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痣
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その後、ロディはしばらくするとおれから身体を離して、夕食を作り始めた。
けれど家の中の空気はやっぱりどこかおかしくて、張り詰めた緊張感のようなものがあった。なんとかこの空気を変えたくて、「酒でも呑もうか?」と声をかけてみたものの、ロディは首を横にふるだけだった。
作ってもらった夕食は、ほうれん草に似た野菜と肉の炒めものに、昨日の残りのスープとパンだったが、味があるのかないのかよく分からなかった。味付けの問題ではなく、おれの気分の問題だろうが。
けれど、おかしな空気と相反して、ロディはおれの傍にいたがった。
いや、まぁ、狭い家なので、玄関から直通した台所以外には、寝室と浴室、厠ぐらいしかないのだから、どこに行きようもないんだけど。
そんな狭い家の中でさえ、おれが浴室に行った時はロディは落ち着きなく台所をうろうろしていたし、逆に、ロディが浴室に入った時はものの数分で出てきて真っ先におれのことを目で探した。そして、おれの姿を見ると、ものすごくホッとした表情になった。
……おれは、ロディのそんな顔を見ていると、胸がざわざわしてしょうがなかった。
ロディは、本当にどう思っているんだろう?
だってこのまま行けば、ロディはおれのせいで仕事を辞退する羽目になる。なのに、おれに対して恨み言一つこぼさないどころか、あんな風におれにすがってくる。
ロディにとっての今回の話は、ただの仕事というわけじゃない。
彼の行き詰まっている人生を変える転機、そのものなのに。
なのに……どうしておれのために、それを棒に振るような決断が出来るんだ? おれとロディの仲はまぁまぁ良好だとは思うし……まぁ、その。おれはロディのことが好きだよ、そりゃ。
どういう意味での好きなのかは、自分でもまだよく分かってないけど……少なくとも、おれが出来ることなら全部してあげたいぐらいには好きだと思うのだ。
……それなのに、現実は逆で。与えるどころか、今、彼の人生から一つの選択肢を奪おうとしてしまっている。
「……っ……」
おれは頭をがしがしと掻く。
あー、もう! これじゃロディのこと、煮え切らないとか言えないな!
いいや、今日はさっさと寝よう。夜中にあれこれ悩んだって、鬱々とするだけで、いいアイディアなんかちっとも思い浮かばない。自分でロディにも言った通り、まだ返事を出すまでの猶予はあるんだし。
おれは洗い終わった食器を戸棚に片付け終えると、ロディに「おやすみ」と告げ、おれ用のベッド――まぁ、古びた木箱に毛布を詰めただけのシロモノなんだけど――猫ベッドに行こうとした。
が、不意に手が伸びてきて、おれの手首をぱしりと掴んだのだった。
「ん? どうした、ロディ」
「……今日は、しないのか?」
…………はい?
「治療、してくれるんだろう……?」
ロディがちょっと気恥ずかしそうに、しかし、それとは裏腹におれの手首を掴む力をまったく緩めずに尋ねてくる。思わず、『この空気の中でそれ聞く!?』と聞き返しそうになったが、すんでのところで堪えた。
「あー……えっと、ロディは今日もやっても大丈夫?」
今日は流石にこの空気じゃちょっと、とは思ったものの、もじもじとして顔を真っ赤にさせているロディにそんなことは言えなかった。そのため、なんだかとても間抜けな質問になってしまう。
ロディはおれの質問に、びくりと身体を震わせたものの、しばらくすると顔を林檎みたいに真っ赤にさせたまま、無言でこくりと頷いた。
だ、大丈夫なんだ。そっか……そっかー。
「……じゃあ、寝室に行こうか?」
おれの質問に、またも無言でこくりと頷いて、そのまま掴んだおれの手を引っ張るようにして、寝室に行くロディ。
その強引とも言える性急さで、なんとなく分かった。
多分、ロディは治療とか射精がしたいというわけじゃないのだ。きっとこれは、先程の延長線だ。
ロディは先程のおれとの言い合いから、ずっと精神的に不安定な様子だった。おれが自分の視界からいなくなるのを厭い、おれの傍にいたがるような行動をずっと見せていた。
このままおれが台所の猫ベッドで就寝し、ロディが寝室に行ってしまえば、お互い別々の部屋にいることになる。きっとそれが嫌だから、自分から治療行為のことを言い出したのだ。
おれはロディと寝室に入ると、後ろ手でドアを閉めた。そしてちょっと考えてみる。
……つまり、ロディがおれと離れるのが嫌でこの治療行為を言い出したのなら、別にそういった行為を実践する必要はないのでは?
例えば、一緒のベッドで眠るだけでもいいんじゃないだろうか。
「なぁ、ロディ」
「なんだ?」
ロディがピンク色に染まったままの顔をおれに向ける。
「今日は別に治療はしなくてもいいんじゃないのか? 例えば、ベッドで一緒に眠るとかは?」
そう聞いた途端、ロディの紅潮していた顔が見る見る内に真っ白になった。
「っ……クロが、したくないならそれでも構わない。そうだな、先程のこともあるし、君も今日は疲れているよな。すまなかっ……」
「いやいや今のは試しに聞いてみただけでね!? おれはもうめちゃくちゃノリノリなんだけど、ロディが疲れてるかなぁと思ってさ!」
「……そうなのか? なら別に、俺は疲れてはいないが……」
あ、あぶねぇーーーー!
また間違えるところだったよ! やらかしが多いな今日のおれは!
「そう。ならやろうぜ、うんうん」
「そうか、よかった」
安堵したように微笑むロディ。けれど、やっぱり今日の笑みには傷つきやすい陰りがあった。
宅配便だったら『壊れ物注意』の張り紙が必須だな。今日は、ことさら丁寧に優しく扱う必要がありそうだ。
こうなればもう腹を括って、おれはベッドに腰を下ろすとロディにもベッドに来るように手招きした。
ロディはおれの手招きに素直に従って、ベッドの上に上がってくる。そして、ベッドに腰掛けると、今日は自分でボタンに指をかけてシャツを脱ぎ始めた。
その真面目で真剣な表情を見る限り、おれを誘っているわけではなく、ただ単純にこの治療行為には服を脱ぐことが必須だと信じているからのようだ。まぁ、もしかすると、おれがいつもベッドから床に服を放り投げるので、それが実は腹に据えかねていたという可能性もあるが。
ロディをただ見ているだけなのもなんなので、おれも自分のシャツを脱ぐ。下を脱ごうかどうしようかと迷っていたところで、「あ……」と小さな声が聞こえた。
「その痣……」
「え? 痣?」
ロディがなぜか顔を青くしておれを見つめている。
なんだろう、と自分の身体を見回してその理由がわかった。先程、ロディに掴まれた両肩だ。
場所が場所なので全体像はよく見えないが、そこには指の形がくっきりと分かるぐらいに青紫色に内出血を起こしていた。
「っ……俺のせいだな、すまない……」
「まぁ、大した怪我でもないから気にするなって。それに、謝られるとおれの男としての立場がないじゃん」
軽口を叩いてあははと笑ってみせるが、ロディは申し訳無さそうな表情でじっとおれの両肩の痣を見つめている。
そして、おれの両痣を注視したまま、ロディは身体をおれに寄せてきた。
「ロディ? ……んっ!?」
おれの肩口にロディが顔を寄せたと思ったら、そこにぬるりと何かが這う感触がした。
えっ、ちょっ、待っ……!?
ちょちょちょっ、コレ、何が起きてるの!?
「っ……ぁ、ロディ……?」
ロディはおれの肩の青痣をなぞるように、そこを舌で舐めていた。
思わず身体を後退させようとするも、ロディがいつの間にかおれの身体に腕を回している。しばらくしてロディは身体をどかしてくれたけれど、それは結局、おれを解放してくれるものじゃなかった。
今度は、反対側の肩に顔を埋めて、そこも同じように舌を這わされる。
「あっ……あの、ロディ? んっ、いやまぁ、確かに野生の獣とか舐めて傷を治すけど……ん、ぅ」
柔らかい皮膚に舌が這う感触と、ロディの髪の毛がおれの顎や頬にあたることのくすぐったさで、どうにもおかしな気分になってくる。
……っ、これはやばい。ちょっと前の治療行為の時でさえけっこう限界だったのに、ロディからこんなことされるとか、とんでもなくやばい。
で、でも……この状況でロディを拒否なんてしたら、どんな優しい言い方をしたってまた傷つきそうな気がするし……!
結局、おれはどうにも出来ないままに、されるがままの状態でいるしかなかった。
満足したのか、ロディがようやくおれを解放してくれた頃には、おれはすっかり自分がビーフジャーキーにでもなったような気分だった。それともこの場合、キャットジャーキーでいいのか?
「……っ、ロディ?」
「驚いたな」
「なにが?」
「君でも赤くなったりするんだな。いつも余裕そうに見えるから」
誰のせいだよ、と拗ねてみせようかと思ったが、なんだか正面のロディがあんまりにも嬉しそうな顔なので、ぐっと言葉に詰まった。
あー……もう。ったく、よく分からないけど、まぁ、おれのご主人様が楽しかったのならいいか。
「それに、こっちも」
「っ!?」
やっぱり前言撤回!
そ、そこは良くない。ご主人様でもそこは許しがたいぞ!
「どこ触ってるんだよ」
「でも、反応してる」
「あー……いや、それはホラ、男の生理現象というか」
ロディはおれのズボン越しに、優しく股間をなぞってくる。触られるまで意識していなかったそこは、確かに先程のロディの愛撫染みた行為によって確かに反応を示していた。
「でも、この前は触ってないのに反応していただろう?」
「この前……? えっ、もしかしてそれって前回の治療の時?」
おれが尋ねると、ロディはこくりと頷いた。
……どうやら、今の今までおれは完全に自身の勃起現象を隠し通せていたと思っていたが、目の前の相手はばっちり気づいていたらしい。
ロディは冷や汗をだらだら流すおれに対し、少し頬を染めながら恥ずかしそうにしている。だが、おれの股間から触れた指は退かせようとしない。
「いつも、俺ばかり君に気持ちよくしてもらって申し訳ないと思っていたんだ」
「それはお気遣いどうも」
お気持ちだけでけっこうです、とは言い出せない雰囲気だった。
「その、だから……俺も君に触れてみたい。いいだろうか?」
じっと真っ直ぐにおれを見つめてくるターコイズブルーの瞳。
悲しいかな。この眩しいぐらいのひたむきさにノーと言えるぐらいなら、おれは忠実なペットなんてやっていないのであった。
けれど家の中の空気はやっぱりどこかおかしくて、張り詰めた緊張感のようなものがあった。なんとかこの空気を変えたくて、「酒でも呑もうか?」と声をかけてみたものの、ロディは首を横にふるだけだった。
作ってもらった夕食は、ほうれん草に似た野菜と肉の炒めものに、昨日の残りのスープとパンだったが、味があるのかないのかよく分からなかった。味付けの問題ではなく、おれの気分の問題だろうが。
けれど、おかしな空気と相反して、ロディはおれの傍にいたがった。
いや、まぁ、狭い家なので、玄関から直通した台所以外には、寝室と浴室、厠ぐらいしかないのだから、どこに行きようもないんだけど。
そんな狭い家の中でさえ、おれが浴室に行った時はロディは落ち着きなく台所をうろうろしていたし、逆に、ロディが浴室に入った時はものの数分で出てきて真っ先におれのことを目で探した。そして、おれの姿を見ると、ものすごくホッとした表情になった。
……おれは、ロディのそんな顔を見ていると、胸がざわざわしてしょうがなかった。
ロディは、本当にどう思っているんだろう?
だってこのまま行けば、ロディはおれのせいで仕事を辞退する羽目になる。なのに、おれに対して恨み言一つこぼさないどころか、あんな風におれにすがってくる。
ロディにとっての今回の話は、ただの仕事というわけじゃない。
彼の行き詰まっている人生を変える転機、そのものなのに。
なのに……どうしておれのために、それを棒に振るような決断が出来るんだ? おれとロディの仲はまぁまぁ良好だとは思うし……まぁ、その。おれはロディのことが好きだよ、そりゃ。
どういう意味での好きなのかは、自分でもまだよく分かってないけど……少なくとも、おれが出来ることなら全部してあげたいぐらいには好きだと思うのだ。
……それなのに、現実は逆で。与えるどころか、今、彼の人生から一つの選択肢を奪おうとしてしまっている。
「……っ……」
おれは頭をがしがしと掻く。
あー、もう! これじゃロディのこと、煮え切らないとか言えないな!
