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密室
しおりを挟む「ロ、ロストさま……」
「しーっ、静かにしていろ。馬車の窓を閉めたとはいえ、防音じゃないんだ。静かにしていないと御者に聞こえてしまうぞ?」
「そ、そんな……」
「だから、なるべく声は抑えているんだぞ。ほら、俺のハンカチーフをやるから、これを咥えていろ」
「い、いえ、ロストさまの持ち物を頂くわけには……んっ!」
「ほら、強情を張るな。それとももしかして、誰かに見てほしいと思ってるのか?」
「そ、そんなことは決してありませんっ……!」
すべての窓を閉め切り、カーテンを引いて密室となっている馬車の中。
伯爵家の持ち物である馬車だが、その室内の椅子は深い真紅のベルベット生地張りで、壁には小さな花と小鳥をあしらった壁紙が張られている。外装はシックな艶のある黒塗りだが、馬車の中央付近には金色で伯爵家の家紋が描かれている。庶民が乗るような乗り合い馬車とは違う、高級馬車と一目でわかる仕様だ。
そんな高級馬車の中で、ウェルは今、下半身をむき出しにして、四つん這いの体勢となっていた。
礼の発作が発生したウェル――まぁ元凶は言わずと知れた俺なんだが――のため、患部を見せろと強要した俺。その後、「普通に座っているだけじゃ、もしかするとカーテンの隙間からお前の姿が見えてしまうかもしれない」「だから体制を窓より低くする必要がある」と説得をした俺。
その結果、ウェルの姿が外から見えないように、ウェルは四つん這いになって上半身を向かいの椅子にもたれさせ、むき出しになった下半身を俺に向けているというわけだ。
また、この馬車もそんなに中が広いわけではないので、ウェルは俺の膝をまたぐようにして四つん這いになっている。ちょうど、ウェルの足の間に俺の膝が入る感じだ。そのせいで、時々ウェルの陰茎が俺の膝にあたるのを感じた。
「さて、急激に痒みと快楽が襲ってきたということだが。今回の患部はここか?」
「は、はいっ……」
「どこが痒いんだ? 入口か、中か? 奥の方か?」
「っ……ぜ、全部です。入口も、中の方も、奥も……う、後ろの穴ぜんぶが痒くて、気持ちよくて、びりびりしてますっ……!」
けどこの体勢、ウェルの顔が見えないのがちょっと残念だな。
けれど、後ろから見てもウェルの耳が真っ赤になっているのが見える。まぁ、それもそうか。こんないつ人に見られるか分からない場所で、下半身をむき出しにして尻を護衛対象の上司に向けているなんて、常人が耐えられる屈辱と羞恥ではないだろう。
「ふむ、魔力が暴走している気配などは特にないな……」
「っ! ふ、くぅっ……!」
すでにパクパクと口を開き、真っ赤になっているウェルの後肛にゆっくりと人差し指をうずめていく。とたんに、ウェルの胎内は俺の指をきゅうきゅうとしめつけてきた。うずく痒みと快楽を解消してくれる術をもう離したくない、と言っているようだ。
その期待にお応えして、中指もゆっくりと埋めていき、二本の指をゆっくりと出し入れしていく。
「ひぅ……! ろ、ろふほはまぁっ……!」
先ほど渡した俺のハンカチを咥えているせいで、ウェルが何を言っているのかはよく聞き取れない。それを言いことに、俺はウェルの言葉を理解できないふりをする。
「痒みと快楽か……何か発作がおきる原因があるのかな。お、ここになにか奇妙なしこりがあるな」
「っ!」
ウェルの胎内の中でぷっくりとふくらんだしこりを感じたので、そこを指先でコリコリと掻いてやる。すると、ウェルの腰がビクンッ!と大きく跳ねた。
「ふっ、ァ、ロ、ロストさま、だめです、そこ、だめっ……!」
「こら、ウェル。ちゃんとハンカチを咥えてないとダメだろう? 外に聞こえてしまうぞ」
「ひっ、ぁ、でも、だめですそこ、そこコリコリされると、おれっ……!」
たまらず、といった感じでウェルがハンカチから口を離して俺を振り返った。その双眸からは涙がこぼれており、口の端から涎がこぼれている。けど、そんな顔を見せられて止まれるわけがない。
俺の膝をまたぎ、下半身を突き出しているウェルの後肛から、ぐちょぐちょと濡れた音が響き始めている。二本の指の抽挿をいっそう激しくさせると、その濡れ音もよりいっそう大きな音となって馬車の中で響いた。
「んっ、ふっ、うぅ……っ!」
あわててウェルがハンカチを咥えなおす。見れば、先ほどまで俺の膝にあたっていたウェルの陰茎は、すっかり勃ちあがって、ウェルの腹につくほどになっていた。
「後ろだけの刺激でイきそうなのか、ウェル?」
「っ……! ふ、ぅっ」
そう囁くと、ウェルの身体全体に硬直したように力が入った。俺が言葉にしたことで、自分の今の有様を自覚したようだ。必死にウェルが下半身に力を込め、射精を我慢しようとしているのが伝わってくる。ふふ、かわいいなぁ。どうせ無駄な抵抗なのに。
「後ろだけの刺激でイきそうになるなんて、女の子みたいだな。こんなことが続くと、女を抱けなくなるかもしれないし、早く治るようにしないとなぁ」
「っ、んぅ!」
埋める指をもう一本増やす。今度は薬指だ。今、ウェルの中には俺の指が三本はいっている。だが、ウェルの後肛は俺の指を難なく飲み込んでいた。
それどころか、胎内を刺激したものが増えたことに対して、喜ぶように指をさらにきゅうきゅうと締め付けてくる。
「まぁ、治るまでは俺が症状の解消につきあってやるさ。ほら、ここが痒いんだよな?」
「っん――!」
今度は、人差し指と中指でウェルの胎内のしこり、前立腺をひっかいた。爪先でひっかり、手首を回して指先でこすり、さらにひっかく。ウェルの下半身がびくびくと痙攣しはじめ、陰茎の先から透明な先走りがとめどなくあふれてくる。
そしてトドメに、胎内の前立腺を人差し指と中指でぎゅうっ、とつまんでやる。
「んぅっ――!」
瞬間、ウェルのくぐもった悲鳴と共に、陰茎からぴゅうっと白濁した液が勢いなくあふれ出た。胎内に埋められた俺の指も、持っていかれるんじゃないかという勢いで締め付けられる。
「後ろの刺激だけで射精しちゃったな、ウェル」
「っ……ふ、……」
「けれど気にすることはないぞ。これはただの治療行為だし、生理現象だ。男なら誰だってなるものだし、ウェルが特別というわけじゃないからな」
「ろふほはまぁ……」
先ほどとは矛盾した言葉を言いつつ、持っていた別のハンカチで手をぬぐい、ついでにウェルが放って足にかかった精液や、ウェルの下半身もぬぐう。ウェルはといえば、まだ射精の余韻が残っているようで、ぼんやりと焦点のあわない瞳で虚空を見つめている。
――と、そこで、俺がまだ埋めていたままだった指が、ウェルのナカできゅううっと再度、締め付けられ始めた。
「……? ウェル?」
「あっ……ろ、ろすとさまぁ……おれ、まだだめです、なんでか、まだナカが痒くて、ひくひくしてるんです……」
舌ったらずな声で、俺を涙目で見上げてくるウェル。そんな幼げな表情とは裏腹に、ウェルの胎内は再度俺の指を締めつけはじめた。それだけではなく、ウェルの腰ももどかしげに、俺の指を動かすように動きはじめる。
「あっ、なんで、おれ……やだ、こんなの、見ないでくださいロストさま……」
あ、そういや魔眼の効力を切ってなかったわ。
すっかりウェルを後ろだけで射精させて満足しきってたよ! そうだそうだ、俺が切らなきゃウェルへ与えられた刺激は切れないんだった。
今、ウェルは射精したばかりだというのに、後ろに咥えこんだ指を動かすようにして腰をゆらめかせ、再び陰茎を勃ち上がらせていた。俺がまだ魔眼の効力を切ってやっていないので、いまだに後肛に痒みと快楽を感じているせいだろう。こわえこんだ指が動いてくれないのが、さぞかしもどかしいようだ。
だが、そんないやらしく、はしたない動きとは裏腹に、ウェルは羞恥に顔を真っ赤にそめ、涙目で俺にすがるような視線を向けている。
「……気が変わった」
「え?」
「ああ、いや、なんでもないよウェル。ただ、申し訳ないがそろそろ馬車が屋敷に着くからな。ずっとはこうしていられないんだ」
「あ……」
ハッと顔を青ざめさせるウェル。自分の痴態を人に見られたら、という恐怖が戻ってきたのだろう。
俺はゆっくりとウェルの後肛から指をぬくと、そんなウェルの頭をなだめるようになでてやる。
「大丈夫だ、まだ時間はあるから。なんなら御者には、ウェルが悪いと伝えてしばらく開けないようにしてもらうさ」
「も、申し訳ございません、ロスト様。すぐに支度いたしますっ」
「だが、まだ患部の症状は治まってないんだな?」
「は、はい……」
「なら、屋敷に戻ってもまだ症状が治らないようなら、続きの治療は俺の部屋でしよう。屋敷に戻ったらこのまま俺の部屋に来い。いいな、ウェル?」
問いかけの形式をとってはいるが、有無を言わさない口調でウェルに問いかける。
そしてもちろん、魔眼の効力を俺はまだ切る気はない。最初はもう今日はここまでにしておいてやろうと思ったのだが、ウェルの顔を見ていたら気が変わった。
「……はい」
ウェルもまた、今日がまだまだ終わらないことを予感したのかもしれない。ためらいがちながらも、ウェルもまた大人しく俺の言葉に頷いたのであった。
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