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第30話
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おれの目を覚ましたのは、部屋に漂ってきたなんとも言えない芳しい香りだった。
バターをたっぷりとフライパンにひいて卵を焼いた時の甘い匂いと、肉汁のしたたるベーコンがじゅうじゅうと焼ける匂い。あたたかいベッドの中は名残惜しかったものの、空腹をこれでもかと掻き立てるそれらの匂いには勝てず、おれはゆっくりと毛布から這い出した。
板張りの床に爪先を下ろすと、ひやりと足の裏が冷たい。でも、その冷たさが火照った身体に心地よかった。
おれは寝間着を脱ぐと、クローゼットから第三部隊の制服であるシャツとズボンを取り出そうとして――はたと、今日の仕事が休みになったことを思い出した。
先日、ギガント・タランチュラを『迷いの大森林』で討伐するという指名依頼。そんな討伐依頼の作戦実行中に、おれたち第三部隊はレッドドラゴンに偶然、遭遇したのである。
まさかの遭遇におれも最初は焦ったものの、結果としてはまぁまぁのものに終わった。
安全策をとったのでレッドドラゴンの首から上は持ち帰ることはできなかったが、それ以外は持ち帰ることができたし、胸部にあった魔晶石も無事だった。
ま、おれが第三部隊に入った目的はそもそも、ヴァンを始めとする第三部隊のみんなが怪我をしないようにすることと、帝国や皇帝陛下に居住を認めてもらった恩返しをするためだ。それでいえば、今回は第一の目的は無事に達成できたのだし、よしとするべきだろう。
その後、死体となったレッドドラゴンをもっておれたち第三部隊は帝国に帰還したのだが、翌々日にはなんと国を挙げての式典が行われたのだ。
なんでも、ドラゴン種の討伐が達成されたのは何十年ぶりのことらしく、それも部隊員全員が負傷一つなく帰還できたということが奇跡的なことであったらしい。また、レッドドラゴンからとれた素材や魔晶石もかなり質のいいものだったようで、式典では皇帝陛下から直々にお褒めの言葉を頂いた。
おれとヴァンは依然、皇帝陛下にお目通り頂いたことがあったが、第三部隊の他のみんなは初めてのことだったらしく、「俺が皇帝陛下から直々にお言葉を賜われるなんて……」「マニュアル乗りの俺が国を挙げて表彰してもらえる日が来るとは」と感激しきりだった。
中には「オレらは何もしてないのにヤマトさんの手柄を奪うような形になって……」と気にしている人もいたけど。確かにレッドドラゴンと戦ったのはおれだが、その後、レッドドラゴンを『迷いの大森林』から運び出す作業とか、レッドドラゴンを帝国に持って帰る作業はおれ一人ではとても無理だったから、レッドドラゴンを帝国にお持ち帰りできたのは皆の成果であると思う。
いや、本当、レッドドラゴンを『迷いの大森林』から運び出すのがいっちばん大変だったよ……。
なんでおれ、森の中でやっちゃったんだろう……。
あの横たわった巨体を森から出そうとすると、尻尾や羽が木に引っかかるわ、でも無理やり持っていこうとすると素材に傷がつくわでマジ面倒臭かった……。
まぁ、万が一のことを考えて街道とかにレッドドラゴンが行っちゃうとマズいから森の中で倒し切るしかなかったんだけどさ。でも、思わず後悔しちゃったよね……。
まぁ、そんな感じでおれたち第三部隊は昨日まで討伐記念式典の主役として、レッドドラゴンの魔晶石お披露目パーティーやら王城までの大通りの凱旋パレードに出ずっぱりだったのだが、今日から一週間はお休みを頂けたのだ!
皇帝陛下や部隊長のはからいで、レッドドラゴンの討伐後の褒賞の一部として、今日からは休暇をとっていいということになり、第三部隊のみんなはお休みとなった。
また、今度のお給料日には特別ボーナスなんかも支給してもらえるらしい。みんなで頑張って、あの森の中で木を切り倒したりして、力を合わせてレッドドラゴンを運び出した甲斐があったというものだ。
「となると、今日は……この服でいいか」
おれはクローゼットから、ダークブルーの七分袖のシャツと黒いズボンを取り出すとそれに着替え、顔を洗ってからキッチンへ向かう。
キッチンの扉を開けると、すでに朝ごはんを作り終えたヴァンがテーブルに料理を並べているところだった。
「おはよう、ヴァン」
「おはようさん、ヤマト」
広々としたキッチンダイニングには、真っ白な布製のカーテンを通して、朝の静かな光輝が部屋の中に満ちている。
そして、部屋の中央にある木製テーブルの上に並べられた白い皿には、カリカリに焼けた油のしたたるようなベーコンに、バターの香るスクランブルエッグや、ふかふかとした白パンが並べられていた。
おお、今日の朝ごはんも美味しそう!
皿を並べ終えたヴァンは、朝ごはんの匂いにつられてフラフラとそばに来たおれを抱き寄せると、腰に片手を回してきた。
「今日は珍しく遅かったな、疲れたか?」
「っ……あ、ああ。昨日、たくさんの人に囲まれたから気疲れしたかな」
ヴァンってやっぱり外国人だからか、スキンシップというか、愛情表現がダイレクトなんだよな……。
第三部隊の仕事場の時は全然そうじゃないのに、家の中や、外で二人きりでいる時などは、こうやって腰や肩に手を回されたり、触れるだけのキスをしてきたりというのが、最近になってけっこう激しいのだ。
ちょっと恥ずかしいけど、でも、悪い気はしない。恥ずかしいけどな!
「そうか……。今日、うちの兄貴や甥っ子たちがうちに来たいって言ってるんだが、呼んでも平気か?」
「ヴァンの家族が?」
おお、前に言ってたヴァンのお兄さんたちか!
もちろんオーケーに決まってますよ。なんたってここはヴァンの家で、おれはただの居候なんだしね!
というか、お兄さんたちが来るなら余所者のおれは外に出てたほうがいいのか?
「……邪魔しないように外に出たほうがいいか?」
「何言ってんだ。みんな、お前に会いたいから来るんだぜ」
「おれに?」
「レッドドラゴンを討伐した新進気鋭のオートマタと、その乗り手だからな。ヤマトがまだ疲れてるならまたにしてもらうが、どうする?」
「いや……おれもヴァンの家族に会いたい。おれの……恋人の家族だしな」
うわー。これ、言っててめっちゃ照れる!
おれの照れくささがヴァンにも伝わったのか、それともそれ以外の理由なのか、ヴァンがおれの腰に回す手にぐっと力を込めた。
そして、ヴァンはそっとおれに顔を寄せると、目尻、頬、最後に唇の端の順でやさしく、触れるようなキスを落とした。
「ありがとうな」
「……いや。おれも楽しみだ」
紺色の瞳にのぞきこまる。やわらかな朝の光を受けたヴァンの微笑は何よりも優しく見えた。
「……そうだ。ヤマト、お前はもう聞いたか?」
「何がだ?」
お互いに身体を離してテーブルにつくと、正面に座ったヴァンがおもむろにそんなことを聞いてきた。
「モルスト国だがな、どうも噂によると、帝国に属国願いを出してきたらしいぜ」
「へぇ……属国か」
ふーん、属国ねー。
……ちょっと待って。属国って、あの属国!?
マ、マジかよ!? なんで? モルスト国って、この前帝国にギガント・タランチュラの討伐の指名依頼出してきたところだよね?
「やはり、驚かないんだな?」
ヴァンが苦笑いを浮かべながら聞いてきたが、驚いてないわけじゃない。
ただ、あまりにも突拍子もない話だったので、最初は意味がうまく飲み込めてなかったのだ。
「先日のレッドドラゴン戦の成果を聞いて、やっこさんたちはずいぶん慌てたようだな。やはりヤマトの推測で当たっていたということか」
「……あれは憶測だ。何の確証もない話に過ぎないさ」
「ふっ……そういうことにしておこう」
ヴァンがなんだか含みをもった笑みをおれに向けてくるのだが……これ、本当にわかってくれてるのかなー? この前説明したあれは、全部おれがゲーム知識を元にした憶測であって、証拠も何もないんだから本気にしないでくれよな!
