異世界勘違い日和

秋山龍央

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SIDE:帝国騎士部隊隊長ヴァン・イホーク

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――驚きだ。
この自分が、こんな人間だとは思ってもみなかった。

今日の今日まで、てっきり自分は性には淡白な人間だと思っていた。今まで、好ましいと思う人間や、恋仲になった人間はそれなりにいたのだ。だが、その誰にも心が燃え上がるような情熱を感じた時は一度もなかった。
過去に、恋人同士になった人間に浮気をされたことがある。だが、その時だって相手に対して浮かんできたのは覚めた感情ばかりで、独占欲や、怒りの感情というものはついぞ芽生えなかった。その後、なぜか浮気をした相手が俺に「捨てないでくれ」「貴方の気を惹きたかっただけ」とすがってきたのだが、それに対しても煩わしいという以上の感情は出てこなかった。

だが、今はどうだ。

知らずの内に、喉をゴクリと鳴らして唾を飲み込む。

男の同性同士で恋人になるのは、男所帯の戦闘騎士乗りでは珍しくないことだ。過去に、自分も同性の人間と付き合ったことや身体を重ねたことは何度もある。だが、その時に交際していたのは一般人だけで、自分と同じような戦闘騎士乗りと付き合ったことはなかった。

(だから……なんだろうか?)

戦闘騎士乗りで、しかもオートマタ乗りのヤマト。あの機体を自由自在に操る彼の腕前は、一流そのものだ。それは命を救われた俺が一番よく知っている。
だからなのだろうか。

自分よりも強い男であるはずの、そして、砂漠での戦闘ではあんなに余裕をみせて戦っていたヤマトが……こうも簡単に、自分の掌で翻弄されているのを見ると、ぞくぞくとした支配欲が身体の奥底から湧き上がってきた。

今のこの状況なら、ヤマトは自分の陰茎を触ってほしいと思っているに違いない。そこはもう、痛いぐらいに真っ赤になって頭をもたげている。
だが、俺はそこをあえて触らずに、ヤマトの胸で尖りきっている、真っ赤な乳首を指でいじめ続けていた。

「ぁ、ンあッ……!」
「可愛い声だな。お前でも、そんな声を出すとは……」

漆黒の瞳が、目尻いっぱいに涙をたたえて俺を見上げる。
あのヤマトの愛機であるオートマタの、『舞乙女』と同じ漆黒の瞳だ。黒曜石のように澄んだ瞳はずっと見ていると吸い込まれてしまいそうだ。

……興奮と支配欲で、思わず背筋が震えた。

自分が、こんな征服欲じみた感情を抱く人間だとは、ついぞ知らなかった。
自分にとってセックスとは、相手に奉仕をしてもらうだけの、ただの性欲解消の作業にすぎなかった。歓びはあれど、常人の言うような魂の充足感を得られたことは一度もなかった。

そんな俺が、今は、自らの欲を置き去りにしてでも、相手に快楽を与えることが愉しいと感じていた。

この青年にもっと快楽を与えて追い詰めたい。
この未開発の身体を、新雪を踏みにじるように、自分が穢しきってしまいたい。
もっと泣かせたい。そして、自分に許しを請わせたい。
そして……

「っ、は……ぁ、ふっ……」

気がつけば、どうにもやり過ぎていたらしい。ヤマトが肩でぜぇぜぇと息をしていた。
けれど、そんな様子もたまらない。もっと、その顔が色んな表情に変わるところが見たかった。
俺は手を伸ばすと、ヤマトの額に汗ではりついていた前髪をそっと払ってやった。すると、俺の手の冷たさが心地よかったのか、ヤマトがまるで子猫みたいに目を細める。
その表情に、また別の感情が込み上がった。
そうだ、支配欲とか征服欲だけではない。自分の胸に湧き上がる、この感情は……。

「ヴァン……」
「うん?」

ヤマトが俺の手の甲に顔をくっつけたまま、静かに口を開いた。その黒曜石みたいな瞳が、気まずそうに伏せられている。

「……すまない。おれは、ヴァンにこういう事をさせるつもりはなかったんだが……」

ヤマトの言葉が、一瞬、俺はうまく飲み込めなかった。
そして、呆れと同時に、愛おしさが込み上げてきた。

(……ああ、そうか。誰かを愛おしく思うっていうのは、こういうことなのか)

ヤマトに対して抱く、畏敬と恩義、そして支配欲の感情。
それと同居して、今、胸の内には愛おしさがあった。

――彼を泣かせたいと思うと同時に、守ってやりたいと感じている。
――支配欲と同時に、庇護欲が存在している。

それらは相反する感情だったが、それでも、自分の胸の内に確かに混沌と同居していた。
……つまり、あれか。分かりやすく言うなれば、これが好きな相手を虐めたいなんていう、っていうことだろうか。まさかこの年齢になって、そんな初恋染みた感情を他人に抱くとは、思いもよらなかったが。

俺はヤマトの頭をくしゃりと撫でると、ことさら優しく聞こえるような口調を意識して告げた。

「なーに言ってんだ。言っただろう? ヤマトは俺の命の恩人だし、この行為だって俺の役得だしな。だから、ヤマトがおれに謝ることなんか何一つないんだよ」
「ヴァン……」

このヤマトが、この帝国の敵か味方かは、まだ分からない。
何を目的としてこの帝国に来たのかも、まだ分からない。

それでも自分は、この男の謙虚さと善良さを信じている。
そして、今――俺はこの青年の心根の清らかさに、心から惚れたのだった。

この状況を逆手にとって、俺が愉しんでヤマトを煽り、虐めているのは彼にも分かっただろうに。そもそも、俺を煽ったのはヤマトの方からとは言え、先に手を出したのは俺の方だ。それなのに、そんな俺に対してヤマトは礼と謝罪を告げるのだ。
彼の心根の善良さは、どこに起因するものなのだろうか。魂、とでもいうのだろうか。ならば、自分はきっと彼の魂の美しさに惚れたのだろう。なら、それは自分にとって、少し誇らしいことかもしれない。

俺は身体をヤマトに寄せ、そっと唇を重ねた。

先ほどのような噛み付くような口づけではなく、ただ、唇を重ね合わせるだけのキスだった。
まるで十代の子供がやるようなキスだ。ここにいる俺たちの目的は、ヤマトの身体に溜まった薬の強壮効果を発散させるという、というものだ。だから、この重ねるだけの口づけは、俺たちの目的から外れているものかもしれない。けれど、今この一瞬だけでも、ヤマトとこういうキスがしたかった。

舌先で優しく唇をやんわりと舐めると、ヤマトが再び心地よさそうに目を細める。
……ヤマトはどうも、精神的に心地良く感じている時はこういう顔をするらしい。覚えておこうと思った。

「んっ、ふぅ……」

しばらくすると、ヤマトがおずおずと唇を開いて、俺の舌を自分から受け入れた。
思わず快哉を叫びたい気持ちになる。だが、それを何とかぐっと堪え、俺は再びヤマトへの愛撫を再開させたのだった――。
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