異世界でのおれへの評価がおかしいんだが

秋山龍央

文字の大きさ
上 下
18 / 82
最強騎士に愛されてます

最強騎士に愛されてます-2

しおりを挟む
 ここに至るまでの日々を回想していたのだが、それが二人にバレてしまったらしい。
 フェリクスは掌で陰嚢いんのうを包み込むように触ると、そこをゆっくり揉みしだいた。じんとしびれるような快感が下半身から全身に広がる。
 おれの陰茎からは先走りが絶えず流れ落ち、フェリクスの手をびっしょりと濡らしてしまっていた。けれど、フェリクスは嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉しそうに微笑している。

「あッ……っ、フェリクス、おれ、もうイきそうだから、手、離してくれッ……!」
「ん? もうイっちまいそうなのか、タクミ。じゃあせっかくだし俺と一緒にイくか」
「ひゃあッ!?」

 おれの言葉をどう捉えたのか、耳たぶを軽く噛んでいたガゼルがいきなり律動を速めた。
 あまりの衝撃に、陰茎から透明な蜜が一気にほとばしり、目の前がチカチカと明滅する。
 それでもまだフェリクスはおれの陰茎から指を離そうとせず、ガゼルの腰の動きに合わせて幹をしごいてきさえした。
 あの、フェリクスさん!? おれ、今離してって言ったのにっ……!

「っァ、っああ……ん、あっ!」
「ッ……たまんねェな、こりゃ……!」

 陰茎がゴリゴリと肉壁をえぐっていく。その度にすさまじい快感がはしり抜けて、甘い悲鳴をあげてしまう。
 そしてガゼルは、おれの腰をがしりと掴むと、陰茎を限界まで引き抜き、一気に最奥さいおうまで突き上げた。
 ――瞬間、視界が真っ白になった。
 ガゼルは、その熱く脈打つ陰茎でとどめと言わんばかりに荒々しく秘肉をえぐり回した。
 強烈な悦楽に、秘肉がきゅうぅぅっと収縮し、まるで精液を求めるかのように、ガゼルの陰茎を肉壁全体で締め上げる。がくがくと内腿が戦慄わななき、腰がった。

「ふッ、ぁっ、ああああァッーー……!」
「ぐ、くぅッ……!」

 ガゼルの荒い吐息が耳元にかかる。
 胎内に、どくどくとガゼルの精液が吐き出されているのが分かった。それと同時に、おれの身体も絶頂を迎えていた。見れば、自分の下腹部とフェリクスの手が、白濁にまみれしとどに濡れている。
 ご、ごめんフェリクス! だから、離してくれって頼んだのに……!

「んっ、ふっ……」

 だが、頭がぼうっとして、フェリクスの手についた白濁を拭う気力が湧いてこない。

「ごめん、フェリクス……」
「ふふ、構いませんよ」

 おれが謝ると、フェリクスは紫水晶の瞳に悪戯いたずらっぽい光を宿して、ぺろりと手についた白濁液を舐めとった。
 まるでおれに見せつけるように、真っ赤な舌が粘ついた精液を舐める様子に顔が一気に熱くなる。

「そ、そんなの舐めないでくれ、フェリクス……」
「おや、どうしてですか?」

 だ、だってそんなの舐められたもんじゃないでしょ!? 今すぐペッってして、ペッて!
 あまりの羞恥に二の句を告げずにいると、フェリクスはますますおかしそうに微笑んだ。

「ふふっ、私たちはもっとすごいことをしているのに、貴方はいつまでたっても慣れませんね」
「でもよ、タクミのそういう初心なところが可愛いよなァ」

 長い指が伸びてきて、顎を掴まれて横を向かされる。
 おれの中に精液を吐き出したばかりだというのに、ガゼルの瞳にはいまだにぎらついた光が満ちている。
 その金瞳は、まだ足りていないと、言外に物語っていた。

「ほら、タクミ。フェリクスにおあずけさせんのも可哀想だろう? 俺もまだまだお前を可愛がり足りねェしな」
「ガ、ガゼルッ! お、おれはもう無理だ……」
「そんなことないだろ? お前のここはまだまだ物足りなさそうじゃねェか」
「ぁッ!? ガ、ガゼル……っ!?」

