30 / 141
第1章
1-20 練習試合へ!
しおりを挟む
まさかの成績上位もまるで実感がない。
ただクラスメートから伝わってくる感じがいままでとまるで違う。
上位の常連は新たなライバル出現と考えるかもしれないし、俺が常連の真ん中付近のやつらは羨望の眼差しなのかもしれない。
あるいは「あいつカンニングでもしたんじゃねえか」と疑っているやつもいるかも。
前期末試験の終了後は、学校は終業式まで半日授業だ。
ただし45点以下の赤点を取った科目は午後から補習授業。
俺は一度だけ数学で受けたことがある。やっぱりちょっと恥ずかしかった。
せっかく午後に練習する時間があるのにまた雨が降り出す。サスケコートでの練習は中止だ。美那は部活。
明後日はいよいよ初の練習試合だし、たまにはのんびりするのもいいかもしれない。
でも結局落ち着かず、カイリーの動画を観たり、ハンドリングの練習を部屋でしたり、ルールの勉強をしたり。
ルールは、3x3の試合動画を観ながら、3x3公式のPDFを読んで、漠然とはつかんだものの、実戦で審判に判定されてみないとわからないことも多そうだ。大会までにはしっかり体で覚えておかないとな。
夕飯の用意は有り合わせの材料で俺がする。食事をしながら、かーちゃんに試験結果を報告。
「美那は定位置付近の15位、俺は、なんと、すぐ次の16位」
「あら、すごいじゃない」
想定外の薄い反応だ。
「もうちょっと喜べよ」
「美那ちゃんと名前が並んでよかったわね」
「そっちかよ!」
でも、朗らかな表情だ。
それなりに満足してくれているのだろう。
夕飯後、お小遣いを渡すのを忘れていたわ、と1万円を渡された。
シューズで1万円もらってたし、何かと忙しくて1日の小遣い日をすっかり忘れてた。
大丈夫か、俺?
7月12日(金)も朝から雨。
美那はまた部活なので、午後はサスケコートで自主練。
左手のプレーを中心に練習したけど、この間は翌日まで筋肉疲労が残っていたのでほどほどにする。とりあえずはできるプレーを確実にしよう。
帰る挨拶をする際に、杉浦夫妻に学校の成績が大幅に上がったことを報告すると、自分たちの孫のことのように喜んでくれた。
夜になって有里子さんから撮影旅行のスケジュールがメールで送られてきた。
当初より2日遅くなって、7月22日月曜日から29日月曜日まで。
今年は梅雨明けが遅れそうなのと、土日だと道路が混雑しそうなのが、その理由だ。29日は予備日らしい。
それから14日日曜日にZ400が納車されるとのこと!
俺は、スケジュールはOKであること、ライディングスクールやバスケの近況、学校の成績が良かったこと、それと納車のお祝いの言葉を書いて、返信した。
しかし、まだ先だと思っていた有里子さんのバイトまであと10日とは。
美那にバイトの日程をメッセージで送る。
すぐに明日の待ち合わせ確認の返信があった。
田中さんの会社は川崎駅からバスで20分ほどかかるし、休日は本数も少なめとのことで、またまたオツさんのエクストレイルにお世話になる。午後2時に練習試合開始予定なので、12時半に川崎駅前で待ち合わせだ。
美那は用事があるということで、明日はひとりで川崎駅に行く。若干寂しい気がしないでもないが、子供じゃねえしな。
7月13日土曜日。
朝からどんより曇っている。午後からは雨の予報。
俺はまだクレジットカードがないので、選んでおいたバイクカバーと強力なロックをネットでかーちゃんに買ってもらった。
5000円ちょっとだったけど、かーちゃんはきっかりにまけてくれた。その上、支払いも請求が来てからでいいと言ってくれた。助かるぜ。
11時半には川崎駅に着いて、入ったことのないバーガーキングに行ってみた。
マックよりうまそうだけど値段も高かったから、単品でダブルベーコンチーズバーガーだけを注文。
そのあとコンビニでデカいポカリを買った。
なんか美那と一緒じゃないと急に侘しい食事になるな。
近くのスポーツショップに入って時間をつぶす。ウェアを見てたら、ユニフォームの価格を聞いてなかったことに気づいた。けっこう高いじゃん。
オーダーとかしたらいくらかかるのだ?
でも仕方ない。最高にカッコいいし、少々高くても頑張ってバイトする!