いいや、今日はさっさと寝よう。夜中にあれこれ悩んだって、鬱々とするだけで、いいアイディアなんかちっとも思い浮かばない。自分でロディにも言った通り、まだ返事を出すまでの猶予はあるんだし。
おれは洗い終わった食器を戸棚に片付け終えると、ロディに「おやすみ」と告げ、おれ用のベッド――まぁ、古びた木箱に毛布を詰めただけのシロモノなんだけど――猫ベッドに行こうとした。
が、不意に手が伸びてきて、おれの手首をぱしりと掴んだのだった。
「ん? どうした、ロディ」
「……今日は、しないのか?」
…………はい?
「治療、してくれるんだろう……?」
ロディがちょっと気恥ずかしそうに、しかし、それとは裏腹におれの手首を掴む力をまったく緩めずに尋ねてくる。思わず、『この空気の中でそれ聞く!?』と聞き返しそうになったが、すんでのところで堪えた。
「あー……えっと、ロディは今日もやっても大丈夫?」
今日は流石にこの空気じゃちょっと、とは思ったものの、もじもじとして顔を真っ赤にさせているロディにそんなことは言えなかった。そのため、なんだかとても間抜けな質問になってしまう。
ロディはおれの質問に、びくりと身体を震わせたものの、しばらくすると顔を林檎みたいに真っ赤にさせたまま、無言でこくりと頷いた。
だ、大丈夫なんだ。そっか……そっかー。
「……じゃあ、寝室に行こうか?」
おれの質問に、またも無言でこくりと頷いて、そのまま掴んだおれの手を引っ張るようにして、寝室に行くロディ。
その強引とも言える性急さで、なんとなく分かった。
多分、ロディは治療とか射精がしたいというわけじゃないのだ。きっとこれは、先程の延長線だ。
ロディは先程のおれとの言い合いから、ずっと精神的に不安定な様子だった。おれが自分の視界からいなくなるのを厭い、おれの傍にいたがるような行動をずっと見せていた。
このままおれが台所の猫ベッドで就寝し、ロディが寝室に行ってしまえば、お互い別々の部屋にいることになる。きっとそれが嫌だから、自分から治療行為のことを言い出したのだ。
おれはロディと寝室に入ると、後ろ手でドアを閉めた。そしてちょっと考えてみる。
……つまり、ロディがおれと離れるのが嫌でこの治療行為を言い出したのなら、別にそういった行為を実践する必要はないのでは?
例えば、一緒のベッドで眠るだけでもいいんじゃないだろうか。
「なぁ、ロディ」
「なんだ?」
ロディがピンク色に染まったままの顔をおれに向ける。
「今日は別に治療はしなくてもいいんじゃないのか? 例えば、ベッドで一緒に眠るとかは?」
そう聞いた途端、ロディの紅潮していた顔が見る見る内に真っ白になった。
「っ……クロが、したくないならそれでも構わない。そうだな、先程のこともあるし、君も今日は疲れているよな。すまなかっ……」
「いやいや今のは試しに聞いてみただけでね!? おれはもうめちゃくちゃノリノリなんだけど、ロディが疲れてるかなぁと思ってさ!」
「……そうなのか? なら別に、俺は疲れてはいないが……」
あ、あぶねぇーーーー!
また間違えるところだったよ! やらかしが多いな今日のおれは!
