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第二話 神様

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 私の名前は紙谷ユイ。
 前世ではとあるブラック企業に勤めていた独身オタクの会社員だった。

 ある日、私は勤務中に心臓発作を起こして死亡した。そして、目が覚めると真っ白な空間にいて、『神様』と名乗る少年と出会ったのだ。

 少年は、真っ白な髪と黄金の瞳を持ち、真っ白な服を着ていた。少年といったが、短く切りそろえた髪と一人称からそうかなと思っただけで、見ようによっては女の子のようにも見えた。
 そんな彼は、私と顔を合わせるなり「君には、僕が管理している世界を助けてほしいんだ」と告げてきた。

「それはつまり……私に異世界に転生して欲しいってことですか?」

「うん、そういうことだよ!」

 少年こと神様は、にこにこと笑いながら頷いた。

「僕の管理する世界に、これから大きな危機が訪れようとしているんだ。僕は立場上、どうしても介入ができない。でも、放っておけばここまで注意深く築き上げた人間たちの文明社会が崩壊を迎えるかもしれない。だから君に、僕の世界に転生して助けてほしいんだ」

「そりゃあ、このまま死ぬのは私も嫌ですし、転生させてくれるなら嬉しいですけれど……どうして私なんですか?」

「うん、それなんだけれどね。君、このゲームをずっと遊んでくれてただろう?」

 どこからか神様が取り出したのは、一本のゲームソフトだった。

 そのパッケージのイラストには、非常に覚えがある。
 それは、私が今までの人生で一番はまって、ずっとプレイしつづけていたゲームだったからだ。

「それは『ソード&ドラゴン』! どうしてあなたがそれを……」

「実はこのゲームは、僕がつくりだしたゲームなんだ」

「えっ!?」

「これは、僕の管理している世界を元にしたゲームなんだよ。だから、このゲームに出てくる地名や人物、魔法や武器は、僕の世界に実際に存在している。それに加えて、このゲームのストーリーも、これから僕の世界が実際にたどる運命なんだ」

「ソード&ドラゴンの世界が、実際に存在している……?」

「このゲームの世界や登場人物に愛着を持ってくれた人なら、僕の世界に転生してもうまくやってくれるし、きっと世界を良くしようと頑張ってくれると考えてね。そして、このゲームをプレイした人たちの中で君が一番情熱を注いで遊んでくれた」

 そう聞いた時、私の脳裏には真っ先に、キャラクターの顔が思い浮かんだ。

「じゃ、じゃあ転生すれば『牙の団』のみんなを実際に見ることができるってことですか!? ロックスにリア、ユーグ、シオンを生で見られる!?」

「え、誰だっけそれ?」

「はぁ!?」

 神様の困惑した顔に、私は思わずキレ気味に声を荒げた。

「誰だっけじゃないですよ!? ゲームの序盤に登場する『牙の団』ですよ! 初めて冒険者ギルドにきた主人公に、言いがかりをつけてケンカを売る冒険者パーティーです!」

「あー! そういえばいたねぇ、そんなモブキャラ! でも、たしか彼らってCランク冒険者のパーティーで、しかもそのイベント、その後はSランク冒険者のウィリアムが主人公を助けてあげて『牙の団』はすごすごと引き下がるっていう展開だよね? え、彼らのなにがいいの……?」

「さ、最初の登場時は確かにそんな感じですけれど! いいところはいっぱりあります! 最期は町を守るために、みんなで命をかけて戦うじゃないですか!」

 そこまで言って、私ははたと気がついた。

「そうだ、『牙の団』の最期は……町を守るために死んじゃうんですよね。え、じゃあ私が転生しても『牙の団』のみんなは死んでるんですか……?」

「いや、それは大丈夫だよ。むしろ、君が頑張れば運命を回避することもできる」

 そう言って、神様は頼もしい笑みを見せた。

「君が転生するのは、時間軸的には主人公が町を訪れる半年前だ。ゲームで出てきたストーリーは、あの世界の運命をあらわしているが、君の頑張りで運命を変えることもできるはずだよ」

「私が、運命を変える……じゃあ、私が頑張ればゲームのストーリーのように『牙の団』のみんなが死ななくても済むってことですか!?」

「そうだよ。逆に言えば、君の選択肢によっては世界が破滅の道をたどる可能性もある。あのゲームにも、バッドエンドがいくつも出てきただろう? あの通りになることもあるし、もっとひどい結末を迎える可能性もある」

「…………」

「どうする、それでも転生するかい?」

 神様が小首をかしげながら尋ねてくる。
 けれど、もちろん私の答えは決まっていた。

「もちろん転生しますよ! だって、転生すれば『牙の団』のみんなを生で拝めるのは確定ですよね! じゃあ転生一択です!」

「いい返事だ。でも、なんでそこまであのCランク冒険者パーティーを気に入ってるのかなぁ。普通そこは主人公のクレアとかウィリアムじゃないの?」

 苦笑いを浮かべる神様。
 どうしてかと聞かれても、推しを好きな感情に理由なんてないし。
 ……まあ、理由はなくてもきっかけはあるけれど。

「とはいえ転生に前向きになってくれるのは何よりだ。あと、転生にあたってもう一つ注意してほしいんだけれど……」

「注意ですか?」

「実際に見てみれば分かると思うけれど、ゲームで出てきた『バグ』も実際にあの世界に発生するから気をつけけてね」

「えっ? それってどういう……?」

「高密度の魔力による磁場が形成されると、どうしても時空にゆがみが発生しちゃうんだよねぇ。で、その時空のひずみが、ゲーム用語で言う『壁すり抜けバグ』や『床下埋まりバグ』になるっていうわけ。すごく小規模な歪みだし、あの世界の人間はまだ誰も気づいてないから放っておいてるんだけれど」

「ちょっと待ってください。それって、たとえばバグで床の中に埋まったら、そのまま永遠に床の中にとじこめられるはめになるってことじゃ……」

「まあ、そういうことだね! でもあれだけゲームを一生懸命に遊んでくれた君ならうまくやれるでしょう! じゃあ、頑張ってね~! あ、あとせっかくだから転生後は君がキャラクリしてた外見にしておいてあげるね!」

「ちょっ、ちょっと待って!? いまの話もっと詳しく!?」

 だが、そう叫んだ時には私の視界は真っ白な光で包まれていた。

 こうして私は、この世界に転生することになったのである。
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