2 / 141
第1章
1-2 美那の相談と投稿小説
しおりを挟む
なんとなく、ふたりとも黙ったまま、駅まで歩いて、電車に乗って、二駅先で電車を降りた。
「あそこでいいね?」
美那は、俺にだけは、やけに男っぽい喋り方をする。クラスじゃ、もっと普通に女子なのに。クラスの女子相手だったら、「あそこでいいよね?」と、口調ももっと柔らかなはずだ。
「ああ」
俺も無愛想に答える。
改札を出て、ちょっと横道に入ったところにある喫茶店。けっして、カフェではない。小学校の時に、たまたま二人とも母親に連れられて歩いていたときにばったり出会って、すぐ近くにあったこの店に入ったのが最初だ。
こうして、ごくたまに――たぶん、年に1回か2回ほど――ふたりで話をするようなことがあると、ここに来るのが定番になった。だいたいが、美那の愚痴とか、ちょっとした相談事。
マスターもなんとなく俺たちのことを覚えていてくれている。いや、美耶のことは完全に覚えている。まあ俺は、その連れぐらいなものか。
「マスター、わたしは特製パフェ。リユは?」
「あ、僕はホットコーヒーでお願いします」
マスターは無言で軽く手を挙げた。
「最近はコーヒーなんだ」
「まあな」
「真夏にホットコーヒーとか渋いじゃん。なんか、ついこないだまで、ココアとかアイスクリームとかだったのに、少しは成長したんだ」
「まあな」
俺の成長といえば、身長が伸びたのと、コーヒーを飲むようになったことくらいだ。免許も取ったな。でもせいぜいそのくらい。一方、美那は、なんかこの1、2年でえらく大人っぽくなったような気がする。
俺は美那に色気がないと思い続けているけど、なんかときどき、オンナらしくなってきたと思うことも、実はある。この間も、放課後に、教室の窓からひとりで外を眺めていて、その後ろ姿を妙に色っぽく感じてしまったんだけど、俺の方に問題があるのだと思い込ませていた節がある。そんなふうに美那をみてしまったら、こうして、気軽に話せなくなる。それがいやだから。
「それでさ、家のことなんだけど」
美那が話題を切り出す。どう考えても明るい話ではなさそうだ。
「ああ」
「とうとう、別れることに、したみたい」
「そうなんだ」
「流れからすると、リユと同じで、お母さんについて行くと思うけど」
「オヤジさんの浮気だったよな? なんか一時、親の仲は戻ったっぽかったけど」
「しばらくはね。相手は会社の部下で、一度は別れて、その女子社員は退職したらしいんだけど、どうも、ちょっと前に、どこかで偶然再会して、縁を戻してしまったらしくて、それがついにお母さんにバレて、この間、家の中をお皿やらコップとかが飛び交った、というか、飛ぶ方向はまあ一方向だったけど。もはや決定的というか……」
「そうか、大変だったな」
「でも、リユのとこにくらべたら、まだマシだよね」
「どうだろうな。女子的には、父親の浮気とか、嫌なんじゃね?」
「まあね。なんかね……」
しばらく沈黙が続いて、その間に、パフェとコーヒーが運ばれてきた。
美那は無言のまま、スプーンでフルーツや生クリームやアイスクリームを口に運び、俺も黙ったまま、コーヒーを啜った。
まあ結局は美那の場合、誰にも話せないようなことを俺に話しながら、問題の結論を出すというか、そういうタイプだ。そういう意味じゃ少しは役に立っているのだろうけど、アドバイスとかできるわけじゃない。真剣に話を聞いて、相槌を打ったりする。俺にできるのはその程度。だけど美那は、いつも、心からの礼を言ってくれる。それが、俺はうれしい。
「いまはさ、」
最後のイチゴを名残惜しそうに飲み込むと、美那は話を再開した。視線はまだ、パフェとかコーヒーとかテーブルの間を行き交っていた。
「とりあえず、お母さんについて行くしかないと思うけど、わたし、早く独り立ちしたい」
ようやく俺の顔をちらっと見た。
「俺もだけど、まあ、高校生のうちは我慢かぁー」
俺はその視線を外すため、わざとらしく伸びをしながら言った。
「そうだね……」
美那がため息交じりに言う。俺が気楽に一人暮らししたいのとは事情が違うのだ。
「じゃあ、お母さんとも、あんまりいい感じじゃないってことか」
「うん。可哀想だとは思うけど、ほとんど鬱状態でちょっとキツイ」
「じゃあ、俺の方がマシだな。かーちゃんとはうまくやってるし」
「でもさ、いまはそうかもしれないけど、お父さんいた時はひどかったじゃない」
「もう忘れたけどな」
「わたしさ、あの時、リユ、すごい頑張ったんだと思って、ちょっと尊敬してた」
「尊敬? なんで?」
「聞いたよ。加奈江さんを守ろうと思って、何度もお父さんに立ち向かっていった、って。加奈江さんがそう言ってたって、お母さんから聞いた」
加奈江というのは俺の母親の名前。美那はときどき親しげに名前で呼ぶ。
「どうだろうな。まあ、一発か、二発分くらい、俺が引き受けたって、程度じゃないの?」
突然、テーブルの下で、美那の脚が、俺の両脚の間の入ってきた。なんか、性的なものを感じて、びっくりした。たぶん、気のせいだとは思うけど。
「な、なんだよ」
「かっこ、つけちゃって」
美那はようやく普通に笑った。
「別にかっこつけてねえし」
「あ、そういえばさ、聞いたよー、リユ、最近、小説書いてるんだって?」
げ、なんで、美那がそのことを……あの、野郎!
「誰から、聞いた」
「ヤナギ」
「だろうな。あいつにしか言ってねえしな」
柳本はやっぱり同じクラスで、美那と同じバスケ部。バスケ部のクセに、漫画家を目指して夜な夜な机に向かっているらしい。そういう意味では俺とちょっと波長が合って、たまたまふたりだけになった時、どちらからともなく、そういう話になった。いや、違うな。柳本が「おれ、実は、漫画描いてんだ」と言って、俺に原稿を渡して、感想を聞かせてくれと、言ってきたんだ。その流れで、ついつい「俺は小説を書いている」と口走ってしまった。柳本のヤツも、そういう気配を察して、俺にカミングアウトしてきたらしい。
「馬鹿だねぇー、誰かに言ったら、たいていは別の誰かに伝わっちゃうんだから」
「くっそ、信用してたのに」
「まあ、まあ、ヤナギのこと、怒らないでやって。わたしが強引に口を割らせたようなものだから」
「どういうことだよ」
「いやさ、最近、なんか、リユの様子が変だなぁーと思っててさ。で、このところ、休み時間とか、割とヤナギと話してるじゃない? だから、興味本位で、ヤナギに聞いてみたらさ、思わず、口にしそうになって、あわてて口を閉じたんだけど、あいつも実は誰かに話したくてたまらなかったみたいで、ちょっと追求したら、すぐにポロっと」
「たぶん、相当、強引に迫ったんだろうな」
「えへ、わかる?」
「まあ、いいけどさ」
「でさ、わたしも、リユの小説、読んでみたいなぁ」
「なんで。やだよ。まだ下手だし、途中だし、恥ずかしいし」
「ヤナギは読んだって言ってたよ。自分も漫画を描いていて、それをリユに読んでもらって、そしたらリユも読ませてくれたって。ヤナギも、誰にも言わないでくれよー、って言ってたけど」
「だったら、ヤツに教えてもらえよ」
「ねえ、どこかの小説サイトに公開してるんだって? だったら、いいじゃん。だれでも見れるんでしょう?」
「なら、自分で探せよ」
「でも、ヤナギのヤツ、そのサイトとか、小説のタイトルとか、ペンネームとかは、絶対に言わないんだもん。そこまでは勘弁してくれって。色仕掛けまでしてみたんだけど」
「色仕掛け⁈ 色仕掛けって、何したんだよ」
「いや、冗談だって、そこは。なに、ムキになってんの」
「別にムキになんかなってねえけど」
美那はなんか、やたらとニコニコして、俺のことを見ていた。
「なんだよ、なに、うれしそうな顔してんだよ」
「べーつにー」
美那はパフェの底の方のコンフレークを口に入れて、スプーンをグラスに戻すと、何気ない素ぶりで、濃い水色のシャツの二つ目のボタンをはずした。「今日、暑いよねー」とか言いながら、シャツの襟を横に引っ張りながら首元を手のひらで煽った。
み、みずいろのブラがちらっと、胸、胸のふくらみもちらっと!
ま、まさか、美那のヤツ、いろじかけ、いろじかけしかけてきてる⁈
「え、どうかした?」
美那は涼しい顔で、動揺がバレバレの俺に話しかけてきた。
「じゃあさ、わたしもリユにひとつ秘密を打ち明けるからさ。それでどう? もちろん、絶対に誰にも言わないって約束してもらうような秘密」
「ど、どんな、秘密だよ?」
「さあね」
「だけど、なんで、そこまでして、俺が書いた小説なんて読みたいんだよ」
「じゃあ、もうわたしの秘密、話しちゃうからね。そしたら、いいでしょう?」
「ちょっと待て」
なぜ、それほどまでに美那に読んでもらいたくないかというと、それは俺と美那を主人公にした小説だからだ。ヤナギにはわからなくても、あれを本人が読んだら、絶対にバレる。
「秘密ってなんだよ。せめてヒント。じゃないと、割に合わないかもしれないだろう?」
「わたしのこと、信用してないんだ?」
「そうじゃないけど、ヒントくらい言えよ」
「うん、わかった。ヒントというか、内容は、わたしの最近の恋愛事情」
うわ、あっさり言いやがった! 恋愛事情だとぉー。やっぱり、男がいるのか。最近の色っぽさは、そこからきてるのか。だとすると、少なくとももうキスはしてるんだろうな……。
「知りたくない?」
「べ、べつにお前の恋愛事情を聞いてもなぁ」
「あの、ものすごぉーく興味のありそうな顔してるんですけど」
「え? そ、そりゃ、まったく興味がないとはいわないけど……」
「じゃあ、決まりね」
もしあれを美那が読んだら、どう思うだろう。まあ、美那がモデルの女の子が、幼馴染の男の子を実はずっと密かに想っていた――って話だから、せいぜい俺の願望くらいにしか思わないだろうな。
それにしたって、いまだに俺は美那のことをどう思っているのか、自分でもよくわかっていない。客観的に見て、すっごく、可愛いとは思う。だけど、俺なんかが敵う女子じゃないし、好みでいったら、隣のクラスでお嬢様系の、よく図書室でも見かける、香田真由がタイプだしな。
「あそこでいいね?」
美那は、俺にだけは、やけに男っぽい喋り方をする。クラスじゃ、もっと普通に女子なのに。クラスの女子相手だったら、「あそこでいいよね?」と、口調ももっと柔らかなはずだ。
「ああ」
俺も無愛想に答える。
改札を出て、ちょっと横道に入ったところにある喫茶店。けっして、カフェではない。小学校の時に、たまたま二人とも母親に連れられて歩いていたときにばったり出会って、すぐ近くにあったこの店に入ったのが最初だ。
こうして、ごくたまに――たぶん、年に1回か2回ほど――ふたりで話をするようなことがあると、ここに来るのが定番になった。だいたいが、美那の愚痴とか、ちょっとした相談事。
マスターもなんとなく俺たちのことを覚えていてくれている。いや、美耶のことは完全に覚えている。まあ俺は、その連れぐらいなものか。
「マスター、わたしは特製パフェ。リユは?」
「あ、僕はホットコーヒーでお願いします」
マスターは無言で軽く手を挙げた。
「最近はコーヒーなんだ」
「まあな」
「真夏にホットコーヒーとか渋いじゃん。なんか、ついこないだまで、ココアとかアイスクリームとかだったのに、少しは成長したんだ」
「まあな」
俺の成長といえば、身長が伸びたのと、コーヒーを飲むようになったことくらいだ。免許も取ったな。でもせいぜいそのくらい。一方、美那は、なんかこの1、2年でえらく大人っぽくなったような気がする。
俺は美那に色気がないと思い続けているけど、なんかときどき、オンナらしくなってきたと思うことも、実はある。この間も、放課後に、教室の窓からひとりで外を眺めていて、その後ろ姿を妙に色っぽく感じてしまったんだけど、俺の方に問題があるのだと思い込ませていた節がある。そんなふうに美那をみてしまったら、こうして、気軽に話せなくなる。それがいやだから。
「それでさ、家のことなんだけど」
美那が話題を切り出す。どう考えても明るい話ではなさそうだ。
「ああ」
「とうとう、別れることに、したみたい」
「そうなんだ」
「流れからすると、リユと同じで、お母さんについて行くと思うけど」
「オヤジさんの浮気だったよな? なんか一時、親の仲は戻ったっぽかったけど」
「しばらくはね。相手は会社の部下で、一度は別れて、その女子社員は退職したらしいんだけど、どうも、ちょっと前に、どこかで偶然再会して、縁を戻してしまったらしくて、それがついにお母さんにバレて、この間、家の中をお皿やらコップとかが飛び交った、というか、飛ぶ方向はまあ一方向だったけど。もはや決定的というか……」
「そうか、大変だったな」
「でも、リユのとこにくらべたら、まだマシだよね」
「どうだろうな。女子的には、父親の浮気とか、嫌なんじゃね?」
「まあね。なんかね……」
しばらく沈黙が続いて、その間に、パフェとコーヒーが運ばれてきた。
美那は無言のまま、スプーンでフルーツや生クリームやアイスクリームを口に運び、俺も黙ったまま、コーヒーを啜った。
まあ結局は美那の場合、誰にも話せないようなことを俺に話しながら、問題の結論を出すというか、そういうタイプだ。そういう意味じゃ少しは役に立っているのだろうけど、アドバイスとかできるわけじゃない。真剣に話を聞いて、相槌を打ったりする。俺にできるのはその程度。だけど美那は、いつも、心からの礼を言ってくれる。それが、俺はうれしい。
「いまはさ、」
最後のイチゴを名残惜しそうに飲み込むと、美那は話を再開した。視線はまだ、パフェとかコーヒーとかテーブルの間を行き交っていた。
「とりあえず、お母さんについて行くしかないと思うけど、わたし、早く独り立ちしたい」
ようやく俺の顔をちらっと見た。
「俺もだけど、まあ、高校生のうちは我慢かぁー」
俺はその視線を外すため、わざとらしく伸びをしながら言った。
「そうだね……」
美那がため息交じりに言う。俺が気楽に一人暮らししたいのとは事情が違うのだ。
「じゃあ、お母さんとも、あんまりいい感じじゃないってことか」
「うん。可哀想だとは思うけど、ほとんど鬱状態でちょっとキツイ」
「じゃあ、俺の方がマシだな。かーちゃんとはうまくやってるし」
「でもさ、いまはそうかもしれないけど、お父さんいた時はひどかったじゃない」
「もう忘れたけどな」
「わたしさ、あの時、リユ、すごい頑張ったんだと思って、ちょっと尊敬してた」
「尊敬? なんで?」
「聞いたよ。加奈江さんを守ろうと思って、何度もお父さんに立ち向かっていった、って。加奈江さんがそう言ってたって、お母さんから聞いた」
加奈江というのは俺の母親の名前。美那はときどき親しげに名前で呼ぶ。
「どうだろうな。まあ、一発か、二発分くらい、俺が引き受けたって、程度じゃないの?」
突然、テーブルの下で、美那の脚が、俺の両脚の間の入ってきた。なんか、性的なものを感じて、びっくりした。たぶん、気のせいだとは思うけど。
「な、なんだよ」
「かっこ、つけちゃって」
美那はようやく普通に笑った。
「別にかっこつけてねえし」
「あ、そういえばさ、聞いたよー、リユ、最近、小説書いてるんだって?」
げ、なんで、美那がそのことを……あの、野郎!
「誰から、聞いた」
「ヤナギ」
「だろうな。あいつにしか言ってねえしな」
柳本はやっぱり同じクラスで、美那と同じバスケ部。バスケ部のクセに、漫画家を目指して夜な夜な机に向かっているらしい。そういう意味では俺とちょっと波長が合って、たまたまふたりだけになった時、どちらからともなく、そういう話になった。いや、違うな。柳本が「おれ、実は、漫画描いてんだ」と言って、俺に原稿を渡して、感想を聞かせてくれと、言ってきたんだ。その流れで、ついつい「俺は小説を書いている」と口走ってしまった。柳本のヤツも、そういう気配を察して、俺にカミングアウトしてきたらしい。
「馬鹿だねぇー、誰かに言ったら、たいていは別の誰かに伝わっちゃうんだから」
「くっそ、信用してたのに」
「まあ、まあ、ヤナギのこと、怒らないでやって。わたしが強引に口を割らせたようなものだから」
「どういうことだよ」
「いやさ、最近、なんか、リユの様子が変だなぁーと思っててさ。で、このところ、休み時間とか、割とヤナギと話してるじゃない? だから、興味本位で、ヤナギに聞いてみたらさ、思わず、口にしそうになって、あわてて口を閉じたんだけど、あいつも実は誰かに話したくてたまらなかったみたいで、ちょっと追求したら、すぐにポロっと」
「たぶん、相当、強引に迫ったんだろうな」
「えへ、わかる?」
「まあ、いいけどさ」
「でさ、わたしも、リユの小説、読んでみたいなぁ」
「なんで。やだよ。まだ下手だし、途中だし、恥ずかしいし」
「ヤナギは読んだって言ってたよ。自分も漫画を描いていて、それをリユに読んでもらって、そしたらリユも読ませてくれたって。ヤナギも、誰にも言わないでくれよー、って言ってたけど」
「だったら、ヤツに教えてもらえよ」
「ねえ、どこかの小説サイトに公開してるんだって? だったら、いいじゃん。だれでも見れるんでしょう?」
「なら、自分で探せよ」
「でも、ヤナギのヤツ、そのサイトとか、小説のタイトルとか、ペンネームとかは、絶対に言わないんだもん。そこまでは勘弁してくれって。色仕掛けまでしてみたんだけど」
「色仕掛け⁈ 色仕掛けって、何したんだよ」
「いや、冗談だって、そこは。なに、ムキになってんの」
「別にムキになんかなってねえけど」
美那はなんか、やたらとニコニコして、俺のことを見ていた。
「なんだよ、なに、うれしそうな顔してんだよ」
「べーつにー」
美那はパフェの底の方のコンフレークを口に入れて、スプーンをグラスに戻すと、何気ない素ぶりで、濃い水色のシャツの二つ目のボタンをはずした。「今日、暑いよねー」とか言いながら、シャツの襟を横に引っ張りながら首元を手のひらで煽った。
み、みずいろのブラがちらっと、胸、胸のふくらみもちらっと!
ま、まさか、美那のヤツ、いろじかけ、いろじかけしかけてきてる⁈
「え、どうかした?」
美那は涼しい顔で、動揺がバレバレの俺に話しかけてきた。
「じゃあさ、わたしもリユにひとつ秘密を打ち明けるからさ。それでどう? もちろん、絶対に誰にも言わないって約束してもらうような秘密」
「ど、どんな、秘密だよ?」
「さあね」
「だけど、なんで、そこまでして、俺が書いた小説なんて読みたいんだよ」
「じゃあ、もうわたしの秘密、話しちゃうからね。そしたら、いいでしょう?」
「ちょっと待て」
なぜ、それほどまでに美那に読んでもらいたくないかというと、それは俺と美那を主人公にした小説だからだ。ヤナギにはわからなくても、あれを本人が読んだら、絶対にバレる。
「秘密ってなんだよ。せめてヒント。じゃないと、割に合わないかもしれないだろう?」
「わたしのこと、信用してないんだ?」
「そうじゃないけど、ヒントくらい言えよ」
「うん、わかった。ヒントというか、内容は、わたしの最近の恋愛事情」
うわ、あっさり言いやがった! 恋愛事情だとぉー。やっぱり、男がいるのか。最近の色っぽさは、そこからきてるのか。だとすると、少なくとももうキスはしてるんだろうな……。
「知りたくない?」
「べ、べつにお前の恋愛事情を聞いてもなぁ」
「あの、ものすごぉーく興味のありそうな顔してるんですけど」
「え? そ、そりゃ、まったく興味がないとはいわないけど……」