 ガゼルがおれの中から陰茎をずるりと引き抜くと同時に、おれの太腿を上側から抱え上げた。
 こ、この体勢、全部正面のフェリクスに丸見えなんですけど!?
 あんまりな格好に慌てて背後のガゼルに非難のこもった視線を向ける。だが、ガゼルはどこ吹く風だった。

「フェリクス、体勢はどうする?」
「では、そのままタクミを支えて頂いてもいいでしょうか?」
「もちろんかまわねェぞ」
「ありがとうございます、ガゼル団長」

 おれを通り越して、阿吽あうんの呼吸でやり取りを交わす二人。
 いやいやいや、二人とも!? おれの意向が置いてけぼりですよ!?

「っ、フェリクス……」
「タクミ、大丈夫ですから。そんなに怯えた顔をしないでください」

 おれの頬をそっと掌で包み込むように優しく触れるフェリクス。
 男のものにしては柔らかく、白い手だった。けれど、剣だこがいくつもできている掌は、彼が常日頃から戦いに身を置く騎士だということをありありと感じさせる。

「フェリクス……っ、あぁ! ひっ、ぅ……ッ」

 あらわになった後孔に、フェリクスが勃ち上がった自分のものを押し当てる。
 熱く脈打つ肉杭が穴にぴっとりと触れると、柔らかくなったそこは、すぐにその先端をずぷずぷと呑み込んでいった。

「くっ……タクミっ、あなたの中は、すごく熱いですね……っ! ガゼル団長のものを呑み込んでいたばかりだというのに、私のものに絡みついてきますよ……」
「ぁ、ぁあッ、んぁッ!」

 フェリクスはひどくゆっくりとしたスピードで、自分の陰茎をおれの中に埋める。
 もしかすると、先程までガゼルを受け入れていたおれの身体を気遣ってくれているのかもしれなかった。
 だが、逆効果だ。
 ガゼルに割り開かれていた身体は、とても敏感になっている。しかも発情状態はいまだに続いているのだ。それに、このスピードだと、フェリクスの陰茎の形をよりじっくりと感じ取ってしまう。

「んっ、あァッ……フェリクスっ……」

 下腹部の奥が、ひどくもどかしい。
 思わずもじもじと腰を揺らすと、不意に、おれの胸にごつごつとした掌が這わされた。

「ぅあっ!? ぁ、ガゼルっ……!」
「さっきはあんまりこっちは触ってやれなかったからなァ。ほら、お前ここが好きだろ?」
「そ、そんなところっ……ぁ、んぅッ!」

 背後のガゼルがおれの胸の上にある尖った突起を指でつまむと、じん、と頭の奥がしびれた。
 やわらかな指の腹で乳首をいじられ、ますます下腹部のうずきは強さを増した。

「ぁ、フェリクスっ……!」
「タクミ?」

 乳輪を指の腹で触られる度にびくびくと身体が震えるが、それはあまりにも緩やかな刺激で、射精には至らない。
 そして、おれの後孔を穿うがつフェリクスはというと、おれのことを気遣って緩やかに陰茎を出し入れし続ける。
 まるで弱火でちろちろと煮込まれ続けるようなもどかしさに、身体のうずきは増すばかりだ。
 おれは瞳に涙をにじませながら、フェリクスを見上げ、恥を忍んで告げる。

「お……おれは、大丈夫だから。もっと強くしても、平気だから。だから、その……」
「ッ……! タクミっ」
「ぅ、ぁあッ!? んぁ、あああァッ!」

 フェリクスが切羽詰まった声でおれの名前を呼んだ瞬間。
 肉を打ち付ける音と共に、一番深いところまで肉杭でずっぷりと穿うがたれた。

「あっ、あ」
「っ、はぁ……タクミ、分かりますか? 今、ここに私のものが入っているんですよ……」

 フェリクスが、そっと、おれの下腹部にその優美な指先を添えた。
 そこに埋まっている自分の陰茎の形を感じ入るように、愛おしげにおれの下腹部を撫でる。
 まるで、征服欲を満たすような所作でおれに触れるフェリクス。いつも優しい微笑を浮かべる彼が見せた、どこか仄暗ほのぐらい一面に、ぞくりと背筋が震える。
 その時だった。

