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最強騎士に愛されてます
最強騎士に愛されてます-2
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ここに至るまでの日々を回想していたのだが、それが二人にバレてしまったらしい。
フェリクスは掌で陰嚢を包み込むように触ると、そこをゆっくり揉みしだいた。じんと痺れるような快感が下半身から全身に広がる。
おれの陰茎からは先走りが絶えず流れ落ち、フェリクスの手をびっしょりと濡らしてしまっていた。けれど、フェリクスは嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉しそうに微笑している。
「あッ……っ、フェリクス、おれ、もうイきそうだから、手、離してくれッ……!」
「ん? もうイっちまいそうなのか、タクミ。じゃあせっかくだし俺と一緒にイくか」
「ひゃあッ!?」
おれの言葉をどう捉えたのか、耳たぶを軽く噛んでいたガゼルがいきなり律動を速めた。
あまりの衝撃に、陰茎から透明な蜜が一気にほとばしり、目の前がチカチカと明滅する。
それでもまだフェリクスはおれの陰茎から指を離そうとせず、ガゼルの腰の動きに合わせて幹を扱いてきさえした。
あの、フェリクスさん!? おれ、今離してって言ったのにっ……!
「っァ、っああ……ん、あっ!」
「ッ……たまんねェな、こりゃ……!」
陰茎がゴリゴリと肉壁を抉っていく。その度に凄まじい快感が奔り抜けて、甘い悲鳴をあげてしまう。
そしてガゼルは、おれの腰をがしりと掴むと、陰茎を限界まで引き抜き、一気に最奥まで突き上げた。
――瞬間、視界が真っ白になった。
ガゼルは、その熱く脈打つ陰茎で止めと言わんばかりに荒々しく秘肉を抉り回した。
強烈な悦楽に、秘肉がきゅうぅぅっと収縮し、まるで精液を求めるかのように、ガゼルの陰茎を肉壁全体で締め上げる。がくがくと内腿が戦慄き、腰が仰け反った。
「ふッ、ぁっ、ああああァッーー……!」
「ぐ、くぅッ……!」
ガゼルの荒い吐息が耳元にかかる。
胎内に、どくどくとガゼルの精液が吐き出されているのが分かった。それと同時に、おれの身体も絶頂を迎えていた。見れば、自分の下腹部とフェリクスの手が、白濁にまみれしとどに濡れている。
ご、ごめんフェリクス! だから、離してくれって頼んだのに……!
「んっ、ふっ……」
だが、頭がぼうっとして、フェリクスの手についた白濁を拭う気力が湧いてこない。
「ごめん、フェリクス……」
「ふふ、構いませんよ」
おれが謝ると、フェリクスは紫水晶の瞳に悪戯っぽい光を宿して、ぺろりと手についた白濁液を舐めとった。
まるでおれに見せつけるように、真っ赤な舌が粘ついた精液を舐める様子に顔が一気に熱くなる。
「そ、そんなの舐めないでくれ、フェリクス……」
「おや、どうしてですか?」
だ、だってそんなの舐められたもんじゃないでしょ!? 今すぐペッってして、ペッて!
あまりの羞恥に二の句を告げずにいると、フェリクスはますますおかしそうに微笑んだ。
「ふふっ、私たちはもっとすごいことをしているのに、貴方はいつまでたっても慣れませんね」
「でもよ、タクミのそういう初心なところが可愛いよなァ」
長い指が伸びてきて、顎を掴まれて横を向かされる。
おれの中に精液を吐き出したばかりだというのに、ガゼルの瞳にはいまだにぎらついた光が満ちている。
その金瞳は、まだ足りていないと、言外に物語っていた。
「ほら、タクミ。フェリクスにおあずけさせんのも可哀想だろう? 俺もまだまだお前を可愛がり足りねェしな」
「ガ、ガゼルッ! お、おれはもう無理だ……」
「そんなことないだろ? お前のここはまだまだ物足りなさそうじゃねェか」
「ぁッ!? ガ、ガゼル……っ!?」
ガゼルがおれの中から陰茎をずるりと引き抜くと同時に、おれの太腿を上側から抱え上げた。
こ、この体勢、全部正面のフェリクスに丸見えなんですけど!?
あんまりな格好に慌てて背後のガゼルに非難のこもった視線を向ける。だが、ガゼルはどこ吹く風だった。
「フェリクス、体勢はどうする?」
「では、そのままタクミを支えて頂いてもいいでしょうか?」
「もちろんかまわねェぞ」
「ありがとうございます、ガゼル団長」
おれを通り越して、阿吽の呼吸でやり取りを交わす二人。
いやいやいや、二人とも!? おれの意向が置いてけぼりですよ!?
「っ、フェリクス……」
「タクミ、大丈夫ですから。そんなに怯えた顔をしないでください」
おれの頬をそっと掌で包み込むように優しく触れるフェリクス。
男のものにしては柔らかく、白い手だった。けれど、剣だこがいくつもできている掌は、彼が常日頃から戦いに身を置く騎士だということをありありと感じさせる。
「フェリクス……っ、あぁ! ひっ、ぅ……ッ」
あらわになった後孔に、フェリクスが勃ち上がった自分のものを押し当てる。
熱く脈打つ肉杭が穴にぴっとりと触れると、柔らかくなったそこは、すぐにその先端をずぷずぷと呑み込んでいった。
「くっ……タクミっ、あなたの中は、すごく熱いですね……っ! ガゼル団長のものを呑み込んでいたばかりだというのに、私のものに絡みついてきますよ……」
「ぁ、ぁあッ、んぁッ!」
フェリクスはひどくゆっくりとしたスピードで、自分の陰茎をおれの中に埋める。
もしかすると、先程までガゼルを受け入れていたおれの身体を気遣ってくれているのかもしれなかった。
だが、逆効果だ。
ガゼルに割り開かれていた身体は、とても敏感になっている。しかも発情状態はいまだに続いているのだ。それに、このスピードだと、フェリクスの陰茎の形をよりじっくりと感じ取ってしまう。
「んっ、あァッ……フェリクスっ……」
下腹部の奥が、ひどくもどかしい。
思わずもじもじと腰を揺らすと、不意に、おれの胸にごつごつとした掌が這わされた。
「ぅあっ!? ぁ、ガゼルっ……!」
「さっきはあんまりこっちは触ってやれなかったからなァ。ほら、お前ここが好きだろ?」
「そ、そんなところっ……ぁ、んぅッ!」
背後のガゼルがおれの胸の上にある尖った突起を指でつまむと、じん、と頭の奥が痺れた。
やわらかな指の腹で乳首をいじられ、ますます下腹部の疼きは強さを増した。
「ぁ、フェリクスっ……!」
「タクミ?」
乳輪を指の腹で触られる度にびくびくと身体が震えるが、それはあまりにも緩やかな刺激で、射精には至らない。
そして、おれの後孔を穿つフェリクスはというと、おれのことを気遣って緩やかに陰茎を出し入れし続ける。
まるで弱火でちろちろと煮込まれ続けるようなもどかしさに、身体の疼きは増すばかりだ。
おれは瞳に涙を滲ませながら、フェリクスを見上げ、恥を忍んで告げる。
「お……おれは、大丈夫だから。もっと強くしても、平気だから。だから、その……」
「ッ……! タクミっ」
「ぅ、ぁあッ!? んぁ、あああァッ!」
フェリクスが切羽詰まった声でおれの名前を呼んだ瞬間。
肉を打ち付ける音と共に、一番深いところまで肉杭でずっぷりと穿たれた。
「あっ、あ」
「っ、はぁ……タクミ、分かりますか? 今、ここに私のものが入っているんですよ……」
フェリクスが、そっと、おれの下腹部にその優美な指先を添えた。
そこに埋まっている自分の陰茎の形を感じ入るように、愛おしげにおれの下腹部を撫でる。
まるで、征服欲を満たすような所作でおれに触れるフェリクス。いつも優しい微笑を浮かべる彼が見せた、どこか仄暗い一面に、ぞくりと背筋が震える。
その時だった。
「なんだ、タクミ。フェリクスにおねだりとは、妬けちまうなァ?」
「ひゃっ!? ぁ、ガゼル、そこっ……!」
ずきり、と首筋にかすかな痛みを感じた。
首を回せば、ガゼルの艶やかなワインレッドの髪が視界の端に入る。その痛みから、ガゼルが歯を立てて、おれの首筋を甘噛みしているのが分かった。
「ガゼルっ! そんなとこに痕つけたら、誰かに見られ……んぅっ!」
「いいだろ、見せてやれよ。タクミは俺らのもんだってなァ?」
「ぁ、ぁああッ!? ガ、ガゼル、今それだめだってっ……!」
ガゼルは手を伸ばすと、再び勃起し始めているおれの陰茎を優しく捏ね回した。待ちわびていた快楽に、勝手に腰が円を描いて揺れてしまう。こんなのみっともないと分かっているのに、どうしても止められない。
「ぁっ、あッ、んぁああッ!」
掌で包み込むように幹を扱かれ、かと思えば、爪先でカリカリと鈴口をひっかかれる。
その度にはしたなく腰が揺れてしまい、おれの中に陰茎を埋めたままのフェリクスが、低い声を漏らして眉根を寄せた。
「タクミっ……!」
切羽詰まった声をあげたフェリクスが、がしりとおれの腰を鷲掴むと、ぱんぱんと音を立ててピストンをし始める。
しかも、それだけではなく、フェリクスまでおれの陰茎に片手で触れてきた。
「ひぁっ!? だ、だめだ、それっ、二人でなんてっ……んぁああッ!」
「お、すごいな。イったばかりなのに、またこんなに溢れてきたぜ」
「ガゼルっ、それだめっ……おれ、おれ、もう……ッ!」
「タクミ……ほら、私の方を見てください。今、貴方の身体を開いているのは私です……!」
「フェリクスっ、だ、だからそこ、触らなっ……ぁ、ぁあああッーー!」
二人の手で陰茎を捏ねくり回され、竿を扱かれ、先端をぐりぐりと指で弄られ、鈴口を指の腹でごしごしと擦られ――頭の中が真っ白になると同時に、おれの陰茎は再び白濁液を吐き出していた。
「ぁ、ァあ、んぁあッ! フェリクス、おれ、今イったから、すこし待っ……ふぁっ、ああッ!」
「っすみません……ですが、私ももう我慢ができませんっ……!」
「ゃっ、うぁ、あっ、あああッ!」
二人の掌で扱かれたおれの陰茎は、止まることなくびゅくびゅくと精液を吐き出す。
だが、フェリクスはその間もがつがつと後孔を穿ち続けた。陰茎が引き抜かれ、そして突き入れられる度に、カリ首や先端の部分がゴリゴリと前立腺を削っていく。
射精直後で敏感になっているそこは、触れられるだけでびりびりと快楽が奔るのに、熱く脈打つ肉杭に絶え間なく抉られ、理性が弾け飛ぶ。
「ひっ、ああっ……ふっ……ひっ……」
身体の熱が引いていかない。
むしろ、精液を吐き出した陰茎は滑りがよくなって、ガゼルとフェリクスの掌の愛撫はますます激しさを増し、おれを攻め立てた。
「ぁ、こ、こんなのっ……!」
