きみは大好きな友達!

秋山龍央

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第2話

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「――――な……なんだよ、これ」

 唇が震える。

 休日出勤を終えて、ようやくアパートに帰ってきた。時計の針は18時を指している。
 まだ外は明るく、血のような夕焼け空はあたりを茜色に染めていた。遠くから、ぎゃあぎゃあと鳴くカラスの声が響いてくる。

 そして――

 いつも花が一輪置かれていた、おれの部屋のドアの前。
 今日、そこには、口から血を吐いて死んでいる雀の死体があった。

 黒々とした目に光はない。だが、その茶色い羽はまだふわふわとしていて……まるで、誰かが今、仕留めたばかりのコレをここに置いていったかのようだった。

「なんだよ、これ……子供の悪戯にしちゃ度が過ぎてるだろ」

 おれは悪態をつくと、雀の死体をまたいで部屋の中へ入った。
 そして、荷物を室内に置くと、ホウキとちりとりを持ってくる。雀の死体を掃いてちりとりへ乗せると、アパートの敷地内、ブロック塀沿いにある土の上に放った。そして、ほうきでざっと軽く土をかける。

「くそ、なんだよ。やっぱり嫌がらせだったのか?」

 今までの花も、ぜんぶ嫌がらせだったのだろうか。
 暗澹とした気持ちでちりとりとホウキを家の中に持って入ると、それらを透明なごみ袋にいれて、玄関脇にほうった。
 洗えば充分に使えるのだろうけれど、なんだか、もう気分的にあれを使いたくない。明日はちょうど粗大ごみ回収日だし、ゴミに出してしまおう。

 そんなことを考えながら、台所で両手をゴシゴシと洗っていたおれは、ふっとあることに思い至った。

 もしかして――今までのあれらは、子供のいたずらではなく、動物か何かの仕業だったのだろうか。
 アパートの前で遊んでいる子供たちのいたずらだと思っていたが……さすがに、あの子たちが雀の死体をここに持ってくるとは考えにくい。

 おれは手を洗い終えると、スマホを出して調べてみた。

「えーっと、なになに? 猫の習性?」

 色々な単語で調べてみたところ、ある一つの記事に行き当たった。

 ~猫飼いさんの疑問に答えるQ&A~

 Q:うちの猫が仕留めたゴキブリや小鳥を家の中に持ち込むのはなぜなのでしょう?

 A:一説には、飼い主に獲物を分け与えてくれているという説です。
 猫ちゃんにとって狩りは習性。けれども、人間が狩りをしないので、猫ちゃんはお手本を見せるために狩りの獲物を持ってきて見せると言われています。
 または、安全な場所だからここに置いておこうと思っているという説もあります。
 猫ちゃんが家の中に獲物を持ってくるのは、そこが猫ちゃんにとって安全な場所なのでしょう。

「へぇ……知らなかった」

 おれは実家で動物を飼ったことがなかったし、家を出て上京した今も飼ったことがない。
 実家の周りだって野良猫はいなかったし……。

「でも、別におれは猫なんて飼ってないんだけどな……それとも、おれが知らないだけで、この辺って野良猫がたくさんいるのかな?」

 さらにそのホームページを読み進めると、『野良猫忌避剤』というものが紹介されていた。
 ホームセンターなどで売られているそうだ。
 人間には感じ取れないほどの刺激臭を発することで、野良猫を遠ざけるらしい。

「よし、明日はこれを買ってくるか」

 誰かからの嫌がらせではなさそうで、おれはちょっとホッとした。
 なにせ明日も休日出勤をしなきゃいけないのだ。仕事がこんなに大変なのに、プライベートまでこれ以上悩まされたくない。

 まぁ、明日はうまくいけば午前中のうちに帰れそうだしな。
 帰りに駅前のホームセンターに寄って、この忌避剤とやらを買ってこよう。
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