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約束
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アレクと街道を歩くこと一時間。アレクはまだまだ余裕そうだったが、インドア派なおれは足が疲れてきてしまった。
それに目ざとく気がついたアレクに休憩を提案された、その時だった。アレクがふっと、顔を街道の先に見据えて前方を睨むように見据えたのだった。
「アレク? どうかしたか」
「……人の声が聞こえた。悲鳴っぽい感じの声と、あと、犬の吠え声みたいなのも」
「えっ!?」
おれは慌ててアレクが見据える前方を見る。確かに耳をそばだててみると、人の声のようなものが聞こえてきた。
「人がいるのかも! 行ってみよう、アレク」
「あっ、ご主人ちゃん!」
駆け出したおれを引き留めるような声をアレクが上げるも、おれの足は止まらなかった。
とは言え、インドア系のオタクの体力なんてたかが知れている。おれは走り始めてすぐに息が切れ、後からやってきたアレクにあっさりと追いつかれることになった。
「もう、ご主人ちゃん。眷属を置いていこうとしないでよ、護衛の意味がないじゃん」
「ご、ごめん……」
ぜぇぜぇと息をしつつ足を止めたおれの背中を、アレクが優しく掌でさすってくれる。
……見た目はアレだけど、本当にいいヤツだよなぁコイツ……。
どうにか呼吸を整えて顔を上げると、アレクが苦笑いしながら「ゆっくり行こうね。大丈夫だよ、すぐにはあちらさんも逃げられないだろうから」と告げてきた。
子供を宥めるような口調に、恥ずかしさで顔が赤くなる。
赤くなった頬を隠すように俯いて頷きつつ、おれはふと、アレクの言葉に疑問を抱いた。
逃げられないって……いや、確かにおれが焦って走り出した理由は、「声の人たちがどこかに行ってしまうかも!」と思ったからだけれど。でも、逃げるってのは変な表現じゃないか?
だが――おれとアレクが揃って声のした方向へ歩き出すと、その言葉の意味が分かった。
「なっ……!」
おれとアレクが見たのは、木々の隙間から見える街道。数メートルほど離れた場所に停車している馬車だった。
しかし、ただ停車しているわけではない。
馬車の回りには5、6匹の狼に取り囲まれていた。狼の体躯はかなり大きく、一番大きい個体でゆうに2メートルほどはあるだろう。
その狼たちは馬車に繋がれている二頭の馬を狙っているようだった。頭を低くして見上げるようにし、地響きのような唸り声を上げている。
そんな狼達と対峙するのは、革や鉄の鎧を身にまとい、手に鉄剣を携える5人の若者たちだった。しかし、状況は人間の方がかなり分が悪いようで、二名の若者が腕や背中からだらだらと血を零している。馬車の中に乗っている商人風の男性は、その様子を顔を青くして見つめていた。
「どっ、どうしようアレク!? あの馬車の人たち、苦戦してるみたいだ……!」
思いも寄らない光景に、涙目でおれは隣のアレクの袖を握った。
日本で暮らしていたおれは、狼どころか野犬すら見たことがない。そんな平和慣れしたおれにとって、野生動物に人間が襲われている光景は衝撃的だった。しかも、状況はかなり悪いようで、このままではあの馬車の人達は、狼達によって『突撃、お前を晩ごはん!』にされることは明確だ。
「あー、そうだね」
――が、アレクから返ってきたのは、思いもよらない声音だった。
平然としている……というより、むしろ興味がないといった風の声。
思わずアレクの顔を見上げる。水色の双眸は、心底どうでもいいといった様子で眼前の光景を眺めていた。
そこには何の感情も浮かんでいない。強がりとか、おれを心配させないためじゃなくて……本当に、あの人たちのことはどうでもいいらしい。
「ア、アレク?」
「うん? どうかした、ご主人ちゃん?」
「い、いや……その、馬車の人たち、このままだと」
アレクの態度に、自分の方がおかしいのかと自信がなくなる。
もごもごと口ごもるおれに、アレクは優しい笑顔を向けてきた。
「ああ、大丈夫だよ。ここなら風上だからあの狼達も臭いで俺らに気づくことはないから」
安心させるような、力強い声。
けれど、おれが聞きたいのはそういうことじゃない。
「いや、あの……このままだと、あの人達、殺されちゃうように見えるんだけど」
「そりゃそうだね」
「そりゃそうだね!?」
肩をすくめて言い放ったアレクのあっけらかんとした様子に、思わず突っ込みをいれてしまう。
「せっかくこの世界の人間と初コンタクトがとれるかなーって期待したんだけど。こんな結果になったのは残念だったねぇ」
「ざ、残念って……そんなあっさり」
「でも見た感じ、馬車の積荷はけっこうイイもんがあるみたいだし。オレらの軍資金が手に入ると考えればオッケーじゃん? 異世界人との遭遇はまた次の機会のお楽しみってことで!」
「ぐ、軍資金!?」
『次行こ次、気持ち切り替えてこー!』と言わんばかりの体育会系のノリであっさりと放たれた言葉に、おれは信じられない気持ちでアレクを見つめる。
な、なんでそんな風に言うんだ?
だって、アレクはさっきはあんなにおれに優しくしてくれて、めちゃくちゃイイ奴だと思ったのに……!
「そ、それって火事場泥棒じゃないのか?」
「うん、そうだよ?」
否定して欲しかった言葉は、アレクの満面の笑顔であっさりと肯定された。
思いがけない言葉に硬直したおれの頭を、アレクがにこにこと微笑みながら優しく撫でる。
「よかったー、街についても先立つものがないからどうしよっかなと思ってたんだけど。これでご主人ちゃんにひもじい思いをさせなくて済むね!」
アレクの笑顔は本物で、目の前の残酷な光景に対して強がりで言っているわけではなかった。罪悪感だって一欠片も浮かんでない。
それどころか、「運が良いね、さすがご主人ちゃん」と微笑む彼は、鼻歌を歌いだしそうなほどの上機嫌だった。
おれはアレクの笑顔を、信じられない気持ちで唖然と見上げる。
い……いや、そのさ。確かにさ、おれへの忠義や労りは伝わってくるよ?
おれの今後を真剣に思ってくれているっていうのも分かる。
で、でもさ。あの馬車の人達は……放っておけば、これから死んでしまうかもしれない。
だというのに、なんでそんなに明るい笑顔になれるんだ?
アレクにとって、あの人達の生き死にってどうでもいいことなのか? ここが異世界だから?
それとも、おれに気を使ってこんな言動を? いや、でも見た感じ、どうにも演技ではなく本気で言ってるよな……。
それとも、おれがおかしいのか?
ここは元いた世界、平和な日本じゃない。日本での尺度で物事を考えているおれの方が変なのか?
「……そうだよな。おれ達があの人達に出来ることもないもんな……おれらがあのオオカミと戦って、あの人達を助けることは出来ないし……。いや、それでも注意を引くとか、火で脅すとか出来ないのかな……」
「うん?」
混乱のあまり、気がつけば自分の考えが口に出てしまっていた。
そんなおれの言葉が聞こえたのか、アレクが不思議そうに水色の瞳でおれを見下ろしてくる。
「ご主人ちゃんはもしかして、あれを助けたいの?」
「え?」
アレクの言葉の意味が、一瞬よく分からなかった。
少しの間を置いて、おれはおずおずと頷く。
「う、うん……まぁ、出来ることなら助けたいよ」
「そうなんだ! じゃあオレ、行ってくるね」
「え!?」
一転。くるりと背を向けて、襲われている馬車の方向に駆け出そうとするアレク。
反射的にその背中にしがみつき、おれはアレクをなんとか止めた。
「アレク!? い、行くってどこに?」
「あれ、助けてくるよ。ご主人ちゃんはあの人らを助けたいんでしょ?」
「そ、それはそうだけど……どうやって助けるつもりなんだ? あの人達を助けるためにアレクが傷ついたり、死んだりするのは駄目だぞ!? 自分の身を犠牲にしてあの人たちを助けたいっていうんなら反対だからな!?」
先程の発言にはビックリしたものの、でも、それを差し引いてもアレクはいい奴だ。
おれのために果物を探してきてくれて、歩いてる時だっておれのペースに合わせてくれて。こんなおれに気を遣って、優しくしてくれる。
あの人達を助けたいという気持ちはあるが、そのためにアレクが怪我をしたり、死んでしまうのは嫌だった。
まぁ、外見がすっごいチャラい感じのイケメンだから、まだ苦手意識はちょびっとあるんだけど。
アレクは背中にしがみついたおれを首だけで振り返って見下ろす。
きょとんとしていた彼は、しかし、見る見るうちに破顔した。
「大丈夫だよ、ご主人ちゃん! あんなオオカミぐらいなら、神様から戦闘能力で何とかなりそうだしさ」
「戦闘能力……?」
「うん!」
そういえば神様が、おれの眷属におれを護衛させるための力を与えておく、って言ってたっけ。
でも、アレクは武器だって持っていないし、素手でオオカミ共がどうにか出来るわけがない。
「安心して、ご主人ちゃん」
身体を反転させたアレクは、おれの手を包み込むようにぎゅっと握った。
「ご主人ちゃんを庇うとかならともかく、あんなヤツらを助けるために怪我なんかするつもりはないから安心して。オレがご主人ちゃんを置いて死んだりとか、それもマジないし」
「で、でも……」
「大丈夫! オレ、ご主人ちゃん以外の人とかマジでどうでもいいから! ちょっとでも危なくなったら見殺しにしてくるよ!」
おれを安心させるためなのか、満面の笑顔でそう告げたアレク。
……いや。あの、そんなことをめちゃくちゃイイ笑顔で言い切るのはどうなんだろう?
「じゃ、いってきまーす!」
おれの手をやんわりと解くと、アレクは再び馬車に向かって駆け出していった。
かと思えば、途中でぴたりと足を止めて、くるりと振り返って片手を上げる。
「あっ。ちゃんと助けられたら、俺にご褒美ちょうだいね」
「はっ!? ご、ご褒美……?」
「うん、約束ね!」
しかし、戸惑うおれの返事を待たずに、アレクは再び馬車に向かって駆け出していったのだった。
……ご褒美って、何を上げればいいんだろう。
お小遣いとか? おれ、無一文なんだけどな……。
それに目ざとく気がついたアレクに休憩を提案された、その時だった。アレクがふっと、顔を街道の先に見据えて前方を睨むように見据えたのだった。
「アレク? どうかしたか」
「……人の声が聞こえた。悲鳴っぽい感じの声と、あと、犬の吠え声みたいなのも」
「えっ!?」
おれは慌ててアレクが見据える前方を見る。確かに耳をそばだててみると、人の声のようなものが聞こえてきた。
「人がいるのかも! 行ってみよう、アレク」
「あっ、ご主人ちゃん!」
駆け出したおれを引き留めるような声をアレクが上げるも、おれの足は止まらなかった。
とは言え、インドア系のオタクの体力なんてたかが知れている。おれは走り始めてすぐに息が切れ、後からやってきたアレクにあっさりと追いつかれることになった。
「もう、ご主人ちゃん。眷属を置いていこうとしないでよ、護衛の意味がないじゃん」
「ご、ごめん……」
ぜぇぜぇと息をしつつ足を止めたおれの背中を、アレクが優しく掌でさすってくれる。
……見た目はアレだけど、本当にいいヤツだよなぁコイツ……。
どうにか呼吸を整えて顔を上げると、アレクが苦笑いしながら「ゆっくり行こうね。大丈夫だよ、すぐにはあちらさんも逃げられないだろうから」と告げてきた。
子供を宥めるような口調に、恥ずかしさで顔が赤くなる。
赤くなった頬を隠すように俯いて頷きつつ、おれはふと、アレクの言葉に疑問を抱いた。
逃げられないって……いや、確かにおれが焦って走り出した理由は、「声の人たちがどこかに行ってしまうかも!」と思ったからだけれど。でも、逃げるってのは変な表現じゃないか?