おれの陰茎は二度も精液を吐き出したというのに、再び頭をむくむくともたげてしまう。
まるで自分の身体じゃないみたいだ。
思わずいやいやと首を横に振ると、背後のガゼルがそっと低い声で囁いた。
「大丈夫だ、タクミ。ほら、全部俺らに委ねちまいな」
「ぁ、ガゼルっ……」
おれを安心させるように、穏やかな声と共に優しいキスがちゅっ、ちゅ、と音を立てて首筋や肩口に降ってくる。時折、皮膚のやわらかい部分に唇が吸いつき、甘噛みをされる。
「ああっ、あっ……んっ、くぅ……!」
「タクミ……さあ、ほら一緒にイきましょう……!」
フェリクスが一層、腰を強く打ちつける。
ばちゅんという音と共に、今までで一番強く中を穿たれた。
「ぁっ、ぁッ……ぁあああぁーーッ!」
二度目の射精の余韻が抜けきらないうちに、三度目の絶頂に押し上げられてしまう。
だが、おれの陰茎はもう吐き出すものはほとんど残っておらず、わずかな白濁液をぴゅるっ、と吐き出すだけだった。
「っ、タクミ……!」
フェリクスはおれが射精を迎えたとの同じタイミングで、おれの腰に自分の身体をぴったりと密着させると、最奥へと精液を吐き出した。
どくどくと身体の奥深くに熱い白濁液が吐き出される感覚に、頭の芯がぼうっと蕩けていく。
つま先をぴんと突っ張って喉を仰け反らせて、びくびくと身体が震え続ける。
「あっ……、ぁ……──」
合計三回の射精を迎えたおれは、身体に力が入らず、ぽすりと背後のガゼルに背中を完全に預ける。すると、彼は「お疲れさん、タクミ」と囁いて頭を撫でてくれた。
フェリクスもまた、身体を起こしておれに顔を寄せ、ちゅっと音を立てて額に口づけてくれる。
そして、やわらかい微笑で「少し眠るといいでしょう。貴方の身体にかけられた魔術は、今のところは治まったようですから」と言った。
「しかし、やはりタクミの身体にかけられた魔術は謎ですね……。戦闘終了後に状態異常になる魔術を仕込むなど、本当に悪趣味の極みです」
「そこはぼちぼち解明していくしかねェか。まっ、俺らは役得だけどな」
「……まぁ、それもそうなのですが。でもいつかはこのような名目なく、本当にタクミと身体を繋げたいものです」
「ふっ、それはそうだな」
高速で襲いかかる睡魔に身を委ねる直前、ガゼルとフェリクスがそんな会話をしていたが、その意味を理解するよりも前に、おれの意識は完全に夢の世界へと旅立ったのであった。
◆
「はぁ……」
「あら。タクミがため息なんて、珍しいわね」
そう言ってイーリスが、やけに婀娜っぽい仕草でおれの顔を覗き込んできた。
イーリスは女性的な口調が特徴の、赤紫色の髪を持つ黒翼騎士団の軍師だ。色白の肌にすらりとした細身の身体、そして愛嬌のある笑顔と振る舞いは、男性でありながら女性よりも女性らしく見える時がある。
おれの今日の仕事は、イーリスが担当している騎士団の事務や経理業務、その補佐だ。軍師である彼だが、こういった本来侍従が担う雑務も率先して行っている。そのため、彼とこうして二人で隊舎内の事務室で仕事をしていた。
「すまない、ちょっとぼうっとしていた。たいしたことではないんだ」
「そう? でもキリもいいし、ちょっと休憩にしましょうか! 今日はタクミとお仕事だから、アタシ、張り切ってイロイロお菓子持ってきたのよ!」
「それは楽しみだ」
ずっと書類とにらめっこをしていたので、だいぶ肩が凝ってしまった。
おれは机の上の書類を隅の方に退け、イーリスから手渡された菓子を受け取る。
見ると、元の世界にあるマドレーヌによく似た焼き菓子だった。どうやら、果実酒を煮詰めたシロップと砂糖漬けの菫がふんだんに入っているようで、噛む度にじゅわりと口の中に甘さが広がった。常ならば少し甘すぎると感じる味だったが、書類仕事で疲れた今の自分にはちょうどいい。
「美味いな」
「ならよかった。最近、砂糖のお値段が下がりつつあるから、お菓子も手頃に買えるようになって、本当に嬉しいわ」
にこにことお菓子を頬張るイーリスはちょっと可愛い。
どうやらイーリスは甘いものが好きなようだ。今度、イーリスと仕事をする時はおれもお茶菓子を持ってこよう。
そう思いながら目を細めていると、ふと先程のイーリスの言葉が気になった。
「砂糖が安いって、どうしてだ?」
「もちろん、ポーションのおかげよ! ポーションの大量生産ラインが整ったからよ」
「ん?」
あの、イーリスさん。
申し訳ないんですが、もちろんと言われても察しの悪いおれには、砂糖が安くなる理由がさっぱりなんですけど……
「ポーションをうちから仕入れたい他国が、リッツハイム魔導王国に対して関税優遇措置を取ってきたのよ。さすがに全部の輸入品ってわけじゃないけどね。だから、砂糖も最近は安く手に入るようになってきたってわけ」
イーリスはそう言って、こちらに軽くウィンクした。
「そういうことか」
なるほどなー、ようやく話の流れが分かったよ。
頭の悪いおれに分かりやすく説明してくれてありがとう、イーリス!
「この前、ガゼルとフェリクスが国王陛下から表彰されたのもそれが理由か?」
「そうねー。ポーションの錬成方法発見っていう功績は表彰される理由としては充分なんだけど、ガゼルが平民出ってことで一部の貴族サマ方から横槍が入ったみたい。でも、ポーションの輸出を条件に優遇措置を受けると、あの二人に国がなにもしてないってのはマズイでしょ?」
「他国からしたら『そんな画期的な物を開発した人間が、国から表彰を受けていないのは何故だ?』と思われるか」
顎に手を当て考え込むおれの隣で、イーリスは小さく頷いた。そして、手に持った菓子を一口頬張ってから、こちらに目を向ける。
「それもあるけど、むしろ『その程度の品物であれば優遇措置を取るまでもないはずだ』って突っ込まれることを恐れたと言った方が正しいわね」
「……ふむ」
聞けば聞くほど、このポーション開発の件で表舞台に立たないようにしておいてよかったって心から感じるぜ!
そう――対象者の怪我を瞬く間に治す魔法薬、ポーション。
この飲んでよし塗ってよしの薬の錬成方法を、ガゼルとフェリクスに教えたのはおれなのである。
まぁ、教えたといっても、ゲーム内の知識をそのまま、まるっと投げ渡しただけなんだけどね!
ゲームのプレイ知識を基にして開発したこの薬は、今ではリッツハイム魔導王国中に浸透し、大量生産を行うための農場や工場までができているほどだ。なお、このポーションの開発を行ったのは、ガゼルとフェリクスの二人ということになっている。
理由は簡単だ。
こんな怪しいポッと出のおれが作った薬なんて、皆使いたがらないだろうからね!
あと、ほら、ガゼルとフェリクスにはお世話になっているし……き、昨日もその、恥ずかしながらも、呪刀のデメリットを解消していただくために、お世話になったわけだし……
だから、おれなりに二人になにかお返しがしたかったのだ。
ポーションの開発という功績があれば、お給料とか上げてもらえるんじゃないかなー、と……思ったんだけど。
でも、今のイーリスの話を聞くと、様々な面倒事も二人に伸しかかっちゃってるよなぁ……!
本当に申し訳ない! ごめんな、ガゼル、フェリクス……!
「でも、フェリクスのお家も、これでようやくあの子のことを認めたみたいでよかったわ」
「……うん?」
焼き菓子を呑み込んだイーリスが、ぽつりと、なんだかおかしなことを言った。
不思議に思ったおれは、目を瞬かせながら尋ねた。
「フェリクスが認められる、ってなんの話だ?」
「あら。タクミは知らなかったかしら」
「知らないな」
「フェリクスって、勘当に近い形で家を出てきているのよねぇ」
えっ!?
イーリスの言葉が思いがけないもので、おれはびっくりしてしまう。
思わず焼き菓子を喉に詰まらせるところだった。ごくんと菓子を呑み込むと、おれは少し迷いながらイーリスに問いかけた。
「それは、おれが聞いてもいいことなのか?」
「え? ああ、そっか。本当にタクミは知らないのね。大丈夫よ、この話なら黒翼騎士団の全員が知っていることだもの」
「そうなのか」
「むしろ、今のうちに話しておくわね。うちだけじゃなく、白翼騎士団も関わってくる話だからタクミも経緯を把握しておいた方がいいわ」
そうしてイーリスが語ってくれた話は……元の世界で『チェンジ・ザ・ワールド』をプレイしていたおれにとって、一部分は既知の話であったが、ほとんどの部分はまったく初めて聞く内容だった。
――フェリクス・フォンツ・アルファレッタ。
彼はリッツハイム魔導王国におけるアルファレッタ伯爵の三男にあたり、黒翼騎士団の中では唯一の貴族階級出身である。また、若くして副団長の地位を任せられるほど卓越した剣の腕前を持つ。
そこまでは、おれも知っている。
『チェンジ・ザ・ワールド』のストーリー内でも、彼がリッツハイム魔導王国の貴族階級出身であることは度々触れられていたからだ。
「この国における、各騎士団の特色ってのは分かるかしら?」
「ああ、覚えている」
イーリスの問いに、おれはこくりと頷く。
このリッツハイム魔導王国には、全部で八つの騎士団がある。
金翼騎士団、銀翼騎士団、黒翼騎士団、白翼騎士団、赤翼騎士団、青翼騎士団、緑翼騎士団、黄翼騎士団だ。
騎士団の主な仕事は、国防を主としたモンスターや賊の討伐から、国境警備など様々な範囲に及ぶ。
なお、騎士団自体については、身元さえ確かであれば誰でも入団は可能だ。平民から貴族、そして人族からドワーフ族や獣人族など、どんな身分や種族でも受け入れる。
ただし、その種族や出自によって、配属される騎士団は異なってくる。
たとえば、黄翼騎士団は獣人種族からなる騎士団だ。先日、黄翼騎士団のオルトラン団長にお会いする機会があったが、彼は鳥系の獣人だった。
……前からちょっと気になってたんだけど、鳥系の獣人でも『獣人』って呼んでいいんだよね?
鳥人とは言わないよね?
そんなことを考えていると、イーリスがずいっとこちらに身を乗り出し、顔を覗き込んできた。何故だか目を輝かせ、うっすらと頬を染めている。
「そういえば、タクミってオルトラン団長とはけっこう親しいわよね?」
「ああ。オルトラン団長はいい人だ」
「あの人、ちょっと朴訥なところがあるけど、カッコいいわよね! やっぱり獣人種の人って、人族にはない不思議な魅力があるわよねぇ……」
わ~か~る~~~!
いいよね、獣人の人たちって……!
オルトラン団長は特に、髪の毛が鳥の羽毛のようなのだ。あれは人間の髪にはない魅力がある。
いつか、オルトラン団長の頭に触らせてもらえないだろうか……
「っコホン。ごめんなさい、話が脱線したわね」
「いや、おれもイーリスの気持ちは分かるぞ」
小さく首を振ると、イーリスは目を細めて艶やかに笑った。
「ふふっ、アタシに無理に話を合わせてくれなくてもいいのよ? えーっと、それでね、黄翼騎士団は獣人からなる騎士団で、うちの黒翼騎士団は人種、出自カンケーなしのごった混ぜ騎士団じゃない?」
「ああ」
「でね……フェリクスは元々、白翼騎士団の団長から直々に入団のお呼びがかかってたのよね」
「白翼騎士団というと、確か、貴族階級出身の団員からなる騎士団だったよな」
「そうよ。だから『お飾り騎士団』なんて呼ばれてもいるんだけどね」
「お飾り?」
「ん……それはまたちょっと後日、説明するわね」
イーリスはごまかすように笑うと、長い睫毛を伏せて、少し困った表情を浮かべた。
そういえば、『チェンジ・ザ・ワールド』でもそんな感じの話が出てきたような……なんだっけかなー。
『チェンジ・ザ・ワールド』は男性か女性、どちらかの主人公を選ぶことができ、ゲーム内のキャラクターの好感度によってストーリーが分岐する。エンディングについても、最も好感度の高いキャラクターにより変化するのだ。
フェリクスは掌で陰嚢を包み込むように触ると、そこをゆっくり揉みしだいた。じんと痺れるような快感が下半身から全身に広がる。
おれの陰茎からは先走りが絶えず流れ落ち、フェリクスの手をびっしょりと濡らしてしまっていた。けれど、フェリクスは嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉しそうに微笑している。
「あッ……っ、フェリクス、おれ、もうイきそうだから、手、離してくれッ……!」
「ん? もうイっちまいそうなのか、タクミ。じゃあせっかくだし俺と一緒にイくか」
「ひゃあッ!?」
おれの言葉をどう捉えたのか、耳たぶを軽く噛んでいたガゼルがいきなり律動を速めた。
あまりの衝撃に、陰茎から透明な蜜が一気にほとばしり、目の前がチカチカと明滅する。
それでもまだフェリクスはおれの陰茎から指を離そうとせず、ガゼルの腰の動きに合わせて幹を扱いてきさえした。
あの、フェリクスさん!? おれ、今離してって言ったのにっ……!
「っァ、っああ……ん、あっ!」
「ッ……たまんねェな、こりゃ……!」
陰茎がゴリゴリと肉壁を抉っていく。その度に凄まじい快感が奔り抜けて、甘い悲鳴をあげてしまう。
そしてガゼルは、おれの腰をがしりと掴むと、陰茎を限界まで引き抜き、一気に最奥まで突き上げた。
――瞬間、視界が真っ白になった。
ガゼルは、その熱く脈打つ陰茎で止めと言わんばかりに荒々しく秘肉を抉り回した。
強烈な悦楽に、秘肉がきゅうぅぅっと収縮し、まるで精液を求めるかのように、ガゼルの陰茎を肉壁全体で締め上げる。がくがくと内腿が戦慄き、腰が仰け反った。
「ふッ、ぁっ、ああああァッーー……!」
「ぐ、くぅッ……!」
ガゼルの荒い吐息が耳元にかかる。
胎内に、どくどくとガゼルの精液が吐き出されているのが分かった。それと同時に、おれの身体も絶頂を迎えていた。見れば、自分の下腹部とフェリクスの手が、白濁にまみれしとどに濡れている。
ご、ごめんフェリクス! だから、離してくれって頼んだのに……!
「んっ、ふっ……」
だが、頭がぼうっとして、フェリクスの手についた白濁を拭う気力が湧いてこない。
「ごめん、フェリクス……」
「ふふ、構いませんよ」
おれが謝ると、フェリクスは紫水晶の瞳に悪戯っぽい光を宿して、ぺろりと手についた白濁液を舐めとった。
まるでおれに見せつけるように、真っ赤な舌が粘ついた精液を舐める様子に顔が一気に熱くなる。
「そ、そんなの舐めないでくれ、フェリクス……」
「おや、どうしてですか?」
だ、だってそんなの舐められたもんじゃないでしょ!? 今すぐペッってして、ペッて!
あまりの羞恥に二の句を告げずにいると、フェリクスはますますおかしそうに微笑んだ。
「ふふっ、私たちはもっとすごいことをしているのに、貴方はいつまでたっても慣れませんね」
「でもよ、タクミのそういう初心なところが可愛いよなァ」
長い指が伸びてきて、顎を掴まれて横を向かされる。
おれの中に精液を吐き出したばかりだというのに、ガゼルの瞳にはいまだにぎらついた光が満ちている。
その金瞳は、まだ足りていないと、言外に物語っていた。
「ほら、タクミ。フェリクスにおあずけさせんのも可哀想だろう? 俺もまだまだお前を可愛がり足りねェしな」
「ガ、ガゼルッ! お、おれはもう無理だ……」
「そんなことないだろ? お前のここはまだまだ物足りなさそうじゃねェか」
「ぁッ!? ガ、ガゼル……っ!?」
ガゼルがおれの中から陰茎をずるりと引き抜くと同時に、おれの太腿を上側から抱え上げた。
こ、この体勢、全部正面のフェリクスに丸見えなんですけど!?
あんまりな格好に慌てて背後のガゼルに非難のこもった視線を向ける。だが、ガゼルはどこ吹く風だった。
「フェリクス、体勢はどうする?」
「では、そのままタクミを支えて頂いてもいいでしょうか?」
「もちろんかまわねェぞ」
「ありがとうございます、ガゼル団長」
おれを通り越して、阿吽の呼吸でやり取りを交わす二人。
いやいやいや、二人とも!? おれの意向が置いてけぼりですよ!?
