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評判
しおりを挟む「おう、ロスト君。今度は何を狩ってきたんや?」
「ギルドマスター、お元気そうで何よりです」
買取カウンターで受付をしてもらい、通された奥の部屋。
そこは、討伐してきたモンスターの査定場だ。
丁寧に磨かれた石造りの床には、賽の目状に溝がつくられており、モンスターの体液や血が側溝へ流れるようになっている。側溝にはゆるやかに水が流れており、換気も充分とられているので臭いもほとんどせず、解体場を兼ねている査定場ではあるが清潔感のある部屋となっている。
そんな査定場でアースワイバーンをアイテムバッグから出し、ギルドの鑑定スタッフに見てもらっている最中、俺に声をかけてきた人がいた。
声をかけてきたのは、不精髭をはやし、赤毛の髪を短く刈り込んだ三十代前半ほどの外見の男性だ。種族は犬系の獣人種で、髪と同じ色の赤い犬耳と尻尾が生えている。シャツやベストをかなり着崩しているが、だらしないという印象は与えず、何ともさまになっている。
こんなとっぽい感じのおじさまだが、この人はこう見えてこの冒険者ギルドのギルドマスターその人である。
そんなギルドマスターさんに声をかけられ、「査定の間、ちょっと向こうで話さんか?」と言われたので、俺はありがたくその申し出を受けた。俺もギルドマスターさんに、聞きたいことがあったのでちょうどいい。
「にしても、今度はアースワイバーンをソロで討伐したんか……あいかわらずやなぁ」
通されたのは、絨毯の敷かれたソファが置かれた応接室だった。
壁にはこの国の歴史や、冒険者ギルドの歴史、歴代ギルドマスターの名前が書かれたタペストリーが額に入って飾られている。ギルドマスターさんの名前も、タペストリーの一番下の方に金色の刺繍糸で記載されていた。
そんな応接室で、ギルドマスターさんと二人、ソファに向かい合わせに座りつつお茶を飲んでいる。渋みの少なく、まろやかな甘みのあるお茶で、けっこう美味しい。
「ソロじゃないですよ。今回は俺の護衛騎士についてきてもらいましたから」
「おっ? 珍しいな、ロスト君が誰か護衛を伴っとるなんて。いやまぁ、普通はそれが正しい姿なんやけど」
「はい、俺もいろいろ考えなおしまして」
「うんうん、護衛をつれていくつもりになったんなら、それはいいことやで。戦いの場は、何が起こるかは誰にも予想できんからなぁ。まぁ、この国一番の討伐数を誇る『剣星』さんは、そんなこと百も承知か!」
あはは、と人好きのする顔で笑っているギルドマスターさん。
そう、それである。
俺はその『剣星』という俺の評判について、このギルドマスターさんに聞きたいのだ!
ギルドマスターさんはこの口調からも分かる通り、俺に対して伯爵家の次男だからと変にかしこまらない。最初に出会った時はもっとかしこまった喋り方だったんだけど、俺が「他の冒険者と同じように扱ってほしい」と頼んだからだんだよね。なので、それからは俺が討伐したモンスターの買取に来るたびに気さくに声をかけてくれ、今では軽い世間話ができる間柄になった人だ。
この人なら、セバスチャンやウェルが遠慮してしまうような話題も、きっと忌憚なく、客観的に答えてくれるだろう。
「ギルドマスター、今日は聞きたいことがあって来たんです」
「お、なんや?」
お茶の入ったカップを置き、真剣な面持ちを心掛けて、ギルドマスターさんを見つめる。
「……正直に言ってほしい。俺の事、どう思ってますか?」
「ブッ!!?」
なんでか、ギルドマスターさんがお茶を噴き出した。
ゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいるギルドマスターさんに、心配になって「大丈夫ですか?」と声をかける。見れば、その顔が真っ赤になっている。お茶が気管に入ったのだろうか?
「あ、あの、ロスト君、今なんて……。いや、それより、自分の気持ち、知っとたんか……?」
追い詰められたように眉根を下げて、顔を赤くして俺を見つめ返してくるギルドマスターさん。犬耳と犬尻尾もしゅんと垂れ下がっている。
やはり……この明らかに動揺しきった様子。
そして、今言った「ギルドマスターさんの気持ち」という言葉。俺の予想は当たっていたようだ。
「やっぱり、ギルドマスターも思ってたんですね……。『剣星』なんて二つ名、まるで俺に見合ってないですよね」
「…………はい?」
「先ほど、冒険者の人からも待合所で色々言われましたが、どうにも俺に対するおかしな風聞が流れているようです。恐らく、俺が伯爵家の人間だから面白がって人々が噂に尾ひれをつけていると思うのですが……」
「ちょっ、そういう意味ぃ!? おじさんのドキドキな純情を返して!」
「? 純情?」
「あ、いや、違います違います。ロスト君はなにも気にしなくてええですわ。というかさっきのは忘れてください、マジで。ホントにお願いします」
変なところで何故かギルドマスターさんが叫びだしたので、話が途中で途切れてしまった。やっぱりギルドマスターともなると、いろいろ疲れているんだろうなぁ。ストレスで心が叫びたがっているんだろうな。この世界にカラオケでもあれば一緒に付き合うんだが。
そんなお疲れのギルドマスターさんが落ち着くのを待ってから、俺は気になっていたことを再度、ギルドマスターさんに打ち明けた。
この俺、ロスト・フォンツ・エルシュバーグが『剣星』や『稀代の天才』と世間で呼ばれていること。それは、実力に見合っていない風聞ではないのか? 噂話に尾ひれがついているのなら、それをどうにか訂正できないか――ということをだ。
だが、ギルドマスターさんの反応は、
「えーっと……ロスト君、それ本気で言ってるん?」
俺の予想を大幅に裏切るものだった。
「えーっと、それ本気なん? いや、その様子だと本気なんか……。ロスト君、前から思ってたけどちょっと天然というか、世間知らずというか……年齢と立場の割にスレてないよなぁ。そこが可愛いといえば可愛いんやけど」
「……どういうことです?」
「どうもこうも、ロスト君のさっきの疑問は、まったく的外れってことやで! あのなぁ、どこに単騎でアースワイバーンやらスプリガンやらバジリスクやらを討伐してくる奴がいるんや? 高難易度モンスターを狩ってくるだけでなく、モンスターの討伐数でも群を抜いて一位やで!」
「……討伐数が多いだけなら、別に珍しくもないのでは?」
「一位っていうのは、ギルドに在籍してる冒険者だけやないで。この国の騎士団の討伐数をロスト君一人で抜いてるんやで?」
「えっ」
「ロスト君は伯爵家だから正式な冒険者登録をギルドにしとらんけどな……ロスト君の功績やったら、今すぐにでもSS級ランクの冒険者になれるんやで」
「え、SS級……!?」
SS級。この世界の冒険者は下から、Fランク・Cランク・Bランク・Aランク・Sランクとなっており、最上級のランクがSSランクだ。
で……えっと、その、俺がSSランクに該当する……だと?
「今この国にいる正式なSSランク冒険者は三人やで。それを考えたら、ロスト君の『剣星』って二つ名も尾ひれのついた風聞やないって分かるやろ?」
「……ちなみに、その『剣星』って二つ名の由来は?」
「なんか、ロスト君の戦いを遠目で見た冒険者が、次第にみんなでそう呼び始めたんや。流れるような剣さばきは流星のごとく、まるで敵が止まっているように見えたって話やで」
「……なるほど、よくわかりました」
ああ。よく分かりましたよ、俺のうかつっぷりがな!
道理で、さっきのギルドの待合室での冒険者の人たちの反応も、有名人を見るかのような反応で俺を見てたわけだよ……。そうか、世間ではいつの間にか俺はそんな風に思われてたのか。
というか、俺、戦うところ見られてたのか。たぶん、災いの森でなんだろうけど、全然気がつかなかったなぁ。これからもっと気をつけないと。
あとその二つ名の由来、「敵が止まってるように見えた」んじゃなくて、実際に止まってただけだろうな。恐らくは俺の魔眼の痒み発生能力で、敵が硬直してたか、身もだえしてただけだろう。ずいぶんロマンチックな解釈をされたもんだ……。
あ。そういや思い出せば、社交界とかパーティーに参加した時とか、
「今度はバジリスクをソロで討伐されたとは、さすが伯爵家のお血筋ですな。お父君も鼻が高いでしょう」とか、「ソロでゴブリンの群れをなんなく討伐してしまったとは、『剣星』のあだ名は伊達ではありませんな!」とか、参加している貴族の皆さんから声をかけられたりしてたっけ。
でも俺、「あぁ、俺が伯爵家の次男坊だから、みんなお世辞を言ってくれてるんだな……。社交辞令だろうが、たいした実力もない俺に気をつかってもらってすみませんね本当に!」でスルーしてたよね!
「にしても、いきなりどうしたん? ロスト君の噂話を気にするなんて、ずいぶん今さらやなぁ」
「はは……いえ、最近少し耳に入ったもので。でも、そのような噂話が世間に広まっているなら、世間の皆様をがっかりさせないように俺もますます頑張らないといけませんね」
「あははは! アースワイバーンを討伐してきて、もうこれ以上頑張るも何もないやろ。今度はドラゴンでも討伐する気なんか?」
今さらと言われちゃうほど、俺の噂話って世間に広まってるのか……。
乾いた笑いでなんとかギルドマスターさんに返事を返しつつ、俺はお茶に再度口をつけた。カラカラになった喉に、お茶のまろやかな味が心地よい。
うーむ、とりあえずウェルも言っていた『剣星』という俺への世間への評判がどういうものかは大体掴めた。
だが、よく分からないのは「話を聞く限り、世間で流れている俺への噂話はいたって好意的なもの」である点だ。
つまり、ウェルが俺の噂話を聞いて、俺への心証を悪くして俺を嫌いになったのかもしれない、という仮説は消えるのだ。
そんなことを考えつつ、お茶を飲み干したところで、応接室のドアがノックされた。どうやら、アースワイバーンの査定が終わったようだ。
ギルドマスターさんに時間をとってもらったことに礼を言いつつ席を立つ。ギルドマスターさんはにこにこと人好きのする笑みを浮かべながら、「また来てや、いつでも大歓迎やで」と
って見送ってくれた。
そういえば、ギルドマスターさんっていつも俺が買取に来るとこうやって応対してくれるんだよね。俺が伯爵家の次男肪だからなのか、それとも、『剣星』なんて呼ばれている実力者だから、気をつかってくれてるんだろうか。
願わくば、俺個人に少しでも好意を持ってくれているからだといいなぁと思いつつ、俺はギルドマスターにもう一度だけ礼を告げたのだった。
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