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第1章
1-19 テニス部の揉め事とジェラート・デート(2)
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「うわー、しあわせー」
ジェラートを一口食べた美那が首をすくめながら声を上げる。
アイスが4種類にそれぞれトッピングがかかっている。それだけじゃなくて、イチゴを添えたアイスの別皿まである。まあひとつひとつは小ぶりだけど。
あっさりしすぎている感はあるけど、たしかにうまい。アイスと呼ぶのは忍びない。ちゃんとジェラートと呼んであげよう。
美那がイチゴとジェラートを同時に口に運ぶ。
「あー、イチゴの酸味とよく合う。リユも食べてみて」
そういって、スプーンに載せて差し出してくる。
「え、いいよ」
「いいから、食べてみて」
これじゃまるで恋人同士だ。
周りの目を気にしつつ、さっとスプーンを口に入れる。
ほどよい酸味が口に広がって、溶けたジェラートと融合する。
「ね、おいしいでしょ」
美那はうれしそうにしている。
俺はうなずくだけ。
イチゴとは別の甘酸っぱい味がする……。
うまかったし、疲れてもいたので、ヘルシーな甘さと栄養が体に染み込む。
俺も美那もあっという間に完食だ。
「リユ、ごちそうさま」
店を出た美那はこの上なく満足そうな顔をしている。
こんな美那はほんとに可愛い。
「今日の格好、可愛いな」
今日の美那に対しては、素直にこういう言葉が出てしまう。
「こういうところに来るつもりでその格好だったのか……?」
「うーん、まあそれもあるけど……ねえ、可愛い? どんなふうに可愛い?」
「どんなふうにって言われてもなぁ。なんだろ、シンプルでおしゃれだし、ミナらしさが出てるっていうのか……」
「それはコーディネートが可愛いってこと? それともそれを着ているわたしを含めて可愛いってこと?」
「それはおまえを含めてだろうな」
そこは迷わず即答できる。
「へえー」
なんかしらないけど、美那は急に黙り込んでしまった。
俺、なんかまずいこと言ったか?
コーディネートだけ褒めた方が良かったのか?
5分ほど無言で歩くと、ようやく普通の美那に戻った。
「そうだ、明日は成績発表だね。ちゃんと勉強したいみたいだし、今回はよかったんじゃない?」
「ま、いつもよりは確実にいいだろうな。へたすると50位くらいにはなるかも」
俺はかなり希望的な観測を言った。
2年の文系コースの生徒数は298人。
これまであった6回の定期試験で最高は101位、最悪は192位だ。
かーちゃんとの誓約書では150位以下だと家庭内免停。今回は大丈夫そうだけど、けっこうシビアだ。
美那は悪くても20位以内。頭もいいし、まじめに勉強するからなぁ。
「ミナは?」
「わたしも、まあいいかな……でもいつもとそんな変わんないと思う」
今晩は、明日を不安に思わず、布団に入れそうだ。
ありがとな、美那。
待っててくれ、俺のZ250!
7月11日木曜日。
曇っているけど、昼過ぎまで雨の心配はないようだ。
登校前にサスケコートで美那と練習。左手での技術の向上を美那に相談する。
普段と同じように始業時間近くに登校すると、俺に視線が集まり、なんかクラスがざわつく。
まさか、誰か、美那と俺がジェラート屋にいるところを見た?
まさか、スプーンで、あーんみたいなことをしているのを誰かに見られた?
いや、店に学校のやつはいなかったはずだ。
ただ、神宮とかを歩いているところを見られた可能性は否定できない。
でもそれだけでここまでの視線はないよな。
美那は席にいない。
まさか、居た堪れなくなって、トイレに隠れてるとか?
席に座った俺のところに、ヤナギが来た。
「森本、おまえ、試験結果見た?」
ヤナギの様子もやっぱり変だ。
「まだ。1時間目が終わったら見に行こうと思って。今回はそんな悪くなさそうだし」
「おい、それどころじゃないよ」
「え、まさか、悪かった? 名前書き忘れたとか?」
「ちげえよ」と、ヤナギが俺の腕をつかむ。
「おい、もうすぐチャイム鳴るって」
それでもヤナギは俺の腕を引っ張って、廊下に張り出された順位表のところに連れて行った。
ちょっとした人だかりができている。
でもそれは、試験休み明けの朝のいつもの光景だ。
その中に美那がいた。香田さんも順位表を眺めている。
俺が行くと、人だかりの中にちょっとした道ができた。美那が俺を見て笑う。
なんだ、けっこうよかったんじゃん。安心した。これで日曜日のライディングスクールが終われば、Z250だ!
「おい、森本、見てみろよ」
「え、俺の名前どこ?」
俺は100位から50位あたりに目を走らせる。
「ちがう! 10位台」
「まさかぁ」
ん、15位 山下美那。16位 森本里優?
61の間違いだろ。誰にいえばいいんだろう? 担任?
始業のチャイムが鳴って、先生たちが廊下を歩いてくる。生徒たちは慌てて自分の教室に戻る。
美那が俺の肩をポンと叩いて、横をすり抜けていく。
「おい、森本、早く教室に戻れ」と、担任の谷先生の声がする。
走りながらちらっと振り向くと、先生がニヤリとする。
「廊下は走るな」という優しげな声が飛んできた。
ジェラートを一口食べた美那が首をすくめながら声を上げる。
アイスが4種類にそれぞれトッピングがかかっている。それだけじゃなくて、イチゴを添えたアイスの別皿まである。まあひとつひとつは小ぶりだけど。
あっさりしすぎている感はあるけど、たしかにうまい。アイスと呼ぶのは忍びない。ちゃんとジェラートと呼んであげよう。
美那がイチゴとジェラートを同時に口に運ぶ。
「あー、イチゴの酸味とよく合う。リユも食べてみて」
そういって、スプーンに載せて差し出してくる。
「え、いいよ」
「いいから、食べてみて」
これじゃまるで恋人同士だ。
周りの目を気にしつつ、さっとスプーンを口に入れる。
ほどよい酸味が口に広がって、溶けたジェラートと融合する。
「ね、おいしいでしょ」
美那はうれしそうにしている。
俺はうなずくだけ。
イチゴとは別の甘酸っぱい味がする……。
うまかったし、疲れてもいたので、ヘルシーな甘さと栄養が体に染み込む。
俺も美那もあっという間に完食だ。
「リユ、ごちそうさま」
店を出た美那はこの上なく満足そうな顔をしている。
こんな美那はほんとに可愛い。
「今日の格好、可愛いな」
今日の美那に対しては、素直にこういう言葉が出てしまう。
「こういうところに来るつもりでその格好だったのか……?」
「うーん、まあそれもあるけど……ねえ、可愛い? どんなふうに可愛い?」
「どんなふうにって言われてもなぁ。なんだろ、シンプルでおしゃれだし、ミナらしさが出てるっていうのか……」
「それはコーディネートが可愛いってこと? それともそれを着ているわたしを含めて可愛いってこと?」
「それはおまえを含めてだろうな」
そこは迷わず即答できる。
「へえー」
なんかしらないけど、美那は急に黙り込んでしまった。
俺、なんかまずいこと言ったか?
コーディネートだけ褒めた方が良かったのか?
5分ほど無言で歩くと、ようやく普通の美那に戻った。
「そうだ、明日は成績発表だね。ちゃんと勉強したいみたいだし、今回はよかったんじゃない?」
「ま、いつもよりは確実にいいだろうな。へたすると50位くらいにはなるかも」
俺はかなり希望的な観測を言った。
2年の文系コースの生徒数は298人。
これまであった6回の定期試験で最高は101位、最悪は192位だ。
かーちゃんとの誓約書では150位以下だと家庭内免停。今回は大丈夫そうだけど、けっこうシビアだ。
美那は悪くても20位以内。頭もいいし、まじめに勉強するからなぁ。
「ミナは?」
「わたしも、まあいいかな……でもいつもとそんな変わんないと思う」
今晩は、明日を不安に思わず、布団に入れそうだ。
ありがとな、美那。
待っててくれ、俺のZ250!
7月11日木曜日。
曇っているけど、昼過ぎまで雨の心配はないようだ。
登校前にサスケコートで美那と練習。左手での技術の向上を美那に相談する。
普段と同じように始業時間近くに登校すると、俺に視線が集まり、なんかクラスがざわつく。
まさか、誰か、美那と俺がジェラート屋にいるところを見た?
まさか、スプーンで、あーんみたいなことをしているのを誰かに見られた?
いや、店に学校のやつはいなかったはずだ。
ただ、神宮とかを歩いているところを見られた可能性は否定できない。
でもそれだけでここまでの視線はないよな。
美那は席にいない。
まさか、居た堪れなくなって、トイレに隠れてるとか?
席に座った俺のところに、ヤナギが来た。
「森本、おまえ、試験結果見た?」
ヤナギの様子もやっぱり変だ。
「まだ。1時間目が終わったら見に行こうと思って。今回はそんな悪くなさそうだし」
「おい、それどころじゃないよ」
「え、まさか、悪かった? 名前書き忘れたとか?」
「ちげえよ」と、ヤナギが俺の腕をつかむ。
「おい、もうすぐチャイム鳴るって」
それでもヤナギは俺の腕を引っ張って、廊下に張り出された順位表のところに連れて行った。
ちょっとした人だかりができている。
でもそれは、試験休み明けの朝のいつもの光景だ。
その中に美那がいた。香田さんも順位表を眺めている。
俺が行くと、人だかりの中にちょっとした道ができた。美那が俺を見て笑う。
なんだ、けっこうよかったんじゃん。安心した。これで日曜日のライディングスクールが終われば、Z250だ!
「おい、森本、見てみろよ」
「え、俺の名前どこ?」
俺は100位から50位あたりに目を走らせる。
「ちがう! 10位台」
「まさかぁ」
ん、15位 山下美那。16位 森本里優?
61の間違いだろ。誰にいえばいいんだろう? 担任?
始業のチャイムが鳴って、先生たちが廊下を歩いてくる。生徒たちは慌てて自分の教室に戻る。
美那が俺の肩をポンと叩いて、横をすり抜けていく。
「おい、森本、早く教室に戻れ」と、担任の谷先生の声がする。
走りながらちらっと振り向くと、先生がニヤリとする。
「廊下は走るな」という優しげな声が飛んできた。
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