カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第1章

1-24 理不尽な要求?(2)

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「おい、ちょっと待て。それはプライベートなことだし、美那にそんなことを命令されるいわれはないぞ。理不尽だろ」
「わたしもそれに賛成」と、ナオさんが強い口調で言う。「航太さんはみんなに指示するくせに自分が従わないのはズルい。ユニフォームのときもリユ君とわたしにノルマを課したでしょ。キャプテンの指示に従って!」
 確かにナオさんの言うとおーり。
 オツ、お前が指名したキャプテンの指示に従えよ、なんてな。言えねえけど。
 オツさんは困った顔、いや泣きそうな顔?
「……確かにそうだな。やるよ。やればいいんだろ?」
「OK。わたしたちもできるだけ男子に打たせるように工夫しよう。じゃあ、いきますか!」
 美那のやつ、リーダーシップあるよな。かっこいいじゃん。

 Z―Fourの攻撃で後半開始だ。
 チェックボールはオツに担当してもらう。
 俺と美那のドリブルとパスのコンビネーションでゴールに向かう。
 やはり美那へのマークはきつい。
 俺がシュート。
 決まった。
(10対16)

 サニーサイドも鋭く動き回る。
 俺は14番軟テ女子の担当だが、動きにはついていけるものの、技術でさらっと交わされてしまう。ただシュートは打たせないように食らいつく。
 12番の陸男りくだんはボールを持たないカットインのスピードが速い。
 美那も余裕がない。
 オツも7番サッカー女子に振り回され、早くも疲れが見え始めている。
 7番サッカー女子のシュートは外れ、リバウンドを美那がキャッチ。
 高いボールで外にいるオツにパス。
 これは通しやすい。
 そこからオツが2ポイントを狙うと思いきや、俺にパスしてきやがる。
 打てよ!
 14番軟テ女子のディフェンスがうまい。
 俺程度のドリブル技じゃぜんぜん効かない。
 美那にパスを出そうにも12番陸男がしっかり付いている。
 じゃあ、オツしかないじゃん。
 オツは7番サッカー女子を引き連れて、コートを必死に動き回っている。
 アークの外に出たオツに「オツ!」と呼びかけて、高いパス。
 簡単に通る。
「オツ、打て!」
 キャプテン・ミナの声が響く。
 アークの外からオツが自信なさげにショットを放つ。
 リングに弾かれる。
 それを予想していた俺がリバウンドをキャッチ。
 高さでなら160センチ弱の14番軟テ女子には負けない。
 この1カ月でジャンプ力も確実に上がったしな。
 即、美那にパス。
 12番陸男を引き連れてドライブで切り込んでいく。
 俺がフォローに入る。
 美那はパスフェイクと見せかけておいて、俺の進行方向にワンバンのパス。
 ナイスパス!
 スピードに乗ったままキャッチできる。
 でもこのスピードのままのドリブルは俺には難しい。
 3段跳びみたいに大きなステップでゴールに近づく。
 付いてくる14番軟テ女子を避けるように、なんて呼ぶのか知らないけどカイリーがやっていた腕を外に伸ばしながらのシュート!
 決まった!
「ナイスシューッ」と美那の声。
(11対16)

 しかし差はなかなか縮まらん。
 とにかく14番軟テ女子の2ポイントは阻止しなければ。こっちもきついディフェンスで行くしかない。
 チェックボールで俺から14番にトス。
 ディフェンスの圧を強める。
 たまらず14番軟テ女子は7番サッカー女子に低いパス。
 7番は走りこんでいく12番陸男にトス。
 美那のディフェンスも、よりタイトになっている。
 12番からボールを受けた7番サッカー女子はシュートミス。
 ボールはコートの外に。

 残りは3分25秒。

 ここでサニーサイドは動きの激しかった7番サッカー女子がアウト、6番ラグビーがイン。
 14番軟テ女子からチェックボールを俺が受け取る。
 ドリブルはリズムだ。
 タン、タン、タン、タン、タタン、タンとリズムを変化させながら、14番の様子を伺う。
 リズムに慣れたところで、唐突に変化を入れ、素早く横に動き出す。
 執拗に12番陸男のマークが付いている美那に速くて高いパス。
 しっかり受けてくれる。
 美那から外側にいるオツさんに高いパス。
 だけどオツをマークする6番ラグビーはジャンプ力がある。
 手に当てられて、ボールがコートの外に出る。
 今までと違って、点の入らない一進一退の攻防になってきた。
 残りは3分10秒。
 向こうは逃げ切る作戦なのか?

