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第27話
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「ドラゴン種だ。恐らくはレッドドラゴンの若い成体、角の形状からして雄だと思われる」
『――――な、』
「15時の方向、地点は30キロ。レッドドラゴンは……真っ直ぐこちらに向かっている。恐らくは20分程でこの場所に到達するだろう」
おれの報告に、一気に場は騒然とした。
『レ……レッドドラゴン!? 馬鹿な、危険級ランクSのモンスターだぞ。こんな浅部にいるわけが……!』
『い、いえ。こちらアルファ機でも確認しました。まだ全容は見えませんが、巨大なモンスターが木々をなぎ倒しつつこちらにまっすぐ進んできているのは確かです』
『おいおいマジかよ。今の時期は休眠期の直前だとはいっても、一体なんでこっちに……!』
レッドドラゴンはドラゴン種の中でもファイアブレスを持つランクSのモンスターだ。この世界では通常、オートマタ部隊二個編成で相手どりをするモンスターであり、今回のエンカウントは完全に想定外のことだった。
おれとしても、ドラゴン種のモンスターに遭遇するなんて予想だにしていなかった。
けれど……なぜだろう。
なんとなく、この状況にデジャブを感じるのは。
確かあれは――そうだ。GOGでのストーリーの中盤でのイベントだ。確か主人公が獣王国を完全に離反するきっかけになる事件……たしか、獣王国の重鎮さんたちが帝国最強のオートマタ「シャンディ・ガフ」を嵌めるために小国群を通して指名依頼を出してモンスター討伐に行かせて、そこでドラゴン種に襲わせるという……
「……一杯食わされたか」
そう呟いた声は、おれ的には小声のつもりだったのだが、舞乙女の外部音声マイクがばっちり集音してくれていたらしい。
おれの言葉に『どういうことだ、舞乙女?』とヴァンが訝しげな声で尋ねてきた。しかも、見ればなんか第三部隊の人全員がこっちを注視している。
やばい。こうなるともう完全に、「いや、なんか昔似たような状況を見たなぁってデジャブってたら、うっかりその時のシャンディ・ガフさんの台詞を則って言っちゃっただけで……」とは言えない空気だ。
ん? でもこの場合、この世界の時系列的には昔ではなく未来の話になるのか……?
『な、何か心当たりがあるんすか、ヤマトさん!?』
「……これは憶測だが。……あくまでおれ個人の憶測だが」
とりあえず、憶測だということを再三、念押しする。
「例えば……低級モンスターにわざとドラゴン種の好む果物を与えて、低級モンスターの巣に集めさる。低級モンスターを討伐にきた戦闘騎士が体液や果汁を浴びることで、その匂いを機体に移させ、その後にドラゴン種を誘導して戦闘騎士にけしかける。今の時期にはレッドドラゴンは特に、冬ごもり前の食べ溜めの時期だから匂いに敏感だ。自分の好物の匂いとなれば、なおさら誘導に引っかかるだろう」
GOGで「シャンディ・ガフ」が嵌められた獣王国の作戦……場所は「迷いの大森林」じゃなかったけれど、確かあれもオートマタを持たない小国郡からの指名依頼を受けてモンスター討伐に行った先で、危険級ランクSのモンスターから襲撃を受けるのだ。
その事件の後、主人公は自分の国の重鎮たちや国王の卑劣さを知ってしまい、それで獣王国を完全に離反することに……というのが中盤のストーリーだ。
でも、今回のレッドドラゴンの襲撃は完全に別だろうなぁ。
だってレッドドラゴンにおれ達を襲わせても、獣王国にはなんのメリットもないもんな!
獣王国が「シャンディ・ガフ」をレッドドラゴンに襲わせたのは、また戦争が本格的に開始される前に少しでも帝国側の力を削いでおこうという目的があったからだ。でも、今回はまったくもってメリットと労力が釣り合ってない。
マニュアルの戦闘騎士部隊とおれのような対人戦闘経験からっきしな新人オートマタ乗りを、わざわざレッドドラゴンに襲わせたとして、獣王国にはほとんどメリットがない。
うん? でも今回指名依頼がきたのは、第三部隊の腕をモルスト国の人の誰かが高く評価しているから、だよな?