10分ほど前に待ち合わせの場所に着くと、2分もしないうちにエクストレイルが到着した。美那も一緒だ。
定位置となったオツさんの後ろ、美那の隣に乗る。
美那がグーを出してきたので、グータッチで応える。
なんか視線がビッと合う。
「どうだ、調子は?」と、オツさんが話しかけてくる。
「昨日は練習を抑えたし、バッチリっす」
「今日はしっかり頼むぞ」
「ところで、相手はどんな感じなんですか?」と、美那が聞く。
「こっちのレベルもはっきりしないし、できるだけメンバーを集めて、こっちの練習とかを見てから決めてくれるらしい」
「じゃあ、練習はちょっと手を抜いたほうがいいのか」と、俺。
「馬鹿言うな、リユ。向こうのベストメンバーを引っ張り出す。そうじゃなきゃ、練習試合をする意味がない」
「いや、俺もナオさんも初めての試合だし……」
「ごめん、リユ君。わたしは5人制だけどもうサークルで試合をしちゃった。2試合も」
ナオさんが振り返って、すまなそうな顔をする。
「いや、まあ、いいけど……」
「どうだったの? ポジションは?」と、美那が前に乗り出す。
「1、2年の女子チームだけどパワーフォワード。プレーのほうはどうだったのかなぁ。みんなは褒めてくれたけど」
「10点くらいは取ったよな。リバウンドもかなり奪ったし、想像よりずっとチームに貢献してた」と、オツさんが美那に説明する。
「俺、普通のバスケのポジションのことはほとんどしらないけど、俺ならどこになるの?」と、俺は隣の美那に聞く。
「シューティングガードだな。ね、先輩?」
「ああ、そうだな」と、オツさん。
「それ、どこ?」
「5人制も少しは勉強しなさいよ。スラムダンクで言ったら、流川君」
「え、マジ? 俺、めちゃカッコいい役じゃん」
「役じゃないし、流川君がカッコいいのは、ポジションじゃなくてプレーとルックスと性格だし」
なんだよ、美那。むちゃ流川のファンじゃん。
「わたしのポジションは主人公なんだって」と、ナオさん。
「桜木花道か、いいな。いや、流川のほうがいいか。ミナはポイントガードだったよな?」
「うん。先輩はセンター」
「あ、それゴリな。たしかゴリもああ見えて理系とか得意だったよな」
「俺と赤木を一緒にするな」
「そうよ、先輩はルックス的には三井さん系だし」
「たしかに」と、俺。
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「そのひと、かっこいいの?」と、ナオさん。
「チームに加わって、短髪にしてからカッコよくなった。わたし的には」
「俺も花村さんを初めて見たとき、三井に似てると思った」
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「つまり俺がけっこうイケてると言ってくれてるのか、リユ?」
「そういうことに、なりますかね?」
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「ありがと、リユ君」と、ナオさんが振り向く。ああ、オツさんにはもったいないくらいの人だなぁ。
「あ、それと、自衛隊っぽい感じもしたな」と、俺。
「リユはぼんやりしているようで、けっこう鋭いな。親父が防衛大の卒業生でな。最終的には民間企業に就職したけど、自衛隊気質というのか、そういうのはいまだに、だな」
「へえ、そうだったんですか」と、美那。
「なんか、親父の喋り方の癖が感染っちまってな」
川崎の市街地を抜けて物流基地が並ぶトラックやダンプの多い街道を進み、駅から15分ほどで目的地に到着した。
エナジー石油・川崎製油所と門に書いてある。石油精製販売の大手企業だ。
「えー、エナジー石油っていったら女子バスケの強豪じゃん!」と、美那が叫ぶ。
「驚かそうと思って、言わなかった」と、オツさん。
「じゃあ、同好会も強いのかな」と、俺。
「強いかもしれんが、実業団のチームとはまったく別だろう」
門を少し入ったところで田中さんが手を振っている。
その横にオツさんが車を寄せた。
「花村さん? ようこそお越しくださいました。そこの守衛所でお名前を書いて、ゲストパスを受け取ってください。体育館はすぐその裏手なんですけど、わたしの車で案内しますから」
守衛所の前で一度車を降りる。
オツさんに次いで、俺も田中さんに挨拶。にこやかに応えてくれる。
体育館の外側は少々古びているが、中はピカピカだ。さすが大企業。
美那とナオさんは普段の荷物のほかに、紙袋を3つくらいずつ下げて、女子ロッカールームに入っていく。
着替えを終えてコートに出ると、まだ1時前。ちょっと早く来すぎたみたいだ。
でもまあウォーミングアップとか、軽く練習とか、ちょうどいいだろう。
そういえば、俺たちの練習を見て向こうはメンバー構成を決めるとかだったな。
美那とナオさんが出てきたところで準備体操をして、美那を先頭にランニング。
オレンジ色のユニフォームに着替えた田中さんと20代半ばくらいの男性が入ってきた。
ランニングを終えると二人の前に行った。
「Z―Fourのみなさま、ようこそエナジー石油へ。わたしは3x3同好会サニーサイドの代表の田中均です。こっちがキャプテンの鈴木太一です」
「鈴木です。本日は練習試合の機会をいただきありがとうございます。チームを結成されたばかりということで、花村さんもまだよく実力を把握できていないとお聞きしました。そこで、僭越ながら、練習を見せていただき、当方のメンバーを決めさせていただきたいと思います」
うーん、なんか大人の挨拶だな。
「チームの代表を務めます花村航太です。こちらこそこのような機会をいただきありがとうございます。このとおりまだユニフォームも出来ていないチームで、みなさまの相手になるかどうかわかりませんが、遠慮なく戦っていただけますと幸いです」
オツさんもさすがだな。
それからオツさんがメンバーの名前とバスケ歴、スポーツ歴などを紹介してくれる。
さ、練習開始だ。
最初のチーム練習でオツさんに見られていたことを思い出す。あのときに比べたらかなり上達しているはずだ。
オツさんとナオさん、美那と俺といういつもの練習パートナーでパスやシュート練習。
オツさんからは、相手の実力を引き出すと同時に体力温存のために、80%くらいの力で練習をしろと言われている。俺は車の中でのオツさんとの会話で100%出そうと思っていたが、そりゃ練習で体力を使い切っちゃまずい。ただのアホだ。
20分ほどして汗が出てきたところで、練習を終了。
田中さんが「じゃあ、15分ほどいただきます」と告げて、鈴木さんと何かを話しながら、コートから出ていく。
「いやー、緊張してきた」と、俺。
「ミナ、スターティングはどうする?」
「とりあえず、先輩、わたし、ナオさんで行きます」
やっぱり俺はベンチか。
少なくともナオさん以上の活躍は自信あるんだけどな。
いやでもナオさんはすでに試合経験ありだしな。
ただクラスメートから伝わってくる感じがいままでとまるで違う。
上位の常連は新たなライバル出現と考えるかもしれないし、俺が常連の真ん中付近のやつらは羨望の眼差しなのかもしれない。
あるいは「あいつカンニングでもしたんじゃねえか」と疑っているやつもいるかも。
前期末試験の終了後は、学校は終業式まで半日授業だ。
ただし45点以下の赤点を取った科目は午後から補習授業。
俺は一度だけ数学で受けたことがある。やっぱりちょっと恥ずかしかった。
せっかく午後に練習する時間があるのにまた雨が降り出す。サスケコートでの練習は中止だ。美那は部活。
明後日はいよいよ初の練習試合だし、たまにはのんびりするのもいいかもしれない。
でも結局落ち着かず、カイリーの動画を観たり、ハンドリングの練習を部屋でしたり、ルールの勉強をしたり。
ルールは、3x3の試合動画を観ながら、3x3公式のPDFを読んで、漠然とはつかんだものの、実戦で審判に判定されてみないとわからないことも多そうだ。大会までにはしっかり体で覚えておかないとな。
夕飯の用意は有り合わせの材料で俺がする。食事をしながら、かーちゃんに試験結果を報告。
「美那は定位置付近の15位、俺は、なんと、すぐ次の16位」
「あら、すごいじゃない」
想定外の薄い反応だ。
「もうちょっと喜べよ」
「美那ちゃんと名前が並んでよかったわね」
「そっちかよ!」
でも、朗らかな表情だ。
それなりに満足してくれているのだろう。
夕飯後、お小遣いを渡すのを忘れていたわ、と1万円を渡された。
シューズで1万円もらってたし、何かと忙しくて1日の小遣い日をすっかり忘れてた。
大丈夫か、俺?
7月12日(金)も朝から雨。
美那はまた部活なので、午後はサスケコートで自主練。
左手のプレーを中心に練習したけど、この間は翌日まで筋肉疲労が残っていたのでほどほどにする。とりあえずはできるプレーを確実にしよう。
帰る挨拶をする際に、杉浦夫妻に学校の成績が大幅に上がったことを報告すると、自分たちの孫のことのように喜んでくれた。
夜になって有里子さんから撮影旅行のスケジュールがメールで送られてきた。
当初より2日遅くなって、7月22日月曜日から29日月曜日まで。
今年は梅雨明けが遅れそうなのと、土日だと道路が混雑しそうなのが、その理由だ。29日は予備日らしい。
それから14日日曜日にZ400が納車されるとのこと!
