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第16話
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あのおじさんから配属通知をもらって、さっそく第三部隊のいるところに行くと決めたはいいものの……よく考えたら手土産にお菓子持っていくにしても、ヴァンたちにとってはめちゃくちゃ地元のお菓子になっちゃうよな。
自分の地元のお菓子を、よその国の人間がお土産に持ってくるとかすっごい気まずいよな……。
というわけで、とりあえず今日は手土産のお菓子とかは持って行かないで、配属通知だけ持って第三部隊のところに行くことにした。
出かける直前に宿屋の人にそれとなく聞いてみたけど、そういう慣習は特にないそうなので、配属通知だけ持っていけばひとまず大丈夫だろう。
……まぁ、だから手土産の件はいいとして、一つ問題がある。
――よく考えたら、おれ、ヴァンたち第三部隊がどこで働いているか知らなかった。
……うっかりすぎるだろ、自分!
い、いや、違うんだよ。配属通知にちゃんと詳細が書いてあるのかなって思ったんだけど、配属通知は本当に「第三部隊への配属が決定しました 陛下より(意訳)」って書いてあるだけだったんだ。詳しい勤務場所とか勤務時間とかが一切書いてないんだよね……。
あの連絡役のおじさんも、おれがあまりにも自信満々で「ヴァンに渡しておく」って言ったから、場所を知っているものだと思ったのか、特に何も説明しないで帰っていってしまった。今から追いかけてももうおじさんに追いつかないだろうし……。
まぁ多分、本当はこういうのってまずは自分の所の隊長と顔合わせをして、それから隊長から詳細な勤務時間や場所、予定を教えてもらえるものなんだろうな。
おれがいた世界と違って、雇用契約書とかはないんだろうし。今回はおれが気を回したことで、その流れがこんがらがってしまったんだろう。
そういうわけで、とりあえずおれはこの帝国に初めて訪れた施設――帝国戦闘騎士部隊のマニュアルタイプの戦闘騎士が置かれている格納庫へと来た。
予想として、戦闘騎士乗りの人たちの職場なら格納庫からそう離れた場所にはないだろうと思ったからだ。
帝国の戦闘騎士格納庫は、まるでおれの元の世界の飛行場とよく似た雰囲気だ。整地された大地に、大きなドーム型のプレハブ工法の倉庫が見える範囲に4つ並んでいる。その中や周りでは整備班と思わしき作業着姿の人や、戦闘騎士乗りと思わしき、隊服姿の人達がせわしなく作業を行っている。
格納庫周辺はぐるりとおれの背丈よりも数倍高い柵が張り巡らされており、おれは柵越しに格納庫を見てみた。格納庫をぐるりと囲んでいる鉄柵の周辺には、おれと同じように、中を見ようとしている家族連れや恋人同士なんかがけっこういる。
戦闘騎士というのは国防の要であり、国の発展には欠かせない存在だ。戦闘騎士も、そして搭乗騎士も、国民にとっては憧れの存在なのだろう。鉄柵の中では歩兵の兵士さんが2人組みで連れ立って巡回をしているが、柵の周りの見物客には慣れっこのようで、彼らを咎めるような真似もしなかった。
「……あれ。キミ、ヤマト君やない?」
すると、そんな柵の中にいた人が、こちらに声をかけてきた。
聞き間違いかと思うも、その声の主はまっすぐおれの方に歩み寄ってくる。いや、歩み寄ってくるというか……なんかこう、ゴールデンレトリバーの子犬が遊んでほしくで猛烈に駆け寄ってくるような勢いでこっちに来た。
度の強そうなグルグル眼鏡で顔立ちはほとんど見えない。くしゃくしゃの栗色の髪に、モスグリーンの作業着の上に、油汚れのついた白衣を身に着けている。
声の感じからして、年齢はおれよりも一歳か二歳上、ぐらいだろうか。
「やっぱり、ヤマト君や! どないしたん? あっ、舞乙女ちゃんに会いに来たんか?」
この独特な喋り方――間違いない、彼はGOGで出てきた帝国の天才整備技師であるドクター・ノーマンだ!
最新作の「GOG9」の中では脇役の一人で、ルートによっては敵対国の人間ながらも主人公に助言や忠告を与えてくれることもある。
なお、初登場は「GOG9」の前作である「GOG8」で、そちらはストーリーの根幹に携わるメインの登場人物だった。彼の独特なキャラクターがプレイヤーから人気を得て、最新作にも脇役で登場をすることになったというわけだ。
性格は、言ってしまえば度を越した戦闘騎士マニア。
だが、それと同時に並ぶもののない戦闘騎士開発者として名が広く知れ渡っている人物でもある。その名前は帝国だけでなく、獣王国などの他国にも知れ渡っているほどで、十代の頃には精霊国に戦闘騎士の勉強のために留学に行っていたこともある。
精霊国は一部の地域を除いて鎖国状態の国なので、そんな国への留学が認められたというだけで、彼の天才ぶりが分かろうというものだ。なお、確かこの彼の口調が精霊国に留学していた時の訛りが残っている……という設定だったはず。
「感激やわぁ。いやー、僕はずっとずっとキミに逢いたかったんや!」
柵の間から手を差しだされ、そのまま握手をされたと思ったら、一方的にぶんぶんと上下に振られる。
おお、あのドクター・ノーマンと会えて握手までしてもらえるなんて……! なんだか芸能人と会えたような気分だ。
……いや、この世界、この帝国では芸能人そのものなのか。
気がつけば、おれの周囲にいた家族連れや通りすがりの人が「あれ、ノーマン様じゃない?」「彼があの噂に名高い……!? オレ、本物初めてみた!」「あのノーマンさんと握手をされている青年は誰なのかしら?」とざわざわしながら足を止め、ちょっとした人だかりが出来てしまっている。
それに気がついたノーマンが眉をしかめ、声をひそめた。
「ん……ここじゃあ何やな。ヤマト君、表に回って中に入って来てもらってもええ?」
「かまわないが……おれは配属通知しか持ってないぞ。入れるのか?」
「陛下の直印が押してあるなら大丈夫やで! もしもダメやったら、僕が口きいたげるし」
あ、この配属通知だけで中に入れるんだ。
でもドクター・ノーマンが一緒に来てくれるっていうんなら、そっちの方が確実だしな。いい機会だし、このまま中に入れてもらおう。
そして、おれはいったんドクター・ノーマンと別れて、格納庫を囲む柵の正門にまわることにした。
大きな鉄城門の周囲には歩兵の兵士さんが見張りで配置されていたが、おれが第三部隊への配送通知を見せるとすんなりと中に入れてくれた。鉄城門のすぐそばドクター・ノーマンが「ヤマト君、こっちやでー!」と行って手を振って待機してくれていたのも大きかったのだろう。
ドクター・ノーマンと落ち合ったおれは、彼に、第三部隊への配属が決定したことと、そのためヴァン達に挨拶に来たので、この格納庫まで来てみたことを説明した。そうしたら、なんとドクター・ノーマンが第三部隊の働いているところまで案内してくれるという。
「いいのか? そちらも仕事中だったんだろう?」
「かまへんでー。それに、言ったやろ? 僕、この前の模擬試合の時からずっとヤマト君に会いたかったんや!」
というわけで、ありがたくドクター・ノーマンに道案内を頼むことにした。
しかし、口調が明るく人懐っこいドクター・ノーマンだが、いかんせんグルグル眼鏡で顔がよく見えないので、彼が本当はどんな表情を浮かべているかはわからない。迷惑に思われていなければいいんだけど……。
っていうか、この前の模擬試合に来てたんだ。
どこに座ってたんだろ、見落としちゃったなぁ。
「模擬試合に来ていたのか」
「そうそう! まさかうちのシャンディ・ガフに勝つなんてびっくりしたで! いやぁ、だからいっぺん、ヤマト君とはお話してみたいと思ってたんや!」
「そうか。あのドクター・ノーマンに興味を持って頂けるとは光栄だな」
「……へぇ、僕のこと知ってるんや。さすがやね?」
と、なんだか雰囲気が変わったドクター・ノーマン。
なんだかおれを品定めするようにじっと見つめてくる。
な、なんだ? 一体いきなり……ああ、そういやおれ、まだドクター・ノーマンから自己紹介とかされてなかったね! しまった、相手から名乗られてないのにこちらから名前を呼んでしまった……。
ま、まぁ、ドクター・ノーマンはすごい有名人だからギリギリセーフだよね?