「なんだ、タクミ。フェリクスにおねだりとは、妬けちまうなァ?」
「ひゃっ!? ぁ、ガゼル、そこっ……!」

 ずきり、と首筋にかすかな痛みを感じた。
 首を回せば、ガゼルの艶やかなワインレッドの髪が視界の端に入る。その痛みから、ガゼルが歯を立てて、おれの首筋を甘噛みしているのが分かった。

「ガゼルっ! そんなとこに痕つけたら、誰かに見られ……んぅっ!」
「いいだろ、見せてやれよ。タクミは俺らのもんだってなァ?」
「ぁ、ぁああッ!? ガ、ガゼル、今それだめだってっ……!」

 ガゼルは手を伸ばすと、再び勃起し始めているおれの陰茎を優しくね回した。待ちわびていた快楽に、勝手に腰が円を描いて揺れてしまう。こんなのみっともないと分かっているのに、どうしても止められない。

「ぁっ、あッ、んぁああッ!」

 掌で包み込むように幹をしごかれ、かと思えば、爪先でカリカリと鈴口をひっかかれる。
 その度にはしたなく腰が揺れてしまい、おれの中に陰茎を埋めたままのフェリクスが、低い声を漏らして眉根を寄せた。

「タクミっ……!」

 切羽詰まった声をあげたフェリクスが、がしりとおれの腰を鷲掴むと、ぱんぱんと音を立ててピストンをし始める。
 しかも、それだけではなく、フェリクスまでおれの陰茎に片手で触れてきた。

「ひぁっ!? だ、だめだ、それっ、二人でなんてっ……んぁああッ!」
「お、すごいな。イったばかりなのに、またこんなに溢れてきたぜ」
「ガゼルっ、それだめっ……おれ、おれ、もう……ッ!」
「タクミ……ほら、私の方を見てください。今、貴方の身体を開いているのは私です……!」
「フェリクスっ、だ、だからそこ、触らなっ……ぁ、ぁあああッーー!」

 二人の手で陰茎をねくり回され、竿さおしごかれ、先端をぐりぐりと指で弄られ、鈴口を指の腹でごしごしとこすられ――頭の中が真っ白になると同時に、おれの陰茎は再び白濁液を吐き出していた。

「ぁ、ァあ、んぁあッ! フェリクス、おれ、今イったから、すこし待っ……ふぁっ、ああッ!」
「っすみません……ですが、私ももう我慢ができませんっ……!」
「ゃっ、うぁ、あっ、あああッ!」

 二人の掌でしごかれたおれの陰茎は、とどまることなくびゅくびゅくと精液を吐き出す。
 だが、フェリクスはその間もがつがつと後孔を穿うがち続けた。陰茎が引き抜かれ、そして突き入れられる度に、カリ首や先端の部分がゴリゴリと前立腺を削っていく。
 射精直後で敏感になっているそこは、触れられるだけでびりびりと快楽がはしるのに、熱く脈打つ肉杭に絶え間なくえぐられ、理性が弾け飛ぶ。

「ひっ、ああっ……ふっ……ひっ……」

 身体の熱が引いていかない。
 むしろ、精液を吐き出した陰茎は滑りがよくなって、ガゼルとフェリクスの掌の愛撫はますます激しさを増し、おれを攻め立てた。

「ぁ、こ、こんなのっ……!」

 おれの陰茎は二度も精液を吐き出したというのに、再び頭をむくむくともたげてしまう。
 まるで自分の身体じゃないみたいだ。
 思わずいやいやと首を横に振ると、背後のガゼルがそっと低い声で囁いた。

「大丈夫だ、タクミ。ほら、全部俺らに委ねちまいな」
「ぁ、ガゼルっ……」

 おれを安心させるように、穏やかな声と共に優しいキスがちゅっ、ちゅ、と音を立てて首筋や肩口に降ってくる。時折、皮膚のやわらかい部分に唇が吸いつき、甘噛みをされる。

「ああっ、あっ……んっ、くぅ……!」
「タクミ……さあ、ほら一緒にイきましょう……!」

 フェリクスが一層、腰を強く打ちつける。
 ばちゅんという音と共に、今までで一番強く中を穿うがたれた。

「ぁっ、ぁッ……ぁあああぁーーッ!」

 二度目の射精の余韻が抜けきらないうちに、三度目の絶頂に押し上げられてしまう。
 だが、おれの陰茎はもう吐き出すものはほとんど残っておらず、わずかな白濁液をぴゅるっ、と吐き出すだけだった。

「っ、タクミ……!」

 フェリクスはおれが射精を迎えたとの同じタイミングで、おれの腰に自分の身体をぴったりと密着させると、最奥さいおうへと精液を吐き出した。
 どくどくと身体の奥深くに熱い白濁液が吐き出される感覚に、頭の芯がぼうっととろけていく。
 つま先をぴんと突っ張って喉をらせて、びくびくと身体が震え続ける。

「あっ……、ぁ……──」

 合計三回の射精を迎えたおれは、身体に力が入らず、ぽすりと背後のガゼルに背中を完全に預ける。すると、彼は「お疲れさん、タクミ」と囁いて頭を撫でてくれた。
 フェリクスもまた、身体を起こしておれに顔を寄せ、ちゅっと音を立てて額に口づけてくれる。
 そして、やわらかい微笑で「少し眠るといいでしょう。貴方の身体にかけられた魔術は、今のところは治まったようですから」と言った。

「しかし、やはりタクミの身体にかけられた魔術は謎ですね……。戦闘終了後に状態異常になる魔術を仕込むなど、本当に悪趣味の極みです」
「そこはぼちぼち解明していくしかねェか。まっ、俺らは役得だけどな」
「……まぁ、それもそうなのですが。でもいつかはこのような名目なく、本当にタクミと身体を繋げたいものです」
「ふっ、それはそうだな」

 高速で襲いかかる睡魔に身を委ねる直前、ガゼルとフェリクスがそんな会話をしていたが、その意味を理解するよりも前に、おれの意識は完全に夢の世界へと旅立ったのであった。


   ◆


「はぁ……」
「あら。タクミがため息なんて、珍しいわね」

 そう言ってイーリスが、やけに婀娜あだっぽい仕草でおれの顔を覗き込んできた。
 イーリスは女性的な口調が特徴の、赤紫色の髪を持つ黒翼騎士団の軍師だ。色白の肌にすらりとした細身の身体、そして愛嬌のある笑顔と振る舞いは、男性でありながら女性よりも女性らしく見える時がある。
 おれの今日の仕事は、イーリスが担当している騎士団の事務や経理業務、その補佐だ。軍師である彼だが、こういった本来侍従が担う雑務も率先して行っている。そのため、彼とこうして二人で隊舎内の事務室で仕事をしていた。

「すまない、ちょっとぼうっとしていた。たいしたことではないんだ」
「そう? でもキリもいいし、ちょっと休憩にしましょうか! 今日はタクミとお仕事だから、アタシ、張り切ってイロイロお菓子持ってきたのよ!」
「それは楽しみだ」

 ずっと書類とにらめっこをしていたので、だいぶ肩が凝ってしまった。
 おれは机の上の書類を隅の方に退け、イーリスから手渡された菓子を受け取る。
 見ると、元の世界にあるマドレーヌによく似た焼き菓子だった。どうやら、果実酒を煮詰めたシロップと砂糖漬けのすみれがふんだんに入っているようで、噛む度にじゅわりと口の中に甘さが広がった。常ならば少し甘すぎると感じる味だったが、書類仕事で疲れた今の自分にはちょうどいい。

「美味いな」
「ならよかった。最近、砂糖のお値段が下がりつつあるから、お菓子も手頃に買えるようになって、本当に嬉しいわ」

 にこにことお菓子を頬張るイーリスはちょっと可愛い。
 どうやらイーリスは甘いものが好きなようだ。今度、イーリスと仕事をする時はおれもお茶菓子を持ってこよう。
 そう思いながら目を細めていると、ふと先程のイーリスの言葉が気になった。

「砂糖が安いって、どうしてだ?」
「もちろん、ポーションのおかげよ! ポーションの大量生産ラインが整ったからよ」
「ん?」

 あの、イーリスさん。
 申し訳ないんですが、もちろんと言われても察しの悪いおれには、砂糖が安くなる理由がさっぱりなんですけど……

「ポーションをうちから仕入れたい他国が、リッツハイム魔導王国に対して関税優遇措置を取ってきたのよ。さすがに全部の輸入品ってわけじゃないけどね。だから、砂糖も最近は安く手に入るようになってきたってわけ」

 イーリスはそう言って、こちらに軽くウィンクした。

「そういうことか」

 なるほどなー、ようやく話の流れが分かったよ。
 頭の悪いおれに分かりやすく説明してくれてありがとう、イーリス!

「この前、ガゼルとフェリクスが国王陛下から表彰されたのもそれが理由か?」
「そうねー。ポーションの錬成方法発見っていう功績は表彰される理由としては充分なんだけど、ガゼルが平民出ってことで一部の貴族サマ方から横槍が入ったみたい。でも、ポーションの輸出を条件に優遇措置を受けると、あの二人に国がなにもしてないってのはマズイでしょ?」
「他国からしたら『そんな画期的な物を開発した人間が、国から表彰を受けていないのは何故だ?』と思われるか」

 顎に手を当て考え込むおれの隣で、イーリスは小さく頷いた。そして、手に持った菓子を一口頬張ってから、こちらに目を向ける。

「それもあるけど、むしろ『その程度の品物であれば優遇措置を取るまでもないはずだ』って突っ込まれることを恐れたと言った方が正しいわね」
「……ふむ」

 聞けば聞くほど、このポーション開発の件で表舞台に立たないようにしておいてよかったって心から感じるぜ!
 そう――対象者の怪我を瞬く間に治す魔法薬、ポーション。
 この飲んでよし塗ってよしの薬の錬成方法を、ガゼルとフェリクスに教えたのはおれなのである。
 まぁ、教えたといっても、ゲーム内の知識をそのまま、まるっと投げ渡しただけなんだけどね!
 ゲームのプレイ知識を基にして開発したこの薬は、今ではリッツハイム魔導王国中に浸透し、大量生産を行うための農場や工場までができているほどだ。なお、このポーションの開発を行ったのは、ガゼルとフェリクスの二人ということになっている。
 理由は簡単だ。
 こんな怪しいポッと出のおれが作った薬なんて、皆使いたがらないだろうからね!
 あと、ほら、ガゼルとフェリクスにはお世話になっているし……き、昨日もその、恥ずかしながらも、呪刀のデメリットを解消していただくために、お世話になったわけだし……
 だから、おれなりに二人になにかお返しがしたかったのだ。
 ポーションの開発という功績があれば、お給料とか上げてもらえるんじゃないかなー、と……思ったんだけど。
 でも、今のイーリスの話を聞くと、様々な面倒事も二人にしかかっちゃってるよなぁ……!
 本当に申し訳ない! ごめんな、ガゼル、フェリクス……!

「でも、フェリクスのお家も、これでようやくあの子のことを認めたみたいでよかったわ」
「……うん?」

 焼き菓子を呑み込んだイーリスが、ぽつりと、なんだかおかしなことを言った。
 不思議に思ったおれは、目をしばたたかせながら尋ねた。

「フェリクスが認められる、ってなんの話だ?」
「あら。タクミは知らなかったかしら」
「知らないな」
「フェリクスって、勘当に近い形で家を出てきているのよねぇ」

 えっ!?
 イーリスの言葉が思いがけないもので、おれはびっくりしてしまう。
 思わず焼き菓子を喉に詰まらせるところだった。ごくんと菓子を呑み込むと、おれは少し迷いながらイーリスに問いかけた。

「それは、おれが聞いてもいいことなのか?」
「え? ああ、そっか。本当にタクミは知らないのね。大丈夫よ、この話なら黒翼騎士団の全員が知っていることだもの」
「そうなのか」
「むしろ、今のうちに話しておくわね。うちだけじゃなく、白翼はくよく騎士団も関わってくる話だからタクミも経緯を把握しておいた方がいいわ」