「じゃあ、決まりね」
もしあれを美那が読んだら、どう思うだろう。まあ、美那がモデルの女の子が、幼馴染の男の子を実はずっと密かに想っていた――って話だから、せいぜい俺の願望くらいにしか思わないだろうな。
それにしたって、いまだに俺は美那のことをどう思っているのか、自分でもよくわかっていない。客観的に見て、すっごく、可愛いとは思う。だけど、俺なんかが敵う女子じゃないし、好みでいったら、隣のクラスでお嬢様系の、よく図書室でも見かける、香田真由がタイプだしな。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
吉祥やおよろず
あおうま
青春
八百万の神々から加護や寵愛を受けることにより多彩な才能を授かった者が集まる国立八百万学園。そんな八百万学園に入学した、美の神様【吉祥天】から寵愛を受ける吉祥伊呂波(きっしょういろは)が、幼馴染であり【毘沙門天】から加護を受ける毘沙門鞍馬(びしゃもんくらま)や、【弁財天】からの加護を受ける弁財狭依(べんざいさより)たちと共に、一度きりの学園生活を楽しく賑やかに過ごしていく物語です。
黒乃の短編集
黒野ユウマ
青春
連載とは別の短発作品の集まり。基本、単発作品ばかりです。
現代モノが多くなると思うのでタグは「青春」にしてますが、多分それじゃないものもあります。
表紙かんたんは表紙メーカー様より
https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
伊予ノ国ノ物ノ怪談
綾 遥人
大衆娯楽
家庭の事情で祖父の家で暮らすことになった颯馬(ソウマ)。そこで幼馴染の友人、人の眼には見えざるものが見える眼「天眼」をもつ少女、咲耶(サクヤ)と再会する。そこは人に紛れ暮らす獣人と物の怪の街だった。過去の呪縛に翻弄される人狼、後藤雪輪も加わり、物の怪談が始まる。
大蛇の『物の怪』に祖母が襲われ、助けようとする咲耶は『化身の術(けしんのじゅつ)』を使う少年、颯馬に助けられる。大蛇を追っていた狸の獣人、紅(べに)は大蛇を封印し立ち去る。
数年後、咲耶の通う高校に転校してきた颯馬は、紅から依頼されたアルバイトのために訪れた山中で2人組の人狐(人狐)に襲われる。
人狼、雪輪(ゆきわ)と共に狐を追い詰める颯馬だったが取り逃がしてしまう。
なぜ、1000年前に四国から追い出された狐が戻ってきたのか?
颯馬と咲耶は狐達に命を狙われ、雪輪の父親は狐から死の呪いを掛けられる。
狐はあと1年で大きな地震が起こると告げ姿を消した。
みたいな、お話です。
BUZZER OF YOUTH
Satoshi
青春
BUZZER OF YOUTH
略してBOY
この物語はバスケットボール、主に高校~大学バスケを扱います。
主人公である北条 涼真は中学で名を馳せたプレイヤー。彼とその仲間とが高校に入学して高校バスケに青春を捧ぐ様を描いていきます。
実は、小説を書くのはこれが初めてで、そして最後になってしまうかもしれませんが
拙いながらも頑張って更新します。
最初は高校バスケを、欲をいえばやがて話の中心にいる彼らが大学、その先まで書けたらいいなと思っております。
長編になると思いますが、最後までお付き合いいただければこれに勝る喜びはありません。
コメントなどもお待ちしておりますが、あくまで自己満足で書いているものなので他の方などが不快になるようなコメントはご遠慮願います。
応援コメント、「こうした方が…」という要望は大歓迎です。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などには、名前のモデルこそ(遊び心程度では)あれど関係はございません。
【完結】桜色の思い出
竹内 晴
青春
この物語は、両思いだけどお互いにその気持ちを知らない幼なじみと、中学からの同級生2人を加えた4人の恋愛模様をフィクションで書いています。
舞台となるのは高校生活、2人の幼なじみの恋の行方とそれを取り巻く環境。
暖かくも切ない恋の物語です。
アイドルと七人の子羊たち
くぼう無学
青春
数多くのスターを輩出する 名門、リボルチオーネ高等学校。この学校には、『シャンデリア・ナイト』と呼ばれる、伝統行事があって、その行事とは、世界最大のシャンデリアの下で、世界最高のパフォーマンスを演じた学生たちが、次々に芸能界へ羽ばたいて行くという、夢の舞台。しかしその栄光の影で、この行事を開催できなかったクラスには、一切卒業を認めないという、厳しい校則もあった。金田たち三年C組は、開校以来 類を見ない落ちこぼれのクラスで、三年になった時点で この行事の開催の目途さえ立っていなかった。留年か、自主退学か、すでにあきらめモードのC組に 突如、人気絶頂 アイドル『倉木アイス』が、八木里子という架空の人物に扮して転校して来た。倉木の大ファンの金田は、その変装を見破れず、彼女をただの転校生として見ていた。そんな中 突然、校長からこの伝統行事の実行委員長に任命された金田は、同じく副委員長に任命された転校生と共に、しぶしぶシャンデリア・ナイト実行委員会を開くのだが、案の定、参加するクラスメートはほとんど無し。その場を冷笑して立ち去る九条修二郎。残された時間はあと一年、果たして金田は、開催をボイコットするクラスメートを説得し、卒業式までにシャンデリア・ナイトを開催できるのだろうか。そして、倉木アイスがこのクラスに転校して来た本当の理由とは。
瑠壱は智を呼ぶ
蒼風
青春
☆前作「朱に交われば紅くなる」読者の方へ☆
本作は、自著「朱に交われば紅くなる」シリーズの設定を引き継ぎ、細部を見直し、リライトする半分新作となっております。
一部キャラクター名や、設定が変更となっておりますが、予めご了承ください。
詳細は「はじめに」の「「朱に交われば紅くなる」シリーズの読者様へ」をご覧ください。
□あらすじ□
今思い返せば、一目惚れだったのかもしれない。
夏休み。赤点を取り、補習に来ていた瑠壱(るい)は、空き教室で歌の練習をする一人の女子生徒を目撃する。
山科沙智(やましな・さち)
同じクラスだ、ということ以外、何一つ知らない、言葉を交わしたこともない相手。そんな彼女について、瑠壱にはひとつだけ、確信していることがあった。
彼女は“あの”人気声優・月見里朱灯(やまなし・あかり)なのだと。
今思い返せば、初恋だったのかもしれない。
小学生の頃。瑠壱は幼馴染とひとつの約束をした。それは「将来二人で漫画家になること」。その担当はどちらがどちらでもいい。なんだったら二人で話を考えて、二人で絵を描いてもいい。そんな夢を語り合った。
佐藤智花(さとう・ともか)
中学校進学を機に疎遠となっていた彼女は、いつのまにかちょっと有名な絵師となっていた。
高校三年生。このまま交わることなく卒業し、淡い思い出として胸の奥底にしまわれていくものだとばかり思っていた。
しかし、事は動き出した。
沙智は、「友達が欲しい」という話を学生相談室に持ち込み、あれよあれよという間に瑠壱と友達になった。
智花は、瑠壱が沙智という「女友達」を得たことを快く思わず、ちょっかいをかけるようになった。
決して交わるはずの無かった三人が交わったことで、瑠壱を取り巻く人間関係は大きく変化をしていく。そんな彼の元に生徒会長・冷泉千秋(れいせん・ちあき)が現れて……?
拗らせ系ラブコメディー、開幕!
□更新情報□
・基本的に毎日0時に更新予定です。
□関連作品□
・朱に交われば紅くなるのコレクション(URL: https://kakuyomu.jp/users/soufu3414/collections/16816452219403472078)
本作の原型である「朱に交われば紅くなる」シリーズを纏めたコレクションです。
(最終更新日:2021/06/08)
美少女にフラれたらなぜかダウジング伊達メガネ女子が彼女になりました!?〜冴えない俺と彼女と俺をフった美少女の謎の三角な関係〜
かねさわ巧
青春
まてまてまて! 身体が入れ替わっているってどういうことだよ!? 告白した美少女は俺の好きになった子じゃなかったってこと? それじゃあ俺の好きになった子ってどっち?? 謎のダウジングから始まった恋愛コメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる