もあり、ラインもしっかり引いてある。その隣には壁打ちテニスのコーナもある。
夏休み期間とはいえ、平日の昼間なのでコートは2面しか使われていない。一番奥の1面は小学生の男の子と父親らしき2人が遊んでいる。ひとつ挟んだ3番目のコートは女子高生らしき4人組で、こちらは動きも本格的で気合も入っているから、バスケ部っぽい。
俺たちは4番目のコートを使う。
で、蒼山さんのバスケはというと、俺が言うのもなんだけど、割と基礎はしっかりしている。もちろんブランクがあるので、キレはまったくないけど……。あと、中学のバスケ部時代に膝を怪我したそうで、あまり激しい動きはできない。だから蒼山さんは、パスの練習相手やシュート練習のパス出し、それに球拾いもやってくれる。
「リユくんはバスケ始めてどのくらいなんだっけ?」と、パス出しをしながら蒼山さんが聞いてくる。
「1カ月と10日くらいです」と、レイアップシュートを決めた俺が答える。
「へぇー」と、蒼山さんは答えると、無言のまま、ダイレクトやワンバン、トスなど、いろんなパスを出してくれながら、なにやら思案している様子。
30分ほど練習して、「ちょっと休もうか」と、蒼山さんは言うと、休憩でコートに座ってくつろいでいる隣の女子高生たちに声を掛けに行くではないか! ナンパのはずはなく、なんと同じ高校生の俺と練習してやってくれないか、と頼んでいるらしい。確かに彼女たちも俺のプレーに注目はしていたっぽい感じはあった。
蒼山さんが俺を手招きする。
4人は時折俺を見ながらこそこそ相談して、やがて全員がうなずく。どうやら交渉が成立してしまったらしい。
「というわけで、リユくん、俺では役不足なんで、彼女たちが練習に付き合ってくれるそうだ」
ひと言くらい相談してよ、と思ったが、ありがたい話でもある。
4人が来て、いかにもリーダーっぽい子が話しかけてくる。
「わたしたちは近くの私立松本総合高校の2年生でバスケ部員です。塩尻にあるけど、松本市から移転してきたから、松本って名前なんです。部活とは別に3x3、18歳以下の長野県予選に出ようと思って、練習していたところです。わたしはナカムラ・アヤと言います」
「俺は横浜の、同じく私立の横浜実山学院高等部2年のモリモト・リユウと言います。みんなは〝ウ〟を省略してリユと呼びます。俺は部活はしてなくて、幼馴染のバスケ女子に3x3のチームに引き込まれてバスケを始めて、今はかなりはまってます」
アヤちゃんは美那より少し身長が高いけど、170はない感じだ。ほかの3人がバスケ少女らしいショートなのに対して、短めのポニーテール。愛嬌のある顔立ちだけど、気の強そうな目をしている。
「ちょっと練習を見てたけど、始めて1カ月半くらいってほんとなの?」
「うん。だけどそのバスケ女子に毎朝鍛えられて、自主練もして、それなりにバスケらしくなってきてはいると思うけど。俺たちのチームは一般の3x3大会男女混合に出る予定で、あと2人は大学生」
「そうなんだ。フツーにバスケ部だと思った」
ほかの3人もうなずく。
「でも一緒にやったらたぶん変な動き方するから、すぐわかると思うよ」
「へぇー、おもしろそー。じゃあ、1on1をしようか? アオヤマさんは無理なんですよね? 全部で6人だから3対3でできますけど」
「いや、僕はほんと無理。おじさんだし、膝をやっちゃってるし」
そんな話をしていたら、一番奥で遊んでいた親子がやってきた。
「こんにちは。みなさん、うまいですね。これから試合でもするんですか? 息子も疲れたみたいだし、よかったら審判しますよ。基本、5人制しか知らないですけど」
蒼山さんと同じくらいの年齢――たぶん30代の半ば――の父親が話しかけてきた。
こういうことってあるんだな。
「僕は膝を怪我して、ゲームは無理なんですよ」と、蒼山さんが答える。
「そうなんですか。じゃあ、わたしを混ぜてもらえませんか? あ、わたしは、塩尻市内で美容室をやっているナカノと申します。こいつは息子のリョウヘイ、小学校3年生。一応、中高とバスケ部だったんで、それなりにできます。一度、3on3ってやってみたかったんですよ」と、ナカノさん。
また女子バスケ部の4人が相談。同じようにうなずく。たぶんナカノさんのことも観察していたのだろう。
「わたしたちはいいです。リユくんは?」と、アヤちゃん。
「あ、俺ももちろんOKです」
「ナカノさん、3on3じゃなくて、3x3のルールですけどいいですか?」と、アヤちゃん。
「あ、そうなんだ。どっちにしろ、あまりルールは知らないんだけど。3x3はポイントが1点と2点というくらいは知ってる」
アヤちゃんがナカノさんと蒼山さんに、5人制バスケと3x3の違いをかいつまんで説明している間、3人がそれぞれ自己紹介をしてくれる。
「うちはオガワ・キョウカです。京都の香りと書きます。ポジションはシューティングガード」
京香ちゃんは160弱かな。
「わたしはヤマモト・リサ。カタカナでリサ。ポジションはスモールフォワード。あと、アヤは糸偏の言葉の綾とかの綾で、ポイントガード」
リサちゃんは美那と同じくらいの背丈だ。
「わたしはムラカミ・ハルコ。季節の春に子供の子です。ポジションはセンターです。よろしく」
春子ちゃんは一番背が高くて、たぶん170センチを超えている。
4面もコートがあるのに、見知らぬ3組がひとつのコートに集まって、練習を始める。なんか不思議な感じだ。
俺はナカノさんのことはさっきは全然見ていなかったけど、中高バスケ部だけあって、ドリブルやシュートのフォームは決まっている。でも蒼山さんと同じで動きは鈍い。
10分ほど同じコートで練習したところで、綾ちゃんがチーム編成を提案する。
俺は男をひとりずつ振り分けるのかと思っていたけど、玄人の目は違うみたいだ。
綾ちゃんが男2人と組み、京香・リサ・春子のチームと対戦ということになった。綾ちゃんのリーダーシップ感は美那とちょっと似ている。このことを美那に話したら、チョー喜びそうだ。でもそれには勝たないとな。
4時前に蒼山さんから電話が来た。自由に使えるストリートバスケコートが近くにあるから連れて行ってくれると言う。マジか!
Tシャツと短パンにバッシュを履き、ボールを持ってロビーに行くと、蒼山さんも似たような格好。だけどさすがに足元はランニング用スニーカーだ。ちゃんとバッシュを履いている俺を見て、蒼山さんは肩を竦める。
ホテルから車で10分ほど行くと松本空港がある。その周囲に広がる公園にさまざまなスポーツ施設が配置されていて、滑走路のすぐ脇にそのストリートバスケコートがなんと4面もあり、ラインもしっかり引いてある。その隣には壁打ちテニスのコーナもある。
夏休み期間とはいえ、平日の昼間なのでコートは2面しか使われていない。一番奥の1面は小学生の男の子と父親らしき2人が遊んでいる。ひとつ挟んだ3番目のコートは女子高生らしき4人組で、こちらは動きも本格的で気合も入っているから、バスケ部っぽい。
俺たちは4番目のコートを使う。
で、蒼山さんのバスケはというと、俺が言うのもなんだけど、割と基礎はしっかりしている。もちろんブランクがあるので、キレはまったくないけど……。あと、中学のバスケ部時代に膝を怪我したそうで、あまり激しい動きはできない。だから蒼山さんは、パスの練習相手やシュート練習のパス出し、それに球拾いもやってくれる。
「リユくんはバスケ始めてどのくらいなんだっけ?」と、パス出しをしながら蒼山さんが聞いてくる。
「1カ月と10日くらいです」と、レイアップシュートを決めた俺が答える。
「へぇー」と、蒼山さんは答えると、無言のまま、ダイレクトやワンバン、トスなど、いろんなパスを出してくれながら、なにやら思案している様子。
30分ほど練習して、「ちょっと休もうか」と、蒼山さんは言うと、休憩でコートに座ってくつろいでいる隣の女子高生たちに声を掛けに行くではないか! ナンパのはずはなく、なんと同じ高校生の俺と練習してやってくれないか、と頼んでいるらしい。確かに彼女たちも俺のプレーに注目はしていたっぽい感じはあった。
蒼山さんが俺を手招きする。
4人は時折俺を見ながらこそこそ相談して、やがて全員がうなずく。どうやら交渉が成立してしまったらしい。
「というわけで、リユくん、俺では役不足なんで、彼女たちが練習に付き合ってくれるそうだ」
ひと言くらい相談してよ、と思ったが、ありがたい話でもある。
4人が来て、いかにもリーダーっぽい子が話しかけてくる。
「わたしたちは近くの私立松本総合高校の2年生でバスケ部員です。塩尻にあるけど、松本市から移転してきたから、松本って名前なんです。部活とは別に3x3、18歳以下の長野県予選に出ようと思って、練習していたところです。わたしはナカムラ・アヤと言います」
「俺は横浜の、同じく私立の横浜実山学院高等部2年のモリモト・リユウと言います。みんなは〝ウ〟を省略してリユと呼びます。俺は部活はしてなくて、幼馴染のバスケ女子に3x3のチームに引き込まれてバスケを始めて、今はかなりはまってます」
アヤちゃんは美那より少し身長が高いけど、170はない感じだ。ほかの3人がバスケ少女らしいショートなのに対して、短めのポニーテール。愛嬌のある顔立ちだけど、気の強そうな目をしている。
「ちょっと練習を見てたけど、始めて1カ月半くらいってほんとなの?」
「うん。だけどそのバスケ女子に毎朝鍛えられて、自主練もして、それなりにバスケらしくなってきてはいると思うけど。俺たちのチームは一般の3x3大会男女混合に出る予定で、あと2人は大学生」
「そうなんだ。フツーにバスケ部だと思った」
ほかの3人もうなずく。
「でも一緒にやったらたぶん変な動き方するから、すぐわかると思うよ」
「へぇー、おもしろそー。じゃあ、1on1をしようか? アオヤマさんは無理なんですよね? 全部で6人だから3対3でできますけど」
「いや、僕はほんと無理。おじさんだし、膝をやっちゃってるし」
そんな話をしていたら、一番奥で遊んでいた親子がやってきた。
「こんにちは。みなさん、うまいですね。これから試合でもするんですか? 息子も疲れたみたいだし、よかったら審判しますよ。基本、5人制しか知らないですけど」
蒼山さんと同じくらいの年齢――たぶん30代の半ば――の父親が話しかけてきた。
こういうことってあるんだな。
「僕は膝を怪我して、ゲームは無理なんですよ」と、蒼山さんが答える。
「そうなんですか。じゃあ、わたしを混ぜてもらえませんか? あ、わたしは、塩尻市内で美容室をやっているナカノと申します。こいつは息子のリョウヘイ、小学校3年生。一応、中高とバスケ部だったんで、それなりにできます。一度、3on3ってやってみたかったんですよ」と、ナカノさん。
また女子バスケ部の4人が相談。同じようにうなずく。たぶんナカノさんのことも観察していたのだろう。
「わたしたちはいいです。リユくんは?」と、アヤちゃん。
「あ、俺ももちろんOKです」
「ナカノさん、3on3じゃなくて、3x3のルールですけどいいですか?」と、アヤちゃん。
「あ、そうなんだ。どっちにしろ、あまりルールは知らないんだけど。3x3はポイントが1点と2点というくらいは知ってる」
アヤちゃんがナカノさんと蒼山さんに、5人制バスケと3x3の違いをかいつまんで説明している間、3人がそれぞれ自己紹介をしてくれる。
「うちはオガワ・キョウカです。京都の香りと書きます。ポジションはシューティングガード」
京香ちゃんは160弱かな。
「わたしはヤマモト・リサ。カタカナでリサ。ポジションはスモールフォワード。あと、アヤは糸偏の言葉の綾とかの綾で、ポイントガード」
リサちゃんは美那と同じくらいの背丈だ。
「わたしはムラカミ・ハルコ。季節の春に子供の子です。ポジションはセンターです。よろしく」
春子ちゃんは一番背が高くて、たぶん170センチを超えている。
4面もコートがあるのに、見知らぬ3組がひとつのコートに集まって、練習を始める。なんか不思議な感じだ。
俺はナカノさんのことはさっきは全然見ていなかったけど、中高バスケ部だけあって、ドリブルやシュートのフォームは決まっている。でも蒼山さんと同じで動きは鈍い。
10分ほど同じコートで練習したところで、綾ちゃんがチーム編成を提案する。
俺は男をひとりずつ振り分けるのかと思っていたけど、玄人の目は違うみたいだ。
綾ちゃんが男2人と組み、京香・リサ・春子のチームと対戦ということになった。綾ちゃんのリーダーシップ感は美那とちょっと似ている。このことを美那に話したら、チョー喜びそうだ。でもそれには勝たないとな。
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