なら、獣王国が第三部隊を狙って……という線もあるのか? でも、この世界の一般的な観念からしたら、マニュアル部隊ってオートマタの足元にはるかに及ばない的な扱いって感じの考え方のはずだよな? 帝国のノーマンとか、もちろんおれはそんなことは思ってないけど。
だから獣王国の人たちがこのタイミングで第三部隊をレッドドラゴンに襲わせるように画策するとは思えないんだけど……。あれ?
あー、もう! こんがらがってきた!
『つ、つまり……指名依頼自体が罠だったと!?』
『じゃあモルスト国が俺たちを嵌めるために……!?』
混乱しているおれをよそに、一気に色めき、怒りをあらわにしている第三部隊の面々。
いや、あの。さっきのは、あくまでもおれのゲーム知識をもとにした憶測だからね?
『……モルスト国は獣王国が最大の貿易国だからな。もしかすると獣王国がこの前の意趣返しに俺らを嵌めたのかもしれんな』
『ちっ……そういうことかよ』
ああっ、ちょ、ヴァンまでそんな風に!?
おれ「この所感はあくまでもおれの憶測ですよ!」ってさっきあんなに念押ししたよね!?
みんな、ちゃんと聞いてましたか!?
「詮索は後だ、皆。今は早くここから離脱することを考えてくれ」
この話題を掘り下げられるとおれが大変気まずいのと、こうしている間にもレッドドラゴンの距離がじりじりと縮まってきているため、おれはそう皆に声をかけた。
『離脱することを考えろ……って、ヤマトさんは?』
「おれはここに残る」
『なっ……!』
『おい、ヤマト?』
おれの言葉に驚きの声を上げる第三部隊の面々と、焦ったようにおれに詰め寄ろうとするヴァン。
おれはそんなヴァンを片手で制した。
「今ならまだ間に合う。おれが殿を務めるから、ヴァン……隊長は皆を率いて森から離脱して欲しい」
『……お前……』
『ヤ、ヤマトさん。レッドドラゴンはランクSのモンスターですよ!?』
「……このまま街道におれたちが出れば、つまり、レッドドラゴンがそのままおれたちを追って街道に出てしまう可能性が高い。そうなれば被害が拡大する可能性がある」
『で、でも……』
『しかし……さすがのお前でも、オートマタ一機ではどうにもならんだろう』
苦虫を噛み潰したような声のヴァン。
……でも、正直彼も心の奥底では分かってるんだろう。おれが先程告げた内容だって、きっとヴァンの方がおれよりも早く思い至っていたはずだ。
それをヴァンが言い出さなかったのは……多分、ヴァンがおれを思いやってくれたからだ。おれ一人を死地に行かせるまいとしてくれたんだろう。
けれども、おれはそんな気の使い方はしてほしくない。
おれとヴァンが恋人同士というのなら、なおさらそんな遠慮はして欲しくないのだ。
だから――おれは、ヴァンに告げた。
「それでも、ここはおれが行くべきだろ?」
『…………っ』
『ヤマトさん……』
おれの言葉に押し黙ったヴァンと、かすかに涙声の入り混じったようなスティンガーの外部音声。
しばらく沈黙が落ちたものの、ヴァンの逡巡は一瞬だった。
次に声を上げた時には、いつも通り、張りのある迷いのない声で指示を飛ばし始めた。
『――了解した。なら、俺のスティンガーⅡ型と舞乙女がここに残り、レッドドラゴンの注意を引き付ける。ベータとガンマは帰還してこのことを帝国に報告しろ。アルファ、お前は残りの5機を率いて森を抜けろ。そしてポイント地点Bにて待機!』
……ん!? あれ、ちょ、ちょっと待って!?
ヴァンも今ここに残るって言った!?
『た、隊長、それなら俺たちも!』
『ヤ、ヤマトさんと隊長だけ残って、俺らだけ帰還するわけにゃ……!』
焦ったように声を上げる第三部隊の面々。
だが、その気持はおれも同じだ。
「ヴァン……残るのはおれだけでいい。お前まで残るのは」
『どいつもこいつも異論は認めん。これは隊長からの命令だ』
「……っ」
そう言われてしまえば、立場的に部下であるおれは、もはや何を言うこともできない。
「……わかった」
渋々うなずく。
先程、抗議の声を上げていた皆も、おれと同じく命令を了承するしかないと分かったようだ。
『ヤマトさん、隊長……』
『絶対生きて帰ってきてくださいよ!』
みんなの言葉に、おれは舞乙女の機体の中でぐっと拳を握りしめた。
「ああ、安心してくれ。ヴァンを……おれたちの隊長をみすみす死なせはしないと約束する。なに、おれもドラゴン種なら何度かやり合った相手だ、勝算がないわけじゃないさ」
『ヤマトさん、こんな時にそんな冗談を……』
先程涙声だった彼が、泣き笑いの入り混じった声でそんなことを言った。
いや、冗談じゃなくて本当なんだよ?
ただ問題は……おれの戦いは全部がゲーム上のことで、実戦はこれが始めてのエンカウントってことなんだよな。
そうなんだよなー。GOG上では別にレッドドラゴンなんて、ランクSでもそこまで危ない相手でもないんだよ。落とす素材は美味しいし。
正直、さっきだって「こんな浅部にこんな美味しい敵が出てくるなんてマジかよ」と思ってしまったぐらいだ。
というかモンスターよりもオンラインクエストに出てくる廃プレイヤーの方がよっぽど恐ろしい。ランキング上位の人とかもう化物みたいな動きだからね……。
……けれど……ここは現実の世界なんだ。ゲームじゃない。
そして、何よりここは迷いの大森林だ。
おれの機体にもある程度のマップは入っているとはいえ、相手はこの森を根城にしている在来生物。
一瞬の油断が命取りになる。相手を甘く見たが最後、屠られるのはおれになるだろう。
……その時に、死ぬのがおれ一人ならまだいい。
でも、ここにはおれと共にヴァンが残るんだ。彼だけは絶対に死なせたくないし、死なせちゃダメだ。そのために、おれは皇帝陛下に口添えしてもらって第三部隊に入れてもらったんだし!
……しょうがないな。
本当はレッドドラゴンの素材採取のためにはやりたくなかったんだけど、ここは安全策をとろう。
――――つまり、一撃必殺だ!
『――――な、』
「15時の方向、地点は30キロ。レッドドラゴンは……真っ直ぐこちらに向かっている。恐らくは20分程でこの場所に到達するだろう」
おれの報告に、一気に場は騒然とした。
『レ……レッドドラゴン!? 馬鹿な、危険級ランクSのモンスターだぞ。こんな浅部にいるわけが……!』
『い、いえ。こちらアルファ機でも確認しました。まだ全容は見えませんが、巨大なモンスターが木々をなぎ倒しつつこちらにまっすぐ進んできているのは確かです』
『おいおいマジかよ。今の時期は休眠期の直前だとはいっても、一体なんでこっちに……!』
レッドドラゴンはドラゴン種の中でもファイアブレスを持つランクSのモンスターだ。この世界では通常、オートマタ部隊二個編成で相手どりをするモンスターであり、今回のエンカウントは完全に想定外のことだった。
おれとしても、ドラゴン種のモンスターに遭遇するなんて予想だにしていなかった。
けれど……なぜだろう。
なんとなく、この状況にデジャブを感じるのは。
確かあれは――そうだ。GOGでのストーリーの中盤でのイベントだ。確か主人公が獣王国を完全に離反するきっかけになる事件……たしか、獣王国の重鎮さんたちが帝国最強のオートマタ「シャンディ・ガフ」を嵌めるために小国群を通して指名依頼を出してモンスター討伐に行かせて、そこでドラゴン種に襲わせるという……
「……一杯食わされたか」
そう呟いた声は、おれ的には小声のつもりだったのだが、舞乙女の外部音声マイクがばっちり集音してくれていたらしい。
おれの言葉に『どういうことだ、舞乙女?』とヴァンが訝しげな声で尋ねてきた。しかも、見ればなんか第三部隊の人全員がこっちを注視している。
やばい。こうなるともう完全に、「いや、なんか昔似たような状況を見たなぁってデジャブってたら、うっかりその時のシャンディ・ガフさんの台詞を則って言っちゃっただけで……」とは言えない空気だ。
ん? でもこの場合、この世界の時系列的には昔ではなく未来の話になるのか……?
『な、何か心当たりがあるんすか、ヤマトさん!?』
「……これは憶測だが。……あくまでおれ個人の憶測だが」
とりあえず、憶測だということを再三、念押しする。
「例えば……低級モンスターにわざとドラゴン種の好む果物を与えて、低級モンスターの巣に集めさる。低級モンスターを討伐にきた戦闘騎士が体液や果汁を浴びることで、その匂いを機体に移させ、その後にドラゴン種を誘導して戦闘騎士にけしかける。今の時期にはレッドドラゴンは特に、冬ごもり前の食べ溜めの時期だから匂いに敏感だ。自分の好物の匂いとなれば、なおさら誘導に引っかかるだろう」
GOGで「シャンディ・ガフ」が嵌められた獣王国の作戦……場所は「迷いの大森林」じゃなかったけれど、確かあれもオートマタを持たない小国郡からの指名依頼を受けてモンスター討伐に行った先で、危険級ランクSのモンスターから襲撃を受けるのだ。
その事件の後、主人公は自分の国の重鎮たちや国王の卑劣さを知ってしまい、それで獣王国を完全に離反することに……というのが中盤のストーリーだ。
でも、今回のレッドドラゴンの襲撃は完全に別だろうなぁ。
だってレッドドラゴンにおれ達を襲わせても、獣王国にはなんのメリットもないもんな!
獣王国が「シャンディ・ガフ」をレッドドラゴンに襲わせたのは、また戦争が本格的に開始される前に少しでも帝国側の力を削いでおこうという目的があったからだ。でも、今回はまったくもってメリットと労力が釣り合ってない。
マニュアルの戦闘騎士部隊とおれのような対人戦闘経験からっきしな新人オートマタ乗りを、わざわざレッドドラゴンに襲わせたとして、獣王国にはほとんどメリットがない。
うん? でも今回指名依頼がきたのは、第三部隊の腕をモルスト国の人の誰かが高く評価しているから、だよな?
なら、獣王国が第三部隊を狙って……という線もあるのか? でも、この世界の一般的な観念からしたら、マニュアル部隊ってオートマタの足元にはるかに及ばない的な扱いって感じの考え方のはずだよな? 帝国のノーマンとか、もちろんおれはそんなことは思ってないけど。
だから獣王国の人たちがこのタイミングで第三部隊をレッドドラゴンに襲わせるように画策するとは思えないんだけど……。あれ?
あー、もう! こんがらがってきた!
『つ、つまり……指名依頼自体が罠だったと!?』
『じゃあモルスト国が俺たちを嵌めるために……!?』
混乱しているおれをよそに、一気に色めき、怒りをあらわにしている第三部隊の面々。
いや、あの。さっきのは、あくまでもおれのゲーム知識をもとにした憶測だからね?
『……モルスト国は獣王国が最大の貿易国だからな。もしかすると獣王国がこの前の意趣返しに俺らを嵌めたのかもしれんな』
『ちっ……そういうことかよ』
ああっ、ちょ、ヴァンまでそんな風に!?
おれ「この所感はあくまでもおれの憶測ですよ!」ってさっきあんなに念押ししたよね!?
みんな、ちゃんと聞いてましたか!?
