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第1章
1-8 図書室の美少女
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汗をかきまくっていたのでシャワーを浴びて、腹が減りまくっていたのでかーちゃんが用意しておいてくれた朝飯を食ったら、遅刻ギリギリだった。
かーちゃんは俺に起こされたとか言いながら、珍しく弁当も作ってくれていた。なんか、俺が活動的になったのが嬉しいみたいだ。
美那は涼しい顔をして授業を受けていたが、俺は3時限目の日本史Aになると急激に眠気が襲ってきた。なにしろ昨晩はZ250で興奮して眠れず、今朝は久しぶりに早起きした上に、俺にとってはハードな運動だ。
気配に気づいたときにはすでに遅く、小松先生が俺の横に立っていた。クラス全体に笑い声が起こる。
「このままだと、森本は明治維新がないまま日本の歴史が進みそうだな」
また爆笑。
「す、すいません」
ちらっと美那を見ると、口元だけで笑ってやがる。くそ、昼休みは速攻で弁当を食って、爆睡してやる。かーちゃん、弁当を作ってくれて、助かったぜ。学食だと並んだりして、時間を取られちまう。
4限目の終了チャイムが鳴ると、予定通り弁当をかっ喰らって、俺にとって最も快適で落ち着く図書室に行った。本が好きなのもあるけど、何より静かで空調の効きもいいのだ。
適当な本を書棚から取ろうと思ったけど、思い直して、バスケ関係の棚に行った。
まさにうってつけの『3x3入門』があったので、それを手に一番奥の席に座った。
へえ、基本的な技術は普通のバスケと同じだけど、戦い方とかはずいぶん違うみたいだ。
役割分担みたいのがあんまなくて、ずっと自由にプレーできるみたいだな。
コートサイズも横は同じ15メートルだけど、縦は28メートルの半分じゃなくて、11メートルしかないのか。
ボールもちょっと小さい気がしてたけど、大きさは普通のより一回り小さくて、重さは同じなんだな。
今朝、美那からもらった、モルテンとかいう、黄色に青の太い線と赤の細い線の入ったFIBA認証の3x3のボールを思い出す。まさか俺がバスケットボールを所有することになるなんて、思ってもいなかった。
「こんにちわ」
突然の可愛い声に驚いて顔を上げると、香田真由が立っていた。
「ああ、どうも」
「今日はなにを読んでるんですか?」
香田さんはいつも丁寧語だ。
「あ、これ? ちょっと興味があってバスケ関係の本」
「へえ、珍しいですね。いつもは小説とかなのに」
「うん。たまには調べ物とかもするから」
「そうなんだ。邪魔しちゃってごめんなさい。じゃあ」
香田さんは、爽やかな香りを残して清らかに去っていった。
だいたい読んでいる本を聞いてくるのが、いつもの会話のパターン。今日はちょっといつもと趣向が違う本のせいか、香田さんはちょっと戸惑ったみたいだ。
俺は母親の影響か、ちょっと古い探偵小説が好きなのだが、見た目によらず香田さんもそういうのが好きらしく、それで話すようになった。
いつもは、タイトルとか作者とか、どんな内容の本かの話になる。たとえば主人公はどんな設定かとか、舞台はどこだとか。でもその程度で会話は途切れてしまう。
美那とは本の話なんか滅多にすることはないし、最近はあまり話す機会もなかったけど、昨日とか今日みたいに話し始めると、会話は途切れることなく続いていく。まあ、くだらない掛け合いか、もしくはやたらと重い話題か、どちらかのような気もするが。
しかし、香田さんは可愛いよな。〝可憐〟という言葉が香田さんのためにあると思えてくる。なんか存在するだけでほっとする感じ。瞳が大きくて、鼻はこぶりですっと通っている。口も上品。身長は160センチはないだろう。肩甲骨までくらいのきれいに梳かれた黒髪。制服も、ややだらしない着こなしの俺や美那と違って、きちんと着ている。かといって、持ち物なんかを見ても、すごい金持ちという感じもしない。品がいいのだ。
俺と美那はB組で、香田さんはC組。休み時間とかに廊下で前を通りながらこっそり覗くと、たいてい誰かと話をしている。口数は少ないけど、暗いわけじゃない。陰か陽かでいったら、どちらかといえば陽。美那は少なくとも表面上は完全な陽。俺はたぶん、周りの印象は陰だろう。ヤナギなんかはちゃらけているけど陰。まあ小説や漫画をこっそり書(描)いている時点で隠キャ決定だ。どうでもいいけど。
もし香田さんとデートしたらどうなんだろう。お茶をして、前に座っていたら、むちゃくちゃ幸せな気分になりそうだけど、並んで歩いていたら会話が途切れて不安になりそうだ。無理に話題を作って投げかけても、二、三言で話題が消えていくような、そんな感じがする。しかし、そもそも俺はちゃんとしたデートの経験がないのだから、ただの想像にしか過ぎない。意外となんかの話題でツボにはまって、会話が弾むなんてこともあるのかもしれない。
それにしてもヨダレを垂らして爆睡する前でよかった。というよりも、すっかり眠気は消え失せている。睡眠不足のときの眠気というやつは、どういうわけか時間を作っていざ寝ようとすると眠れなくて、授業中とか寝てはまずいシチュエーションに限って襲ってきやがる。午後の2コマを乗り切れる自信はまったくない。ただ、英語コミュニケーションと情報科学という口や手を動かす能動的授業なのが救いだ。
なんとか午後の授業を乗り切った俺は速攻で帰宅した。ところがまた目が冴えている。そこでとっておきの世界史の教科書を読み始めたら、すぐに眠気が。
「夕飯ができた」とかーちゃんに叩き起こされるまで爆睡した。あー、すっきりした。腹も減った。回鍋肉風の肉野菜炒め。キャベツともやしに火が入り過ぎているが、今日はそんなことは気にならない。こんなにガツガツ食べるのは久しぶりで、かーちゃんもにこにこしている。
「やっぱり、美那ちゃんはいいわね」
「なにが?」
「あなたを活性化してくれる」
「そうか? ただ引き摺り回されるだけだ」
「友達でもなんでもいいけど、大事にしなさいよ」
「してるよ。だから今朝だってバスケの練習を手伝って……」
「園子さん、大丈夫かしらね」
「たぶんちょっと鬱っぽいんじゃないかな。美那もちょっとキツイみたいなことを言ってた」
「そう。じゃあ、連絡を取ってみようかしら。そっとしておいて欲しい場合もあるし、どう思う?」
「そうだなぁ、美那に聞いてみようか?」
「そうね。そうして」
「わかった。ところでさ、かーちゃんと美那って仲いいの?」
「なんで?」
「なんか美那がかーちゃんと友達みたいに話しやすいって言ってたから」
「あら、うれしい! たまに商店街とかで会うとお茶したりするしね」
「マジかよ。そういうことがあったなら、俺にも言ってくれよ」
「なんで? 里優には関係ないじゃない」
「そうか? 一応、クラスメートだし、俺のこと、なにを話されているかわかったもんじゃないし」
「里優の話題なんて、滅多に出ないわよ」
「じゃあ、なに話すんだよ」
「なにかしら? テレビドラマとか、そこに出てるカッコいい男の子の話とか? どこのスイーツが美味しいとか? あとはまあ学校の情報をちょっと仕込んだりもするけど」
「その中に俺の情報も入ってるよな」
「まあ、たまにはね。でも、そんなの100万分の1くらいだから」
「ちぇっ」
まさか美那のやつ、俺が香田真由に片思いだとか言ってねえだろうな。
「あんた、好きな子とかいないの?」
やっぱり、まさか?
「美那がなんか言ってたのかよ」
「聞いても、どうなんでしょう? とかはぐらかされちゃうのよ」
「やっぱり俺のこと、話してるじゃんか」
「わたしが里優の立場だったら、ぜったいに美那ちゃんを彼女にするけどね」
「たとえ俺がそうしたいと思ったって、美那が拒否するに決まってんじゃん」
「なんで?」
「なんでって、幼馴染で友達だから俺とときどき連むだけで、あいつはもっと大人が好きなんじゃねえの?」
実際、付き合ったのは大学3年生だし、と心の中でつぶやく。
「そうよね。今のあなたじゃ、美那ちゃんと釣り合わないもんね」
「認めたくないけど、俺もそう思うよ!」
「だらしないわね。さんざん家のことを手伝わせといてこんなこと言いにくいけど、そろそろ里優も将来に向けてなにか始めたほうがいいんじゃなかなぁ、って思って。これでも一応、親ですから。バイクばっかりじゃなくて」
「じゃあ、美那はなんかあんの? 将来のこととか言ってた?」
「それは個人情報だから、聞いてたとしても言えない。自分で聞いてみれば?」
「なんだよ、個人情報って。俺のことは聞き出そうとしたくせに」
「図書室の美少女はどうなの?」
「な、なに、それ?」
美那のやつ!
「里優がよく話す女の子とかいないのぉ、とかさりげなく聞いたら、隣のクラスの美少女系の子とは図書室でときどき話すみたいですけど、話しているところを見たことはないから、どんな関係かは知らない、ってさ」
「それ、ぜんぜん、さりげなくないから。図書室でよく会うから、挨拶する程度だよ」
「そう……わたし、里優が彼女を家に連れてきてくれるのを楽しみにしてるのよ」
「それなら長生きするしかないね。そうしたらかーちゃんの願いをもしかしたら叶えてやれるかもしれない」
「気長に待つわ」
母親が息子の彼女に会うのを楽しみにするのは、よくある話なのだろう。嫁をいびるために手ぐすね引いて待っている姑もいるのだろうけど。うちの場合、かーちゃんはこんな性格だし、美那とも友達感覚で付き合えてしまえるのだから、言葉に嘘はないだろう。問題は俺のほうだよな。なんかぜんぜんそういう気にならない。そういうことが起きる自信もまったくしない。たぶん自信がないから彼女をつくる気にもなれないのだろう。
夕方に爆睡したせいか、夕飯後も頭がすっきりしている。久しぶりに小説の続きでも書くか。
あ、小説といえば、美那だ。あいつ、もう読んだのか? 昨日の勢いではすぐにでも読みそうだったけど、今日はそれらしき気配は皆無だったな。それともシグナルを見落としたのか? いや、あいつはもしあれを読んだら、もっと露骨に反応が出る気がするが……。
幼馴染の親が離婚するまでは想定内だったけど、ここにきて急に一緒に行動するようになるのは完全に想定外だったな。かえって書きにくくなっちまった。
香田さんか……。今日も可愛かったなぁ。香田さんとキスとかしたら、俺、どうなっちゃうんだろう。
やばい、気が変になりそうだ。美那も妙に盛り上げてくれるし、それにかーちゃんまで煽ってくるし。
まさかふたりでで〝リユに彼女をつくる会〟とかタッグを組んで、こそこそ相談してるんじゃないだろうな。だけど、俺がいくら頑張っても、香田さんはハードルが高すぎるよなぁ。
かーちゃんは俺に起こされたとか言いながら、珍しく弁当も作ってくれていた。なんか、俺が活動的になったのが嬉しいみたいだ。
美那は涼しい顔をして授業を受けていたが、俺は3時限目の日本史Aになると急激に眠気が襲ってきた。なにしろ昨晩はZ250で興奮して眠れず、今朝は久しぶりに早起きした上に、俺にとってはハードな運動だ。
気配に気づいたときにはすでに遅く、小松先生が俺の横に立っていた。クラス全体に笑い声が起こる。
「このままだと、森本は明治維新がないまま日本の歴史が進みそうだな」
また爆笑。
「す、すいません」
ちらっと美那を見ると、口元だけで笑ってやがる。くそ、昼休みは速攻で弁当を食って、爆睡してやる。かーちゃん、弁当を作ってくれて、助かったぜ。学食だと並んだりして、時間を取られちまう。
4限目の終了チャイムが鳴ると、予定通り弁当をかっ喰らって、俺にとって最も快適で落ち着く図書室に行った。本が好きなのもあるけど、何より静かで空調の効きもいいのだ。
適当な本を書棚から取ろうと思ったけど、思い直して、バスケ関係の棚に行った。
まさにうってつけの『3x3入門』があったので、それを手に一番奥の席に座った。
へえ、基本的な技術は普通のバスケと同じだけど、戦い方とかはずいぶん違うみたいだ。
役割分担みたいのがあんまなくて、ずっと自由にプレーできるみたいだな。
コートサイズも横は同じ15メートルだけど、縦は28メートルの半分じゃなくて、11メートルしかないのか。
ボールもちょっと小さい気がしてたけど、大きさは普通のより一回り小さくて、重さは同じなんだな。
今朝、美那からもらった、モルテンとかいう、黄色に青の太い線と赤の細い線の入ったFIBA認証の3x3のボールを思い出す。まさか俺がバスケットボールを所有することになるなんて、思ってもいなかった。
「こんにちわ」
突然の可愛い声に驚いて顔を上げると、香田真由が立っていた。
「ああ、どうも」
「今日はなにを読んでるんですか?」
香田さんはいつも丁寧語だ。
「あ、これ? ちょっと興味があってバスケ関係の本」
「へえ、珍しいですね。いつもは小説とかなのに」
「うん。たまには調べ物とかもするから」
「そうなんだ。邪魔しちゃってごめんなさい。じゃあ」
香田さんは、爽やかな香りを残して清らかに去っていった。
だいたい読んでいる本を聞いてくるのが、いつもの会話のパターン。今日はちょっといつもと趣向が違う本のせいか、香田さんはちょっと戸惑ったみたいだ。
俺は母親の影響か、ちょっと古い探偵小説が好きなのだが、見た目によらず香田さんもそういうのが好きらしく、それで話すようになった。
いつもは、タイトルとか作者とか、どんな内容の本かの話になる。たとえば主人公はどんな設定かとか、舞台はどこだとか。でもその程度で会話は途切れてしまう。
美那とは本の話なんか滅多にすることはないし、最近はあまり話す機会もなかったけど、昨日とか今日みたいに話し始めると、会話は途切れることなく続いていく。まあ、くだらない掛け合いか、もしくはやたらと重い話題か、どちらかのような気もするが。
しかし、香田さんは可愛いよな。〝可憐〟という言葉が香田さんのためにあると思えてくる。なんか存在するだけでほっとする感じ。瞳が大きくて、鼻はこぶりですっと通っている。口も上品。身長は160センチはないだろう。肩甲骨までくらいのきれいに梳かれた黒髪。制服も、ややだらしない着こなしの俺や美那と違って、きちんと着ている。かといって、持ち物なんかを見ても、すごい金持ちという感じもしない。品がいいのだ。
俺と美那はB組で、香田さんはC組。休み時間とかに廊下で前を通りながらこっそり覗くと、たいてい誰かと話をしている。口数は少ないけど、暗いわけじゃない。陰か陽かでいったら、どちらかといえば陽。美那は少なくとも表面上は完全な陽。俺はたぶん、周りの印象は陰だろう。ヤナギなんかはちゃらけているけど陰。まあ小説や漫画をこっそり書(描)いている時点で隠キャ決定だ。どうでもいいけど。
もし香田さんとデートしたらどうなんだろう。お茶をして、前に座っていたら、むちゃくちゃ幸せな気分になりそうだけど、並んで歩いていたら会話が途切れて不安になりそうだ。無理に話題を作って投げかけても、二、三言で話題が消えていくような、そんな感じがする。しかし、そもそも俺はちゃんとしたデートの経験がないのだから、ただの想像にしか過ぎない。意外となんかの話題でツボにはまって、会話が弾むなんてこともあるのかもしれない。
それにしてもヨダレを垂らして爆睡する前でよかった。というよりも、すっかり眠気は消え失せている。睡眠不足のときの眠気というやつは、どういうわけか時間を作っていざ寝ようとすると眠れなくて、授業中とか寝てはまずいシチュエーションに限って襲ってきやがる。午後の2コマを乗り切れる自信はまったくない。ただ、英語コミュニケーションと情報科学という口や手を動かす能動的授業なのが救いだ。
なんとか午後の授業を乗り切った俺は速攻で帰宅した。ところがまた目が冴えている。そこでとっておきの世界史の教科書を読み始めたら、すぐに眠気が。
「夕飯ができた」とかーちゃんに叩き起こされるまで爆睡した。あー、すっきりした。腹も減った。回鍋肉風の肉野菜炒め。キャベツともやしに火が入り過ぎているが、今日はそんなことは気にならない。こんなにガツガツ食べるのは久しぶりで、かーちゃんもにこにこしている。
「やっぱり、美那ちゃんはいいわね」
「なにが?」
「あなたを活性化してくれる」
「そうか? ただ引き摺り回されるだけだ」
「友達でもなんでもいいけど、大事にしなさいよ」
「してるよ。だから今朝だってバスケの練習を手伝って……」
「園子さん、大丈夫かしらね」
「たぶんちょっと鬱っぽいんじゃないかな。美那もちょっとキツイみたいなことを言ってた」
「そう。じゃあ、連絡を取ってみようかしら。そっとしておいて欲しい場合もあるし、どう思う?」
「そうだなぁ、美那に聞いてみようか?」
「そうね。そうして」
「わかった。ところでさ、かーちゃんと美那って仲いいの?」
「なんで?」
「なんか美那がかーちゃんと友達みたいに話しやすいって言ってたから」
「あら、うれしい! たまに商店街とかで会うとお茶したりするしね」
「マジかよ。そういうことがあったなら、俺にも言ってくれよ」
「なんで? 里優には関係ないじゃない」
「そうか? 一応、クラスメートだし、俺のこと、なにを話されているかわかったもんじゃないし」
「里優の話題なんて、滅多に出ないわよ」
「じゃあ、なに話すんだよ」
「なにかしら? テレビドラマとか、そこに出てるカッコいい男の子の話とか? どこのスイーツが美味しいとか? あとはまあ学校の情報をちょっと仕込んだりもするけど」
「その中に俺の情報も入ってるよな」
「まあ、たまにはね。でも、そんなの100万分の1くらいだから」
「ちぇっ」
まさか美那のやつ、俺が香田真由に片思いだとか言ってねえだろうな。
「あんた、好きな子とかいないの?」
やっぱり、まさか?
「美那がなんか言ってたのかよ」
「聞いても、どうなんでしょう? とかはぐらかされちゃうのよ」
「やっぱり俺のこと、話してるじゃんか」
「わたしが里優の立場だったら、ぜったいに美那ちゃんを彼女にするけどね」
「たとえ俺がそうしたいと思ったって、美那が拒否するに決まってんじゃん」
「なんで?」
「なんでって、幼馴染で友達だから俺とときどき連むだけで、あいつはもっと大人が好きなんじゃねえの?」
実際、付き合ったのは大学3年生だし、と心の中でつぶやく。
「そうよね。今のあなたじゃ、美那ちゃんと釣り合わないもんね」
「認めたくないけど、俺もそう思うよ!」
「だらしないわね。さんざん家のことを手伝わせといてこんなこと言いにくいけど、そろそろ里優も将来に向けてなにか始めたほうがいいんじゃなかなぁ、って思って。これでも一応、親ですから。バイクばっかりじゃなくて」
「じゃあ、美那はなんかあんの? 将来のこととか言ってた?」
「それは個人情報だから、聞いてたとしても言えない。自分で聞いてみれば?」
「なんだよ、個人情報って。俺のことは聞き出そうとしたくせに」
「図書室の美少女はどうなの?」
「な、なに、それ?」
美那のやつ!
「里優がよく話す女の子とかいないのぉ、とかさりげなく聞いたら、隣のクラスの美少女系の子とは図書室でときどき話すみたいですけど、話しているところを見たことはないから、どんな関係かは知らない、ってさ」
「それ、ぜんぜん、さりげなくないから。図書室でよく会うから、挨拶する程度だよ」
「そう……わたし、里優が彼女を家に連れてきてくれるのを楽しみにしてるのよ」
「それなら長生きするしかないね。そうしたらかーちゃんの願いをもしかしたら叶えてやれるかもしれない」
「気長に待つわ」
母親が息子の彼女に会うのを楽しみにするのは、よくある話なのだろう。嫁をいびるために手ぐすね引いて待っている姑もいるのだろうけど。うちの場合、かーちゃんはこんな性格だし、美那とも友達感覚で付き合えてしまえるのだから、言葉に嘘はないだろう。問題は俺のほうだよな。なんかぜんぜんそういう気にならない。そういうことが起きる自信もまったくしない。たぶん自信がないから彼女をつくる気にもなれないのだろう。
夕方に爆睡したせいか、夕飯後も頭がすっきりしている。久しぶりに小説の続きでも書くか。
あ、小説といえば、美那だ。あいつ、もう読んだのか? 昨日の勢いではすぐにでも読みそうだったけど、今日はそれらしき気配は皆無だったな。それともシグナルを見落としたのか? いや、あいつはもしあれを読んだら、もっと露骨に反応が出る気がするが……。
幼馴染の親が離婚するまでは想定内だったけど、ここにきて急に一緒に行動するようになるのは完全に想定外だったな。かえって書きにくくなっちまった。
香田さんか……。今日も可愛かったなぁ。香田さんとキスとかしたら、俺、どうなっちゃうんだろう。
やばい、気が変になりそうだ。美那も妙に盛り上げてくれるし、それにかーちゃんまで煽ってくるし。
まさかふたりでで〝リユに彼女をつくる会〟とかタッグを組んで、こそこそ相談してるんじゃないだろうな。だけど、俺がいくら頑張っても、香田さんはハードルが高すぎるよなぁ。
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