「あなたのような有名人なら、それなりにな。これから帝国に住むのだし、これぐたいの前知識は当然だろう?」
「ふぅん……? 僕のことも調査済みってわけなんや」
うん? なんか話が微妙に食い違っているような……。
「まぁ、いいわ。僕は政争なんかには興味ないんや、戦闘騎士をいじってることができるんなら問題ないしな」
話が食い違っているような気もしたが、当のドクター・ノーマンが流してしまったので、これ以上突っ込むのは躊躇われ、これ以上その話を掘り下げるのは取りやめた。
そうこうしている間に、ドクター・ノーマンは格納庫の敷地内の整備された地面すたすたとを歩き出す。おれもドクター・ノーマンの隣に並んで歩き始める。
歩いている最中、すれ違う人たちがドクター・ノーマンに向かって敬礼をするので、ドクター・ノーマンはやっぱり帝国内でなかなか高い地位にいるんだろう。
「いや、それにしても舞乙女ちゃんは本当に面白いわぁ。この前の模擬試合で見せたスピードもさることながら、一試合めの胸部砲撃! あれはまったく新しい戦闘概念や、あれをうちの戦闘騎士につけることができたら、戦闘の幅ががらりと変わるで!」
ドクター・ノーマンは慣れている様子でつかつかと基地内を進む。そして、進んでいる間にも戦闘騎士の話は止まらず、いつ呼吸してるんだろうと思うくらいの勢いでべらべらと喋り続ける。
「胸部砲撃……ああ、胸部バズーカのことか」
「ヤマト君のところでは胸部バズーカっていうんか?」
「そうだな。胸部なら胸部バズーカ、頭部なら頭部バズーカだな」
「! 頭部バズーカなんてものもあるんか!?」
「ああ。おれの舞乙女には装備させてないが」
「でもオートマタ乗りには難しそうな装備やなぁ。自分の胸部とか頭部から砲撃ができる、っていうイメージ没入ができへんと、ただの飾りで終わりそうやわぁ」
「だから、どちらかと言うとマニュアルタイプ向けの装備になるのかな」
ドクター・ノーマンとの話はけっこう面白く、初対面にもかかわらず意外にも話が弾んだ。
例えばヴァンと一緒にいる時は、沈黙でもお互い苦にならず、穏やかな空気を楽しむ……という雰囲気なのだけれど、ドクター・ノーマンはまったく逆だ。どんどんと矢継ぎ早に話題を振ってくる。戦闘騎士のこととなると、ドクター・ノーマンは興味がどこまでも尽きない様子だった。
「いやぁ、ヤマト君と話してると勉強になるわぁ」
「おれも色んなことを教えてもらえて助かった」
「にしても舞乙女ちゃんは、やっぱりすごい戦闘騎士やねぇ。叶うなら一度、解体して隅から隅まで調べたいくらい……っと」
そこまで言いかけたドクター・ノーマンが、なんだかバツの悪そうな顔をして黙った。
心なしか、グルグル眼鏡の奥の瞳が、きまり悪そうにこちらを見つめてくるのが伝わってくる。
「……どうかしたか?」
幸い、今いる場所は格納庫の裏手で、あまり人気がないところだったので、足をとめてドクター・ノーマンの顔を覗き込んでみる。
「あー。よく僕、興奮するとこういうこと言っちゃうんや。気ぃ悪くしてたらごめんな?」
「……ああ、今言っていた『舞乙女を解体したい』ってことか?」
ぼりぼりと頭をかいているドクター・ノーマンは、なんだかいたずらが見つかった子供みたいな様子でちょっと可愛い。
おれは苦笑いをしながら彼に答えた。そういやGOGでもあったなぁ、こんな感じの会話シーン。でも、ノーマンは悪気があって言ってるわけではないんだよな。こう……良くも悪くも戦闘騎士への愛情が強すぎる人物なのだ。
「ドクター・ノーマンが解体したいのなら、俺はべつにかまわないぞ」
「えっ」
「そうすることで、帝国の戦闘騎士のさらなる発展が臨める――ということなら、おれに異論があるはずもない」
というか、帝国の超有名人のドクター・ノーマンさんがそう決めたら、おれが逆らってもどうにもなりそうにないし……。
それに――、
「――それに、おれはあなたの腕を信頼している」
「え……」
「あなたなら、一度解体したところで元通りに組み立てるのは造作もないだろう? 先程の話だけでも、あなたが戦闘騎士にかける愛情は充分に伝わってきた。あなたならおれの舞乙女を悪いようにはしないと信じているからな」
「…………」
おれがそう言うと、ドクター・ノーマンがちょっと照れくさそうにしながら黙ってしまった。
そして、しばらく沈黙が続いたものの、
「……呼び名……」
「うん?」
「こ、これから僕が舞乙女ちゃんの整備とかもやるんやし。顔合わせる機会もいっぱいあるやろうから……ドクター・ノーマンやとちょっと長過ぎるやろ」
「……ノーマンさん?」
「わざとか!? よ、呼び捨てでいいって言うてるんや……」
おお! なんと、あのドクター・ノーマンに呼び捨てで呼ぶのを許してもらえた。
つまり、これはこの世界でとうとう2番目の友人が出来たということだろうか。
おれにしてはすごい! 元の世界だったら、こんなペースで友人ができるなんて考えられなかったぜ!
……言ってて悲しくなってきた!
「ありがとう。じゃあ、これから友人としてどうかよろしく頼む、ノーマン」
「……友人……」
あ、またドクター・ノーマン……ノーマンがちょっと嬉しそうにしいる。グルグル眼鏡のせいでちょっと分かりづらいけども。
そういやノーマンって、確かGOGのストーリーだと、そのすごすぎる才能で周りとあまり話が合わなかったり、あとマッド・サイエンティストじみた性格のせいで、あまり友人がいないんだっけ?
あとなんか、帝国の陛下と確か実は血縁関係があるけど、庶子みたいな生まれだから血縁関係があるのに王族と認められてなかったとかなんとか……。ここらへんの設定、ちょっと曖昧にしか覚えてないけど、まぁいいや。
ともかく重要なのは、ノーマンも帝国内ではあまり友人がいないなら、年頃も近そうだし、こんなおれとでも仲良くしてもらえるかもしれないってことだ!
でも、あまり友人がいないとは言っても、元の世界でのおれほどの少なさじゃないだろうけどな!
……また自分の言葉で自分が悲しくなってきてしまった。
おれは学習能力がないのだろうか?
な、なにはともあれ、これから友人としてよろしくな、ノーマン!
自分の地元のお菓子を、よその国の人間がお土産に持ってくるとかすっごい気まずいよな……。
というわけで、とりあえず今日は手土産のお菓子とかは持って行かないで、配属通知だけ持って第三部隊のところに行くことにした。
出かける直前に宿屋の人にそれとなく聞いてみたけど、そういう慣習は特にないそうなので、配属通知だけ持っていけばひとまず大丈夫だろう。
……まぁ、だから手土産の件はいいとして、一つ問題がある。
――よく考えたら、おれ、ヴァンたち第三部隊がどこで働いているか知らなかった。
……うっかりすぎるだろ、自分!
い、いや、違うんだよ。配属通知にちゃんと詳細が書いてあるのかなって思ったんだけど、配属通知は本当に「第三部隊への配属が決定しました 陛下より(意訳)」って書いてあるだけだったんだ。詳しい勤務場所とか勤務時間とかが一切書いてないんだよね……。
あの連絡役のおじさんも、おれがあまりにも自信満々で「ヴァンに渡しておく」って言ったから、場所を知っているものだと思ったのか、特に何も説明しないで帰っていってしまった。今から追いかけてももうおじさんに追いつかないだろうし……。
まぁ多分、本当はこういうのってまずは自分の所の隊長と顔合わせをして、それから隊長から詳細な勤務時間や場所、予定を教えてもらえるものなんだろうな。
おれがいた世界と違って、雇用契約書とかはないんだろうし。今回はおれが気を回したことで、その流れがこんがらがってしまったんだろう。
そういうわけで、とりあえずおれはこの帝国に初めて訪れた施設――帝国戦闘騎士部隊のマニュアルタイプの戦闘騎士が置かれている格納庫へと来た。
予想として、戦闘騎士乗りの人たちの職場なら格納庫からそう離れた場所にはないだろうと思ったからだ。
帝国の戦闘騎士格納庫は、まるでおれの元の世界の飛行場とよく似た雰囲気だ。整地された大地に、大きなドーム型のプレハブ工法の倉庫が見える範囲に4つ並んでいる。その中や周りでは整備班と思わしき作業着姿の人や、戦闘騎士乗りと思わしき、隊服姿の人達がせわしなく作業を行っている。
格納庫周辺はぐるりとおれの背丈よりも数倍高い柵が張り巡らされており、おれは柵越しに格納庫を見てみた。格納庫をぐるりと囲んでいる鉄柵の周辺には、おれと同じように、中を見ようとしている家族連れや恋人同士なんかがけっこういる。
戦闘騎士というのは国防の要であり、国の発展には欠かせない存在だ。戦闘騎士も、そして搭乗騎士も、国民にとっては憧れの存在なのだろう。鉄柵の中では歩兵の兵士さんが2人組みで連れ立って巡回をしているが、柵の周りの見物客には慣れっこのようで、彼らを咎めるような真似もしなかった。
「……あれ。キミ、ヤマト君やない?」
すると、そんな柵の中にいた人が、こちらに声をかけてきた。
聞き間違いかと思うも、その声の主はまっすぐおれの方に歩み寄ってくる。いや、歩み寄ってくるというか……なんかこう、ゴールデンレトリバーの子犬が遊んでほしくで猛烈に駆け寄ってくるような勢いでこっちに来た。
度の強そうなグルグル眼鏡で顔立ちはほとんど見えない。くしゃくしゃの栗色の髪に、モスグリーンの作業着の上に、油汚れのついた白衣を身に着けている。
声の感じからして、年齢はおれよりも一歳か二歳上、ぐらいだろうか。
「やっぱり、ヤマト君や! どないしたん? あっ、舞乙女ちゃんに会いに来たんか?」
この独特な喋り方――間違いない、彼はGOGで出てきた帝国の天才整備技師であるドクター・ノーマンだ!
最新作の「GOG9」の中では脇役の一人で、ルートによっては敵対国の人間ながらも主人公に助言や忠告を与えてくれることもある。
なお、初登場は「GOG9」の前作である「GOG8」で、そちらはストーリーの根幹に携わるメインの登場人物だった。彼の独特なキャラクターがプレイヤーから人気を得て、最新作にも脇役で登場をすることになったというわけだ。
性格は、言ってしまえば度を越した戦闘騎士マニア。
だが、それと同時に並ぶもののない戦闘騎士開発者として名が広く知れ渡っている人物でもある。その名前は帝国だけでなく、獣王国などの他国にも知れ渡っているほどで、十代の頃には精霊国に戦闘騎士の勉強のために留学に行っていたこともある。
精霊国は一部の地域を除いて鎖国状態の国なので、そんな国への留学が認められたというだけで、彼の天才ぶりが分かろうというものだ。なお、確かこの彼の口調が精霊国に留学していた時の訛りが残っている……という設定だったはず。
「感激やわぁ。いやー、僕はずっとずっとキミに逢いたかったんや!」
柵の間から手を差しだされ、そのまま握手をされたと思ったら、一方的にぶんぶんと上下に振られる。
おお、あのドクター・ノーマンと会えて握手までしてもらえるなんて……! なんだか芸能人と会えたような気分だ。
……いや、この世界、この帝国では芸能人そのものなのか。
気がつけば、おれの周囲にいた家族連れや通りすがりの人が「あれ、ノーマン様じゃない?」「彼があの噂に名高い……!? オレ、本物初めてみた!」「あのノーマンさんと握手をされている青年は誰なのかしら?」とざわざわしながら足を止め、ちょっとした人だかりが出来てしまっている。
それに気がついたノーマンが眉をしかめ、声をひそめた。
「ん……ここじゃあ何やな。ヤマト君、表に回って中に入って来てもらってもええ?」
「かまわないが……おれは配属通知しか持ってないぞ。入れるのか?」
「陛下の直印が押してあるなら大丈夫やで! もしもダメやったら、僕が口きいたげるし」
あ、この配属通知だけで中に入れるんだ。
でもドクター・ノーマンが一緒に来てくれるっていうんなら、そっちの方が確実だしな。いい機会だし、このまま中に入れてもらおう。
そして、おれはいったんドクター・ノーマンと別れて、格納庫を囲む柵の正門にまわることにした。
大きな鉄城門の周囲には歩兵の兵士さんが見張りで配置されていたが、おれが第三部隊への配送通知を見せるとすんなりと中に入れてくれた。鉄城門のすぐそばドクター・ノーマンが「ヤマト君、こっちやでー!」と行って手を振って待機してくれていたのも大きかったのだろう。
ドクター・ノーマンと落ち合ったおれは、彼に、第三部隊への配属が決定したことと、そのためヴァン達に挨拶に来たので、この格納庫まで来てみたことを説明した。そうしたら、なんとドクター・ノーマンが第三部隊の働いているところまで案内してくれるという。
「いいのか? そちらも仕事中だったんだろう?」
「かまへんでー。それに、言ったやろ? 僕、この前の模擬試合の時からずっとヤマト君に会いたかったんや!」
というわけで、ありがたくドクター・ノーマンに道案内を頼むことにした。
しかし、口調が明るく人懐っこいドクター・ノーマンだが、いかんせんグルグル眼鏡で顔がよく見えないので、彼が本当はどんな表情を浮かべているかはわからない。迷惑に思われていなければいいんだけど……。
っていうか、この前の模擬試合に来てたんだ。
どこに座ってたんだろ、見落としちゃったなぁ。
「模擬試合に来ていたのか」
「そうそう! まさかうちのシャンディ・ガフに勝つなんてびっくりしたで! いやぁ、だからいっぺん、ヤマト君とはお話してみたいと思ってたんや!」
「そうか。あのドクター・ノーマンに興味を持って頂けるとは光栄だな」
「……へぇ、僕のこと知ってるんや。さすがやね?」
と、なんだか雰囲気が変わったドクター・ノーマン。
なんだかおれを品定めするようにじっと見つめてくる。
な、なんだ? 一体いきなり……ああ、そういやおれ、まだドクター・ノーマンから自己紹介とかされてなかったね! しまった、相手から名乗られてないのにこちらから名前を呼んでしまった……。
ま、まぁ、ドクター・ノーマンはすごい有名人だからギリギリセーフだよね?
「あなたのような有名人なら、それなりにな。これから帝国に住むのだし、これぐたいの前知識は当然だろう?」
「ふぅん……? 僕のことも調査済みってわけなんや」
うん? なんか話が微妙に食い違っているような……。
「まぁ、いいわ。僕は政争なんかには興味ないんや、戦闘騎士をいじってることができるんなら問題ないしな」
話が食い違っているような気もしたが、当のドクター・ノーマンが流してしまったので、これ以上突っ込むのは躊躇われ、これ以上その話を掘り下げるのは取りやめた。
そうこうしている間に、ドクター・ノーマンは格納庫の敷地内の整備された地面すたすたとを歩き出す。おれもドクター・ノーマンの隣に並んで歩き始める。
歩いている最中、すれ違う人たちがドクター・ノーマンに向かって敬礼をするので、ドクター・ノーマンはやっぱり帝国内でなかなか高い地位にいるんだろう。
「いや、それにしても舞乙女ちゃんは本当に面白いわぁ。この前の模擬試合で見せたスピードもさることながら、一試合めの胸部砲撃! あれはまったく新しい戦闘概念や、あれをうちの戦闘騎士につけることができたら、戦闘の幅ががらりと変わるで!」
ドクター・ノーマンは慣れている様子でつかつかと基地内を進む。そして、進んでいる間にも戦闘騎士の話は止まらず、いつ呼吸してるんだろうと思うくらいの勢いでべらべらと喋り続ける。
「胸部砲撃……ああ、胸部バズーカのことか」
「ヤマト君のところでは胸部バズーカっていうんか?」
「そうだな。胸部なら胸部バズーカ、頭部なら頭部バズーカだな」
「! 頭部バズーカなんてものもあるんか!?」
「ああ。おれの舞乙女には装備させてないが」
「でもオートマタ乗りには難しそうな装備やなぁ。自分の胸部とか頭部から砲撃ができる、っていうイメージ没入ができへんと、ただの飾りで終わりそうやわぁ」
「だから、どちらかと言うとマニュアルタイプ向けの装備になるのかな」
ドクター・ノーマンとの話はけっこう面白く、初対面にもかかわらず意外にも話が弾んだ。
例えばヴァンと一緒にいる時は、沈黙でもお互い苦にならず、穏やかな空気を楽しむ……という雰囲気なのだけれど、ドクター・ノーマンはまったく逆だ。どんどんと矢継ぎ早に話題を振ってくる。戦闘騎士のこととなると、ドクター・ノーマンは興味がどこまでも尽きない様子だった。
「いやぁ、ヤマト君と話してると勉強になるわぁ」
「おれも色んなことを教えてもらえて助かった」
「にしても舞乙女ちゃんは、やっぱりすごい戦闘騎士やねぇ。叶うなら一度、解体して隅から隅まで調べたいくらい……っと」
そこまで言いかけたドクター・ノーマンが、なんだかバツの悪そうな顔をして黙った。
心なしか、グルグル眼鏡の奥の瞳が、きまり悪そうにこちらを見つめてくるのが伝わってくる。
「……どうかしたか?」
幸い、今いる場所は格納庫の裏手で、あまり人気がないところだったので、足をとめてドクター・ノーマンの顔を覗き込んでみる。
「あー。よく僕、興奮するとこういうこと言っちゃうんや。気ぃ悪くしてたらごめんな?」
「……ああ、今言っていた『舞乙女を解体したい』ってことか?」
ぼりぼりと頭をかいているドクター・ノーマンは、なんだかいたずらが見つかった子供みたいな様子でちょっと可愛い。
おれは苦笑いをしながら彼に答えた。そういやGOGでもあったなぁ、こんな感じの会話シーン。でも、ノーマンは悪気があって言ってるわけではないんだよな。こう……良くも悪くも戦闘騎士への愛情が強すぎる人物なのだ。
「ドクター・ノーマンが解体したいのなら、俺はべつにかまわないぞ」
「えっ」
「そうすることで、帝国の戦闘騎士のさらなる発展が臨める――ということなら、おれに異論があるはずもない」
というか、帝国の超有名人のドクター・ノーマンさんがそう決めたら、おれが逆らってもどうにもなりそうにないし……。
それに――、
「――それに、おれはあなたの腕を信頼している」
「え……」
「あなたなら、一度解体したところで元通りに組み立てるのは造作もないだろう? 先程の話だけでも、あなたが戦闘騎士にかける愛情は充分に伝わってきた。あなたならおれの舞乙女を悪いようにはしないと信じているからな」
「…………」
おれがそう言うと、ドクター・ノーマンがちょっと照れくさそうにしながら黙ってしまった。
そして、しばらく沈黙が続いたものの、
「……呼び名……」
「うん?」
「こ、これから僕が舞乙女ちゃんの整備とかもやるんやし。顔合わせる機会もいっぱいあるやろうから……ドクター・ノーマンやとちょっと長過ぎるやろ」
「……ノーマンさん?」
「わざとか!? よ、呼び捨てでいいって言うてるんや……」
おお! なんと、あのドクター・ノーマンに呼び捨てで呼ぶのを許してもらえた。
つまり、これはこの世界でとうとう2番目の友人が出来たということだろうか。
おれにしてはすごい! 元の世界だったら、こんなペースで友人ができるなんて考えられなかったぜ!
……言ってて悲しくなってきた!
「ありがとう。じゃあ、これから友人としてどうかよろしく頼む、ノーマン」
「……友人……」
あ、またドクター・ノーマン……ノーマンがちょっと嬉しそうにしいる。グルグル眼鏡のせいでちょっと分かりづらいけども。
そういやノーマンって、確かGOGのストーリーだと、そのすごすぎる才能で周りとあまり話が合わなかったり、あとマッド・サイエンティストじみた性格のせいで、あまり友人がいないんだっけ?
あとなんか、帝国の陛下と確か実は血縁関係があるけど、庶子みたいな生まれだから血縁関係があるのに王族と認められてなかったとかなんとか……。ここらへんの設定、ちょっと曖昧にしか覚えてないけど、まぁいいや。
ともかく重要なのは、ノーマンも帝国内ではあまり友人がいないなら、年頃も近そうだし、こんなおれとでも仲良くしてもらえるかもしれないってことだ!
でも、あまり友人がいないとは言っても、元の世界でのおれほどの少なさじゃないだろうけどな!
……また自分の言葉で自分が悲しくなってきてしまった。
おれは学習能力がないのだろうか?
な、なにはともあれ、これから友人としてよろしくな、ノーマン!
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子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
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