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第2部 闘技場騒乱
第二十三話
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おれとヴィクター、ゼノンの三人は執務室を出て中庭へと移動した。
移動する途中、なるべく衛兵たちとは出くわさないような道を進んだ。
もちろん彼らと出くわすこともあったし、声をかけられることもあったけれど……そういう時には双子が威圧的なオーラを出しつつ「侵入者の一件で大臣に呼ばれて急ぎでそちらに向かっている途中だ、邪魔すんなよ」「神聖なる皇城内に革命軍の手の者をみすみすと侵入させた挙げ句、シキ様の手を煩わせようというのですか?」などと言っていたら、次第にだんだん誰も話しかけてこなくなった。
真面目に仕事をしてくれている衛兵さんたちには申し訳ない限りだが、今回は緊急事態なので許してほしい。
そうして、いつもより移動に時間はかかったものの、おれたちは中庭へと到着したのだ。
とはいえ中庭も、松明を持った衛兵たちが何人も、侵入者を探してうろうろと見回りをしていた。このままではハルトがどこかに潜んでいても、落ち合えそうにない。
どうしたものか、と思っていた時、遠くの方から何かが破裂するような音が響いた。はっとしてそちらに顔を向けると、皇城内の一画の窓が割れ、そこからもくもくと黒い煙が上がっている。
「あそこは確か……ローズの居住区じゃないか?」
「ああ、確かそうですね」
「また革命軍の仕業か?」
黒煙が上がっているのを見た衛兵たちは、弾かれたようにわっとその一画の方へ駆け出して行った。同時に、夕闇に包まれた中庭の茂みから、小さな声で「シキ!」とおれの名前を呼ぶ声が聞こえた。
はっとして声のした方へ顔を向けると、そこにはハルトがいた。しかもメイド服姿ではなく、男の服装をしている。
いや、それが普通なんだけれどね?
「ハルト、無事だったんだな」
ほっと安堵の息をこぼす。
ローズに男だとバレたと聞いていたから、怪我でもしているんじゃないかと心配していたのだ。
ハルトなら大丈夫だろうとは思っていたけれど……
「オレは全然大丈夫! それより、シキが来てくれて助かったぜ。ローズから聞いた情報を伝えないとと思ったんだけれど、衛兵が邪魔でなかなか行けなくて……」
ハルトもまた嬉しそうな笑顔で、おれの方に近づいてきた。
だがその瞬間、そばにいたゼノンがおれとハルトの間に割って入ってきた。突然のことにびっくりしていると、ゼノンは怖い表情でハルトをぎろりと睨みつけた。
「おい、シキ様に馴れ馴れしくしてんじゃねェよ」
「あっ! お前は、この前の!」
ハルトもまた、ゼノンがこの前廃村で戦った相手だと気がついたようだ。
しかし同時にゼノンの近くにいたヴィクターの存在にも気がついて、怪訝そうな表情に変わる。
「あ、あれ? 同じ顔が二人いる……えっと、この前オレと戦ったのはこっちのヤツだよな?」
「ええ、私は兄のヴィクターと申します。ゼノンとは双子の兄弟です」
ゼノンが刺々しい空気を醸し出しているのに対し、ヴィクターはいたって通常通りだ。
人当たりのいい微笑みを浮かべたまま、ハルトに向かって小首をかしげながら唇を開く。
「おや、さっきのメイド服はもう着替えてしまったんですね。よくお似合いだったのに、もったいない」
「……お褒めに預かり、どーも」
にこやかな笑顔のヴィクターだったが、その実、声音には嘲るような響きが込められていた。
ハルトもそれを感じ取ったらしく、途端にムッとした表情でヴィクターを睨みつける。
ちょ、ちょっと!?
まだ何も始まってないのに、すでに険悪なムードなんだけど!?
「さ、三人ともそれよりさっさと本題に入らないか。衛兵たちは騒ぎがあった方に向かったようだが、いつまたこちらに戻ってくるとも限らない。それに、ハルトも話したいことがあるんだろう?」
「……ああ、そうだ」
「ところでさっきの爆破騒ぎは、お前の仲間の仕業か?」
「うん。オレの仲間が衛兵たちの注意を引くために仕掛けてくれたんだ」
おれの質問に、素直にこくりと頷くハルト。
やはりというか、皇城内に忍び込んだ革命軍の人間は他にもいるらしい。けれど意外ではなかった。
ハルトはどっちかというと脳筋タイプなので、革命軍の仲間たちがハルト一人で皇城に潜入させるわけはないだろうと最初から思っていたのだ。彼をフォローできる仲間が来ているだろうと思っていた。
そして、先ほどの黒煙から、どういう人物がハルトと共に来ているかも分かった。
革命軍に所属している爆弾使い。それは一人しかいない。
「……”爆炎のアメリ”か。確か神造兵器フレイムリップの使い手だな」
「っ!?」
「彼女がここに来ているんだろう? お前のお目付け役……あるいは、おれを見定めるためというところかな」
”爆炎のアメリ”は革命軍の古残メンバーであり、ヒロインの一人でもある。
なお、フレイムリップは、その名前の通り口紅の形をした神造兵器だ。この口紅を塗ってキスをすると、キスをされた対象物は、どんなものでも爆弾に変わる。生物は対象にならない。対象物の大きさや質量によって威力が変化する。
外見は、赤毛をポニーテールにした高身長でボインなお姉さんだ。神造兵器の能力と姉御肌な性格はハルトと相性が良く、『ひよレジ』でも共に前線で戦うことが多かった。
なので今回も、彼女がハルトのフォローに選ばれるのは納得だ。
そう思って、彼女の名前を出したのだが――
「――あたしに気づいていたのか。なかなかやるね、アンタ」
びっくりなことに、ハルトの後方の繁みをがさりとかき分けて、そこからアメリさんご本人が姿をあらわした。どうやら今までそこに潜んでいたらしい。
突然のご本人登場に、硬直して固まるおれ。
だが、ヴィクターとゼノンはおれとは真逆に、余裕そうな笑みを浮かべている。
「おや、それで隠れていたつもりだったのですか?」
「最初から気配で分かってたぜ。革命軍ってこの程度の人材しかいねーの?」
「ははっ、言ってくれるねぇ」
どうやら二人は気配で最初からアメリの存在に気づいていたらしい。
そ、それならおれにも教えといて!?
上司への報連相って大事だよ!?
「シキ、よくアメリに気づいたな? アメリは気配を隠すのが上手いのに……」
そして、なんだか感動したようにおれを見つめてくるハルト。
いやいや、誤解だから!?
確かにおれは『彼女がここに来ているんだろう?』って言ったけれど、それはあくまでも『今日、一緒に皇城に来てたんだね!』くらいの意味で、まさかこの場にいるとは思ってなかったから!
ああでも、今ここで「いや、全然気がついてなかったです」って言ったらアメリに恥をかかせるだけだしな……
あと全然関係ないけれど、アメリもメイド服着てるんだね……
潜入のために着てるんだろうけれど、すごくよくお似合いです。こんな状況と立場じゃなければ、ひよレジファンとして一緒に写真撮影をお願いしたかった……!
「しかし、びっくりだね。まさかあの四天王シキが、本当にハルトに協力してるとはねぇ」
アメリのしみじみとした声に、おれはハッと意識を戻した。
そうだ、今はハルトから話を聞くほうが先決だ。
「ハルト、ローズから情報は聞き出せたのか? それに、どうして男だとバレた?」
「あー……情報は聞き出せたよ。シキの狙い通り、オレがメイドの格好でローズの居住区にいったら、向こうから見つけて声をかけてきて。それで……最初は普通に会話をしてたんだけれど、だんだんと甘い香りがして、オレ、そのうちに体の自由が効かなくなっちゃって」
それは恐らく、ローズの神造兵器の仕業だろう。
彼女の神造兵器は、香りをかいだ人間を操り人形にすることができるのだ。
「まずいと思ったんだけれど、どうしようもなくて。で、そうこうするうちに、その……ローズにベッドに連れて行かれて、メイド服を脱がされて」
「ああ、なるほど……」
うん、だいたい予想通りだった。
説明しながら、気まずそうに顔を赤らめるハルト。
「オレが男だと分かったらローズの奴、すげぇブチ切れてさぁ。『このあたしに汚い男の身体を触らせるなんて! 極刑!』って、そりゃものすごい剣幕だったぜ。でも逆に、怒りのあまりに神造兵器の操作ができなくなったみたいでさ。一瞬だけ身体の自由を取り戻せたから、なんとかローズの隙をついて逃げてきたんだ」
「そうか、大変だったな……」
もう、それしか言えないよ。
っていうかごめん、本当ならハルトにもっとちゃんとローズの神造兵器の対策方法を伝えておけばよかったな。
言おうと思ったところで、タイミング悪く双子が帰ってきちゃったんだよね~。
「あ、あの四天王シキがハルトをねぎらってる……! これ、夢じゃないよね?」
そして、目を真ん丸にしたびっくり顔で、自分のほっぺをつねっているアメリ。
どうやらおれがこうして普通にハルトと会話をしていることが驚きらしい。
まあ、それもそうか。本来のシキだったら、絶対にこんな展開にはならなかっただろうし。
「話をちゃかすな、爆炎。それよりも、ローズはどんなことを言っいた? その……」
おれははやる心を抑えながら、ハルトに話の先を促した。
だが、ハルトはおれが一番聞きたいことがなんなのか分かっていたようだ。白い歯を見せてにかっと笑うと、小さくガッツポーズをした。
「リリア様のメイドも、ウルガ族のラミカちゃんも無事だぜ! オレの身体の自由を奪った時に、ローズが自分で言ったんだ。『あなたは剥製にする前に、あたしが直々に可愛がってあげる。コロッセオの地下牢に閉じ込めてる年増メイドやウルガ族のガキとは違う、特別待遇よ』って」
「そうか……!」
あまりの喜びに、思わず身体の力が抜けそうになる。
そうか……本当に、あの子は生きてるんだ……!
い、いや、喜ぶにはまだ早い。
まだ生きてることが分かっただけで、助けられたわけじゃない。むしろ、これから彼女たちを助けにいかないといけないんだ。
「コロッセオの地下牢には、オレたち革命軍の仲間や剣闘士にされた人たちが捕らわれてる。どうやらその一室をローズが私物化して使ってるみたいだ」
ハルトの言葉を聞いて、ヴィクターが思い出したようにつぶやいた。
「コロッセオの地下牢……思えば、私がローズ様の尾行をした時に、彼女を見失うのは地下水路がある周辺でしたね。もしかすると、地下水路からコロッセオの地下牢に向かう隠し通路があるのかもしれません」
「なるほど、じゃあやっぱり誘拐事件はあの女の仕業か。でも、なんだって革命軍を名乗って脅迫状なんか出したんだ?」
「さすがにオレも、自分が逃げるのに精一杯でそこまでは……」
「なんだよ、お前使えねぇなー」
「はぁ!?」
「ゼノン、あまりそいつをからかうな。ハルトもそれくらい流せ」
再び険悪なムードになりかけたゼノンとハルトをいさめる。
なんだろう、双子はさっきからハルトへのあたりがやけに強いな。二人がこんなに他人を煽ることって普段ないのに。
「ところでローズは今どこに?」
おれの問いかけに、一転してハルトは気まずそうな表情に変わった。
「いや、その。実は、オレが男だってバレたら時にローズがめちゃくちゃ怒り始めたって言っただろ?」
「ああ」
「その時にオレが革命軍の人間だってこともバレちまったんだ。それで『このあたしに男の身体を触らせるなんて、反乱軍め絶対に許さない!』って、仕返しにコロッセオの捕虜たちを見せしめに殺しにいくって言って飛び出していった」
「なっ!? お前たちはここでこうしていていいのか!?」
そこでアメリが話に入ってきた。
「アタシらだって馬鹿じゃない。すでに革命軍のみんなには連絡済みさ。それに、もともと今夜はコロッセオに捕らわれている皆を救出する予定だったんだ。そこにローズが来るなら、飛んで火に入る夏の虫さね」
「革命軍が……コロッセオに向かっただと?」
「もう革命軍のみんなはコロッセオに着いてるだろうから、今ごろは向こうでローズを待ち受けているはずさ」
「お前たち、ローズの神造兵器の能力は知っているのか?」
おれの質問に、アメリとハルトは不思議そうな顔になった。
「知ってるよ。オレがやられたみたいに、身体の自由を奪ったり相手の身体を自分の意のままに操作できるんだろ?」
「ローズ本人も戦えるみたいだけれど、革命軍が総出でかかれば勝てない相手じゃないはずさ。アンタ、なんでそんな顔してるんだい?」
「――――」
二人の言葉に、おれは愕然とした。
ちょ、ちょっと待って。
このままだと……もしかして原作通りの展開になるんじゃないか!?