俺は、スケジュールはOKであること、ライディングスクールやバスケの近況、学校の成績が良かったこと、それと納車のお祝いの言葉を書いて、返信した。
しかし、まだ先だと思っていた有里子さんのバイトまであと10日とは。
美那にバイトの日程をメッセージで送る。
すぐに明日の待ち合わせ確認の返信があった。
田中さんの会社は川崎駅からバスで20分ほどかかるし、休日は本数も少なめとのことで、またまたオツさんのエクストレイルにお世話になる。午後2時に練習試合開始予定なので、12時半に川崎駅前で待ち合わせだ。
美那は用事があるということで、明日はひとりで川崎駅に行く。若干寂しい気がしないでもないが、子供じゃねえしな。
7月13日土曜日。
朝からどんより曇っている。午後からは雨の予報。
俺はまだクレジットカードがないので、選んでおいたバイクカバーと強力なロックをネットでかーちゃんに買ってもらった。
5000円ちょっとだったけど、かーちゃんはきっかりにまけてくれた。その上、支払いも請求が来てからでいいと言ってくれた。助かるぜ。
11時半には川崎駅に着いて、入ったことのないバーガーキングに行ってみた。
マックよりうまそうだけど値段も高かったから、単品でダブルベーコンチーズバーガーだけを注文。
そのあとコンビニでデカいポカリを買った。
なんか美那と一緒じゃないと急に侘しい食事になるな。
近くのスポーツショップに入って時間をつぶす。ウェアを見てたら、ユニフォームの価格を聞いてなかったことに気づいた。けっこう高いじゃん。
オーダーとかしたらいくらかかるのだ?
でも仕方ない。最高にカッコいいし、少々高くても頑張ってバイトする!
10分ほど前に待ち合わせの場所に着くと、2分もしないうちにエクストレイルが到着した。美那も一緒だ。
定位置となったオツさんの後ろ、美那の隣に乗る。
美那がグーを出してきたので、グータッチで応える。
なんか視線がビッと合う。
「どうだ、調子は?」と、オツさんが話しかけてくる。
「昨日は練習を抑えたし、バッチリっす」
「今日はしっかり頼むぞ」
「ところで、相手はどんな感じなんですか?」と、美那が聞く。
「こっちのレベルもはっきりしないし、できるだけメンバーを集めて、こっちの練習とかを見てから決めてくれるらしい」
「じゃあ、練習はちょっと手を抜いたほうがいいのか」と、俺。
「馬鹿言うな、リユ。向こうのベストメンバーを引っ張り出す。そうじゃなきゃ、練習試合をする意味がない」
「いや、俺もナオさんも初めての試合だし……」
「ごめん、リユ君。わたしは5人制だけどもうサークルで試合をしちゃった。2試合も」
ナオさんが振り返って、すまなそうな顔をする。
「いや、まあ、いいけど……」
「どうだったの? ポジションは?」と、美那が前に乗り出す。
「1、2年の女子チームだけどパワーフォワード。プレーのほうはどうだったのかなぁ。みんなは褒めてくれたけど」
「10点くらいは取ったよな。リバウンドもかなり奪ったし、想像よりずっとチームに貢献してた」と、オツさんが美那に説明する。
「俺、普通のバスケのポジションのことはほとんどしらないけど、俺ならどこになるの?」と、俺は隣の美那に聞く。
「シューティングガードだな。ね、先輩?」
「ああ、そうだな」と、オツさん。
「それ、どこ?」
「5人制も少しは勉強しなさいよ。スラムダンクで言ったら、流川君」
「え、マジ? 俺、めちゃカッコいい役じゃん」
「役じゃないし、流川君がカッコいいのは、ポジションじゃなくてプレーとルックスと性格だし」
なんだよ、美那。むちゃ流川のファンじゃん。
「わたしのポジションは主人公なんだって」と、ナオさん。
「桜木花道か、いいな。いや、流川のほうがいいか。ミナはポイントガードだったよな?」
「うん。先輩はセンター」
「あ、それゴリな。たしかゴリもああ見えて理系とか得意だったよな」
「俺と赤木を一緒にするな」
「そうよ、先輩はルックス的には三井さん系だし」
「たしかに」と、俺。
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「そのひと、かっこいいの?」と、ナオさん。
「チームに加わって、短髪にしてからカッコよくなった。わたし的には」
「俺も花村さんを初めて見たとき、三井に似てると思った」
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「つまり俺がけっこうイケてると言ってくれてるのか、リユ?」
「そういうことに、なりますかね?」
声とか喋り方はアニメのゴリとよく似てるけど……。
「ありがと、リユ君」と、ナオさんが振り向く。ああ、オツさんにはもったいないくらいの人だなぁ。
「あ、それと、自衛隊っぽい感じもしたな」と、俺。
「リユはぼんやりしているようで、けっこう鋭いな。親父が防衛大の卒業生でな。最終的には民間企業に就職したけど、自衛隊気質というのか、そういうのはいまだに、だな」
「へえ、そうだったんですか」と、美那。
「なんか、親父の喋り方の癖が感染っちまってな」
川崎の市街地を抜けて物流基地が並ぶトラックやダンプの多い街道を進み、駅から15分ほどで目的地に到着した。
エナジー石油・川崎製油所と門に書いてある。石油精製販売の大手企業だ。
「えー、エナジー石油っていったら女子バスケの強豪じゃん!」と、美那が叫ぶ。
「驚かそうと思って、言わなかった」と、オツさん。
「じゃあ、同好会も強いのかな」と、俺。
「強いかもしれんが、実業団のチームとはまったく別だろう」
門を少し入ったところで田中さんが手を振っている。
その横にオツさんが車を寄せた。
「花村さん? ようこそお越しくださいました。そこの守衛所でお名前を書いて、ゲストパスを受け取ってください。体育館はすぐその裏手なんですけど、わたしの車で案内しますから」
守衛所の前で一度車を降りる。
オツさんに次いで、俺も田中さんに挨拶。にこやかに応えてくれる。
体育館の外側は少々古びているが、中はピカピカだ。さすが大企業。
美那とナオさんは普段の荷物のほかに、紙袋を3つくらいずつ下げて、女子ロッカールームに入っていく。
着替えを終えてコートに出ると、まだ1時前。ちょっと早く来すぎたみたいだ。
でもまあウォーミングアップとか、軽く練習とか、ちょうどいいだろう。
そういえば、俺たちの練習を見て向こうはメンバー構成を決めるとかだったな。
美那とナオさんが出てきたところで準備体操をして、美那を先頭にランニング。
オレンジ色のユニフォームに着替えた田中さんと20代半ばくらいの男性が入ってきた。
ランニングを終えると二人の前に行った。
「Z―Fourのみなさま、ようこそエナジー石油へ。わたしは3x3同好会サニーサイドの代表の田中均です。こっちがキャプテンの鈴木太一です」
「鈴木です。本日は練習試合の機会をいただきありがとうございます。チームを結成されたばかりということで、花村さんもまだよく実力を把握できていないとお聞きしました。そこで、僭越ながら、練習を見せていただき、当方のメンバーを決めさせていただきたいと思います」
うーん、なんか大人の挨拶だな。
「チームの代表を務めます花村航太です。こちらこそこのような機会をいただきありがとうございます。このとおりまだユニフォームも出来ていないチームで、みなさまの相手になるかどうかわかりませんが、遠慮なく戦っていただけますと幸いです」
オツさんもさすがだな。
それからオツさんがメンバーの名前とバスケ歴、スポーツ歴などを紹介してくれる。
さ、練習開始だ。
最初のチーム練習でオツさんに見られていたことを思い出す。あのときに比べたらかなり上達しているはずだ。
オツさんとナオさん、美那と俺といういつもの練習パートナーでパスやシュート練習。
オツさんからは、相手の実力を引き出すと同時に体力温存のために、80%くらいの力で練習をしろと言われている。俺は車の中でのオツさんとの会話で100%出そうと思っていたが、そりゃ練習で体力を使い切っちゃまずい。ただのアホだ。
20分ほどして汗が出てきたところで、練習を終了。
田中さんが「じゃあ、15分ほどいただきます」と告げて、鈴木さんと何かを話しながら、コートから出ていく。
「いやー、緊張してきた」と、俺。
「ミナ、スターティングはどうする?」
「とりあえず、先輩、わたし、ナオさんで行きます」
やっぱり俺はベンチか。
少なくともナオさん以上の活躍は自信あるんだけどな。
いやでもナオさんはすでに試合経験ありだしな。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
貧乳姉と巨乳な妹
加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉
引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹
そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・
この作品は小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる