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第1章
1-13 キス?(2)
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時間を忘れて、カイリーの動画に見入っていたら、ドアをノックする音がして、我に返った。
「リユ、入っていい?」
美那の声だ。
え、やばいものとか、置いてないよな?
「ちょっと待って」
うん、大丈夫だ。
「ああ、いいぞ」
ドアが開いて、美那が入ってくる。
「あ、もう履いてる」
美那が嬉しそうに言う。
しまった、脱ぐの忘れてた。
「それにエッチな動画」
「え?」
「うそ、カイリーの動画を観てたんだ?」
「あ、ああ」
俺はうやむやに答えながら、パソコンを閉じた。
「なんで閉じるのよ。一緒に観ようよ」
「用事が済んだなら、もう帰れよ。そうだ、俺、明日、朝早いんだよ」
「バイクのスクールだっけ」
「そう」
「でもまだ8時半じゃん」
俺はナイキを脱ぎながら、どう断るかを考える。
「試験も近いしさ」
「なんなら、一緒に勉強する?」
「やだよ」
「リユの部屋に入るなんて、超久しぶりじゃん。そんな邪険にしないでよ」
美那はそういうと勝手にベッドに腰を下ろした。そして部屋の中をきょろきょろと見回す。
「なんか、殺風景な部屋」
「いいだろ、別に。ポスターとか貼るの好きじゃないんだよ」
「ねえ、カイリーのプレー、リユとちょっと似てたでしょ。自分で感じない?」
「そうだな。レベルは違いすぎるけど、共通性は感じる」
「でしょう?」
「でもああいうプレーに近づくには、もっと体幹とか足腰とか鍛えなきゃいけないし、ハンドリング? ボールの扱いもうまくならなきゃならない」
「へぇー、もうそこまでわかってるんだ。さすが、わたしが見込んだ男」
「たいした期待もしてねえくせに」
「そんなことないよ。それにオツさんからもメッセージが届いてる。ほら」
美那は手を伸ばして、デスクの椅子に座っている俺にスマホを渡した。
――>今日はサンキュ。完成すれば、すごいチームになるぞ。ただ時間がない。リユ君のスキルアップは頼んだぞ。
「期待してもらえるのは嬉しいけどな。このところ、誰かに期待されたことなんかなかったから」
「哀しいこと言うね。わたしはいつも、リユに期待しているけど?」
「滅多に話もしないくせによく言うよ」
「リユのほうが避けてるんじゃない」
「いや、だってさ、おまえ、人気者だもん」
「とにかく、動画、観ようよ」
結局、美那に言われるままベッドに並んで座って、カイリーの動画を観る羽目になった。
美那は、ホラ見て今のところ、とか、ちょっと戻して、とか、ほらこの体の使いかた、とか、いろいろうるさいし、画面に指をさすときに、いちいち俺に近づくから参ってしまう。
おまえ、めちゃキレイなんだから、変な気になっちゃうだろう?
10分程度の動画を2本観終えると、ようやく満足したらしい。観るのに倍以上の小一時間はかかったけど。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「ああ」
「ほんと、素っ気ないの。せめて、夜だし送っていこうか? とか言えないの?」
「わかったよ。夜も遅いし――たいして遅くもないけど――送ってこうか?」
「うん。ありがと。送って」
「なんだよ。断んのかと思った。いや、でもマジで送っていくわ」
「ほんと? ありがとう」
なんか美那はやけに嬉しそうな顔をしている。ほんと、わけのわからんやつだ。
「あら、美那ちゃん、もう帰っちゃうの? なんなら泊まっていけばいいのに」
美那がかーちゃんに挨拶すると、玄関までついてくる。
「なに、言ってんだよ、かーちゃん。俺、明日早いし。じゃあ、送ってくる」
「残念ね。じゃあまた、近いうちに遊びに来てね」
「はい、またお邪魔します」
なんでこいつらこんなに仲がいいんだよ。
静かな住宅地の中を、横に並んで無言のまま歩く。
なんか喋れよ、美那。気まずいだろうが。
美那の家の近くまで来て、ようやく口を開いた。
「明日は1日つぶれるんでしょ?」
「ああ。スクールは9時受付で10時から4時半までだけど、片道2時間だからな」
「じゃあ、また、月曜日の朝練か」
「ドリブルの練習はしとくよ」
「うん、おねがい」
やけに可愛らしく言う。
と、美那の顔が急に俺の顔に近づいてくる。
すると、俺の右の頬に美那の柔らかい唇が押し付けられた。
これは、キ・ス、なのか?
俺が固まっていると、少し離れてから、「じゃあ、明日、頑張ってね」と、ナイキの入った紙袋を持った手を上げて袋を揺らすと、低い柵を開けて家のエントランスに入っていった。
なんだったんだ、いまの。
俺はたぶん30秒くらいその場に立ち尽くし、それからようやく、クウェスチョンマークが渦巻いた頭とともに、家に向かって足を動かし始めた。
「リユ、入っていい?」
美那の声だ。
え、やばいものとか、置いてないよな?
「ちょっと待って」
うん、大丈夫だ。
「ああ、いいぞ」
ドアが開いて、美那が入ってくる。
「あ、もう履いてる」
美那が嬉しそうに言う。
しまった、脱ぐの忘れてた。
「それにエッチな動画」
「え?」
「うそ、カイリーの動画を観てたんだ?」
「あ、ああ」
俺はうやむやに答えながら、パソコンを閉じた。
「なんで閉じるのよ。一緒に観ようよ」
「用事が済んだなら、もう帰れよ。そうだ、俺、明日、朝早いんだよ」
「バイクのスクールだっけ」
「そう」
「でもまだ8時半じゃん」
俺はナイキを脱ぎながら、どう断るかを考える。
「試験も近いしさ」
「なんなら、一緒に勉強する?」
「やだよ」
「リユの部屋に入るなんて、超久しぶりじゃん。そんな邪険にしないでよ」
美那はそういうと勝手にベッドに腰を下ろした。そして部屋の中をきょろきょろと見回す。
「なんか、殺風景な部屋」
「いいだろ、別に。ポスターとか貼るの好きじゃないんだよ」
「ねえ、カイリーのプレー、リユとちょっと似てたでしょ。自分で感じない?」
「そうだな。レベルは違いすぎるけど、共通性は感じる」
「でしょう?」
「でもああいうプレーに近づくには、もっと体幹とか足腰とか鍛えなきゃいけないし、ハンドリング? ボールの扱いもうまくならなきゃならない」
「へぇー、もうそこまでわかってるんだ。さすが、わたしが見込んだ男」
「たいした期待もしてねえくせに」
「そんなことないよ。それにオツさんからもメッセージが届いてる。ほら」
美那は手を伸ばして、デスクの椅子に座っている俺にスマホを渡した。
――>今日はサンキュ。完成すれば、すごいチームになるぞ。ただ時間がない。リユ君のスキルアップは頼んだぞ。
「期待してもらえるのは嬉しいけどな。このところ、誰かに期待されたことなんかなかったから」
「哀しいこと言うね。わたしはいつも、リユに期待しているけど?」
「滅多に話もしないくせによく言うよ」
「リユのほうが避けてるんじゃない」
「いや、だってさ、おまえ、人気者だもん」
「とにかく、動画、観ようよ」
結局、美那に言われるままベッドに並んで座って、カイリーの動画を観る羽目になった。
美那は、ホラ見て今のところ、とか、ちょっと戻して、とか、ほらこの体の使いかた、とか、いろいろうるさいし、画面に指をさすときに、いちいち俺に近づくから参ってしまう。
おまえ、めちゃキレイなんだから、変な気になっちゃうだろう?
10分程度の動画を2本観終えると、ようやく満足したらしい。観るのに倍以上の小一時間はかかったけど。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「ああ」
「ほんと、素っ気ないの。せめて、夜だし送っていこうか? とか言えないの?」
「わかったよ。夜も遅いし――たいして遅くもないけど――送ってこうか?」
「うん。ありがと。送って」
「なんだよ。断んのかと思った。いや、でもマジで送っていくわ」
「ほんと? ありがとう」
なんか美那はやけに嬉しそうな顔をしている。ほんと、わけのわからんやつだ。
「あら、美那ちゃん、もう帰っちゃうの? なんなら泊まっていけばいいのに」
美那がかーちゃんに挨拶すると、玄関までついてくる。
「なに、言ってんだよ、かーちゃん。俺、明日早いし。じゃあ、送ってくる」
「残念ね。じゃあまた、近いうちに遊びに来てね」
「はい、またお邪魔します」
なんでこいつらこんなに仲がいいんだよ。
静かな住宅地の中を、横に並んで無言のまま歩く。
なんか喋れよ、美那。気まずいだろうが。
美那の家の近くまで来て、ようやく口を開いた。
「明日は1日つぶれるんでしょ?」
「ああ。スクールは9時受付で10時から4時半までだけど、片道2時間だからな」
「じゃあ、また、月曜日の朝練か」
「ドリブルの練習はしとくよ」
「うん、おねがい」
やけに可愛らしく言う。
と、美那の顔が急に俺の顔に近づいてくる。
すると、俺の右の頬に美那の柔らかい唇が押し付けられた。
これは、キ・ス、なのか?
俺が固まっていると、少し離れてから、「じゃあ、明日、頑張ってね」と、ナイキの入った紙袋を持った手を上げて袋を揺らすと、低い柵を開けて家のエントランスに入っていった。
なんだったんだ、いまの。
俺はたぶん30秒くらいその場に立ち尽くし、それからようやく、クウェスチョンマークが渦巻いた頭とともに、家に向かって足を動かし始めた。
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