だが――おれとアレクが揃って声のした方向へ歩き出すと、その言葉の意味が分かった。
「なっ……!」
おれとアレクが見たのは、木々の隙間から見える街道。数メートルほど離れた場所に停車している馬車だった。
しかし、ただ停車しているわけではない。
馬車の回りには5、6匹の狼に取り囲まれていた。狼の体躯はかなり大きく、一番大きい個体でゆうに2メートルほどはあるだろう。
その狼たちは馬車に繋がれている二頭の馬を狙っているようだった。頭を低くして見上げるようにし、地響きのような唸り声を上げている。
そんな狼達と対峙するのは、革や鉄の鎧を身にまとい、手に鉄剣を携える5人の若者たちだった。しかし、状況は人間の方がかなり分が悪いようで、二名の若者が腕や背中からだらだらと血を零している。馬車の中に乗っている商人風の男性は、その様子を顔を青くして見つめていた。
「どっ、どうしようアレク!? あの馬車の人たち、苦戦してるみたいだ……!」
思いも寄らない光景に、涙目でおれは隣のアレクの袖を握った。
日本で暮らしていたおれは、狼どころか野犬すら見たことがない。そんな平和慣れしたおれにとって、野生動物に人間が襲われている光景は衝撃的だった。しかも、状況はかなり悪いようで、このままではあの馬車の人達は、狼達によって『突撃、お前を晩ごはん!』にされることは明確だ。
「あー、そうだね」
――が、アレクから返ってきたのは、思いもよらない声音だった。
平然としている……というより、むしろ興味がないといった風の声。
思わずアレクの顔を見上げる。水色の双眸は、心底どうでもいいといった様子で眼前の光景を眺めていた。
そこには何の感情も浮かんでいない。強がりとか、おれを心配させないためじゃなくて……本当に、あの人たちのことはどうでもいいらしい。
「ア、アレク?」
「うん? どうかした、ご主人ちゃん?」
「い、いや……その、馬車の人たち、このままだと」
アレクの態度に、自分の方がおかしいのかと自信がなくなる。
もごもごと口ごもるおれに、アレクは優しい笑顔を向けてきた。
「ああ、大丈夫だよ。ここなら風上だからあの狼達も臭いで俺らに気づくことはないから」
安心させるような、力強い声。
けれど、おれが聞きたいのはそういうことじゃない。
「いや、あの……このままだと、あの人達、殺されちゃうように見えるんだけど」
「そりゃそうだね」
「そりゃそうだね!?」
肩をすくめて言い放ったアレクのあっけらかんとした様子に、思わず突っ込みをいれてしまう。
「せっかくこの世界の人間と初コンタクトがとれるかなーって期待したんだけど。こんな結果になったのは残念だったねぇ」
「ざ、残念って……そんなあっさり」
「でも見た感じ、馬車の積荷はけっこうイイもんがあるみたいだし。オレらの軍資金が手に入ると考えればオッケーじゃん? 異世界人との遭遇はまた次の機会のお楽しみってことで!」
「ぐ、軍資金!?」
『次行こ次、気持ち切り替えてこー!』と言わんばかりの体育会系のノリであっさりと放たれた言葉に、おれは信じられない気持ちでアレクを見つめる。
な、なんでそんな風に言うんだ?
だって、アレクはさっきはあんなにおれに優しくしてくれて、めちゃくちゃイイ奴だと思ったのに……!
「そ、それって火事場泥棒じゃないのか?」
「うん、そうだよ?」
否定して欲しかった言葉は、アレクの満面の笑顔であっさりと肯定された。
思いがけない言葉に硬直したおれの頭を、アレクがにこにこと微笑みながら優しく撫でる。
「よかったー、街についても先立つものがないからどうしよっかなと思ってたんだけど。これでご主人ちゃんにひもじい思いをさせなくて済むね!」
アレクの笑顔は本物で、目の前の残酷な光景に対して強がりで言っているわけではなかった。罪悪感だって一欠片も浮かんでない。
それどころか、「運が良いね、さすがご主人ちゃん」と微笑む彼は、鼻歌を歌いだしそうなほどの上機嫌だった。
おれはアレクの笑顔を、信じられない気持ちで唖然と見上げる。
い……いや、そのさ。確かにさ、おれへの忠義や労りは伝わってくるよ?