 そうしてイーリスが語ってくれた話は……元の世界で『チェンジ・ザ・ワールド』をプレイしていたおれにとって、一部分は既知きちの話であったが、ほとんどの部分はまったく初めて聞く内容だった。
 ――フェリクス・フォンツ・アルファレッタ。
 彼はリッツハイム魔導王国におけるアルファレッタ伯爵の三男にあたり、黒翼騎士団の中では唯一の貴族階級出身である。また、若くして副団長の地位を任せられるほど卓越した剣の腕前を持つ。
 そこまでは、おれも知っている。
『チェンジ・ザ・ワールド』のストーリー内でも、彼がリッツハイム魔導王国の貴族階級出身であることは度々触れられていたからだ。

「この国における、各騎士団の特色ってのは分かるかしら?」
「ああ、覚えている」

 イーリスの問いに、おれはこくりと頷く。
 このリッツハイム魔導王国には、全部で八つの騎士団がある。
 金翼きんよく騎士団、銀翼ぎんよく騎士団、黒翼騎士団、白翼騎士団、赤翼せきよく騎士団、青翼せいよく騎士団、緑翼りょくよく騎士団、黄翼おうよく騎士団だ。
 騎士団の主な仕事は、国防を主としたモンスターや賊の討伐から、国境警備など様々な範囲に及ぶ。
 なお、騎士団自体については、身元さえ確かであれば誰でも入団は可能だ。平民から貴族、そして人族からドワーフ族や獣人族など、どんな身分や種族でも受け入れる。
 ただし、その種族や出自によって、配属される騎士団は異なってくる。
 たとえば、黄翼騎士団は獣人種族からなる騎士団だ。先日、黄翼騎士団のオルトラン団長にお会いする機会があったが、彼は鳥系の獣人だった。
 ……前からちょっと気になってたんだけど、鳥系の獣人でも『獣人』って呼んでいいんだよね?
 鳥人とは言わないよね?
 そんなことを考えていると、イーリスがずいっとこちらに身を乗り出し、顔を覗き込んできた。何故だか目を輝かせ、うっすらと頬を染めている。

「そういえば、タクミってオルトラン団長とはけっこう親しいわよね?」
「ああ。オルトラン団長はいい人だ」
「あの人、ちょっと朴訥ぼくとつなところがあるけど、カッコいいわよね! やっぱり獣人種の人って、人族にはない不思議な魅力があるわよねぇ……」

 わ~か~る~~~!
 いいよね、獣人の人たちって……!
 オルトラン団長は特に、髪の毛が鳥の羽毛のようなのだ。あれは人間の髪にはない魅力がある。
 いつか、オルトラン団長の頭に触らせてもらえないだろうか……

「っコホン。ごめんなさい、話が脱線したわね」
「いや、おれもイーリスの気持ちは分かるぞ」

 小さく首を振ると、イーリスは目を細めて艶やかに笑った。

「ふふっ、アタシに無理に話を合わせてくれなくてもいいのよ? えーっと、それでね、黄翼騎士団は獣人からなる騎士団で、うちの黒翼騎士団は人種、出自カンケーなしのごった混ぜ騎士団じゃない?」
「ああ」
「でね……フェリクスは元々、白翼騎士団の団長から直々に入団のお呼びがかかってたのよね」
「白翼騎士団というと、確か、貴族階級出身の団員からなる騎士団だったよな」
「そうよ。だから『お飾り騎士団』なんて呼ばれてもいるんだけどね」
「お飾り?」
「ん……それはまたちょっと後日、説明するわね」

 イーリスはごまかすように笑うと、長い睫毛まつげを伏せて、少し困った表情を浮かべた。
 そういえば、『チェンジ・ザ・ワールド』でもそんな感じの話が出てきたような……なんだっけかなー。
『チェンジ・ザ・ワールド』は男性か女性、どちらかの主人公を選ぶことができ、ゲーム内のキャラクターの好感度によってストーリーが分岐する。エンディングについても、最も好感度の高いキャラクターにより変化するのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。