しっかし、モルスト国が属国ねぇ……。なんでまたそんなことになったんだか。
そんな設定、『GOG』のゲームにはまったく出てこなかったのに。
でも、これはもしかすると、いい兆候かもしれないよな! だって、『GOG』のゲームだとこのまま行っちゃうと帝国と獣王国で戦争が起こってしまう流れだったんだ。
それが、理由は分からないけれど『GOG』のゲームストーリーの流れが明らかに変わり始めている。ならば、これがバタフライエフェクトのように大きな波になって、帝国と獣王国の戦争だってこの世界では起きないかもしれないよね!
それにさ、ちょっと前から不思議に思ってたんだけど、『GOG』で見た帝国の皇帝陛下だって、ゲームストーリーのときはもっと疑り深くい計略家っていう人物だったはずなんだよね。
けれど、おれが実際にお話をさせていただいた際には、こんな身元不明の不審者にも気を遣ってくれる度量の深い偉大な方だった。
皇帝陛下の性格がゲームとはまったく違うんだから、もしかすると、この世界では獣王国との仲だってそんなに悪くならないのかもな。和平条約を結んだりするのはさすがに難しいかもしれないけど、戦争が回避できたら嬉しいよな!
「ヴァン」
「うん?」
「その……改めて、これからよろしくな。おれ、もっと頑張るからさ」
「どうしたんだ、急に」
おれの言葉に、ヴァンがおかしそうに目を細めて笑う。
その優しい表情に、おれもつられて微笑がこぼれた。
……この世界でおれにできることなんてちっぽけで、大したことは何もできない。
この先、『GOG』のゲームストーリー通りに帝国と獣王国の間に戦争が起きようとしても、それを回避できる力もないし、その二国の間に和平条約を結ばせるなんてことも無理だ。
でも――目の前にいる人や、大事な人達を守るぐらいの力なら、こんなおれにもあると思う。
だから、おれにはおれにできることを精一杯、これからもやっていくしかないだろう。
…………。
……おれに出来ることというと、まずは今日、ヴァンのご家族に「弟さんを僕に下さい」って頭を下げることからだろうか。
い、いきなりハードルが高いな!
バターをたっぷりとフライパンにひいて卵を焼いた時の甘い匂いと、肉汁のしたたるベーコンがじゅうじゅうと焼ける匂い。あたたかいベッドの中は名残惜しかったものの、空腹をこれでもかと掻き立てるそれらの匂いには勝てず、おれはゆっくりと毛布から這い出した。
板張りの床に爪先を下ろすと、ひやりと足の裏が冷たい。でも、その冷たさが火照った身体に心地よかった。
おれは寝間着を脱ぐと、クローゼットから第三部隊の制服であるシャツとズボンを取り出そうとして――はたと、今日の仕事が休みになったことを思い出した。
先日、ギガント・タランチュラを『迷いの大森林』で討伐するという指名依頼。そんな討伐依頼の作戦実行中に、おれたち第三部隊はレッドドラゴンに偶然、遭遇したのである。
まさかの遭遇におれも最初は焦ったものの、結果としてはまぁまぁのものに終わった。
安全策をとったのでレッドドラゴンの首から上は持ち帰ることはできなかったが、それ以外は持ち帰ることができたし、胸部にあった魔晶石も無事だった。
ま、おれが第三部隊に入った目的はそもそも、ヴァンを始めとする第三部隊のみんなが怪我をしないようにすることと、帝国や皇帝陛下に居住を認めてもらった恩返しをするためだ。それでいえば、今回は第一の目的は無事に達成できたのだし、よしとするべきだろう。
その後、死体となったレッドドラゴンをもっておれたち第三部隊は帝国に帰還したのだが、翌々日にはなんと国を挙げての式典が行われたのだ。
なんでも、ドラゴン種の討伐が達成されたのは何十年ぶりのことらしく、それも部隊員全員が負傷一つなく帰還できたということが奇跡的なことであったらしい。また、レッドドラゴンからとれた素材や魔晶石もかなり質のいいものだったようで、式典では皇帝陛下から直々にお褒めの言葉を頂いた。
