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第14話
しおりを挟むそして、おれはアザゼルに担がれた体勢のままアパートへと帰宅した。
道中、おれ達の間に会話は一言もなかった。アザゼルは何も言おうとしなかったし、おれも何を言えばいいのか分からなかった。
俵抱きの体勢で良かったと思う。行きの時と同じお姫様だっこの体勢だったら、否が応でもアザゼルと顔を合わせるはめになる。今は彼の顔を見るのは怖かった。
アパートへ到着した後は、玄関に入ったところで床におろされた。
おれはアザゼルに続いて部屋に上がると、アイテムボックスを発動して、ショッピングモールで手に入れた洋服や荷物を取り出して廊下へと置いた。狭いアパートのため廊下はすぐに足の踏み場がなくなる。
荷物を取り出した後でアザゼルを見ると、彼は着用していた上着を脱いで椅子の背もたれにかけていた。こちらに背中を向けているため、表情は窺えない。
おれはその背中に向かって、おずおずと唇を開いた。
「あの、アザゼル……今日は本当に悪かった。おれが軽率だった」
「…………」
アザゼルは無言のまま振り返った。
無表情だったが、纏っている空気から、彼がおれに対する怒りを収めていないのは充分伝わってきた。
あまりの気まずさに、だんだんと自分の心臓の鼓動がばくばくと早鐘を打つのを感じる。
「……シュンくん、ちょっとこっちに来て」
「う、うん」
無表情のアザゼルに手招かれ、おれはおそるおそる彼に近づいた。
アザゼルがおれを呼んだのはソファベッドの上だった。起きた時に掛け布団は片付けたが、敷き布団やシーツはそのままだ。
彼はその上に座ると、おれにも隣に座るように促してきた。
おれはアザゼルの隣に座る。が、座った次の瞬間には、なぜかいきなり視界が反転して、彼の顔と天井しか見えなくなった。
あまりに唐突だったため、アザゼルがおれを押し倒したのだと理解するのにしばし時間を要した。
「え? あ、あれ? アザゼル?」
「さっきも言ったけれどさぁ――私、無茶なことはしないでってシュンくんに言ったよね?」
この体勢は一体どういうことなのかと尋ねたかったが、アザゼルの声音の冷たさに、出しかけた言葉が引っ込んだ。
「い、言われたな……」
「私、シュンくんに約束を破られるの、これで二度目なんだけれど?」
「…………」
アザゼルの言葉に、おれはもう何も言えなくなった。
そう――おれがこいつとの約束を破ったのは、これが二度目だ。一度目の約束は異世界で交わしたものだったが、それをおれは一方的に破棄した。しかも、その件についておれはいまだに謝罪すらしていない。
「ご、ごめん……あの、もしも今回のことでお前がおれに愛想が尽きたっていうんなら、おれは」
「うーん、そういう話じゃなくてさぁ」
アザゼルは冷えた声音で喋り続けながら、おれの腰辺りに馬乗りになった。そして、その手をおれの服に伸ばすと丁寧に上着やシャツを脱がしてはだけさせていく。
シャツが脱げると今度は両手を上に上げさせられて、タンクトップも脱がさせられた。上半身裸になるとさすがにすこし寒気を感じる。
アザゼルは上半身裸になったおれの右腕を掴むと、先ほどのゾンビに噛まれた傷痕に指で触れた。なにかを確認するような手つきだ。
「うん、ゾンビ化は進行してないね。よかったよ」
「……アザゼルのおかげだ、ありがとう」
「それはいいんだけど、いやよくはないんだけど。そういえばシュンくん、あのモールに入る前に、君が私になんて言ったか覚えてるかい?」
「おれが……?」
モール内に入る前というと、あの屋上駐車場で交わした会話だろうか。
あの時は確か、
『そりゃ、お前の場合は怪我はすぐに治るだろうけれど……お前、たとえば自分の家族が同じ目にあったら嫌じゃないのか? どうせ怪我は治るからって言って、危ないことをやろうとしてたら止めるだろ?』
って言ったんだよな。
「あの時はシュンくんの言葉がイマイチ理解できてなかったけれどさぁ……ようやく分かったよ。確かに最悪な気分だね」
「……」
「自分がすごく無力な生き物になったような感じがしたよ。生まれて初めて味わう感覚だった」
アザゼルの指が傷痕をゆっくりと撫でる。
おれがここにいることをしっかりと確かめるような触れ方だった。
「こんなことになるなら、無理やりにでもシュンくんに魔力を渡しておけば良かったと思ったよ。シュンくんに嫌われたくなかったから、今まではなるべくシュンくんの意志に従ってたんだけどさ」
「アザゼル……あの、今回は本当に悪かっ」
「だから今から無理やり犯すね。優しくするつもりだけれど、我慢できなかったらごめんね?」
「――は?」
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