 再び14番軟テ女子から俺がチェックボールを受け取る。
 横に動くフェイクを入れて、俺はいきなり2ポイントを狙う。
 狙い通り14番は虚を突かれる。
 高い弧を描いたボールは、リングの付け根に当たって、ボードに跳ね返って――入った。
「いいよ、リユ! その調子」と、美那の声援が届く。
(13対16)
 美那の2ポイントが決まれば、一気に逆転だ。

 ゴールから落ちたボールを12番陸男が取り、走る6番ラグビーへ。
 速い。
 オツは付いていくのがやっとだ。
 14番軟テ女子に渡るとマズい。
 トリッキーな動きで俺を振り切ろうとする14番。
 だけどそういう動きなら俺も負けない。
 6番ラグビーはドリブルに入るとスピードダウンするからオツが間に合う。
 パスの出しどころに困った6番ラグビーは自分で強引にシュートに行く。
 オツがディフェンスするけど、6番ラグビーのボディコンタクトは強い。
 泥臭いシュートだけど、入ってしまう。
(13対17)

 残り時間2分58秒。
 敵はついに17点。
 女子の2ポイントシュート1本で勝負が決まってしまう。
 14番軟テ女子から受けたチェックボールをドリブルから美那にパス。
 さっきの俺の意表を突いた2ポイントシュートが効いたらしく、14番のドリブルへの反応が遅れている。
 バスケ、なかなか奥が深いぜ。
 カットインして、美那からのパスをフリーで受ける。
 楽勝、と思ったら、6番ラグビーがオツをフリーにして突っ込んでくる。
 どうする、このままシュートに行くか?
 オツにパスか?
「リユ、くれ!」と、オツが叫ぶ。
 躊躇ちゅうちょせずオツにパス。
 フリーなんだ、決めろよ、オツ。
 ナオさんを泣かせるな!
「オツ、行けーー‼︎」と、キャプテンも叫ぶ。
「航太さーん!」
 オツの表情が変わる。無心になれたのか?
 柔らかく膝を曲げて、すっと伸ばす。ボールは柔らかい弧を描いてゴールに向かう。
 が、ボードに当たっただけ。外れた……。

 美那がリバウンドを確保。
 すぐに俺にパスしてくる。
 リングに当たらなかったからショットクロックは継続。
 残り5秒。
 14番軟テ女子が執拗にまとう。
 くそ。邪魔くせえ。
 時間がない。
 えい、バックステップからのジャンプシュートでどうだ。
 あー、リングに嫌われた。

 でもまたまた美那がリバウンドをゲット。
 リングに当たったからショットクロックはリセット。
 12番陸男を引き連れて美那はドリブルでアーク外に出る。
 ドリブルで行くと見せかけて、中の俺にパスが通る。
 ボールなしの動きでの14番軟テ女子を引き離す感じがつかめてきた。
 さて、どうするか。
 パスは受けられたが、もちろん14番軟テ女子は付いたままだ。
 ドリブルでは振り切れない。
 えい、ドリブルでアウトサイドにいるオツに向かう。
 6番ラグビーが向かってくる。オツの2ポイント下手が読まれている。
 でも狙い通りだ。
「リユ、オツに!」
 わかってるって、美那。
 最初からそのつもりだ。
 テニスのロビングみたいな、6番ラグビーの頭上を過ぎる緩めのパスをオツに送る。
 ひたいの前でキャッチしたオツは、即、2ポイントの動作に。
 今度は、美那も、ナオさんも、俺も、声を上げない。
 基本に忠実なフォームでショットを放つ。
 純粋な放物線。ボールはゴールにすっぽり入る。
「航太さん、ナイス!」
 オツがナオさんにガッツポーズを見せる。
 でもまだ1本目だからな、オツ。
(15対17)
 2点差で残りは2分35秒。
 まだぜんぜん行けるぜ。
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