おれとヴァンは依然、皇帝陛下にお目通り頂いたことがあったが、第三部隊の他のみんなは初めてのことだったらしく、「俺が皇帝陛下から直々にお言葉を賜われるなんて……」「マニュアル乗りの俺が国を挙げて表彰してもらえる日が来るとは」と感激しきりだった。
中には「オレらは何もしてないのにヤマトさんの手柄を奪うような形になって……」と気にしている人もいたけど。確かにレッドドラゴンと戦ったのはおれだが、その後、レッドドラゴンを『迷いの大森林』から運び出す作業とか、レッドドラゴンを帝国に持って帰る作業はおれ一人ではとても無理だったから、レッドドラゴンを帝国にお持ち帰りできたのは皆の成果であると思う。
いや、本当、レッドドラゴンを『迷いの大森林』から運び出すのがいっちばん大変だったよ……。
なんでおれ、森の中でやっちゃったんだろう……。
あの横たわった巨体を森から出そうとすると、尻尾や羽が木に引っかかるわ、でも無理やり持っていこうとすると素材に傷がつくわでマジ面倒臭かった……。
まぁ、万が一のことを考えて街道とかにレッドドラゴンが行っちゃうとマズいから森の中で倒し切るしかなかったんだけどさ。でも、思わず後悔しちゃったよね……。
まぁ、そんな感じでおれたち第三部隊は昨日まで討伐記念式典の主役として、レッドドラゴンの魔晶石お披露目パーティーやら王城までの大通りの凱旋パレードに出ずっぱりだったのだが、今日から一週間はお休みを頂けたのだ!
皇帝陛下や部隊長のはからいで、レッドドラゴンの討伐後の褒賞の一部として、今日からは休暇をとっていいということになり、第三部隊のみんなはお休みとなった。
また、今度のお給料日には特別ボーナスなんかも支給してもらえるらしい。みんなで頑張って、あの森の中で木を切り倒したりして、力を合わせてレッドドラゴンを運び出した甲斐があったというものだ。
「となると、今日は……この服でいいか」
おれはクローゼットから、ダークブルーの七分袖のシャツと黒いズボンを取り出すとそれに着替え、顔を洗ってからキッチンへ向かう。
キッチンの扉を開けると、すでに朝ごはんを作り終えたヴァンがテーブルに料理を並べているところだった。
「おはよう、ヴァン」
「おはようさん、ヤマト」
広々としたキッチンダイニングには、真っ白な布製のカーテンを通して、朝の静かな光輝が部屋の中に満ちている。
そして、部屋の中央にある木製テーブルの上に並べられた白い皿には、カリカリに焼けた油のしたたるようなベーコンに、バターの香るスクランブルエッグや、ふかふかとした白パンが並べられていた。
おお、今日の朝ごはんも美味しそう!
皿を並べ終えたヴァンは、朝ごはんの匂いにつられてフラフラとそばに来たおれを抱き寄せると、腰に片手を回してきた。
「今日は珍しく遅かったな、疲れたか?」
「っ……あ、ああ。昨日、たくさんの人に囲まれたから気疲れしたかな」
ヴァンってやっぱり外国人だからか、スキンシップというか、愛情表現がダイレクトなんだよな……。
第三部隊の仕事場の時は全然そうじゃないのに、家の中や、外で二人きりでいる時などは、こうやって腰や肩に手を回されたり、触れるだけのキスをしてきたりというのが、最近になってけっこう激しいのだ。
ちょっと恥ずかしいけど、でも、悪い気はしない。恥ずかしいけどな!
「そうか……。今日、うちの兄貴や甥っ子たちがうちに来たいって言ってるんだが、呼んでも平気か?」
「ヴァンの家族が?」
おお、前に言ってたヴァンのお兄さんたちか!
もちろんオーケーに決まってますよ。なんたってここはヴァンの家で、おれはただの居候なんだしね!
というか、お兄さんたちが来るなら余所者のおれは外に出てたほうがいいのか?
「……邪魔しないように外に出たほうがいいか?」
「何言ってんだ。みんな、お前に会いたいから来るんだぜ」
「おれに?」
「レッドドラゴンを討伐した新進気鋭のオートマタと、その乗り手だからな。ヤマトがまだ疲れてるならまたにしてもらうが、どうする?」
「いや……おれもヴァンの家族に会いたい。おれの……恋人の家族だしな」
うわー。これ、言っててめっちゃ照れる!