「っ、フェリクス……」
「タクミ、大丈夫ですから。そんなに怯えた顔をしないでください」
おれの頬をそっと掌で包み込むように優しく触れるフェリクス。
男のものにしては柔らかく、白い手だった。けれど、剣だこがいくつもできている掌は、彼が常日頃から戦いに身を置く騎士だということをありありと感じさせる。
「フェリクス……っ、あぁ! ひっ、ぅ……ッ」
あらわになった後孔に、フェリクスが勃ち上がった自分のものを押し当てる。
熱く脈打つ肉杭が穴にぴっとりと触れると、柔らかくなったそこは、すぐにその先端をずぷずぷと呑み込んでいった。
「くっ……タクミっ、あなたの中は、すごく熱いですね……っ! ガゼル団長のものを呑み込んでいたばかりだというのに、私のものに絡みついてきますよ……」
「ぁ、ぁあッ、んぁッ!」
フェリクスはひどくゆっくりとしたスピードで、自分の陰茎をおれの中に埋める。
もしかすると、先程までガゼルを受け入れていたおれの身体を気遣ってくれているのかもしれなかった。
だが、逆効果だ。
ガゼルに割り開かれていた身体は、とても敏感になっている。しかも発情状態はいまだに続いているのだ。それに、このスピードだと、フェリクスの陰茎の形をよりじっくりと感じ取ってしまう。
「んっ、あァッ……フェリクスっ……」
下腹部の奥が、ひどくもどかしい。
思わずもじもじと腰を揺らすと、不意に、おれの胸にごつごつとした掌が這わされた。
「ぅあっ!? ぁ、ガゼルっ……!」
「さっきはあんまりこっちは触ってやれなかったからなァ。ほら、お前ここが好きだろ?」
「そ、そんなところっ……ぁ、んぅッ!」
背後のガゼルがおれの胸の上にある尖った突起を指でつまむと、じん、と頭の奥が痺れた。
やわらかな指の腹で乳首をいじられ、ますます下腹部の疼きは強さを増した。
「ぁ、フェリクスっ……!」
「タクミ?」
乳輪を指の腹で触られる度にびくびくと身体が震えるが、それはあまりにも緩やかな刺激で、射精には至らない。
そして、おれの後孔を穿つフェリクスはというと、おれのことを気遣って緩やかに陰茎を出し入れし続ける。
まるで弱火でちろちろと煮込まれ続けるようなもどかしさに、身体の疼きは増すばかりだ。
おれは瞳に涙を滲ませながら、フェリクスを見上げ、恥を忍んで告げる。
「お……おれは、大丈夫だから。もっと強くしても、平気だから。だから、その……」
「ッ……! タクミっ」
「ぅ、ぁあッ!? んぁ、あああァッ!」
フェリクスが切羽詰まった声でおれの名前を呼んだ瞬間。
肉を打ち付ける音と共に、一番深いところまで肉杭でずっぷりと穿たれた。
「あっ、あ」
「っ、はぁ……タクミ、分かりますか? 今、ここに私のものが入っているんですよ……」
フェリクスが、そっと、おれの下腹部にその優美な指先を添えた。
そこに埋まっている自分の陰茎の形を感じ入るように、愛おしげにおれの下腹部を撫でる。
まるで、征服欲を満たすような所作でおれに触れるフェリクス。いつも優しい微笑を浮かべる彼が見せた、どこか仄暗い一面に、ぞくりと背筋が震える。
その時だった。
「なんだ、タクミ。フェリクスにおねだりとは、妬けちまうなァ?」
「ひゃっ!? ぁ、ガゼル、そこっ……!」
ずきり、と首筋にかすかな痛みを感じた。
首を回せば、ガゼルの艶やかなワインレッドの髪が視界の端に入る。その痛みから、ガゼルが歯を立てて、おれの首筋を甘噛みしているのが分かった。
「ガゼルっ! そんなとこに痕つけたら、誰かに見られ……んぅっ!」
「いいだろ、見せてやれよ。タクミは俺らのもんだってなァ?」
「ぁ、ぁああッ!? ガ、ガゼル、今それだめだってっ……!」
ガゼルは手を伸ばすと、再び勃起し始めているおれの陰茎を優しく捏ね回した。待ちわびていた快楽に、勝手に腰が円を描いて揺れてしまう。こんなのみっともないと分かっているのに、どうしても止められない。
「ぁっ、あッ、んぁああッ!」
掌で包み込むように幹を扱かれ、かと思えば、爪先でカリカリと鈴口をひっかかれる。
その度にはしたなく腰が揺れてしまい、おれの中に陰茎を埋めたままのフェリクスが、低い声を漏らして眉根を寄せた。
「タクミっ……!」
切羽詰まった声をあげたフェリクスが、がしりとおれの腰を鷲掴むと、ぱんぱんと音を立ててピストンをし始める。
しかも、それだけではなく、フェリクスまでおれの陰茎に片手で触れてきた。
「ひぁっ!? だ、だめだ、それっ、二人でなんてっ……んぁああッ!」
「お、すごいな。イったばかりなのに、またこんなに溢れてきたぜ」
「ガゼルっ、それだめっ……おれ、おれ、もう……ッ!」
「タクミ……ほら、私の方を見てください。今、貴方の身体を開いているのは私です……!」
「フェリクスっ、だ、だからそこ、触らなっ……ぁ、ぁあああッーー!」
二人の手で陰茎を捏ねくり回され、竿を扱かれ、先端をぐりぐりと指で弄られ、鈴口を指の腹でごしごしと擦られ――頭の中が真っ白になると同時に、おれの陰茎は再び白濁液を吐き出していた。
「ぁ、ァあ、んぁあッ! フェリクス、おれ、今イったから、すこし待っ……ふぁっ、ああッ!」
「っすみません……ですが、私ももう我慢ができませんっ……!」
「ゃっ、うぁ、あっ、あああッ!」
二人の掌で扱かれたおれの陰茎は、止まることなくびゅくびゅくと精液を吐き出す。
だが、フェリクスはその間もがつがつと後孔を穿ち続けた。陰茎が引き抜かれ、そして突き入れられる度に、カリ首や先端の部分がゴリゴリと前立腺を削っていく。
射精直後で敏感になっているそこは、触れられるだけでびりびりと快楽が奔るのに、熱く脈打つ肉杭に絶え間なく抉られ、理性が弾け飛ぶ。
「ひっ、ああっ……ふっ……ひっ……」
身体の熱が引いていかない。
むしろ、精液を吐き出した陰茎は滑りがよくなって、ガゼルとフェリクスの掌の愛撫はますます激しさを増し、おれを攻め立てた。
「ぁ、こ、こんなのっ……!」
おれの陰茎は二度も精液を吐き出したというのに、再び頭をむくむくともたげてしまう。
まるで自分の身体じゃないみたいだ。
思わずいやいやと首を横に振ると、背後のガゼルがそっと低い声で囁いた。
「大丈夫だ、タクミ。ほら、全部俺らに委ねちまいな」
「ぁ、ガゼルっ……」
おれを安心させるように、穏やかな声と共に優しいキスがちゅっ、ちゅ、と音を立てて首筋や肩口に降ってくる。時折、皮膚のやわらかい部分に唇が吸いつき、甘噛みをされる。
「ああっ、あっ……んっ、くぅ……!」
「タクミ……さあ、ほら一緒にイきましょう……!」
フェリクスが一層、腰を強く打ちつける。
ばちゅんという音と共に、今までで一番強く中を穿たれた。
「ぁっ、ぁッ……ぁあああぁーーッ!」
二度目の射精の余韻が抜けきらないうちに、三度目の絶頂に押し上げられてしまう。
だが、おれの陰茎はもう吐き出すものはほとんど残っておらず、わずかな白濁液をぴゅるっ、と吐き出すだけだった。
「っ、タクミ……!」
フェリクスはおれが射精を迎えたとの同じタイミングで、おれの腰に自分の身体をぴったりと密着させると、最奥へと精液を吐き出した。
どくどくと身体の奥深くに熱い白濁液が吐き出される感覚に、頭の芯がぼうっと蕩けていく。
つま先をぴんと突っ張って喉を仰け反らせて、びくびくと身体が震え続ける。
「あっ……、ぁ……──」
合計三回の射精を迎えたおれは、身体に力が入らず、ぽすりと背後のガゼルに背中を完全に預ける。すると、彼は「お疲れさん、タクミ」と囁いて頭を撫でてくれた。
フェリクスもまた、身体を起こしておれに顔を寄せ、ちゅっと音を立てて額に口づけてくれる。
そして、やわらかい微笑で「少し眠るといいでしょう。貴方の身体にかけられた魔術は、今のところは治まったようですから」と言った。
「しかし、やはりタクミの身体にかけられた魔術は謎ですね……。戦闘終了後に状態異常になる魔術を仕込むなど、本当に悪趣味の極みです」
「そこはぼちぼち解明していくしかねェか。まっ、俺らは役得だけどな」
「……まぁ、それもそうなのですが。でもいつかはこのような名目なく、本当にタクミと身体を繋げたいものです」
「ふっ、それはそうだな」
高速で襲いかかる睡魔に身を委ねる直前、ガゼルとフェリクスがそんな会話をしていたが、その意味を理解するよりも前に、おれの意識は完全に夢の世界へと旅立ったのであった。
◆
「はぁ……」
「あら。タクミがため息なんて、珍しいわね」
そう言ってイーリスが、やけに婀娜っぽい仕草でおれの顔を覗き込んできた。
イーリスは女性的な口調が特徴の、赤紫色の髪を持つ黒翼騎士団の軍師だ。色白の肌にすらりとした細身の身体、そして愛嬌のある笑顔と振る舞いは、男性でありながら女性よりも女性らしく見える時がある。
おれの今日の仕事は、イーリスが担当している騎士団の事務や経理業務、その補佐だ。軍師である彼だが、こういった本来侍従が担う雑務も率先して行っている。そのため、彼とこうして二人で隊舎内の事務室で仕事をしていた。
「すまない、ちょっとぼうっとしていた。たいしたことではないんだ」
「そう? でもキリもいいし、ちょっと休憩にしましょうか! 今日はタクミとお仕事だから、アタシ、張り切ってイロイロお菓子持ってきたのよ!」
「それは楽しみだ」
ずっと書類とにらめっこをしていたので、だいぶ肩が凝ってしまった。
おれは机の上の書類を隅の方に退け、イーリスから手渡された菓子を受け取る。
見ると、元の世界にあるマドレーヌによく似た焼き菓子だった。どうやら、果実酒を煮詰めたシロップと砂糖漬けの菫がふんだんに入っているようで、噛む度にじゅわりと口の中に甘さが広がった。常ならば少し甘すぎると感じる味だったが、書類仕事で疲れた今の自分にはちょうどいい。
「美味いな」
「ならよかった。最近、砂糖のお値段が下がりつつあるから、お菓子も手頃に買えるようになって、本当に嬉しいわ」
にこにことお菓子を頬張るイーリスはちょっと可愛い。
どうやらイーリスは甘いものが好きなようだ。今度、イーリスと仕事をする時はおれもお茶菓子を持ってこよう。
そう思いながら目を細めていると、ふと先程のイーリスの言葉が気になった。
「砂糖が安いって、どうしてだ?」
「もちろん、ポーションのおかげよ! ポーションの大量生産ラインが整ったからよ」
「ん?」
あの、イーリスさん。
申し訳ないんですが、もちろんと言われても察しの悪いおれには、砂糖が安くなる理由がさっぱりなんですけど……
「ポーションをうちから仕入れたい他国が、リッツハイム魔導王国に対して関税優遇措置を取ってきたのよ。さすがに全部の輸入品ってわけじゃないけどね。だから、砂糖も最近は安く手に入るようになってきたってわけ」
イーリスはそう言って、こちらに軽くウィンクした。
「そういうことか」
なるほどなー、ようやく話の流れが分かったよ。
頭の悪いおれに分かりやすく説明してくれてありがとう、イーリス!
「この前、ガゼルとフェリクスが国王陛下から表彰されたのもそれが理由か?」
「そうねー。ポーションの錬成方法発見っていう功績は表彰される理由としては充分なんだけど、ガゼルが平民出ってことで一部の貴族サマ方から横槍が入ったみたい。でも、ポーションの輸出を条件に優遇措置を受けると、あの二人に国がなにもしてないってのはマズイでしょ?」
「他国からしたら『そんな画期的な物を開発した人間が、国から表彰を受けていないのは何故だ?』と思われるか」
顎に手を当て考え込むおれの隣で、イーリスは小さく頷いた。そして、手に持った菓子を一口頬張ってから、こちらに目を向ける。
「それもあるけど、むしろ『その程度の品物であれば優遇措置を取るまでもないはずだ』って突っ込まれることを恐れたと言った方が正しいわね」
「……ふむ」
聞けば聞くほど、このポーション開発の件で表舞台に立たないようにしておいてよかったって心から感じるぜ!
そう――対象者の怪我を瞬く間に治す魔法薬、ポーション。
この飲んでよし塗ってよしの薬の錬成方法を、ガゼルとフェリクスに教えたのはおれなのである。
まぁ、教えたといっても、ゲーム内の知識をそのまま、まるっと投げ渡しただけなんだけどね!
ゲームのプレイ知識を基にして開発したこの薬は、今ではリッツハイム魔導王国中に浸透し、大量生産を行うための農場や工場までができているほどだ。なお、このポーションの開発を行ったのは、ガゼルとフェリクスの二人ということになっている。
理由は簡単だ。
こんな怪しいポッと出のおれが作った薬なんて、皆使いたがらないだろうからね!
あと、ほら、ガゼルとフェリクスにはお世話になっているし……き、昨日もその、恥ずかしながらも、呪刀のデメリットを解消していただくために、お世話になったわけだし……
だから、おれなりに二人になにかお返しがしたかったのだ。
ポーションの開発という功績があれば、お給料とか上げてもらえるんじゃないかなー、と……思ったんだけど。
でも、今のイーリスの話を聞くと、様々な面倒事も二人に伸しかかっちゃってるよなぁ……!
本当に申し訳ない! ごめんな、ガゼル、フェリクス……!
「でも、フェリクスのお家も、これでようやくあの子のことを認めたみたいでよかったわ」
「……うん?」
焼き菓子を呑み込んだイーリスが、ぽつりと、なんだかおかしなことを言った。
不思議に思ったおれは、目を瞬かせながら尋ねた。
「フェリクスが認められる、ってなんの話だ?」
「あら。タクミは知らなかったかしら」
「知らないな」
「フェリクスって、勘当に近い形で家を出てきているのよねぇ」
えっ!?
イーリスの言葉が思いがけないもので、おれはびっくりしてしまう。
思わず焼き菓子を喉に詰まらせるところだった。ごくんと菓子を呑み込むと、おれは少し迷いながらイーリスに問いかけた。
「それは、おれが聞いてもいいことなのか?」
「え? ああ、そっか。本当にタクミは知らないのね。大丈夫よ、この話なら黒翼騎士団の全員が知っていることだもの」
「そうなのか」
「むしろ、今のうちに話しておくわね。うちだけじゃなく、白翼騎士団も関わってくる話だからタクミも経緯を把握しておいた方がいいわ」
そうしてイーリスが語ってくれた話は……元の世界で『チェンジ・ザ・ワールド』をプレイしていたおれにとって、一部分は既知の話であったが、ほとんどの部分はまったく初めて聞く内容だった。
――フェリクス・フォンツ・アルファレッタ。
彼はリッツハイム魔導王国におけるアルファレッタ伯爵の三男にあたり、黒翼騎士団の中では唯一の貴族階級出身である。また、若くして副団長の地位を任せられるほど卓越した剣の腕前を持つ。
そこまでは、おれも知っている。
『チェンジ・ザ・ワールド』のストーリー内でも、彼がリッツハイム魔導王国の貴族階級出身であることは度々触れられていたからだ。
「この国における、各騎士団の特色ってのは分かるかしら?」
「ああ、覚えている」
イーリスの問いに、おれはこくりと頷く。
このリッツハイム魔導王国には、全部で八つの騎士団がある。
金翼騎士団、銀翼騎士団、黒翼騎士団、白翼騎士団、赤翼騎士団、青翼騎士団、緑翼騎士団、黄翼騎士団だ。
騎士団の主な仕事は、国防を主としたモンスターや賊の討伐から、国境警備など様々な範囲に及ぶ。
なお、騎士団自体については、身元さえ確かであれば誰でも入団は可能だ。平民から貴族、そして人族からドワーフ族や獣人族など、どんな身分や種族でも受け入れる。
ただし、その種族や出自によって、配属される騎士団は異なってくる。
たとえば、黄翼騎士団は獣人種族からなる騎士団だ。先日、黄翼騎士団のオルトラン団長にお会いする機会があったが、彼は鳥系の獣人だった。
……前からちょっと気になってたんだけど、鳥系の獣人でも『獣人』って呼んでいいんだよね?
鳥人とは言わないよね?
そんなことを考えていると、イーリスがずいっとこちらに身を乗り出し、顔を覗き込んできた。何故だか目を輝かせ、うっすらと頬を染めている。
「そういえば、タクミってオルトラン団長とはけっこう親しいわよね?」
「ああ。オルトラン団長はいい人だ」
「あの人、ちょっと朴訥なところがあるけど、カッコいいわよね! やっぱり獣人種の人って、人族にはない不思議な魅力があるわよねぇ……」
わ~か~る~~~!
いいよね、獣人の人たちって……!
オルトラン団長は特に、髪の毛が鳥の羽毛のようなのだ。あれは人間の髪にはない魅力がある。
いつか、オルトラン団長の頭に触らせてもらえないだろうか……
「っコホン。ごめんなさい、話が脱線したわね」
「いや、おれもイーリスの気持ちは分かるぞ」
小さく首を振ると、イーリスは目を細めて艶やかに笑った。
「ふふっ、アタシに無理に話を合わせてくれなくてもいいのよ? えーっと、それでね、黄翼騎士団は獣人からなる騎士団で、うちの黒翼騎士団は人種、出自カンケーなしのごった混ぜ騎士団じゃない?」
「ああ」
「でね……フェリクスは元々、白翼騎士団の団長から直々に入団のお呼びがかかってたのよね」
「白翼騎士団というと、確か、貴族階級出身の団員からなる騎士団だったよな」
「そうよ。だから『お飾り騎士団』なんて呼ばれてもいるんだけどね」
「お飾り?」
「ん……それはまたちょっと後日、説明するわね」
イーリスはごまかすように笑うと、長い睫毛を伏せて、少し困った表情を浮かべた。
そういえば、『チェンジ・ザ・ワールド』でもそんな感じの話が出てきたような……なんだっけかなー。
『チェンジ・ザ・ワールド』は男性か女性、どちらかの主人公を選ぶことができ、ゲーム内のキャラクターの好感度によってストーリーが分岐する。エンディングについても、最も好感度の高いキャラクターにより変化するのだ。
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