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第1部 憑依しました
第二話
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じょ、状況を整理しよう。
おれの名前は敷島志紀。就職活動真っ最中の大学四年生だ。
最後に覚えているのは、大学に向かおうと横断歩道をわたっていた最中に、猛スピードで左折をしてきた車にそのまま撥ねられたことだ。
次に目が覚めた時には……なぜかおれは『比翼のレジスタンス ~片田舎の料理人が革命軍で成り上がる~』、通称ひよレジという漫画に出てくる悪役キャラクター、皇国四天王のシキ=フォン=フォートリエになっていた。
もしかすると、これは転生というやつなのか……? それとも憑依?
うまく説明できないが、この身体の中にはシキ自身の意識や魂は感じられない。
試しに手の甲をつねってみると、確かな痛みを感じた。
どうやらこれは夢ではないようだ。
「シキ様、どうかしましたか?」
傍らにいた男に声をかけられ、はっと顔を上げる。銀髪オッドアイの男は、いぶかしげな顔をしておれを見下ろしていた。
「い、いや、なんでもない。ただ、頭が痛むからどこか打ったのかと思ってな」
おれは漫画のシキの口調を必死に思い出しながら、彼に手鏡を返した。
確かシキは、こんな感じのえらそうな口調だったはずだ。
それと、このイケメンもシキと同じく『ひよレジ』の敵キャラだったよな。
ええっと……あれ、名前なんだっけ?
この『ひよレジ』って、五年前に連載完結した漫画なんだよな……最近読み直してなかったから、ストーリーやキャラクターがところどころ曖昧だぞ。
連載当時はかなりはまってたし、アニメ化した時にはバイト代つぎ込んでブルーレイだって購入したけれど……この漫画、おれの一番大好きな推しヒロインが最終巻で死んじゃうんだよな~!
しかも最後まで、想いを寄せていた主人公に気持ちを告げることもできず、敵に殺されてしまうんだ……その展開が切なすぎて、辛すぎて、コミックスもブルーレイも棚にしまったまま、見ていなかった……
で、でも、ちゃんと覚えていることもあるぞ!
この『ひよレジ』は、皇国の片田舎で家族と一緒に食堂をやっていたハルトという青年が主人公だ。平民であった主人公ハルトは、とある事件がきっかけで革命軍に所属し皇国に革命を起こす、というのが基本のストーリーだ。
そして、おれが憑依したシキという黒髪軍服の男は、主人公の所属する革命軍と敵対する皇国軍の四大将軍の一人だった。
二つ名は『神薬の担い手』、四天王シキという名前で登場していた。
そして、目の前にいるのはシキの直属の部下だ。
えーっと、名前なんだっけ? たしか兄弟がいたはずなんだけど……
「おーい、シキ様! ヴィクター兄貴! そっちは終わったかよ?」
あっ! そうだ、ヴィクターだ!
この銀髪眼鏡の男の名前は、ヴィクターだ!
救いの声がした方向を見ると、そちらからはヴィクターとまったく同じ顔をした一人の男が小走りにやってくるのが見えた。
彼はヴィクターとほとんど同じ顔で、同じ赤と緑のオッドアイではあるが、銀髪を短髪にしており、軍服もかなり着崩している。身体つきも彼の方ががっちりとしており、筋肉質だ。
「ええ。襲撃者に襲われて、シキ様が気を失いましたが今は問題ありません。神薬も一つ完成しました。ゼノン、そちらは?」
「俺の方は終わったぜ。死体はあっちに転がしてある」
新たにあらわれた彼の名前は、ゼノンというらしい。
そうだ、だんだん思い出してきたぞ!
確かこの二人は双子だったな。
眼鏡をかけていてオールバックにしている方が兄のヴィクターで、今あらわれた短髪の方が弟のゼノンだ。
そして、今おれ達がどこにいるのか、何をしているのかも見えてきた。確か、これは漫画の一巻の最終話、帝国四天王の二人の初登場した回だ。
状況としては、皇国の南部に住むウルガ族が革命軍に資金供与を行っていたことが分かり、皇国軍が制圧作戦に乗り出したのだ。しかし、制圧作戦とは名ばかりで、この地で行われたのは容赦のない虐殺だった。
この地に住まうウルガ族は、女子供を含むほとんどのものが殺された。革命軍へ協力した者がどうなるかを皇国全土に知らしめるためだ。
ただ、ウルガ族が殺されたのは、見せしめだけが理由ではない。
その理由の一つが、このシキの持つキャンディケインという杖だ。
この杖は、『ひよレジ』に出てくる『神造兵器』というすごい能力を持った武器の一つだった。
先ほどのようにして、人間十人分の血液を吸わせることで、神薬という回復薬を生み出せる。この神薬は、人間の怪我やほとんどの病気を治すことができる超絶万能薬だ。さほど時間が経っていなければ、切断された手足だってくっつくほどのすごい薬なのだ。
ウルガ族が皆殺しにされたのは、この神薬を造るためでもあった。
そう。つまり、おれがシキになったということは――
「では、そちらに向かいましょうか。シキ様、行けますか?」
「早いところ血を採っちまおうぜー」
「あ、ああ……」
……これからおれは、ウルガ族の人たちの死体から血を採らねばならないということである。
つまり、先ほどのようなミイラ化現象を、あと何十人とやらねばならないわけだ。
おれの名前は敷島志紀。就職活動真っ最中の大学四年生だ。
最後に覚えているのは、大学に向かおうと横断歩道をわたっていた最中に、猛スピードで左折をしてきた車にそのまま撥ねられたことだ。
次に目が覚めた時には……なぜかおれは『比翼のレジスタンス ~片田舎の料理人が革命軍で成り上がる~』、通称ひよレジという漫画に出てくる悪役キャラクター、皇国四天王のシキ=フォン=フォートリエになっていた。
もしかすると、これは転生というやつなのか……? それとも憑依?