おれの照れくささがヴァンにも伝わったのか、それともそれ以外の理由なのか、ヴァンがおれの腰に回す手にぐっと力を込めた。
そして、ヴァンはそっとおれに顔を寄せると、目尻、頬、最後に唇の端の順でやさしく、触れるようなキスを落とした。
「ありがとうな」
「……いや。おれも楽しみだ」
紺色の瞳にのぞきこまる。やわらかな朝の光を受けたヴァンの微笑は何よりも優しく見えた。
「……そうだ。ヤマト、お前はもう聞いたか?」
「何がだ?」
お互いに身体を離してテーブルにつくと、正面に座ったヴァンがおもむろにそんなことを聞いてきた。
「モルスト国だがな、どうも噂によると、帝国に属国願いを出してきたらしいぜ」
「へぇ……属国か」
ふーん、属国ねー。
……ちょっと待って。属国って、あの属国!?
マ、マジかよ!? なんで? モルスト国って、この前帝国にギガント・タランチュラの討伐の指名依頼出してきたところだよね?
「やはり、驚かないんだな?」
ヴァンが苦笑いを浮かべながら聞いてきたが、驚いてないわけじゃない。
ただ、あまりにも突拍子もない話だったので、最初は意味がうまく飲み込めてなかったのだ。
「先日のレッドドラゴン戦の成果を聞いて、やっこさんたちはずいぶん慌てたようだな。やはりヤマトの推測で当たっていたということか」
「……あれは憶測だ。何の確証もない話に過ぎないさ」
「ふっ……そういうことにしておこう」
ヴァンがなんだか含みをもった笑みをおれに向けてくるのだが……これ、本当にわかってくれてるのかなー? この前説明したあれは、全部おれがゲーム知識を元にした憶測であって、証拠も何もないんだから本気にしないでくれよな!
しっかし、モルスト国が属国ねぇ……。なんでまたそんなことになったんだか。
そんな設定、『GOG』のゲームにはまったく出てこなかったのに。
でも、これはもしかすると、いい兆候かもしれないよな! だって、『GOG』のゲームだとこのまま行っちゃうと帝国と獣王国で戦争が起こってしまう流れだったんだ。
それが、理由は分からないけれど『GOG』のゲームストーリーの流れが明らかに変わり始めている。ならば、これがバタフライエフェクトのように大きな波になって、帝国と獣王国の戦争だってこの世界では起きないかもしれないよね!
それにさ、ちょっと前から不思議に思ってたんだけど、『GOG』で見た帝国の皇帝陛下だって、ゲームストーリーのときはもっと疑り深くい計略家っていう人物だったはずなんだよね。
けれど、おれが実際にお話をさせていただいた際には、こんな身元不明の不審者にも気を遣ってくれる度量の深い偉大な方だった。
皇帝陛下の性格がゲームとはまったく違うんだから、もしかすると、この世界では獣王国との仲だってそんなに悪くならないのかもな。和平条約を結んだりするのはさすがに難しいかもしれないけど、戦争が回避できたら嬉しいよな!
「ヴァン」
「うん?」
「その……改めて、これからよろしくな。おれ、もっと頑張るからさ」
「どうしたんだ、急に」
おれの言葉に、ヴァンがおかしそうに目を細めて笑う。
その優しい表情に、おれもつられて微笑がこぼれた。
……この世界でおれにできることなんてちっぽけで、大したことは何もできない。
この先、『GOG』のゲームストーリー通りに帝国と獣王国の間に戦争が起きようとしても、それを回避できる力もないし、その二国の間に和平条約を結ばせるなんてことも無理だ。
でも――目の前にいる人や、大事な人達を守るぐらいの力なら、こんなおれにもあると思う。
だから、おれにはおれにできることを精一杯、これからもやっていくしかないだろう。
…………。
……おれに出来ることというと、まずは今日、ヴァンのご家族に「弟さんを僕に下さい」って頭を下げることからだろうか。
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