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第1章
1-10 バッシュ(2)
しおりを挟む横浜駅で一度外に出て、駅から近いスポーツ専門店に行った。
バスケットボールのフロアに上がると、シューズがずらりと並んでいる。
「ミナはどこの履いてんの?」
「ナイキ」
「ナイキか。この赤いやつ、シンプルでめちゃカッコいいじゃん。うわ、約2万かよ」
「さすが、リユ先生。お目が高い」
「いや、まあ、普通に高いしな」
「カイリー・アービングっていうNBAの選手のモデル」
「へー、知らんけど」
「実はリユのプレーってカイリーに似てるんだよね」
「いくら持ち上げても、買ってやれないからな」
「ほら、これ見て」
美那は俺を無視して、スマホでYouTubeを開いた。そのカイリー・アービングのプレー集。
「うお、確かにすげえな。言われてみれば、ちょっとだけ似てるかもな」
「でしょ? わたしはリユにこういうプレーを期待している」
「いやいや。そこまで求められても」
「これ、カスタムモデルだから、たぶんお店では買えないけど。ほら」
確かに、ナイキのサイトじゃないと買えないみたいなことが書いてある。
「この白いのなら、同じカイリーでも1万円くらいじゃん」
「うん。これもいいよね。予算的にも」
「じゃ、履いてみれば?」と、俺が勧めると、美那が店員に声をかけた。
女性の店員さんが笑顔で駆け寄ってくる。
「あの、これの24・5か、25はありますか?」と美那。
「たぶんあると思います。ほかには何か候補はありますか?」
「リユはサイズ26・5だっけ?」
「26・5か、27。あ、でも俺は今日は買わないよ」
「とりあえず、サイズだけ見とけばいいじゃん。それでもいいですか?」
「ええ、ぜんぜんかまいませんよ」
ほんとかどうかはわからないけど笑顔で答えた店員さんが、シューズのサンプルを持って早足で奥に消えた。
「今履いてるテニスシューズじゃ、やっぱダメなんだよな」
「機能的には大丈夫と思うけど、下穿きにしちゃったシューズは体育館とかだと絶対ダメだね」
「そうか」
「それに練習場所は外のコンクリートのところもあるから、最低2足は必要なんだよね。大会の会場は板張りの体育館だし」
さきほどの店員が箱を四つ抱えて戻ってきた。
ベンチシートに並んで座って、試し履きをする。
「どう?」
「俺はナイキだと27だな」
「両方履いて、ちょっと歩いたりしてみてください」と店員さん。
買わないのに気が引けるけど、まあいいか。やっぱ27がいい感じだ。
「わたし、この24・5にします」と美那。
「リユは?」
「俺はまあ27がちょうどいいけど……」
「じゃあ、この27もお願いします」
「ありがとうございます」
靴を箱にしまう店員に聞こえないように、「おい、俺は買えないって言ってるだろ」と美那に耳打ちする。
「8月23日だからちょっと早いけど、誕生日プレゼント。それにあの浮気親父が昨日、わたしの機嫌を取るつもりだろうけど、お小遣いを3万円もくれたの」
「でもさ、美那からプレゼントをもらう理由がない。俺は5月のお前の誕生日になにもしてねえし」
「一応、ちゃんと覚えてくれてるんだ」
「いや、まあな」
店員が「では、こちらへどうぞ」とレジに案内する。
「だってわたしが無理やり引き込んだんだし、リユも頑張ってくれてるし、ドリブルだってすっごく上達してるじゃん」
「いや、でも……」
「じゃあ、来年の誕生日にはお祝いをちょうだい!」
「わかったよ……」
誕生日プレゼントのやりとりなんて幼稚園以来だな。
店を出て、新しいナイキの入った手提げ袋を楽しげに揺らしながら歩く美那を見ていると、もやもやした気持ちは徐々に失せていく。
そうか、最初からそのつもりで俺を買い物に付き合わせたのか。必要ってことだし、来年のプレゼントを奮発するしかないな。そのころにはまた少しは金も貯まっているだろうし。
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