四天王に転生したら部下の双子に執着されてるんだけど、穏便に国外脱出するにはどうすればいい?

秋山龍央

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第1部 憑依しました

第三話

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 うう……せめて、せめて憑依するなら主人公サイドのキャラクターが良かった……

 ウルガ族の人たちの死体から、キャンディケインで血を吸い上げてミイラにしていくの、ほんっと精神的にも体力的にもしんどかったよ……

 あと、この神造兵器にキャンディケインなんて名前つけた奴のセンス、マジでどうかしてる……
 そんな可愛らしい代物じゃないだろ、この杖!

 しかし、不思議なことに、おれは大量の死体を目の前にしたにも関わらず、嫌悪感や、罪の意識というのをほとんど感じていなかった。
 これは、シキの身体だからなのか……?

 ちなみにおれが憑依したシキという男は、漫画『比翼のレジスタンス』に出てくる皇国四天王の一人だ。

 シキはフォートリエ侯爵家の当主であり、彼の持つキャンディケインは侯爵家に代々受け継がれてきたものだ。年齢は二十一歳で、十年前に両親を馬車の事故でなくした後にフォートリエ侯爵家を継いだ。

 そんなシキは、漫画では「貴族こそが人間であり、平民は家畜である」という考えを持つ、傲慢で冷酷な人物だった。

 1巻の初登場時、ウルガ族の死体から血を抜き取る場面では「家畜が思いあがるからこうなるのだ。身の程を弁えろ、豚が」と吐き捨てて、無表情に彼らをカラカラのミイラにしていったのが印象的なシーンだった。

 なお、おれはもちろんそんな恐ろしい台詞を言える度胸はなく、何も言わずに黙々とミイラ化作業を行った。原作改変ほんとすみません。

 はぁ……ほんっと、なんでシキなんだろう……そりゃもちろんイケメン度合いなら不満はないけどさ~。
 顔も無表情クール系でカッコいいし、背も高いし……でもそんなイケメン度合いを差し引いても、性格と立場が最悪すぎるよ~!

 それに加えて、シキって最終的にめちゃくちゃ酷いことになるし!

 シキの持ってるキャンディケインは、人間の血を吸わせることで神薬を生成できる杖だ。吸わせる血は、生き血でもいいし、死体の血でもかまわないが、死体の場合はあまり損傷がひどいと採取できない。

 キャンディケインは先祖代々受け継がれてきたもので、フォートリエ侯爵家以外の人間には使用できないと言われている。
 しかもフォートリエ侯爵家の人間なら誰にでも扱えるわけではなく、シキは三代ぶりにキャンディケインを扱うことのできる適正者だった。

 そのため、漫画の最終巻――革命後も、シキだけは革命軍に処刑されることはなかった。
 万能薬である神薬の生成をさせ続けるためだ。

 しかし、処刑されなかっただけで、無事だったわけではない。

 革命軍に捕縛されたシキは、酸で喉を焼かれ、両眼を潰された。加えて、両足と左手を切り落とされた。
 そうして、キャンディケインを使うために必要な最低限の部位を残された姿で、革命軍の占領した皇城の地下牢に閉じ込められたのだった。

 ……うん。そりゃあ漫画でのシキは極悪非道な人物だったし、無辜の民を大勢殺したよ。
 彼にはそうされるだけの理由があったと思う。

 おれだって読んでた当時は「うわぁ、ちょっとえぐすぎるけれど、それでもこいつがやったことを思えばこれぐらいの報復はされるか……それにコイツ、おれの推しを殺したしな!」って思ってたし。

 でも、それってつまり、このまま行くとおれが今後同じ目にあうってことだよね!?
 絶対にいやなんだけど~!?

 いや、そりゃおれだって今ウルガ族の皆さんをカッピカピのミイラにしたけれどさ! でもあの状況でおれが「やりたくない」なんて言ったら、周りにいた双子や皇国軍の人たちに疑われかねないしさ!? 

「はぁ……」

 おれは大きなため息を吐いた。

 ちなみに今は、ウルガ族の人たちの死体たちから血を取り終えて神薬を生成し終えたので、休憩のために皇国軍の天幕へと戻ったところだ。
 しばらく一人になりたかったので、双子には用事を言いつけて、ここから離れてもらった。

「……いったい、どうすればいいんだ……」

 重い、あまりにも重すぎる。
 人の命、自分の置かれた状況、これからの展開。何もかもが重すぎる。

 せめてシキに憑依するなら、彼が子供の頃とかだったら良かったのに……!

 それなら原作が始まる前に、どうにかして革命軍に渡りをつけて、皇国軍から革命軍に寝返ることもできたかもしれない。

 でもそれも遅い。この時代では、すでに革命軍にシキの悪名は轟いていることだろう。今さら革命軍に入ることは無理だ。

 おれは座っていた椅子から立ち上がると、天幕の外へ出た。双子はまだ戻ってきていないようだ。

 外では皇国軍の兵士たちが見回りと片付けをしていた。
 彼らはおれに気づくと、ぴしっと敬礼をしてくれた。兵士の内、一番年かさのいった兵士がおずおずとこちらに声をかけてきた。

「閣下、どちらへ?」

「少し歩いてくる」

「であれば、護衛を……」

「不要だ、この辺りはもう掃討が済んだのだろう? すぐに戻る」

「……承知いたしました。何かあればすぐに声をかけてください」

 漫画でのシキの口調を思い出しながら、出来る限り真似して答える。問題はなかったようで、兵士のおじさんは訝しむ様子もなく、重々しく頷いて敬礼をしてくれた。

 そうして、皇国軍駐屯地から離れて歩き続け、しばらくすると町の広場らしき場所に出た。
 いつもは市場が出てにぎやかな場所であろうそこは、しかし、今や死体の積みあがる凄惨な場所へと化していた。石畳には、真っ赤な血潮によって水たまりが出来ている。

 この場所にある死体は、損傷があまりにもひどいため、キャンディケインによる血の採取は難しいだろうと言われていた。確かに、ここではかなり激しい戦闘があったようだ。

「…………」

 凄惨たる光景だった。

 男も女も、子供も老人も、みんな殺されている。その死体は無造作に広場の中央へと積み上げられていた。光を失ってどろりと濁った眼球がすべてこちらに向けられているような錯覚を感じる。

 あたり一帯にはむせ返るほどの血の匂いが立ち込めており、その息苦しさに咳をしかける。
 だが、おれが咳をする前に、何者かが小さな咳をしたのが耳に届いた。

 反射的に音のした方向に顔を向ける。

「――誰だ。出てこい」

 言った後で、もしも強そうな人が出てきたらどうしよう……ということに気が付いた。
 い、言わなければよかった!

 ひとまず、慌てて腰に差していた杖を抜く。

 片手に杖を持って待機することしばらく、死体の影から、二人の人間がゆっくりと這い出てきた。
 見れば、二人ともまだ十代前半の女の子だった。どうやら今まで死体のふりをして、皇国軍をやり過ごしていたらしい。

「……ウルガ族の生き残りか」

 顔立ちが似ているから、きっと姉妹なのだろう。二人とも泥と血に汚れ、服は擦り切れて、傷だらけの姿だった。

 ……どうして両親が共にいないのかは、考えたくないな。

 二人のうち、姉と思しき少女は涙目になりながら、震える声で懇願してきた。

「お、お願いです……私たちは戦士ではありません。見逃してください」

「分かった。さっさと行け」

 おれが二つ返事で頷くと、少女が驚いたように目を見開いた。

「え? ほ、本当に見逃していただけるんですか?」

「……分かったと言っただろう、さっさと行け」

 おれが顎をしゃくって、皇国軍駐屯地とは反対の方向を指し示すと、少女はしばし呆然としていた。
 だが、すぐにさっと立ち上がって、妹の手をひいて町の外を目指して駆け出して行った。

 二人の背中が完全に見えなくなるまで、おれは、じっとそこに立っていた。

 ……もちろん、こんなことで罪滅ぼしができたとは思っていない。
 これはただの自己満足だ。おれがそうしたいと思ったから、そうしただけだ。

 でも――

「……戻るか」

 どうして自分がシキになってしまったのか、これから自分がどうなるのか、ちっとも分からない。

 でも――漫画では、ウルガ族は皇国軍に皆殺しにされ、生き残りは一人もいなかったと語られていた。
 けれど、シキに憑依したおれは、少女たちを見逃すという選択をした。

 ちっぽけな変化かもしれないけれど……それでもこれは、原作の展開をわずかだが変えることができたってことじゃないか?

 ならば……シキに憑依したおれにこそ、何かできることがあるのかもしれない。

 もしそうなら、おれは――

「――あーっ、シキちゃんようやく戻ってきた! もう、どこ行ってたの? ローズ、一人でお留守番してるの、すっごく寂しかったんだけど!」

 広場から天幕に戻ると、そこには、先ほどはいなかった人物が二名いた。

 その内の一人はよく知っている。彼女もまた、シキと共にウルガ族の制圧作戦のためにこの地に派遣された皇国四天王の一人だ。
 というか、むしろ制圧作戦の指揮は彼女がとっていた。シキは神薬生成のために、後方で血を採取していただけだ。

 彼女は四天王唯一の女の子で、名前をローズという。彼女はピンクの髪をツインテールにしており、黒いゴスロリドレスを着て、いつもテディベアのぬいぐるみを抱えている。

「……少し外を見てきたんだ。それよりもローズ。お前のそばにいる少女は……」

「ああ、この子?」

 おれが目線をやると、ローズは傍らにいた女の子を蹴り飛ばした。
 女の子は力なく床に倒れる。その瞳はすっかり光をなくして、地面を映すばかりだ。

 彼女は――おれが先ほど、町の広場で出会った女の子だった。妹のほうだ。

 だが、周りを見ても先ほどの姉がどこにもいない。
 ただ……代わりに、少女の顔や服には、先ほどまでなかった血の汚れがべったりとついていた。

 ローズは地面に倒れ伏した少女の背中をヒールで踏みつけ、得意げに胸を張った。

「広場の死体を焼却しようかなーと思って行ったら、この子を見つけたの! この子、平民にしてはなかなか可愛い顔してるでしょ? ウルガ族の殲滅記念に、この子を持ち帰って剥製にして部屋に飾ろうと思って!」

「……っ……!」

「実はさっきまでもう一人、女の子がいたんだけど……鼻の高さがイマイチだったから、つい殺しちゃったんだよねぇ。その時、この子ったら『おねぇちゃん、おねぇちゃん』って泣きわめいてうるさくてさぁ~」

 えへへ、とはにかむローズ。

 ……そうだ、思い出した。
 このローズという少女は、シキと同じく四天王の一人だが『可愛いもの好き』という悪癖を持っているのだ。

 ローズの『可愛いもの好き』は服やアクセサリー、ぬいぐるみに留まらず『人間』すら対象となる。ローズは気に入った少女を捕えて、皇城の専用の工房で職人たちに『剥製』にしてもらい、少女の剥製を着せ替え人形にして遊ぶのが好きなのだ。

「ところでシキちゃん。さっき殺した女が、変なことを言ってたんだけどさぁ……」

「変なこと?」

 心臓の鼓動がばくばくと早くなる。

「なんかさっきの女が『自分たちはシキ将軍に見逃してもらった』って言ってたんだよねぇ。それってホント?」

「…………」

 ローズの値踏みするような視線に、額から汗が噴き出そうになる。声が裏返りそうなのを必死に我慢して、平然を装ってローズを見つめ返した。

「ああ、そうだな。その女の言う通り、広場で出会ったが見逃した」

「……なんでそんなコトしたの? 反逆者に慈悲をかけるなんて、らしくないよ」

 訝しげなローズに、おれは肩をすくめて答えた。

「自分で手を下すのが面倒だっただけだ。この町は皇国軍がすでに包囲しているんだ、どうせ逃げられやしない」

 おれの返答に、不安そうだったローズは一転して笑顔を見せた。

「なーんだ、そういうこと! よかった、シキちゃんが敵を見逃すなんてらしくないから、どうしたのかと思っちゃったよ!」

「ふん、それこそ面白い冗談だな」

「えへへ、変なこと聞いちゃってごめんね」

 ローズはにこにことした笑顔で、自身の懐から香水瓶を取り出した。彼女の持つ『パルファン・ドゥ・ローズ』というペンダント型の香水瓶だ。その香水を少女に噴きかける。

「さあ、立って! 安心して、あなたはこれからとびっきり可愛くなれるのよ」

「ぅ、あ……」

 少女は意思を失った瞳とは真逆に、しゃっきりとした動作で立ち上がった。まるで操り人形のような動きだ。
 それもそのはず、あの香水はシキの持つキャンディケインと同じ神造兵器の一つだ。
 あの香水を嗅がされたり、噴きかけられると、意識ははっきりとしているのに、身体の自由が利かなくなり、ローズの指示通りにしか動かせなくなる。

「じゃあね、シキちゃん! あたしは早く剥製作りしたいから、一足先に皇都へ戻るね~。また向こうで会おうね!」

「……ああ」

 そう言って、ローズは少女を連れて天幕を出て行った。あとにはおれ一人が残される。
 おれはふらふらと力なく椅子に座ると、思わず、両手で顔を覆った。泣きたい気分だったが、不思議なことに涙は一滴も出なかった。

 ……きっと、おれに泣く資格なんてないからだろう。

 だって、あの少女がこれからどんな目に合うのか、おれは知っている。
 知っているのに、助けることができない。その力もなければ、勇気もないからだ。

 ……シキになったせいか、死体から血を採取したときに、嫌悪感や罪悪感はあまり感じなかった。
 でも今は、途方もない無力感を感じている。

 ああ――痛いぐらいに、分かった。

 助けられたと思った命は、呆気なく零れ落ちた。おれのやったことは何もかも無意味で、おれは想像以上に無力な存在だった。

 こんな世界で、おれが出来ることはただ一つ――

「もう、原作を変えようなんて二度と思いあがらない……! おれの目的はただ一つ……穏便に国外脱出してみせる!」
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