3 / 4
第3話
しおりを挟む
――次の日。
予定通り、午前中で仕事が終わったので、おれは昼食をとった後にホームセンターに寄って家に帰ることにした。
ネットで見た猫用忌避剤、それに昨日廃棄したほうきとチリトリの代わり、そして単三電池……
久しぶりにホームセンターに行ったら、なんだか楽しくなって、ついいらないものまで買い込んだ気もする。
とりあえず、家に帰ったらこの猫用忌避剤とやらを撒いて、それでひと眠りしよう。なにせ今週は休みなしだったので、また明日から仕事だ。
しかも今回のクレームのせいで会社内のスケジュールが押してしまったので、来週も休みが潰れそうな予感がする。
「……あれ?」
アパートにだんだんと近づいていくにつれ、おれはあることに気が付いた。
なんか――人が多くないか?
胸の中にだんだんと不安がこみあげてくる。鼓動に比例して、自然と足早になる。
そして、おれはアパートの前に到着した時、ギクリと足を止めた。
アパートの前に白黒の塗装の車――パトカーが止まっていたからだ。
しかも、そのパトカーの周りには、何人もの人たちが物珍しそうな顔でアパートを見つめて、なにごとかをヒソヒソと囁きあっている。
「ひどいわねぇ……まだ一歳にもなっていない赤ん坊だっていうじゃないの」
「びっくりよね! でも、赤ん坊は無事だって。ホントよかったわよね」
「でも、このへんって人通りがすくないから、飯田さんがたまたま外に出なかったら気づかなかったかもしれないわね。本当にひどいことする人がいたもんよね、置き去りだなんて……」
おれの顔は一気に蒼白になった。
震える声で「すみません、通してください」「アパートの住人なんです、すみません」と周りの人たちに謝罪しながら、人ごみをかき分けて前に進んだ。
彼らは道を譲ってくれたものの、好奇心に満ち満ちた視線でおれを見つめてくる。
そして――
「…………ッ!」
なかば予想していたことではあったが――
おれの部屋の前には、紺色の制服を着た警察の人が二人、そしてアパートの大家さんが立って何事かを話していた。いや、話しているというよりは、大家さんが聴取をされているといった感じだ。
アパートの前にも警察官の人が立っており、やじうまが中に入らないように目を光らせている。すると、その人がおれに目をとめた。
「もしかして、アパートの住人の方ですか?」
「はい。あの……おれ、そこの103号室の人間なんですけれど、その……」
自分の住んでいる部屋番号を名乗った瞬間、警察の人の顔色がさっと変わったのが分かった。そして「こちらへどうぞ」と言われて手招きをされる。
言葉とは裏腹に、有無を言わせない口調だった。
予定通り、午前中で仕事が終わったので、おれは昼食をとった後にホームセンターに寄って家に帰ることにした。
ネットで見た猫用忌避剤、それに昨日廃棄したほうきとチリトリの代わり、そして単三電池……
久しぶりにホームセンターに行ったら、なんだか楽しくなって、ついいらないものまで買い込んだ気もする。
とりあえず、家に帰ったらこの猫用忌避剤とやらを撒いて、それでひと眠りしよう。なにせ今週は休みなしだったので、また明日から仕事だ。
しかも今回のクレームのせいで会社内のスケジュールが押してしまったので、来週も休みが潰れそうな予感がする。
「……あれ?」
アパートにだんだんと近づいていくにつれ、おれはあることに気が付いた。
なんか――人が多くないか?
胸の中にだんだんと不安がこみあげてくる。鼓動に比例して、自然と足早になる。
そして、おれはアパートの前に到着した時、ギクリと足を止めた。
アパートの前に白黒の塗装の車――パトカーが止まっていたからだ。
しかも、そのパトカーの周りには、何人もの人たちが物珍しそうな顔でアパートを見つめて、なにごとかをヒソヒソと囁きあっている。
「ひどいわねぇ……まだ一歳にもなっていない赤ん坊だっていうじゃないの」
「びっくりよね! でも、赤ん坊は無事だって。ホントよかったわよね」
「でも、このへんって人通りがすくないから、飯田さんがたまたま外に出なかったら気づかなかったかもしれないわね。本当にひどいことする人がいたもんよね、置き去りだなんて……」
おれの顔は一気に蒼白になった。
震える声で「すみません、通してください」「アパートの住人なんです、すみません」と周りの人たちに謝罪しながら、人ごみをかき分けて前に進んだ。
彼らは道を譲ってくれたものの、好奇心に満ち満ちた視線でおれを見つめてくる。
そして――
「…………ッ!」
なかば予想していたことではあったが――
おれの部屋の前には、紺色の制服を着た警察の人が二人、そしてアパートの大家さんが立って何事かを話していた。いや、話しているというよりは、大家さんが聴取をされているといった感じだ。
アパートの前にも警察官の人が立っており、やじうまが中に入らないように目を光らせている。すると、その人がおれに目をとめた。
「もしかして、アパートの住人の方ですか?」
「はい。あの……おれ、そこの103号室の人間なんですけれど、その……」
自分の住んでいる部屋番号を名乗った瞬間、警察の人の顔色がさっと変わったのが分かった。そして「こちらへどうぞ」と言われて手招きをされる。
言葉とは裏腹に、有無を言わせない口調だった。
10
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる