転生したので堅物な護衛騎士を調教します。

秋山龍央

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「…………あの、ロスト様」
「そういえば、ウェルは冒険者で活動していた時は、三人組で活動していたんだよな? どんなパーティーメンバーだったんだ?」
「……そうですね。私が剣士なので前衛を、もう一人が弓使いなので後衛を担当していました。残りのもう一人は薬師と拳闘士のダブルクラスであったので、私と一緒に前衛をしながら、摘んだ薬草を調合してギルドに盛り込んだりですね。それより、あの、昨日のことなのですが……」
「薬師と拳闘士のダブルクラスか、それは珍しいな。種族は人間か?」
「二人とも人間族でしたね。ああ、薬師と拳闘士の彼女は、先日便りをもらいまして、結婚相手が見つかったから冒険者の引退を考えていると言っていましたね。……あの、それより昨日の……」
「結婚で引退か。それはおめでたいことだな、式には出席するのか?」

……はい。見てわかる通り、俺、超☆必死だぜ!

昨日討伐したアースワイバーンを冒険者ギルドに持って行って買取をしてもらうべく、うちの家の馬車に乗ってギルドまで向かってるところなんだけど……ウェルが昨日の話を振ってくること振ってくること! 護衛騎士を辞めたいって話にしろ、俺の昨日のうっかり発言を突っ込まれるにしろ、どっちも嫌だからとりあえず話を逸らし続けている最中だぜ! 

ああ、なんで昨日の俺、「アースワイバーンの買取は今日行こう」なんて言っちゃったんだろう……。
はじめてのお使いじゃないんだから、俺一人で普通に行けよって話だよ……。あ、でもウェルは護衛騎士だから、本来は俺の護衛で一緒についてくる方が普通なのか。どっちにしろ八方ふさがりか……。

と、ようやく馬車の御者が馬車の停車場についたことを知らせてきた。

やったー、ようやくウェルと二人きりの空間から解放される! ありがとう御者さん! 馬車を下りて御者さんの頬にキスでもかましたい気分だが、とりあえず笑顔で礼を言うだけにとどめておく。
ここからギルドまでは大通りを歩いて数分だ。だが、さすがにウェルも道端やギルドの中で話をふってこないだろう。

馬車の停車場から、ギルドへ続く煉瓦畳の道を歩く。
もう朝市は終わってしまったようだが、道の両脇に並ぶ店はもう開店しており、色とりどりの様々な品物が売られている。この道はけっこう富裕層が通る大通りなので、強引な呼び込みはない。俺は行ったことはないのだが、もっと下町の方に行けば、派手な呼び込みやセールストークでにぎやかになるそうだ。

そんな店を横目で見つつ、ちらりと時々後ろのウェルを意識する。

ウェルは周囲に注意を向けつつ、俺からぴったり一メートル以内の範囲で後ろについてきていた。
よしよし、とりあえず先ほどの話題を逸らすことに成功したみたいだな! ……まぁ、それも一時的なもので、この後また帰りの馬車ではウェルと二人っきりなんだけどね。うぅ……。それにウェルがその気になったら、屋敷に戻って俺とサシで話をすることはいくらでもできるし……。

重い気分を抱えつつ、十分にも満たない距離を歩いて、俺たちは冒険者ギルドに到着した。
なお、厳密にいえば俺は冒険者ではない。だが、この国では「貴族こそがモンスター討伐に向かうべし」という伝統があるので、冒険者ギルドに登録していなくとも、貴族のハントしてきたモンスターの部位は冒険者ギルドで買取をしてもらえるのである。貴族なら問答無用でOKというわけではなく、事前に審査や登録が必要だが、まぁそれもいたって形式的なものだ。

そんな冒険者ギルドに入ると、そこそこ混み合っている時間だったみたいだ。
討伐報酬や討伐依頼、採集依頼のはってある掲示板には何組かのパーティーがたむろしており、依頼の紹介カウンターはすべてが埋まっている状態だった。待合椅子にも何組かのパーティーが座ってがやがやと何事かを話しているから、順番待ちをしているのだろう。だが、運よく買取カウンターの方はすいているようで、まだ順番待ちのパーティーはいなかった。

「――あれ、ウェルか?」

買取カウンターにウェルと共に向かおうとしたところで、横合いから急に、俺たちに向かって声がかけられた。
いや、俺たちというか、――ウェル個人にだった。

「――ロズリーナ、キース! こっちにもう戻ってきていたのか」

その声に振り向き、顔を輝かせるウェル。
俺も振り向くと、そこにいたのは二人の男女がいた。

男性の方は、ウェルと同い年か、一つ二つ年上に見える。
くすんだ色の金髪に褐色の肌、金色の瞳。右眼を革製の黒い眼帯で隠している、鋭い目つきの男前だった。首元まであるハイネックの黒い服装の上に、銀色の軽装のプレートメイルを身に着けている。背に弓筒をかけているから、弓使いなのだろう。

女性の方も、ウェルより年上だろう。こちらは露出が多いビキニタイプのアーマーを身に着けている。もふもふとした毛量が多い金髪を見るに、ドワーフか獣人の血筋が入ってるのかもしれない。女性の腰にブラスナックルが下がっていることから、彼女の方は拳闘士のようだ。

……あ。もしかして、この二人が先ほどウェルが言っていた、元・冒険者仲間か?

「はは、お前に内緒で戻ってきてビックリさせてやろうと思ってたんだがなァ。まさかこんな所で出会っちまうとはね」
「まぁ、ウェルの元気な顔が早く見れたんなら越したことはないさね! 元気だったかい?」
「ちょっ、ロズリーナ! 痛いって」

女性の方がばんばんとウェルの背中を叩く。ウェルはそんな女性に苦笑を浮かべつつ、それでも嬉しそうに笑っている。と、そんな女性の視線が俺とかち合った。

「っと、すまないね! 連れがいたのかい? あ、もしかしてその子がウェルの言っていた……」
「そうだ、ロズリーナ。ロスト様、申し訳ございません。この二人がちょうど先ほどお話した、私が昔、冒険者だった頃にパーティーを組んでいた者なのです。こちらがロズリーナで、向こうの者がキースです」
「っと……えーっと……すまないね。アタシはその、貴族サマに対する挨拶の方法なんざろくに知らなくて……」
「いえ、気にしないで下さい。モンスター討伐にあたっては、冒険者であるお二人の方が俺の先達です。俺のような若輩者こそが礼を尽くすべきですから。はじめまして、ロスト・フォンツ・エルシュバーグと申します」

ロズリーナの手をとり、その手の甲にそっと唇を近づける。
唇が触れるか触れないか、という所でロズリーナの手をそっと離した。やってから気づいたけど、ロズリーナさんは冒険者だから普通に握手でもよかったかな?

「わ、わぁ……へへー、今の見た!? すごい、アタシが貴族のお姫さまみたいだったよ!」
「おいおい、結婚間近だってのにさっそく浮気か?」
「そんなんじゃないっての! ったく、キースはそうやってすぐ混ぜかえっすんだからさ」

俺の杞憂をよそに、なんか可愛いことを言っているロズリーナさん。いいなぁ、こういうの。普段、貴族の女性って権力争いとか色恋沙汰でたいていドロドロしてるから、こういう純真な女性って見てるだけで癒されるなぁ。

そんなロズリーナさんを微笑ましく見ていると、今度はキースの方と目が合った。俺と目が合ったキースは、にやりと猛禽類めいた笑みを浮かべる。

「で? オレにはやってくれねェの、ロスト様?」

え? この人もお姫さま扱いされたいの?

カッコいいのに、外見とは裏腹な趣味をお持ちなんだな……と思っていたら、ウェルが「ロスト様にふざけた口の利き方をするな」とスッパーンとキースの頭をはたいた。

「申し訳ございません、ロスト様。コイツの言うことは聞き流して下さって結構です」
「いってェ……相変わらず、ウェルは真面目ちゃんだなァ」
「お前がふざけた態度ばかりとってるからだろうが。今度ロスト様にそんな口の利き方をしてみろ、その口を縫い付けてやる」

じろりとジト目でキースを睨むウェル。
キースの方はそんなウェルにこたえた様子はなく、にやにやと笑っているだけだ。

「――ウェル、俺はどうせこの後買取をしてもらうだけだから。その間、せっかく久しぶりに再会した仲間なんだし、ゆっくり話でもしてるといい」
「え。あの、それには及びません、私は……」
「大丈夫だ、俺の方も買取とは別に、ギルドマスターに個人的に聞きたいことがあったからな。話が長くなるかもしれないし、ウェルはここで待っていてくれ」
「……承知いたしました」

不承不承、という感じで頷くウェル。
俺はロズリーナさんとキースに一礼してから、買取カウンターへと足を向けた。
三人に背を向けた俺に、キースとロズリーナさんのひそひそ声が聞こえてくる。

「……あれが噂のお前のご主人サマか。伯爵家の庶子だっけ?」
「おいキース、聞こえるよ! ……しかし、まだ若いじゃないか。あんな子が本当にあの『剣星』なのかい? それに、平民であるアタシらなんかにも、ずいぶん礼儀正しく挨拶してくれるんだねぇ」

そんなひそひそ声に意識を集中していると、俺に注目しているのはロズリーナさんとキースだけではなく、周りの冒険者たちも同様だということに気がついた。

「おい、聞いたかよ? 彼が『剣星』らしいぜ」
「初めて見た。あんな若い子が本当に、噂の……?」
「何度かギルドで見たことはあったけど、彼があの『剣星』だったのか」
「かっこいい……さっすが、うちのパーティーの男共と全然違うなぁ……」
「おい、お前そりゃどういう意味だ」
「ソロで討伐数が千を超えてるってマジかよ」
「誰か声かけてみろよ」
「バカ、伯爵家の坊ちゃんだぜ。相手にされねーよ」

他の冒険者も……というか、ギルドにいるほとんど全員から大注目だよ!

動物園のパンダってこんな気持ちなのかなと思いつつ、俺はそそくさと買取カウンターに向かい、その場を逃げるように足早に後にした。
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