18 / 141
第1章
1-14 ライディングスクールで対戦相手?(1)
しおりを挟む
6月23日、日曜日。
5時半には起きて、5分間ドリブル練習を2本こなす。あいかわらず途中でボールがとっ散らかってしまうが……。
今日も曇りがちで、午後からは雨の予報だ。バイク用のレインウエアはまだ持っていないから、チャリで使うやつを持っていく。
7時前の電車に乗って、ライディング・スクールへと向かった。
昨日はいろいろあった上に、寝る前にもう一度カイリー・アービングの動画を観たら、興奮してなかなか寝付けず、さすがに電車の中では熟睡だ。
延々と電車を乗り継いで、さらには駅から予約しておいた送迎バスに揺られること20分あまり、ようやくスクールの施設に到着した。
俺は初心者コースだが、他のコースも同時開催らしく、けっこうな人数が来ている。
広いロビーで開講を待っていると、美那からメッセージが入った。
――>怪我をしないでね。がんばって。
なんだ、なんだ。ずいぶん優しい言葉じゃん。それに昨日のあのキスのようなものはなんだったんだ?
開始時刻になると、担当のインストラクターが、初心者コースの人だけを集めて、参加者に自己紹介と抱負を言わせる。
全部で20人。
わりと年配の人が多く、20代はちらほらという感じだ。高校生は俺ひとり。女性は3人で、夫婦で来ている人もいる。
なんか想像していたのとぜんぜん違う。
受講枠の最後のひとつをゲットしたらしい俺は、指名の順番も最後だった。
俺は免許取得の経緯を、知り合いの駐車場――河原とか言うと面倒そうなので、嘘――で、友達のお兄さんの250ccのバイクを使わせてもらって、友達と一緒にそのお兄さんから教えてもらいながら練習して、教習所っぽいコースで有料の単発講習を数回受けた上で、試験場で5回挑戦した、と話した。
試験場合格には一部の人から「おー」と声が上がる。
続けて抱負を、「心配した親からライディングスクールに行ってからじゃないとバイクに乗ることを許可しないと言われて来たので、とにかく親に心配をかけない技量を身につけて帰りたい」と、うまくまとめたつもりだった。
でも、これに関してはどちらかというと反応は冷ややかで、社交辞令的な拍手がぱらぱらと起きただけ。
むう。そんな甘くないということなのだろうか?
建物の外に出て、まずはしっかりした準備運動。
バイクは250と400で選べるが、自分のバイクに合わせて250ccを選んだ。日常的なバイクの点検方法を教えてもらう。
インストラクターの後に続いて受講者が一列に並んで走る。
遠くまで来た甲斐があって、講習用の敷地はやたらと広い。
まずは、「発進」と「停止」という基本的なことをする。
何度も来ている受講者に比べると、超基本のこれさえも俺はまだおぼつかない感じ。エンストもするし、かっくんブレーキもしてしまう。
それとライディングフォーム。
インストラクターからかなり指示を受けた。
「前に座りすぎているから腰をひいて後輪に荷重をかけるように」とか、「肩に力が入りすぎているからリラックスして」とか、「ニーグリップをしっかり」とか。
とにかく基本ができてないらしい。
次は「ブレーキング」。
これまた自己流を直される。
とにかく操作が雑らしいのだ。
レバーの握り方や力の入れ方、前後ブレーキの連動など、徹底的に指導される。
ここまで丁寧に教わっているのは俺だけみたいだ。
「よく免許取れたなー」と、インストラクターにつぶやかれ、なんか、凹む。
いや、こんなことで負けるわけにはいかない。Z250が待っているのだから。
急制動の練習ではついに転倒を喫してしまう。
ただ肘や膝にはスケボで使うようなプロテクターを着けているし、バイクにはエンジンガードなんかが付いている。
それに自分のバイクじゃないから気が楽だ。
自分のZ250で転倒したら泣く。
かーちゃんに感謝だ。
午前中の最後は、パイロンを使った「スラローム」。
スラロームというのは、パイロンの間を抜けてくねくね走るやつで、ブレーキングまでに比べると、バイクを総合的に操る必要がある。
だから、これはもっと悲惨。
免許を取る前にそれなりに練習したつもりだったが、パイロンにぶつける、曲がりきれない、転倒と、失敗の連続。
順番の列をはずされて、個人指導でアドバイスされる。
アクセルのオン・オフで向きを変えるとか、ブレーキを使った前輪への荷重移動とか、言葉の意味はわかっても、実践となるとむずかしい。
見兼ねたインストラクターが特別に俺を後ろに乗せて、見本を見せてくれた。
アクセルのメリハリがはっきりしている。他の受講者に注目されて恥ずかしかったけど、これでだいぶコツがつかめた。
失敗せずにクリアできたところで、昼休みになった。
ちょー疲れた。
食堂で定食を食った後、お茶をすすっていると、隣に座った同じコースの比較的若い人(たぶん20代半ば)が話しかけてくれた。
「俺は2回目なんだけど、免許を取ったもののしばらく乗れなくてさ。バイクを買うことになって、2カ月前に初めて受講したんだ。そのときは俺も何度も転倒して、インストラクターも最初はあきれてた」
たぶん、俺を慰めてくれているのだろう。
「僕も免許を取って以来バイクに乗っていないし、教習所に行ってないから、かなり自己流らしくて、凹みました」
「ま、それにしては上出来じゃないの? フォームも良くなってたし、最後はスラロームもクリアしてたし」
「はい」
慰められて、少しは気持ちがアガった。2回目ともなると、けっこう他人のことも見てるんだな。俺にはそんな余裕はまったくなかったけど。
同じテーブルに座ったリターン組(※若い頃にバイクに乗っていて、歳を取ってから再びバイクに乗り始めた人)のスポーツマンっぽいおじさんが会話に加わってくる。35歳くらいかな。
「僕は3回目。リピーターはみんな結構うまいでしょ。でも気にしなくていいと思うよ。それに丁寧に指導してもらえてラッキーじゃない」
「はあ」
そういう考え方もあるか。同じ金を払うなら、確かにいっぱい教えてもらったほうが得だ。
「すごい上達だよね」と、20代のひと。「あっという間にサマになってきたもん。まだ午前中なのに。あ、俺、イトウです。よろしく」
「僕は森本です。よろしくお願いします」
「僕はタナカ・サトシです。森本君はなにかスポーツやってるの?」
タナカさんというリターン組が訊いてくる。
「あー、前はテニスをやってましたけど、最近、バスケを始めました。3人でやるほう」
「え、もしかして、3x3?」
タナカさんが驚いた顔をする。
5時半には起きて、5分間ドリブル練習を2本こなす。あいかわらず途中でボールがとっ散らかってしまうが……。
今日も曇りがちで、午後からは雨の予報だ。バイク用のレインウエアはまだ持っていないから、チャリで使うやつを持っていく。
7時前の電車に乗って、ライディング・スクールへと向かった。
昨日はいろいろあった上に、寝る前にもう一度カイリー・アービングの動画を観たら、興奮してなかなか寝付けず、さすがに電車の中では熟睡だ。
延々と電車を乗り継いで、さらには駅から予約しておいた送迎バスに揺られること20分あまり、ようやくスクールの施設に到着した。
俺は初心者コースだが、他のコースも同時開催らしく、けっこうな人数が来ている。
広いロビーで開講を待っていると、美那からメッセージが入った。
――>怪我をしないでね。がんばって。
なんだ、なんだ。ずいぶん優しい言葉じゃん。それに昨日のあのキスのようなものはなんだったんだ?
開始時刻になると、担当のインストラクターが、初心者コースの人だけを集めて、参加者に自己紹介と抱負を言わせる。
全部で20人。
わりと年配の人が多く、20代はちらほらという感じだ。高校生は俺ひとり。女性は3人で、夫婦で来ている人もいる。
なんか想像していたのとぜんぜん違う。
受講枠の最後のひとつをゲットしたらしい俺は、指名の順番も最後だった。
俺は免許取得の経緯を、知り合いの駐車場――河原とか言うと面倒そうなので、嘘――で、友達のお兄さんの250ccのバイクを使わせてもらって、友達と一緒にそのお兄さんから教えてもらいながら練習して、教習所っぽいコースで有料の単発講習を数回受けた上で、試験場で5回挑戦した、と話した。
試験場合格には一部の人から「おー」と声が上がる。
続けて抱負を、「心配した親からライディングスクールに行ってからじゃないとバイクに乗ることを許可しないと言われて来たので、とにかく親に心配をかけない技量を身につけて帰りたい」と、うまくまとめたつもりだった。
でも、これに関してはどちらかというと反応は冷ややかで、社交辞令的な拍手がぱらぱらと起きただけ。
むう。そんな甘くないということなのだろうか?