移動する途中、なるべく衛兵たちとは出くわさないような道を進んだ。
もちろん彼らと出くわすこともあったし、声をかけられることもあったけれど……そういう時には双子が威圧的なオーラを出しつつ「侵入者の一件で大臣に呼ばれて急ぎでそちらに向かっている途中だ、邪魔すんなよ」「神聖なる皇城内に革命軍の手の者をみすみすと侵入させた挙げ句、シキ様の手を煩わせようというのですか?」などと言っていたら、次第にだんだん誰も話しかけてこなくなった。
真面目に仕事をしてくれている衛兵さんたちには申し訳ない限りだが、今回は緊急事態なので許してほしい。
そうして、いつもより移動に時間はかかったものの、おれたちは中庭へと到着したのだ。
とはいえ中庭も、松明を持った衛兵たちが何人も、侵入者を探してうろうろと見回りをしていた。このままではハルトがどこかに潜んでいても、落ち合えそうにない。
どうしたものか、と思っていた時、遠くの方から何かが破裂するような音が響いた。はっとしてそちらに顔を向けると、皇城内の一画の窓が割れ、そこからもくもくと黒い煙が上がっている。
「あそこは確か……ローズの居住区じゃないか?」
「ああ、確かそうですね」
「また革命軍の仕業か?」
黒煙が上がっているのを見た衛兵たちは、弾かれたようにわっとその一画の方へ駆け出して行った。同時に、夕闇に包まれた中庭の茂みから、小さな声で「シキ!」とおれの名前を呼ぶ声が聞こえた。
はっとして声のした方へ顔を向けると、そこにはハルトがいた。しかもメイド服姿ではなく、男の服装をしている。
いや、それが普通なんだけれどね?
「ハルト、無事だったんだな」
ほっと安堵の息をこぼす。
ローズに男だとバレたと聞いていたから、怪我でもしているんじゃないかと心配していたのだ。
ハルトなら大丈夫だろうとは思っていたけれど……
「オレは全然大丈夫! それより、シキが来てくれて助かったぜ。ローズから聞いた情報を伝えないとと思ったんだけれど、衛兵が邪魔でなかなか行けなくて……」
ハルトもまた嬉しそうな笑顔で、おれの方に近づいてきた。
だがその瞬間、そばにいたゼノンがおれとハルトの間に割って入ってきた。突然のことにびっくりしていると、ゼノンは怖い表情でハルトをぎろりと睨みつけた。
「おい、シキ様に馴れ馴れしくしてんじゃねェよ」
「あっ! お前は、この前の!」
ハルトもまた、ゼノンがこの前廃村で戦った相手だと気がついたようだ。
しかし同時にゼノンの近くにいたヴィクターの存在にも気がついて、怪訝そうな表情に変わる。
「あ、あれ? 同じ顔が二人いる……えっと、この前オレと戦ったのはこっちのヤツだよな?」
「ええ、私は兄のヴィクターと申します。ゼノンとは双子の兄弟です」
ゼノンが刺々しい空気を醸し出しているのに対し、ヴィクターはいたって通常通りだ。
人当たりのいい微笑みを浮かべたまま、ハルトに向かって小首をかしげながら唇を開く。
「おや、さっきのメイド服はもう着替えてしまったんですね。よくお似合いだったのに、もったいない」
「……お褒めに預かり、どーも」
にこやかな笑顔のヴィクターだったが、その実、声音には嘲るような響きが込められていた。
ハルトもそれを感じ取ったらしく、途端にムッとした表情でヴィクターを睨みつける。
ちょ、ちょっと!?
まだ何も始まってないのに、すでに険悪なムードなんだけど!?
「さ、三人ともそれよりさっさと本題に入らないか。衛兵たちは騒ぎがあった方に向かったようだが、いつまたこちらに戻ってくるとも限らない。それに、ハルトも話したいことがあるんだろう?」
「……ああ、そうだ」
「ところでさっきの爆破騒ぎは、お前の仲間の仕業か?」
「うん。オレの仲間が衛兵たちの注意を引くために仕掛けてくれたんだ」
おれの質問に、素直にこくりと頷くハルト。
やはりというか、皇城内に忍び込んだ革命軍の人間は他にもいるらしい。けれど意外ではなかった。
ハルトはどっちかというと脳筋タイプなので、革命軍の仲間たちがハルト一人で皇城に潜入させるわけはないだろうと最初から思っていたのだ。彼をフォローできる仲間が来ているだろうと思っていた。
そして、先ほどの黒煙から、どういう人物がハルトと共に来ているかも分かった。
革命軍に所属している爆弾使い。それは一人しかいない。
「……”爆炎のアメリ”か。確か神造兵器フレイムリップの使い手だな」
「っ!?」
「彼女がここに来ているんだろう? お前のお目付け役……あるいは、おれを見定めるためというところかな」
”爆炎のアメリ”は革命軍の古残メンバーであり、ヒロインの一人でもある。
なお、フレイムリップは、その名前の通り口紅の形をした神造兵器だ。この口紅を塗ってキスをすると、キスをされた対象物は、どんなものでも爆弾に変わる。生物は対象にならない。対象物の大きさや質量によって威力が変化する。
外見は、赤毛をポニーテールにした高身長でボインなお姉さんだ。神造兵器の能力と姉御肌な性格はハルトと相性が良く、『ひよレジ』でも共に前線で戦うことが多かった。
なので今回も、彼女がハルトのフォローに選ばれるのは納得だ。
そう思って、彼女の名前を出したのだが――
「――あたしに気づいていたのか。なかなかやるね、アンタ」
びっくりなことに、ハルトの後方の繁みをがさりとかき分けて、そこからアメリさんご本人が姿をあらわした。どうやら今までそこに潜んでいたらしい。
突然のご本人登場に、硬直して固まるおれ。
だが、ヴィクターとゼノンはおれとは真逆に、余裕そうな笑みを浮かべている。
「おや、それで隠れていたつもりだったのですか?」
「最初から気配で分かってたぜ。革命軍ってこの程度の人材しかいねーの?」
「ははっ、言ってくれるねぇ」
どうやら二人は気配で最初からアメリの存在に気づいていたらしい。
そ、それならおれにも教えといて!?
上司への報連相って大事だよ!?
「シキ、よくアメリに気づいたな? アメリは気配を隠すのが上手いのに……」
そして、なんだか感動したようにおれを見つめてくるハルト。
いやいや、誤解だから!?
確かにおれは『彼女がここに来ているんだろう?』って言ったけれど、それはあくまでも『今日、一緒に皇城に来てたんだね!』くらいの意味で、まさかこの場にいるとは思ってなかったから!
ああでも、今ここで「いや、全然気がついてなかったです」って言ったらアメリに恥をかかせるだけだしな……
あと全然関係ないけれど、アメリもメイド服着てるんだね……
潜入のために着てるんだろうけれど、すごくよくお似合いです。こんな状況と立場じゃなければ、ひよレジファンとして一緒に写真撮影をお願いしたかった……!
「しかし、びっくりだね。まさかあの四天王シキが、本当にハルトに協力してるとはねぇ」
アメリのしみじみとした声に、おれはハッと意識を戻した。
そうだ、今はハルトから話を聞くほうが先決だ。
「ハルト、ローズから情報は聞き出せたのか? それに、どうして男だとバレた?」
「あー……情報は聞き出せたよ。シキの狙い通り、オレがメイドの格好でローズの居住区にいったら、向こうから見つけて声をかけてきて。それで……最初は普通に会話をしてたんだけれど、だんだんと甘い香りがして、オレ、そのうちに体の自由が効かなくなっちゃって」
それは恐らく、ローズの神造兵器の仕業だろう。
彼女の神造兵器は、香りをかいだ人間を操り人形にすることができるのだ。
「まずいと思ったんだけれど、どうしようもなくて。で、そうこうするうちに、その……ローズにベッドに連れて行かれて、メイド服を脱がされて」
「ああ、なるほど……」
うん、だいたい予想通りだった。
説明しながら、気まずそうに顔を赤らめるハルト。
「オレが男だと分かったらローズの奴、すげぇブチ切れてさぁ。『このあたしに汚い男の身体を触らせるなんて! 極刑!』って、そりゃものすごい剣幕だったぜ。でも逆に、怒りのあまりに神造兵器の操作ができなくなったみたいでさ。一瞬だけ身体の自由を取り戻せたから、なんとかローズの隙をついて逃げてきたんだ」
「そうか、大変だったな……」
もう、それしか言えないよ。
っていうかごめん、本当ならハルトにもっとちゃんとローズの神造兵器の対策方法を伝えておけばよかったな。
言おうと思ったところで、タイミング悪く双子が帰ってきちゃったんだよね~。
「あ、あの四天王シキがハルトをねぎらってる……! これ、夢じゃないよね?」
そして、目を真ん丸にしたびっくり顔で、自分のほっぺをつねっているアメリ。
どうやらおれがこうして普通にハルトと会話をしていることが驚きらしい。
まあ、それもそうか。本来のシキだったら、絶対にこんな展開にはならなかっただろうし。
「話をちゃかすな、爆炎。それよりも、ローズはどんなことを言っいた? その……」
おれははやる心を抑えながら、ハルトに話の先を促した。
だが、ハルトはおれが一番聞きたいことがなんなのか分かっていたようだ。白い歯を見せてにかっと笑うと、小さくガッツポーズをした。
「リリア様のメイドも、ウルガ族のラミカちゃんも無事だぜ! オレの身体の自由を奪った時に、ローズが自分で言ったんだ。『あなたは剥製にする前に、あたしが直々に可愛がってあげる。コロッセオの地下牢に閉じ込めてる年増メイドやウルガ族のガキとは違う、特別待遇よ』って」
「そうか……!」
あまりの喜びに、思わず身体の力が抜けそうになる。
そうか……本当に、あの子は生きてるんだ……!
い、いや、喜ぶにはまだ早い。
まだ生きてることが分かっただけで、助けられたわけじゃない。むしろ、これから彼女たちを助けにいかないといけないんだ。
「コロッセオの地下牢には、オレたち革命軍の仲間や剣闘士にされた人たちが捕らわれてる。どうやらその一室をローズが私物化して使ってるみたいだ」
ハルトの言葉を聞いて、ヴィクターが思い出したようにつぶやいた。
「コロッセオの地下牢……思えば、私がローズ様の尾行をした時に、彼女を見失うのは地下水路がある周辺でしたね。もしかすると、地下水路からコロッセオの地下牢に向かう隠し通路があるのかもしれません」
「なるほど、じゃあやっぱり誘拐事件はあの女の仕業か。でも、なんだって革命軍を名乗って脅迫状なんか出したんだ?」
「さすがにオレも、自分が逃げるのに精一杯でそこまでは……」
「なんだよ、お前使えねぇなー」
「はぁ!?」
「ゼノン、あまりそいつをからかうな。ハルトもそれくらい流せ」
再び険悪なムードになりかけたゼノンとハルトをいさめる。
なんだろう、双子はさっきからハルトへのあたりがやけに強いな。二人がこんなに他人を煽ることって普段ないのに。
「ところでローズは今どこに?」
おれの問いかけに、一転してハルトは気まずそうな表情に変わった。
「いや、その。実は、オレが男だってバレたら時にローズがめちゃくちゃ怒り始めたって言っただろ?」
「ああ」
「その時にオレが革命軍の人間だってこともバレちまったんだ。それで『このあたしに男の身体を触らせるなんて、反乱軍め絶対に許さない!』って、仕返しにコロッセオの捕虜たちを見せしめに殺しにいくって言って飛び出していった」
「なっ!? お前たちはここでこうしていていいのか!?」
そこでアメリが話に入ってきた。
「アタシらだって馬鹿じゃない。すでに革命軍のみんなには連絡済みさ。それに、もともと今夜はコロッセオに捕らわれている皆を救出する予定だったんだ。そこにローズが来るなら、飛んで火に入る夏の虫さね」
「革命軍が……コロッセオに向かっただと?」
「もう革命軍のみんなはコロッセオに着いてるだろうから、今ごろは向こうでローズを待ち受けているはずさ」
「お前たち、ローズの神造兵器の能力は知っているのか?」
おれの質問に、アメリとハルトは不思議そうな顔になった。
「知ってるよ。オレがやられたみたいに、身体の自由を奪ったり相手の身体を自分の意のままに操作できるんだろ?」
「ローズ本人も戦えるみたいだけれど、革命軍が総出でかかれば勝てない相手じゃないはずさ。アンタ、なんでそんな顔してるんだい?」
「――――」
二人の言葉に、おれは愕然とした。
ちょ、ちょっと待って。
このままだと……もしかして原作通りの展開になるんじゃないか!?
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