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ご褒美

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「ちょ……っ、アレク。マジでやるの? 本当に?」
「ここまで来てどうしたの?」

おれとアレクは、先ほどの部屋から扉一枚隔てた先の寝室にいた。

部屋のカーテンは締め切っており、ランプの明かりをつけていない部屋はひっそりと薄暗い。
なぜかミドロさんの手配してくれた部屋はダブルで、寝室には大きなダブルベッドが一つ置いてあるだけだった。木製の寝台は元の世界と比べると少し硬くて、男二人で乗るとギシリと軋んだ音が響く。

……そう。つまりおれとアレクは、二人で今、同じベッドの上に乗っているのだ。

しかも、おれがベッドの上で寝そべって、アレクがその上に伸し掛かっている状態だ。

「ほ、本当にするのか…?」
「だってご主人ちゃんはオレにご褒美くれるんでしょ?」
「うっ!」

いまだに煮えきらず、ベッドの上でもじもじと所在なく身動ぎさせていると、アレクがおれの顔を覗き込んできた。そして、わざとらしい大仰な仕草でため息をついて見せる。

「あー、怖かったなー? 見ず知らずの人をモンスターから助けるのなんてオレ的にはどうでも良かったんだけど、ご主人ちゃんのたっての頼みだからやったんだけどなぁ?」
「う……」
「それにさっき、ご主人ちゃんは『自分にできる範囲なら何でもしてくれる』って言ってくれたじゃん?」
「うう……」

アレクの言うことに反論できない。
グレートウルフから冒険者の人達を守りたかったのはおれのワガママだ。アレクはそれを叶えてくれた。
そして、おれはアレクと約束したのだ。まぁ、ちょっと強引だった気もするけど……ともかく、アレクの働きに対して、おれはご褒美を上げると約束したのだ。
……さっき、おれも自分から「おれに出来る範囲なら何でもいい」って言っちゃったしなぁ。

でも、さすがにこれはどうなんだ?

本当にこれがアレクにとってのご褒美になるのか?
罰ゲームの間違いじゃなくて?

「わ、わかったよ……。でもおれなんかにやっても面白くないと思うし、テクニックとかないし、途中で嫌になってもおれの責任じゃないからな」
「ん?」

アレクがおれの言葉に不思議そうに首を傾げた。

「え、ご主人ちゃんって童貞なの?」

きょとんとした顔のアレクから放たれた言葉に、おれは自分の顔がみるみる内に真っ赤になったのが分かった。

「わ、悪かったな童貞で!」
「いや、俺としてはめちゃくちゃ嬉しいから大助かりなんだけど…でもなんで? だって、あんなにドギツイ同人誌描いてたのに」
「ど、童貞だからあんな内容の同人誌になるんだろ……恋人がいたり、結婚してたら寝取られモノなんか描けないって……」
「ああ、なるほど……」

日本刀を作ってる職人が人を斬り殺したことはないのと同じだ。
まぁ、おれはそんなに立派なものじゃないけどさ。

「じゃあご主人ちゃんに謝らないとねー」
「謝るって……なんで?」

アレクの意味不明な言葉に、今度はおれの方がきょとんと首を傾げた。
そんなおれに、アレクはとびっきり綺麗な笑顔を向けた。

「もうご主人ちゃんは一生、童貞だから。この先、ご主人ちゃんのココを誰か他の奴に使わせるつもりは一生ないもん」
「……っ」

低い声でそう囁かれた言葉は、甘い響きと正反対にとても酷い内容だった。
言葉と同時に指先で股間をズボン越しにするりと撫で上げられると、背筋をぞくぞくしたものが駆け抜ける。
声が漏れそうになって、あわてておれは右手で口元を抑える。それを見たアレクはおかしそうに喉の奥でくくっと笑った。

――『ご褒美になんでもくれるって言うなら、ご主人ちゃんとえっちしたい』

アレクから告げられたご褒美の内容は、おれのまったく予想外で、そしてとんでもないものだった。
そ、そりゃ確かに「おれにできる範囲でなら何でもしてやる」って約束はしたよ? でも、まさかそんなことを言われると思わないじゃん!
アレクの要求に対し、慌てたおれは勿論断った。けれど、

『えー。でも、ご主人ちゃんのできる範囲なら何でもしてくれるんじゃなかったの?』
『そ、それは……その……でも、いきなりそんな…』

駄目だ、絶対に無理。そもそも何でおれとそんなことがしたいと思うんだ?
や、やっぱり今までずっとアレクに頼りきりだったことが反感を買ってて、嫌がらせ目的でそんな風なことを言ってるのか?
でも一度約束した以上、やっぱり出来ないなんて言えないし……。

『んー……じゃあいいよ』
『えっ』

ぐるぐると思考がまとまらず混乱状態のおれを見かねたのか、不意にアレクがそんなことを言った。
でも、そんなにあっさりと引き下がってくれるとは思っていなかったので、おれの方が逆にびっくりしてしまう。

『そんなに嫌なら、えっちじゃなくてもいいよ』
『い、嫌ってわけじゃないんだけど……心の準備が出来てないっていうか』
『えっちじゃなくていいからさ、ご主人ちゃんの身体、俺に触らせてよ』
『……身体?』
『そう。セックスじゃなくて、俺がご主人ちゃんに触るだけ。ご主人ちゃんは何もしなくていいし、ただ寝転がってるだけでいいからさ。ね?』

アレクの水色の瞳が推し量るように、試すようにおれをじっと見つめる。

『……それでもダメ?』

ほんの少し寂しそうな表情でそう言われたら、もはや断る手段はおれにはなかった。

……けれど、今考えてみると、まんまとアレクの術中に嵌った気もする。
最初に難しい要求を出しておいて、次に自分の本命の要求を出す。一度譲歩してもらっている分、相手は断りにくくなる……。
ていうか今気付いたけどさ、その手口って、おれが同人誌でやってた脅迫系寝取りモノのストーリーラインとまったく一緒のパターンだな!? チャラ男系モブがそういう手練手管を用いてヒロインを脅迫してセックスにこぎつけるという流れとまったく一緒だ!? アレクはおれの創作物だからか? というかむしろ、その話のモブご本人がアレクなのか。
……やられる側になると、この手口の悪辣さが身にしみて分かるな……。

「はーい、ご主人ちゃん。バンザイして、バンザーイ」
「んっ……」
「はい、よく出来ました!」

ベッドに至るまでの経緯を思い返している間に、アレクはテキパキとおれの服を脱がしていった。
あっという間に、おれの着ていたシャツやズボン、下着までもが剥かれ、何も身につけていない全裸の状態になってしまう。
一気に心もとなくなったおれは、恥ずかしさと居たたまれなさで顔を逸らした。

「恥ずかしい?」
「そ、そりゃそうだろ……」
「ふふっ。恥ずかしがってるご主人ちゃんも可愛い」
「なに言って……んっ!」

アレクの掌が、おれの身体に触れた。
初めはお腹に触れた掌は、そこから身体の輪郭をなぞり、確かめるようにしてゆっくりと這い回る。他人の手が素肌に触れるなんてことは初めてだったけれど、でも、思ったよりも嫌な気分じゃなかった。緊張をほぐすためか、マッサージに近い動きでゆっくりと掌が触れてくるのは心地良いぐらいでもある。

「っ……!」

が、アレクの指先がおれの胸に触れてくると、途端に空気が変わった。
指先が乳首をかすめた感触は、軽く接触しただけにもかかわらず、一気に全身が粟立った。
そして、指の腹で乳首を揉むように触られると、思わずびくりと身体が跳ねる。

「ここ、どう?」
「どうっていうか……べ、別に……」
「ふぅん? じゃあ、もっと強くしても平気だね」

おれの強がりなんか分かっていただろうに、アレクはにやりと意地悪気な笑みを浮かべると、おれの胸に顔を近づけた。
何をするのかと聞くよりも前に、舌のぬるりとした感触が右の乳首を包み込む。

「ひゃっ……!?」

まるで犬が骨をしゃぶるみたいに、アレクが乳首にしゃぶりつく。
乳輪をすっぽりと口に含んだかと思うと、口腔内に含んだ乳首の先っぽを舌でつつく。
おれは約束のことも忘れて、胸に顔を埋めるアレクの頭を掴んだ。けれど、乳首の尖端を舌先でツンツンと小突かれると、手に力が入らなくなる。

「ぁ、やだ、ま、待ってアレクっ……!」
「ふぁい?」
「っ! く、咥えたまま、喋るなっ……んぅッ……」

なんだこれ。た、確かにアレクはおれの身体を触りたいって言って、おれもそれに承諾して。アレクの言ってる触りたいっていうのが、セクシャルな意味での触れ合いだっていうのは分かってたけど……。こ、こんなの聞いてない! 
こんなに気持ち良くて、こんなに恥ずかしい目にあうとか、全然おれは聞いてないぞ!?

パニック状態のおれに構わず、アレクの生温かい舌は悠然と動き続ける。
それから10分くらいだろうか。おれの右の乳首はアレクの口腔内で突かれ、もみしだかれ、食まれ続けたため、解放された時にはすっかり固く勃ち上がっていた。
そんなおれの乳首と、顔を真っ赤にして半泣き状態になったおれを、アレクがこれ以上ない満足そうな笑顔で見下ろす。

「ふふっ、ご主人ちゃんの乳首。すっかりコリコリになって大きくなったねぇ」
「ぁ、アレク……」

アレクの言う通り、おれの乳首は右側だけがすっかり赤く充血して、ぴんと張り詰めてその存在を主張していた。反対側のつつましい乳首と比べれば、その違いは明らかだ。

「バランスよく両方とも育てるのもいいけどさ、このまま片方だけいやらしい乳首に育てて、左右で違いを楽しむのもいいよね。ご主人ちゃんはどっちがいい?」
「ど、どっちって……」
「片方だけ育てれば、ご主人ちゃんもますます俺以外の人とはえっちできなくなるし。それどころか、人前で服も脱げなくなるよね。いいことずくめじゃない?」

ぎょっとして、信じられない気持ちでアレクを見上げる。
アレクは、冗談とも本気ともつかないうっとりとした顔でおれを見下ろしながら、今度は反対側の乳首にそっと指を触れさせた。

「まぁ、今日は初めてだしせっかくだから両方とも育ててあげるね。俺もご主人ちゃんの乳首、両方とも触ってあげたいしー」
「ひぁっ!」

アレクの人差し指と親指が、今度は左の乳首をつまみ、そのまま量の指をこすり合わせるようにして乳首を揉みしだいてくる。
卑猥に蠢く指先に、そちらの乳首までもがすぐに固く張り詰めだしたのが自分でも分かった。

「ぁ、そこやだ、アレク……っ、もう、おれ……ん、あァッ!」
「大丈夫だよ。ご主人ちゃんは何もしなくていいし、寝っ転がっているだけでいいからさ。俺が好きなように触るから、気持ちよくなってくれてるだけでいいからね」

どう考えても、何も大丈夫じゃない……!

というかその言い草だと、まだこの先も触るつもりなのか!?
おれ、今のこの状況だけでもうイッパイイッパイなんですけど……!?
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