上 下
12 / 141
第1章

1-10 バッシュ(2)

しおりを挟む

 横浜駅で一度外に出て、駅から近いスポーツ専門店に行った。
 バスケットボールのフロアに上がると、シューズがずらりと並んでいる。
「ミナはどこの履いてんの?」
「ナイキ」
「ナイキか。この赤いやつ、シンプルでめちゃカッコいいじゃん。うわ、約2万かよ」
「さすが、リユ先生。お目が高い」
「いや、まあ、普通に高いしな」
「カイリー・アービングっていうNBAの選手のモデル」
「へー、知らんけど」
「実はリユのプレーってカイリーに似てるんだよね」
「いくら持ち上げても、買ってやれないからな」
「ほら、これ見て」
 美那は俺を無視して、スマホでYouTubeを開いた。そのカイリー・アービングのプレー集。
「うお、確かにすげえな。言われてみれば、ちょっとだけ似てるかもな」
「でしょ? わたしはリユにこういうプレーを期待している」
「いやいや。そこまで求められても」
「これ、カスタムモデルだから、たぶんお店では買えないけど。ほら」
 確かに、ナイキのサイトじゃないと買えないみたいなことが書いてある。
「この白いのなら、同じカイリーでも1万円くらいじゃん」
「うん。これもいいよね。予算的にも」
「じゃ、履いてみれば?」と、俺が勧めると、美那が店員に声をかけた。
 女性の店員さんが笑顔で駆け寄ってくる。
「あの、これの24・5か、25はありますか?」と美那。
「たぶんあると思います。ほかには何か候補はありますか?」
「リユはサイズ26・5だっけ?」
「26・5か、27。あ、でも俺は今日は買わないよ」
「とりあえず、サイズだけ見とけばいいじゃん。それでもいいですか?」
「ええ、ぜんぜんかまいませんよ」
 ほんとかどうかはわからないけど笑顔で答えた店員さんが、シューズのサンプルを持って早足で奥に消えた。
「今履いてるテニスシューズじゃ、やっぱダメなんだよな」
「機能的には大丈夫と思うけど、下穿きにしちゃったシューズは体育館とかだと絶対ダメだね」
「そうか」
「それに練習場所は外のコンクリートのところもあるから、最低2足は必要なんだよね。大会の会場は板張りの体育館だし」
 さきほどの店員が箱を四つ抱えて戻ってきた。
 ベンチシートに並んで座って、試し履きをする。
「どう?」
「俺はナイキだと27だな」
「両方履いて、ちょっと歩いたりしてみてください」と店員さん。
 買わないのに気が引けるけど、まあいいか。やっぱ27がいい感じだ。
「わたし、この24・5にします」と美那。
「リユは?」
「俺はまあ27がちょうどいいけど……」
「じゃあ、この27もお願いします」
「ありがとうございます」
 靴を箱にしまう店員に聞こえないように、「おい、俺は買えないって言ってるだろ」と美那に耳打ちする。
「8月23日だからちょっと早いけど、誕生日プレゼント。それにあの浮気親父が昨日、わたしの機嫌を取るつもりだろうけど、お小遣いを3万円もくれたの」
「でもさ、美那からプレゼントをもらう理由がない。俺は5月のお前の誕生日になにもしてねえし」
「一応、ちゃんと覚えてくれてるんだ」
「いや、まあな」
 店員が「では、こちらへどうぞ」とレジに案内する。
「だってわたしが無理やり引き込んだんだし、リユも頑張ってくれてるし、ドリブルだってすっごく上達してるじゃん」
「いや、でも……」
「じゃあ、来年の誕生日にはお祝いをちょうだい!」
「わかったよ……」
 誕生日プレゼントのやりとりなんて幼稚園以来だな。
 店を出て、新しいナイキの入った手提げ袋を楽しげに揺らしながら歩く美那を見ていると、もやもやした気持ちは徐々に失せていく。
 そうか、最初からそのつもりで俺を買い物に付き合わせたのか。必要ってことだし、来年のプレゼントを奮発するしかないな。そのころにはまた少しは金も貯まっているだろうし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天下

かい
青春
小学校から野球を始めた牧野坂道 少年野球はU-12日本代表 中学時代U-15日本代表 高校からもいくつもの推薦の話があったが… 全国制覇を目指す天才と努力を兼ね備えた1人の野球好きが高校野球の扉を開ける

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

神代永遠とその周辺

7番目のイギー
青春
普通のJKとは色々とちょっとだけ違う、神代永遠(かみしろとわ)、17歳。それは趣味だったり洋服のセンスだったり、好みの男子だったり。だけどそれを気にすることもなく、なんとなく日常を面白おかしく過ごしている。友達や趣味の品、そして家族。大事なものを当たり前に大事にする彼女は、今日もマイペースにやりたいことを気負うことなく続けます。

棘を編む繭

クナリ
青春
|鳴島シイカは、高校二年生。 小さい頃から人との触れ合いが苦手だが、自分でもその理由が分からない。 シイカはある日、登校途中に寄った町で|御格子《みごうし》クツナという和服姿の青年と出会う。 彼はケガを負った小鳥の傷を「繭使い」によって治した。 そして、常人には見えないはずの繭使いを見ることのできるシイカに、クツナはある誘いを持ちかける。 クツナと共に繭使いとして働くことになったシイカだが、彼女には同時に、不可解な影が忍び寄ってきていた。 彼らを導く運命は、過去から連なり、やがて、今へと至る。

光の花と影の星

楠富 つかさ
青春
乙女達の通う花園、星花女子学園……だがそこは、ゆかしくも清らかな少女のみが過ごす華やかな学園ではない。のっぴきならない事情を抱え、時には道を違う少女もいる。 星花女子プロジェクト番外、少しアングラで少し寂しいお話です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...