「詮索は後だ、皆。今は早くここから離脱することを考えてくれ」
この話題を掘り下げられるとおれが大変気まずいのと、こうしている間にもレッドドラゴンの距離がじりじりと縮まってきているため、おれはそう皆に声をかけた。
『離脱することを考えろ……って、ヤマトさんは?』
「おれはここに残る」
『なっ……!』
『おい、ヤマト?』
おれの言葉に驚きの声を上げる第三部隊の面々と、焦ったようにおれに詰め寄ろうとするヴァン。
おれはそんなヴァンを片手で制した。
「今ならまだ間に合う。おれが殿を務めるから、ヴァン……隊長は皆を率いて森から離脱して欲しい」
『……お前……』
『ヤ、ヤマトさん。レッドドラゴンはランクSのモンスターですよ!?』
「……このまま街道におれたちが出れば、つまり、レッドドラゴンがそのままおれたちを追って街道に出てしまう可能性が高い。そうなれば被害が拡大する可能性がある」
『で、でも……』
『しかし……さすがのお前でも、オートマタ一機ではどうにもならんだろう』
苦虫を噛み潰したような声のヴァン。
……でも、正直彼も心の奥底では分かってるんだろう。おれが先程告げた内容だって、きっとヴァンの方がおれよりも早く思い至っていたはずだ。
それをヴァンが言い出さなかったのは……多分、ヴァンがおれを思いやってくれたからだ。おれ一人を死地に行かせるまいとしてくれたんだろう。
けれども、おれはそんな気の使い方はしてほしくない。
おれとヴァンが恋人同士というのなら、なおさらそんな遠慮はして欲しくないのだ。
だから――おれは、ヴァンに告げた。
「それでも、ここはおれが行くべきだろ?」
『…………っ』
『ヤマトさん……』
おれの言葉に押し黙ったヴァンと、かすかに涙声の入り混じったようなスティンガーの外部音声。
しばらく沈黙が落ちたものの、ヴァンの逡巡は一瞬だった。
次に声を上げた時には、いつも通り、張りのある迷いのない声で指示を飛ばし始めた。
『――了解した。なら、俺のスティンガーⅡ型と舞乙女がここに残り、レッドドラゴンの注意を引き付ける。ベータとガンマは帰還してこのことを帝国に報告しろ。アルファ、お前は残りの5機を率いて森を抜けろ。そしてポイント地点Bにて待機!』
……ん!? あれ、ちょ、ちょっと待って!?
ヴァンも今ここに残るって言った!?
『た、隊長、それなら俺たちも!』
『ヤ、ヤマトさんと隊長だけ残って、俺らだけ帰還するわけにゃ……!』
焦ったように声を上げる第三部隊の面々。
だが、その気持はおれも同じだ。
「ヴァン……残るのはおれだけでいい。お前まで残るのは」
『どいつもこいつも異論は認めん。これは隊長からの命令だ』
「……っ」
そう言われてしまえば、立場的に部下であるおれは、もはや何を言うこともできない。
「……わかった」
渋々うなずく。
先程、抗議の声を上げていた皆も、おれと同じく命令を了承するしかないと分かったようだ。
『ヤマトさん、隊長……』
『絶対生きて帰ってきてくださいよ!』
みんなの言葉に、おれは舞乙女の機体の中でぐっと拳を握りしめた。
「ああ、安心してくれ。ヴァンを……おれたちの隊長をみすみす死なせはしないと約束する。なに、おれもドラゴン種なら何度かやり合った相手だ、勝算がないわけじゃないさ」
『ヤマトさん、こんな時にそんな冗談を……』
先程涙声だった彼が、泣き笑いの入り混じった声でそんなことを言った。
いや、冗談じゃなくて本当なんだよ?
ただ問題は……おれの戦いは全部がゲーム上のことで、実戦はこれが始めてのエンカウントってことなんだよな。
そうなんだよなー。GOG上では別にレッドドラゴンなんて、ランクSでもそこまで危ない相手でもないんだよ。落とす素材は美味しいし。
正直、さっきだって「こんな浅部にこんな美味しい敵が出てくるなんてマジかよ」と思ってしまったぐらいだ。
というかモンスターよりもオンラインクエストに出てくる廃プレイヤーの方がよっぽど恐ろしい。ランキング上位の人とかもう化物みたいな動きだからね……。
……けれど……ここは現実の世界なんだ。ゲームじゃない。
そして、何よりここは迷いの大森林だ。
おれの機体にもある程度のマップは入っているとはいえ、相手はこの森を根城にしている在来生物。
一瞬の油断が命取りになる。相手を甘く見たが最後、屠られるのはおれになるだろう。
……その時に、死ぬのがおれ一人ならまだいい。
でも、ここにはおれと共にヴァンが残るんだ。彼だけは絶対に死なせたくないし、死なせちゃダメだ。そのために、おれは皇帝陛下に口添えしてもらって第三部隊に入れてもらったんだし!
……しょうがないな。
本当はレッドドラゴンの素材採取のためにはやりたくなかったんだけど、ここは安全策をとろう。
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