建物の外に出て、まずはしっかりした準備運動。
バイクは250と400で選べるが、自分のバイクに合わせて250ccを選んだ。日常的なバイクの点検方法を教えてもらう。
インストラクターの後に続いて受講者が一列に並んで走る。
遠くまで来た甲斐があって、講習用の敷地はやたらと広い。
まずは、「発進」と「停止」という基本的なことをする。
何度も来ている受講者に比べると、超基本のこれさえも俺はまだおぼつかない感じ。エンストもするし、かっくんブレーキもしてしまう。
それとライディングフォーム。
インストラクターからかなり指示を受けた。
「前に座りすぎているから腰をひいて後輪に荷重をかけるように」とか、「肩に力が入りすぎているからリラックスして」とか、「ニーグリップをしっかり」とか。
とにかく基本ができてないらしい。
次は「ブレーキング」。
これまた自己流を直される。
とにかく操作が雑らしいのだ。
レバーの握り方や力の入れ方、前後ブレーキの連動など、徹底的に指導される。
ここまで丁寧に教わっているのは俺だけみたいだ。
「よく免許取れたなー」と、インストラクターにつぶやかれ、なんか、凹む。
いや、こんなことで負けるわけにはいかない。Z250が待っているのだから。
急制動の練習ではついに転倒を喫してしまう。
ただ肘や膝にはスケボで使うようなプロテクターを着けているし、バイクにはエンジンガードなんかが付いている。
それに自分のバイクじゃないから気が楽だ。
自分のZ250で転倒したら泣く。
かーちゃんに感謝だ。
午前中の最後は、パイロンを使った「スラローム」。
スラロームというのは、パイロンの間を抜けてくねくね走るやつで、ブレーキングまでに比べると、バイクを総合的に操る必要がある。
だから、これはもっと悲惨。
免許を取る前にそれなりに練習したつもりだったが、パイロンにぶつける、曲がりきれない、転倒と、失敗の連続。
順番の列をはずされて、個人指導でアドバイスされる。
アクセルのオン・オフで向きを変えるとか、ブレーキを使った前輪への荷重移動とか、言葉の意味はわかっても、実践となるとむずかしい。
見兼ねたインストラクターが特別に俺を後ろに乗せて、見本を見せてくれた。
アクセルのメリハリがはっきりしている。他の受講者に注目されて恥ずかしかったけど、これでだいぶコツがつかめた。
失敗せずにクリアできたところで、昼休みになった。
ちょー疲れた。
食堂で定食を食った後、お茶をすすっていると、隣に座った同じコースの比較的若い人(たぶん20代半ば)が話しかけてくれた。
「俺は2回目なんだけど、免許を取ったもののしばらく乗れなくてさ。バイクを買うことになって、2カ月前に初めて受講したんだ。そのときは俺も何度も転倒して、インストラクターも最初はあきれてた」
たぶん、俺を慰めてくれているのだろう。
「僕も免許を取って以来バイクに乗っていないし、教習所に行ってないから、かなり自己流らしくて、凹みました」
「ま、それにしては上出来じゃないの? フォームも良くなってたし、最後はスラロームもクリアしてたし」
「はい」
慰められて、少しは気持ちがアガった。2回目ともなると、けっこう他人のことも見てるんだな。俺にはそんな余裕はまったくなかったけど。
同じテーブルに座ったリターン組(※若い頃にバイクに乗っていて、歳を取ってから再びバイクに乗り始めた人)のスポーツマンっぽいおじさんが会話に加わってくる。35歳くらいかな。
「僕は3回目。リピーターはみんな結構うまいでしょ。でも気にしなくていいと思うよ。それに丁寧に指導してもらえてラッキーじゃない」
「はあ」
そういう考え方もあるか。同じ金を払うなら、確かにいっぱい教えてもらったほうが得だ。
「すごい上達だよね」と、20代のひと。「あっという間にサマになってきたもん。まだ午前中なのに。あ、俺、イトウです。よろしく」
「僕は森本です。よろしくお願いします」
「僕はタナカ・サトシです。森本君はなにかスポーツやってるの?」
タナカさんというリターン組が訊いてくる。
「あー、前はテニスをやってましたけど、最近、バスケを始めました。3人でやるほう」
「え、もしかして、3x3?」
タナカさんが驚いた顔をする。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

明日に駆けろ
澤村 通雄
青春
歩夢は、サッカー少年。
小学4年生だ。
まだ学校の部活には入ることができないため、地元のサッカーチームに所属している。
将来はサッカーでワールドカップに出場することだ。
歩夢が、明日に向かって駆けぬける。
青春高校2年A組:それぞれの未来
naomikoryo
青春
――この教室には、40人の「今」がある。
高校2年A組、出席番号1番から40番まで。
野球にすべてを懸ける者、夢を見失いかけている者、誰にも言えない恋を抱える者。
友情、恋愛、家族、将来への不安——それぞれの心の中には、言葉にできない思いが渦巻いている。
幼い頃の忘れられない記憶、誰にも知られたくない秘密、そして今、夢中になっていること。
たった一つの教室の中で、40通りの青春が交差する。
誰もが主役で、誰もが悩み、もがきながら生きている。
この物語は、そんな彼らのリアルな「今」を切り取った、40人の青春記録である。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?
一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう)
湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」
なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。
そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」
え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか?
戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。
DKの青春BL✨️
2万弱の短編です。よろしくお願いします。
ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる