上 下
23 / 38

しおりを挟む

『ああ――前にな。アンタの護衛騎士を辞めようかどうかとか? そんな話もしてたぜ』

……屋敷へ向かう帰りの馬車の中、キースの言った言葉が俺の頭の中をぐるぐると巡っていた。
ポケットにいるミーコが「みゃお、みゃお!」と、取り合わない方がいいぜあんなヤツ!という感じで慰めてくれているが、申し訳ないが俺の心にはその慰めは響いてこなかった。

……この前、ウェルが偶然キースとロズリーナさんに再会した時。
二人は本当に気の置けない間柄で、遠慮も何もない友人同士なんだと、見ただけで分かった。

けれど、本当にそれだけだったんだろうか?

このリッツハイム魔導王国は同性同士の結婚も認められており、冒険者のパーティーメンバーの間でカップルができるというのもよくある話だ。恋人同士の間柄でなくとも、パーティーメンバーの中で身体の付き合いがあるという話もよく聞いたりする。
そしてあのキースの態度は、俺を明らかに挑発していた。

つまり――、キースはウェルのことを好きなんじゃないだろうか?

……あり得る話だ。あんなに可愛いウェルなんだ。一緒に冒険者でパーティーを組んでいれば、すぐにウェルの魅力に気づいただろう。そしてすぐにコロッといったに違いない。コロコロッと!
恐らくキースは冒険者時代の頃から、ウェルのことを思っていたんだろう。そして、今回ウェルから「護衛騎士を辞めたい」と相談をもちかけられ、俺からウェルを取り戻すためにあのケンカをふっかけるような態度に出てきたと思えば、全ての辻褄が合うのではないだろうか。

「なら、あとはウェルの気持ち次第ってことか」

そう。だから後は、ウェルが「護衛騎士を辞めたい」と、俺に再度言ってくることがあれば、キースの思惑は全て完了するだろう。
今はウェルは、その話を出してくることはないが……。恐らく、先日の痴態をさらした衝撃のせいで今はそんな気分になれないか、または俺の魔眼による「発作」のことがあるからまだ様子をみているのか。そのどちらかなんだろう。

「……結局、この魔眼に振り回されてるな」

この魔眼を使いこなすために、この能力を把握するための実験で始めたことなのに。
振り返れば、俺はこの能力を使いこなすどころか、終始自分の能力に振り回されっぱなしだった。

本末転倒な自分の馬鹿らしさに、思わず自嘲するように笑う。ポケットの中のミーコが、そんな俺を心配するように「みぃ」と声をかけてくれた。
ごめんな、そんな優しさをかけてもらえるような上等な人間じゃないんだ、俺。





「ウェル、ただいま。身体の具合はどうだ?」

あれから屋敷に戻り、執務を片付けて夕飯を済ませた俺は、ウェルの見舞いをすることにした。
ウェルの部屋に続くドアをノックし、声があったので、ウェルの部屋に入る。ウェルはベッドから起き上がると、こちらに慌てて頭を下げてきた。

「申し訳ございません、ロスト様。このような見苦しい格好で……」
「気にするな、病人なんだから当然だろう? まぁ、厳密にいえば病人とは違うか」

俺の言葉にちょっと頬を赤らめて、「お心遣いいたみいります」をまたも頭を下げるウェル。
ウェルは濃いグレーのシャツと黒いズボンの、簡単な格好をしていた。寝間着ではないようなので、部屋でくつろぐための格好なのだろう。だが、そんな恰好でもウェルが切ればフツーにカッコいい。くそ、イケメンはこれだから! なんでも着こなしやがる!

「ほら、まだ身体が本調子じゃないんだろう? 寝ていていいぞ」
「ですが、ロスト様を立たせたままで私が寝ているというのは……」
「いいから、気にするな。俺が立ってるのが気になるんなら、そこの椅子でも借りるさ」

そういえば、この前は色々と慌ただしくて中々周りを見ていなかったな。
俺はライティングデスクの前にあった椅子をベッドの傍らに持ってきつつ、さりげなく部屋の様子を見てみる。

ウェルの部屋は、男の一人暮らしの部屋という観点から見ればものすごく片付いていた。
俺の部屋の半分ほどの広さの部屋だが、男一人で暮らすには十分な部屋だろう。開閉式の木製のライティングデスクが部屋の片隅に置いてあり、部屋の右側に本棚が置かれている。衣装箪笥の隣に、いつも使っているプレートメイルや革鎧や剣が磨かれて置いてあり、目立つものはそれぐらいだ。
片付いているというより、どっちかというと物がほとんどなかった。本棚に置いてある本も、『リッツハイム魔導王国の歴史』とか『冒険者ギルドの成り立ち』とか、そんな遊びっ気のない本ばかりだ。
あるいは、ライティングデスクの中に、個人的な物がしまってあるのかもしれないが、そこをさりげなく開けてみたりする詭弁が今の俺の頭脳では思いつかない。

……もしくは、もうウェルの心の中では俺の護衛騎士を辞めると、決意してるのだろうか?

立つ鳥跡を濁さず、とは前世の言だが、真面目なウェルならきっとそうするだろう。
やはりあのキースの言う通り、ウェルは俺の騎士を辞めると決めていて。
だからこそ、部屋の中がこんなに片付いてるんじゃないだろうか……?

そう思考をめぐらせた瞬間――、
俺はウェルへ魔眼の効力を発動させていた。

「……ひっ!?」
「ん、どうしたウェル? なにか言ったか?」
「っ…………」

見れば、ウェルが口元に手を当てて、悲鳴を必死に殺している。
そんなウェルに対して、俺は素知らぬ顔で声をかける。ウェルは、口に手を当てて声を殺したまま、泣きそうな顔で目の前にいる俺を見てきた。

……そう。俺はここに来るまで、今日一日ずっと必死に考えたのだ。

先日、ウェルから「護衛騎士を辞めたい」と申し出があった件。
もちろん俺は、ウェルに騎士を辞めさせるつもりはないし、絶対に辞めてほしくはない。

「ロ、ロスト様……私……」

今、ウェルの乳首には先日と同じように、絶え間ない痒みと快楽が襲い掛かっていることだろう。必死に漏れ出る喘ぎ声を殺すように、ウェルは口に手を当てたまま、もじもじと身体をゆらしている。

「……っ、その。また、例の発作が起きたようなんです。どうか、助けて、下さい……」

しばらく沈黙が続いたが、やがてウェルは覚悟を決めたように俺にか細い声でそう伝えてきた。

そうだ、俺がウェルを繋ぎとめる方法はこれしかない。

つまり、この魔眼の能力を用いて、ウェルの身体をこれまで以上に調教する。
以前、ウェルは「こんな様では護衛騎士を続けるわけにはいかない」というようなことを言っていたが、つまりそれを逆にしてしまえばいいのだ。
俺の魔眼で「いつ発作が起きるか分からない」「助けを求められるのは俺しかいない」という状況を徹底的に作り上げ、他人に絶対に打ち明けられないほどの秘密を作らせてしまえばいい。そうすれば、俺の騎士を辞めるわけにはいかなくなるだろう。
ああ。なんなら信憑性を高めるために、以前言っていた治癒師を実際に手配してもいいな。だが、治癒師にだって、この世界の他の誰にだって原因は一切わからないのだから、結局、ウェルは俺に助けを求めるほかなくなるわけだ。
……たとえ、ウェルが俺のことをどう思っていようとも。


――要約すると、まぁ「これまで通りやる」の一言に尽きるんだけどね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

童貞処女が闇オークションで公開絶頂したあと石油王に買われて初ハメ☆

はに丸
BL
闇の人身売買オークションで、ノゾムくんは競りにかけられることになった。 ノゾムくん18才は家族と海外旅行中にテロにあい、そのまま誘拐されて離れ離れ。転売の末子供を性商品として売る奴隷商人に買われ、あげくにオークション出品される。 そんなノゾムくんを買ったのは、イケメン石油王だった。 エネマグラ+尿道プラグの強制絶頂 ところてん 挿入中出し ていどです。 闇BL企画さん参加作品。私の闇は、ぬるい。オークションと石油王、初めて書きました。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...