「そう。ならやろうぜ、うんうん」
「そうか、よかった」
安堵したように微笑むロディ。けれど、やっぱり今日の笑みには傷つきやすい陰りがあった。
宅配便だったら『壊れ物注意』の張り紙が必須だな。今日は、ことさら丁寧に優しく扱う必要がありそうだ。
こうなればもう腹を括って、おれはベッドに腰を下ろすとロディにもベッドに来るように手招きした。
ロディはおれの手招きに素直に従って、ベッドの上に上がってくる。そして、ベッドに腰掛けると、今日は自分でボタンに指をかけてシャツを脱ぎ始めた。
その真面目で真剣な表情を見る限り、おれを誘っているわけではなく、ただ単純にこの治療行為には服を脱ぐことが必須だと信じているからのようだ。まぁ、もしかすると、おれがいつもベッドから床に服を放り投げるので、それが実は腹に据えかねていたという可能性もあるが。
ロディをただ見ているだけなのもなんなので、おれも自分のシャツを脱ぐ。下を脱ごうかどうしようかと迷っていたところで、「あ……」と小さな声が聞こえた。
「その痣……」
「え? 痣?」
ロディがなぜか顔を青くしておれを見つめている。
なんだろう、と自分の身体を見回してその理由がわかった。先程、ロディに掴まれた両肩だ。
場所が場所なので全体像はよく見えないが、そこには指の形がくっきりと分かるぐらいに青紫色に内出血を起こしていた。
「っ……俺のせいだな、すまない……」
「まぁ、大した怪我でもないから気にするなって。それに、謝られるとおれの男としての立場がないじゃん」
軽口を叩いてあははと笑ってみせるが、ロディは申し訳無さそうな表情でじっとおれの両肩の痣を見つめている。
そして、おれの両痣を注視したまま、ロディは身体をおれに寄せてきた。
「ロディ? ……んっ!?」
おれの肩口にロディが顔を寄せたと思ったら、そこにぬるりと何かが這う感触がした。
えっ、ちょっ、待っ……!?
ちょちょちょっ、コレ、何が起きてるの!?
「っ……ぁ、ロディ……?」
ロディはおれの肩の青痣をなぞるように、そこを舌で舐めていた。
思わず身体を後退させようとするも、ロディがいつの間にかおれの身体に腕を回している。しばらくしてロディは身体をどかしてくれたけれど、それは結局、おれを解放してくれるものじゃなかった。
今度は、反対側の肩に顔を埋めて、そこも同じように舌を這わされる。
「あっ……あの、ロディ? んっ、いやまぁ、確かに野生の獣とか舐めて傷を治すけど……ん、ぅ」
柔らかい皮膚に舌が這う感触と、ロディの髪の毛がおれの顎や頬にあたることのくすぐったさで、どうにもおかしな気分になってくる。
……っ、これはやばい。ちょっと前の治療行為の時でさえけっこう限界だったのに、ロディからこんなことされるとか、とんでもなくやばい。
で、でも……この状況でロディを拒否なんてしたら、どんな優しい言い方をしたってまた傷つきそうな気がするし……!
結局、おれはどうにも出来ないままに、されるがままの状態でいるしかなかった。
満足したのか、ロディがようやくおれを解放してくれた頃には、おれはすっかり自分がビーフジャーキーにでもなったような気分だった。それともこの場合、キャットジャーキーでいいのか?
「……っ、ロディ?」
「驚いたな」
「なにが?」
「君でも赤くなったりするんだな。いつも余裕そうに見えるから」
誰のせいだよ、と拗ねてみせようかと思ったが、なんだか正面のロディがあんまりにも嬉しそうな顔なので、ぐっと言葉に詰まった。
あー……もう。ったく、よく分からないけど、まぁ、おれのご主人様が楽しかったのならいいか。
「それに、こっちも」
「っ!?」
やっぱり前言撤回!
そ、そこは良くない。ご主人様でもそこは許しがたいぞ!
「どこ触ってるんだよ」
「でも、反応してる」
「あー……いや、それはホラ、男の生理現象というか」
ロディはおれのズボン越しに、優しく股間をなぞってくる。触られるまで意識していなかったそこは、確かに先程のロディの愛撫染みた行為によって確かに反応を示していた。
「でも、この前は触ってないのに反応していただろう?」
「この前……? えっ、もしかしてそれって前回の治療の時?」
おれが尋ねると、ロディはこくりと頷いた。
……どうやら、今の今までおれは完全に自身の勃起現象を隠し通せていたと思っていたが、目の前の相手はばっちり気づいていたらしい。
ロディは冷や汗をだらだら流すおれに対し、少し頬を染めながら恥ずかしそうにしている。だが、おれの股間から触れた指は退かせようとしない。
「いつも、俺ばかり君に気持ちよくしてもらって申し訳ないと思っていたんだ」
「それはお気遣いどうも」
お気持ちだけでけっこうです、とは言い出せない雰囲気だった。
「その、だから……俺も君に触れてみたい。いいだろうか?」
じっと真っ直ぐにおれを見つめてくるターコイズブルーの瞳。
悲しいかな。この眩しいぐらいのひたむきさにノーと言えるぐらいなら、おれは忠実なペットなんてやっていないのであった。
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