うまく説明できないが、この身体の中にはシキ自身の意識や魂は感じられない。
試しに手の甲をつねってみると、確かな痛みを感じた。
どうやらこれは夢ではないようだ。
「シキ様、どうかしましたか?」
傍らにいた男に声をかけられ、はっと顔を上げる。銀髪オッドアイの男は、いぶかしげな顔をしておれを見下ろしていた。
「い、いや、なんでもない。ただ、頭が痛むからどこか打ったのかと思ってな」
おれは漫画のシキの口調を必死に思い出しながら、彼に手鏡を返した。
確かシキは、こんな感じのえらそうな口調だったはずだ。
それと、このイケメンもシキと同じく『ひよレジ』の敵キャラだったよな。
ええっと……あれ、名前なんだっけ?
この『ひよレジ』って、五年前に連載完結した漫画なんだよな……最近読み直してなかったから、ストーリーやキャラクターがところどころ曖昧だぞ。
連載当時はかなりはまってたし、アニメ化した時にはバイト代つぎ込んでブルーレイだって購入したけれど……この漫画、おれの一番大好きな推しヒロインが最終巻で死んじゃうんだよな~!
しかも最後まで、想いを寄せていた主人公に気持ちを告げることもできず、敵に殺されてしまうんだ……その展開が切なすぎて、辛すぎて、コミックスもブルーレイも棚にしまったまま、見ていなかった……
で、でも、ちゃんと覚えていることもあるぞ!
この『ひよレジ』は、皇国の片田舎で家族と一緒に食堂をやっていたハルトという青年が主人公だ。平民であった主人公ハルトは、とある事件がきっかけで革命軍に所属し皇国に革命を起こす、というのが基本のストーリーだ。
そして、おれが憑依したシキという黒髪軍服の男は、主人公の所属する革命軍と敵対する皇国軍の四大将軍の一人だった。
二つ名は『神薬の担い手』、四天王シキという名前で登場していた。
そして、目の前にいるのはシキの直属の部下だ。
えーっと、名前なんだっけ? たしか兄弟がいたはずなんだけど……
「おーい、シキ様! ヴィクター兄貴! そっちは終わったかよ?」
あっ! そうだ、ヴィクターだ!
この銀髪眼鏡の男の名前は、ヴィクターだ!
救いの声がした方向を見ると、そちらからはヴィクターとまったく同じ顔をした一人の男が小走りにやってくるのが見えた。
彼はヴィクターとほとんど同じ顔で、同じ赤と緑のオッドアイではあるが、銀髪を短髪にしており、軍服もかなり着崩している。身体つきも彼の方ががっちりとしており、筋肉質だ。
「ええ。襲撃者に襲われて、シキ様が気を失いましたが今は問題ありません。神薬も一つ完成しました。ゼノン、そちらは?」
「俺の方は終わったぜ。死体はあっちに転がしてある」
新たにあらわれた彼の名前は、ゼノンというらしい。
そうだ、だんだん思い出してきたぞ!
確かこの二人は双子だったな。
眼鏡をかけていてオールバックにしている方が兄のヴィクターで、今あらわれた短髪の方が弟のゼノンだ。
そして、今おれ達がどこにいるのか、何をしているのかも見えてきた。確か、これは漫画の一巻の最終話、帝国四天王の二人の初登場した回だ。
状況としては、皇国の南部に住むウルガ族が革命軍に資金供与を行っていたことが分かり、皇国軍が制圧作戦に乗り出したのだ。しかし、制圧作戦とは名ばかりで、この地で行われたのは容赦のない虐殺だった。
この地に住まうウルガ族は、女子供を含むほとんどのものが殺された。革命軍へ協力した者がどうなるかを皇国全土に知らしめるためだ。
ただ、ウルガ族が殺されたのは、見せしめだけが理由ではない。
その理由の一つが、このシキの持つキャンディケインという杖だ。
この杖は、『ひよレジ』に出てくる『神造兵器』というすごい能力を持った武器の一つだった。
先ほどのようにして、人間十人分の血液を吸わせることで、神薬という回復薬を生み出せる。この神薬は、人間の怪我やほとんどの病気を治すことができる超絶万能薬だ。さほど時間が経っていなければ、切断された手足だってくっつくほどのすごい薬なのだ。
ウルガ族が皆殺しにされたのは、この神薬を造るためでもあった。
そう。つまり、おれがシキになったということは――
「では、そちらに向かいましょうか。シキ様、行けますか?」
「早いところ血を採っちまおうぜー」
「あ、ああ……」
……これからおれは、ウルガ族の人たちの死体から血を採らねばならないということである。
つまり、先ほどのようなミイラ化現象を、あと何十人とやらねばならないわけだ。
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