おれの今後を真剣に思ってくれているっていうのも分かる。
で、でもさ。あの馬車の人達は……放っておけば、これから死んでしまうかもしれない。
だというのに、なんでそんなに明るい笑顔になれるんだ?
アレクにとって、あの人達の生き死にってどうでもいいことなのか? ここが異世界だから?
それとも、おれに気を使ってこんな言動を? いや、でも見た感じ、どうにも演技ではなく本気で言ってるよな……。
それとも、おれがおかしいのか?
ここは元いた世界、平和な日本じゃない。日本での尺度で物事を考えているおれの方が変なのか?
「……そうだよな。おれ達があの人達に出来ることもないもんな……おれらがあのオオカミと戦って、あの人達を助けることは出来ないし……。いや、それでも注意を引くとか、火で脅すとか出来ないのかな……」
「うん?」
混乱のあまり、気がつけば自分の考えが口に出てしまっていた。
そんなおれの言葉が聞こえたのか、アレクが不思議そうに水色の瞳でおれを見下ろしてくる。
「ご主人ちゃんはもしかして、あれを助けたいの?」
「え?」
アレクの言葉の意味が、一瞬よく分からなかった。
少しの間を置いて、おれはおずおずと頷く。
「う、うん……まぁ、出来ることなら助けたいよ」
「そうなんだ! じゃあオレ、行ってくるね」
「え!?」
一転。くるりと背を向けて、襲われている馬車の方向に駆け出そうとするアレク。
反射的にその背中にしがみつき、おれはアレクをなんとか止めた。
「アレク!? い、行くってどこに?」
「あれ、助けてくるよ。ご主人ちゃんはあの人らを助けたいんでしょ?」
「そ、それはそうだけど……どうやって助けるつもりなんだ? あの人達を助けるためにアレクが傷ついたり、死んだりするのは駄目だぞ!? 自分の身を犠牲にしてあの人たちを助けたいっていうんなら反対だからな!?」
先程の発言にはビックリしたものの、でも、それを差し引いてもアレクはいい奴だ。
おれのために果物を探してきてくれて、歩いてる時だっておれのペースに合わせてくれて。こんなおれに気を遣って、優しくしてくれる。
あの人達を助けたいという気持ちはあるが、そのためにアレクが怪我をしたり、死んでしまうのは嫌だった。
まぁ、外見がすっごいチャラい感じのイケメンだから、まだ苦手意識はちょびっとあるんだけど。
アレクは背中にしがみついたおれを首だけで振り返って見下ろす。
きょとんとしていた彼は、しかし、見る見るうちに破顔した。
「大丈夫だよ、ご主人ちゃん! あんなオオカミぐらいなら、神様から戦闘能力で何とかなりそうだしさ」
「戦闘能力……?」
「うん!」
そういえば神様が、おれの眷属におれを護衛させるための力を与えておく、って言ってたっけ。
でも、アレクは武器だって持っていないし、素手でオオカミ共がどうにか出来るわけがない。
「安心して、ご主人ちゃん」
身体を反転させたアレクは、おれの手を包み込むようにぎゅっと握った。
「ご主人ちゃんを庇うとかならともかく、あんなヤツらを助けるために怪我なんかするつもりはないから安心して。オレがご主人ちゃんを置いて死んだりとか、それもマジないし」
「で、でも……」
「大丈夫! オレ、ご主人ちゃん以外の人とかマジでどうでもいいから! ちょっとでも危なくなったら見殺しにしてくるよ!」
おれを安心させるためなのか、満面の笑顔でそう告げたアレク。
……いや。あの、そんなことをめちゃくちゃイイ笑顔で言い切るのはどうなんだろう?
「じゃ、いってきまーす!」
おれの手をやんわりと解くと、アレクは再び馬車に向かって駆け出していった。
かと思えば、途中でぴたりと足を止めて、くるりと振り返って片手を上げる。
「あっ。ちゃんと助けられたら、俺にご褒美ちょうだいね」
「はっ!? ご、ご褒美……?」
「うん、約束ね!」
しかし、戸惑うおれの返事を待たずに、アレクは再び馬車に向かって駆け出していったのだった。
……ご褒美って、何を上げればいいんだろう。
お小遣いとか? おれ、無一文なんだけどな……。
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