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口づけ
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えっ……えっ?
えっ!!?!?
ちょ、ちょっと待ってどういうこと!? ごめん、誰か説明して! で、できたら察しの悪い俺にパワーポインターで図解入りで分かりやすく説明して! 今、何がどうしてこうなったの!?
「んっ……!? っ、ぅ」
キースをはねのけようと思ったが、キースが片手で俺の後頭部を掴んで引き寄せている力が意外なほど強い。ああ、やっぱり弓兵だから腕力とか握力は強いんだなぁ……とかのんきに思ってる場合じゃないぞ自分!
「……っ!?」
わずかに開いていた唇の隙間から、ぬるりと這入ってくるものがあった。
それがキースの舌だと気がついたのは、キースの舌が俺の舌に絡みついたのと同時だった。
「、ふっ……」
舌の表面をくすぐられたかと思えば、今度は歯列をなぞられる。かと思ったら、蛇のようにキースの舌が俺の舌に絡みついてきた。
頭をがっちり抑えられていて動かせないので、両手でキースの胸元を押す……が、ビクともしねぇ! けど、これは別にキースの力が強いせいじゃない。キースの巧みなキスのせいで、俺の方に力が入ってないせいだちくしょう。
「っ、は……! キ、キース、お前なにを……っ」
キースにようやく解放された頃には、お互い、もう唇の周りや咥内を濡らす唾液が、どちらのものなのか判別がつかなくなってしまっていた。
荒い息を整えつつ、キースを睨む。だが、息一つ乱していないキースはにやりと笑うと、俺の胸倉をつかみ、片足を俺の足にひっかけて、そのまま勢いよく俺を後方へ突き飛ばした。キースの足にひっかけられたせいで、俺はそのまま後ろに倒れ込む。
床にぶつかる…!、と瞬間的に思ったが、そうはならなかった。俺の倒れ込んだ背後に、ベッドがあったおかげだ。先ほど部屋に入ってきた時に見た、皺になったままのシーツがかけられたベッドだ。キースが普段、寝起きをしているベッドなのだろう。
けど、この状況でベッドって悪い予感しかしねぇ!
慌ててベッドから起きようとしたが、その前にキースが俺の身体にのしかかってきた。
「ま――待て! いろいろと待て!」
「あァ? なんだよ?」
俺の制止に、非常におっくうそうな態度で答えるキース。
いやいや、なんだよっていうのは、この状況なら俺の方の台詞だからね!?
「キース……お前、ウェルが好きなんじゃないのか?」
「はぁ? オレがウェルを? なんで?」
キースがきょとんとした顔で俺を見てくる。
眼帯男前のきょとん顔とかすごい貴重ですね! この状況じゃ嬉しくもなんともねぇけどな!
だが、キースの様子は嘘をついているという様子でもなく、本当に意味が分からないことを言われたという表情だ。
「お、お前の今までの態度、明らかに俺を敵視してただろう……!?」
「あれ、そう思われてたのか。んー……なんかちょっと誤解されてるみてェだけど、オレはウェルみたいなタフで可愛げのないヤツってタイプじゃねぇんだよなァ。いや、友人としては勿論好ましく思ってるけどさ、抱くとなると食指が動かねぇわ」
「なっ……」
ウェルに可愛げがないだと!?
お前、もう一度言ってみろ! あんなにかわいいウェルに可愛げがないとか、お前は今まで何を見てたんだ!? ウェルはまぁタフといえばタフだとは思うけど、でも可愛げはあるぞ! すぐに真っ赤になっちゃうところとか、真面目に俺の言うコト聞いてくれるところか、えろいことし始めると呂律がまわらなくなっちゃうところとか、ウェルの可愛げのあるところをあげたらキリがないんだからな!
い、いや、落ち着け自分。
違った、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。
だってこうしている間にも、キースが俺の上着に手をかけてボタンを外し始めているからね! キースの手首を抑えてなんとかその動きを止めようとしているが、あんまり強くはねのけると、俺の服の方が破れそうなので全力で制止ができない。その合間にも、キースは流れるように俺の上着を脱がせて、シャツに手をかけていく。
「オレの好きになるヤツって、気位の高そうなヤツというか……本来なら、オレなんかには決して触ることのできなさそうな高嶺の花が好きなんだよなァ。で、そういうのを手折って堕としてやるのが好きなんだよ」
「っ、人としてどうかと思うぞ、その趣向……!」
「はは、ロスト様のおっしゃる通り。で、そこでいくとロスト様はオレの好みどんぴしゃなんだよなァ。外見も立ち振る舞いもそうだし、伯爵家のご子息って立場ももう本当オレの好み。あの日、ギルドでアンタを見つけた瞬間、まるで身体に電流が奔ったみたいに感じたよ」
そ、そういやギルドで出会った時とか、この部屋に入った時も、なんかキースが俺に向ける視線が、獲物の品定めをするような、舐めるような視線だとは思っていたが……。
てっきり、恋敵になりそうな俺に対して、敵対するためにそういう視線を向けているのかと思っていた。実はそういう意味だったのかよ!?
って、やばい! そうこうしている間にシャツのボタンが完全に外されて、前を開かれたんですけど!? どうなってんだよこいつの服の早脱がせ術! こういう状況じゃなければ、後学のためにぜひ伝授していただきたいほどだよ!
「ギルドで会ったアンタが、あまりにもオレの理想過ぎてさ。だからあの時から、アンタに色々ちょっかいかけてみたり、からかってみたりしてただろ?」
あのやたらと人を揶揄うような態度はそういうことかよ!?
好きな子をいじめたいってレベルじゃねぇぞ!
ウェル、お前のパーティーメンバー、すごい歪んだ性癖をお持ちなんですけど!
よくこんな危ない性癖の人といっしょに冒険者をやろうと思ったね!?
「っ、俺がお前の好みだかなんだか知らんが……だからって、俺がお前なんかにいいようにされると思うのか?」
くそ、しかたがない! あまり人には使いたくなかったんだが……魔眼を使おう! というか、キースが本当にびくともしなくて、俺の純粋な腕力だけでは逃げ出せそうにない!
えっと、とりあえず全身に痒み発生でいいよな!?
よし、魔――、
「いや、思ってねェよ? だから、『見返り』だって言ってんだろ?」
「……見返り?」
キースの言葉に、俺は魔眼の発動を停止させる。
……ああ、そうか。つまり、こいつが言いたいのは、
「ギルドで出会った時、オレはずっとアンタのことを見てたからさ。だから、すぐに分かったぜ。オレがアンタを見るような目で、アンタもウェルのことを見てたよな」
「…………」
「つまり、ロスト様はウェルのことが好きなんだろ? でも、ウェルのヤツはなんだか知らんが、ロスト様の護衛騎士を辞めようと思ってるって、オレに相談してきたと」
キースの指が、するりと俺の頬にのばされる。その掌は、冒険者らしく、タコやマメのつぶれた痕のある、節くれだった男らしい手だった。
「ひでぇヤツだよなァ、ウェルのヤツ。で、だ。優しいオレは、そんなロスト様のために、ウェルの相談に対してそれとなく護衛騎士を続けるように誘導をしてやろうと思ってる」
「……お前、」
「でも、そんなオレに対して見返りの一つや二つあったって良いと思わねェ? な、ロスト様はそう思うよな?」
つまり、キースの言いたいことはこうだ。
ウェルが護衛騎士を辞めないように説得をしてくれる。
その代わりの見返りを、俺に差し出せと言っている。
「なぁ、ロスト様?」
「っ……!」
キースの指先が、今度は俺のはだけたシャツの中、胸元に伸ばされた。俺の胸を、手のひらで味わうようにキースが触れてくる。
「……きれいな肌だな。ソロで討伐に行ってる割には、傷がほとんどねぇ」
キースはそう呟くと、俺の首筋に唇をよせてきた。やめろという間もなく、刺すような痛みが奔る。
「ァ、っキース……!」
首筋に埋まったキースの頭をつかむが、キースがのいてくれる様子はない。それどころか、首筋のやわらかい皮膚をぬるりとナニかが這う感触がして、思わずびくりと肩が跳ねる。
突然のことに思考が整理できない。頭が追いつかない。でも、心のどこかで何かが警鐘を鳴らしている気がするのだ。キースはどこか俺を故意に誘導して話を進めている気がする。まるで結論を急ぐように、自分の都合のいいようなことしか喋っていない気がするのだ。
でも、ここで俺がキースに応じなきゃ、ウェルは……。
ぐるぐると頭の中をめぐる思考の中で、不意に、耳にかすかな音が聞こえた。
それはこの部屋の向こう、階下の方から響いてくるようだった。初めは気のせいかとも思ったが、だが、次第に何かを怒鳴り合うような声が静かになると、今度はどたばたと階段を駆け上がってくるような音が聞こえ始めた。
「…………なんだァ?」
キースもいぶかしげな表情で顔を上げる。キースにも聞こえているということは、俺の幻聴ではないようだ。
でも……本当に?
だって、俺はここに来るなんて誰にも言ってないのに。
「――――ロスト様!」
だが、はたしてドアを開けて部屋に飛び込んできたのは、俺の予想に違わない人物――、
俺の護衛騎士ウェルスナー・ラヴィッツ、その人だった。
えっ!!?!?
ちょ、ちょっと待ってどういうこと!? ごめん、誰か説明して! で、できたら察しの悪い俺にパワーポインターで図解入りで分かりやすく説明して! 今、何がどうしてこうなったの!?
「んっ……!? っ、ぅ」
キースをはねのけようと思ったが、キースが片手で俺の後頭部を掴んで引き寄せている力が意外なほど強い。ああ、やっぱり弓兵だから腕力とか握力は強いんだなぁ……とかのんきに思ってる場合じゃないぞ自分!
「……っ!?」
わずかに開いていた唇の隙間から、ぬるりと這入ってくるものがあった。
それがキースの舌だと気がついたのは、キースの舌が俺の舌に絡みついたのと同時だった。
「、ふっ……」
舌の表面をくすぐられたかと思えば、今度は歯列をなぞられる。かと思ったら、蛇のようにキースの舌が俺の舌に絡みついてきた。
頭をがっちり抑えられていて動かせないので、両手でキースの胸元を押す……が、ビクともしねぇ! けど、これは別にキースの力が強いせいじゃない。キースの巧みなキスのせいで、俺の方に力が入ってないせいだちくしょう。
「っ、は……! キ、キース、お前なにを……っ」
キースにようやく解放された頃には、お互い、もう唇の周りや咥内を濡らす唾液が、どちらのものなのか判別がつかなくなってしまっていた。
荒い息を整えつつ、キースを睨む。だが、息一つ乱していないキースはにやりと笑うと、俺の胸倉をつかみ、片足を俺の足にひっかけて、そのまま勢いよく俺を後方へ突き飛ばした。キースの足にひっかけられたせいで、俺はそのまま後ろに倒れ込む。
床にぶつかる…!、と瞬間的に思ったが、そうはならなかった。俺の倒れ込んだ背後に、ベッドがあったおかげだ。先ほど部屋に入ってきた時に見た、皺になったままのシーツがかけられたベッドだ。キースが普段、寝起きをしているベッドなのだろう。
けど、この状況でベッドって悪い予感しかしねぇ!
慌ててベッドから起きようとしたが、その前にキースが俺の身体にのしかかってきた。
「ま――待て! いろいろと待て!」
「あァ? なんだよ?」
俺の制止に、非常におっくうそうな態度で答えるキース。
いやいや、なんだよっていうのは、この状況なら俺の方の台詞だからね!?
「キース……お前、ウェルが好きなんじゃないのか?」
「はぁ? オレがウェルを? なんで?」
キースがきょとんとした顔で俺を見てくる。
眼帯男前のきょとん顔とかすごい貴重ですね! この状況じゃ嬉しくもなんともねぇけどな!
だが、キースの様子は嘘をついているという様子でもなく、本当に意味が分からないことを言われたという表情だ。
「お、お前の今までの態度、明らかに俺を敵視してただろう……!?」
「あれ、そう思われてたのか。んー……なんかちょっと誤解されてるみてェだけど、オレはウェルみたいなタフで可愛げのないヤツってタイプじゃねぇんだよなァ。いや、友人としては勿論好ましく思ってるけどさ、抱くとなると食指が動かねぇわ」
「なっ……」
ウェルに可愛げがないだと!?
お前、もう一度言ってみろ! あんなにかわいいウェルに可愛げがないとか、お前は今まで何を見てたんだ!? ウェルはまぁタフといえばタフだとは思うけど、でも可愛げはあるぞ! すぐに真っ赤になっちゃうところとか、真面目に俺の言うコト聞いてくれるところか、えろいことし始めると呂律がまわらなくなっちゃうところとか、ウェルの可愛げのあるところをあげたらキリがないんだからな!
い、いや、落ち着け自分。
違った、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。
だってこうしている間にも、キースが俺の上着に手をかけてボタンを外し始めているからね! キースの手首を抑えてなんとかその動きを止めようとしているが、あんまり強くはねのけると、俺の服の方が破れそうなので全力で制止ができない。その合間にも、キースは流れるように俺の上着を脱がせて、シャツに手をかけていく。
「オレの好きになるヤツって、気位の高そうなヤツというか……本来なら、オレなんかには決して触ることのできなさそうな高嶺の花が好きなんだよなァ。で、そういうのを手折って堕としてやるのが好きなんだよ」
「っ、人としてどうかと思うぞ、その趣向……!」
「はは、ロスト様のおっしゃる通り。で、そこでいくとロスト様はオレの好みどんぴしゃなんだよなァ。外見も立ち振る舞いもそうだし、伯爵家のご子息って立場ももう本当オレの好み。あの日、ギルドでアンタを見つけた瞬間、まるで身体に電流が奔ったみたいに感じたよ」
そ、そういやギルドで出会った時とか、この部屋に入った時も、なんかキースが俺に向ける視線が、獲物の品定めをするような、舐めるような視線だとは思っていたが……。
てっきり、恋敵になりそうな俺に対して、敵対するためにそういう視線を向けているのかと思っていた。実はそういう意味だったのかよ!?
って、やばい! そうこうしている間にシャツのボタンが完全に外されて、前を開かれたんですけど!? どうなってんだよこいつの服の早脱がせ術! こういう状況じゃなければ、後学のためにぜひ伝授していただきたいほどだよ!
「ギルドで会ったアンタが、あまりにもオレの理想過ぎてさ。だからあの時から、アンタに色々ちょっかいかけてみたり、からかってみたりしてただろ?」
あのやたらと人を揶揄うような態度はそういうことかよ!?
好きな子をいじめたいってレベルじゃねぇぞ!
ウェル、お前のパーティーメンバー、すごい歪んだ性癖をお持ちなんですけど!
よくこんな危ない性癖の人といっしょに冒険者をやろうと思ったね!?
「っ、俺がお前の好みだかなんだか知らんが……だからって、俺がお前なんかにいいようにされると思うのか?」
くそ、しかたがない! あまり人には使いたくなかったんだが……魔眼を使おう! というか、キースが本当にびくともしなくて、俺の純粋な腕力だけでは逃げ出せそうにない!
えっと、とりあえず全身に痒み発生でいいよな!?
よし、魔――、
「いや、思ってねェよ? だから、『見返り』だって言ってんだろ?」
「……見返り?」
キースの言葉に、俺は魔眼の発動を停止させる。
……ああ、そうか。つまり、こいつが言いたいのは、
「ギルドで出会った時、オレはずっとアンタのことを見てたからさ。だから、すぐに分かったぜ。オレがアンタを見るような目で、アンタもウェルのことを見てたよな」
「…………」
「つまり、ロスト様はウェルのことが好きなんだろ? でも、ウェルのヤツはなんだか知らんが、ロスト様の護衛騎士を辞めようと思ってるって、オレに相談してきたと」
キースの指が、するりと俺の頬にのばされる。その掌は、冒険者らしく、タコやマメのつぶれた痕のある、節くれだった男らしい手だった。
「ひでぇヤツだよなァ、ウェルのヤツ。で、だ。優しいオレは、そんなロスト様のために、ウェルの相談に対してそれとなく護衛騎士を続けるように誘導をしてやろうと思ってる」
「……お前、」
「でも、そんなオレに対して見返りの一つや二つあったって良いと思わねェ? な、ロスト様はそう思うよな?」
つまり、キースの言いたいことはこうだ。
ウェルが護衛騎士を辞めないように説得をしてくれる。
その代わりの見返りを、俺に差し出せと言っている。
「なぁ、ロスト様?」
「っ……!」
キースの指先が、今度は俺のはだけたシャツの中、胸元に伸ばされた。俺の胸を、手のひらで味わうようにキースが触れてくる。
「……きれいな肌だな。ソロで討伐に行ってる割には、傷がほとんどねぇ」
キースはそう呟くと、俺の首筋に唇をよせてきた。やめろという間もなく、刺すような痛みが奔る。
「ァ、っキース……!」
首筋に埋まったキースの頭をつかむが、キースがのいてくれる様子はない。それどころか、首筋のやわらかい皮膚をぬるりとナニかが這う感触がして、思わずびくりと肩が跳ねる。
突然のことに思考が整理できない。頭が追いつかない。でも、心のどこかで何かが警鐘を鳴らしている気がするのだ。キースはどこか俺を故意に誘導して話を進めている気がする。まるで結論を急ぐように、自分の都合のいいようなことしか喋っていない気がするのだ。
でも、ここで俺がキースに応じなきゃ、ウェルは……。
ぐるぐると頭の中をめぐる思考の中で、不意に、耳にかすかな音が聞こえた。
それはこの部屋の向こう、階下の方から響いてくるようだった。初めは気のせいかとも思ったが、だが、次第に何かを怒鳴り合うような声が静かになると、今度はどたばたと階段を駆け上がってくるような音が聞こえ始めた。
「…………なんだァ?」
キースもいぶかしげな表情で顔を上げる。キースにも聞こえているということは、俺の幻聴ではないようだ。
でも……本当に?
だって、俺はここに来るなんて誰にも言ってないのに。
「――――ロスト様!」
だが、はたしてドアを開けて部屋に飛び込んできたのは、俺の予想に違わない人物――、
俺の護衛騎士ウェルスナー・ラヴィッツ、その人だった。
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