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空中庭園
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「何故、こんなところに天使が…………?」
転移装置の中から出てきた、いや、取り出された天使。
横たわったままピクリとも動かず、ずぶ濡れの長髪が顔を覆い隠しているので、死んでいるのか生きているのかさえ全く分からない。
「教会じゃ神の奇跡と呼ぶが、なんのこたぁねぇ。無理矢理天使を閉じ込めただけの、非道な箱さ。
いや、箱というよりも棺だな。
一説には、悪魔が大陸に攻め込んだ際の移動手段の為に造られたって話もある」
研究員が口を滑らかにしながら、手慣れた手付きで、天使を大きな布で手際良く包み込んでいく。
それを抱えてスッと立ち上がると、成人女性の大きさはあった筈の布包みが、頭一つ分くらいに縮んでいた。
見間違いでは無い。確かに縮んでいる。
「えっ?それ、小さくなってないか?」
「聖布の効果だよ。さぁて、用事は終わったんで帰りましょうか、貴族さん」
「あ、ああ。これでこの転移装置は使えなくなったのか?」
「動力源を抜いたんだ。俺達が戻ってすぐに機能は停止するだろう。これで、依頼通りの事は全てしておいた」
「お前が請け負った依頼とは何だったんだ?」
「探るねぇ。ほんとにあんた、マルディーニ公爵の使いか?
…………まぁ、いい、教えてやるよ。
依頼とは、この転移装置に記録された転移先リストの抹消と動力源の回収だ。
どうやらマルディーニ公には、これを使わせたくない奴がいるんだろうな」
「…………」
「理解が難しかったか?へへ、だから、お前に任されたのかもしれねぇな。
貴族は怖い奴等の集まりだ。せいぜい気を付けろよ」
————————
————ボルストン国・マルディーニ領
————空中庭園
空の上に小さな島々が浮いていた。
元々は一つの大きな島に、豪華な宮殿が建造されていたのだろうか、既に朽ち果て、島は分裂し、散り散りに点在している。
その遺跡のような庭園が残る島に三つの人影があった。
「悠久の魔女デネブよ、お前の眼には何が映る?」
ボルストンには、三名の公爵が在位する。
その一人、マルディーニ公爵は険しい目付きで新聞を読みながら、宙に浮いた水晶を覗き込む女性に話を振る。
その新聞には、実写にしか見えないテツオの肖像画と、その記事が一面に記載されていた。
「ジョンテ領の森にて、大いなる脅威が取り除かれた」
全身を白いローブに包み込んだ女性は、水晶から目を離す事無く、淡々と応えた。
事務的なその声は、若い女性のようにも聞こえる。
「つまり危険地帯が攻略された、と?」
公爵と同席する恰幅のいい貴族の男が、魔女の背中に向かって問いかける。
公爵の手がほんの少し震えた。
「南の森にて、古代竜、天使、悪魔の出現を感知し、その後全て消失。森は現在、無力化しておる」
「その中に、テツオ侯爵に与する勢力はいたのか?」
魔女の言葉足らずに思える簡素な説明に、公爵が食い気味に質問をかぶせた。
「天使、悪魔の加勢は皆無。古代竜から従属に至る僅かな機微を確認した」
「竜…………か。古代竜を単純な戦力として数えるなら、ジョンテ領は我が国で最も強い武力を保有する事になるのか?」
「竜種の軍事利用は、お主らの法律で禁じられているであろう」
「侵略に使えないというだけで、防衛には使える。
そもそも、侵略戦争を仕掛ける気があるのなら、法律を遵守する者などおるまい」
ローブの女はどうやら質問には答えるが、自ら話し出す事はしない。あくまで回答者の役割に徹しており、聞かれた事以上は語らないようだ。
「…………質問は以上だ」
魔女デネブと呼ばれたローブの女性は会釈する事なく、消える様にその場からいなくなった。
「…………相変わらず得体の知れぬ女ですな」
「そう言うな、オッド卿。ああ見えて四百年以上この空中庭園に棲まう魔女だ。
その在り方が、彼女の途方も無い魔力量を証明している。
我々の生殺与奪は、デネブの気分次第だぞ」
「そ、それは、確かに…………」
オッド卿は遥か上空にいる事を再認識し、額の汗を拭きながら畏まった。
「さてオッド卿、テツオ侯爵は南の森を越えた後、南の国への接触を試みると思うか?」
「ええ、はい。恐らくその可能性は高い、かと」
「頭の痛い事だ。冒険者などが貴族になるとたちまち問題を起こしおる。しかも、場所が悪い」
「場所、ですか」
「卿も知っての通り、我が国ボルストンはその昔、魔族侵攻に対抗する為、いくつかの小国が統合して興った大国だが、真のボルストン国とは、我がマルディーニ領や王都領を含む門閥貴族が治める四大天領のみ。
西国アディレイからの牽制目的で派生してきたアディレニス領、統合前はボルストンに次ぐ大国だったサルサーレ領と、その同盟国だったジョンテ領、この三つは元を辿れば、我々の敵国だった。
そして、ジョンテはサルサーレの隷属国に過ぎぬ。
当時、サルサーレが統合の条件として提示した条約は、あろうことかジョンテ領隷属の継続。
この不都合な真実は、歴史の影に葬られたかにみえたが、一部王侯貴族にだけはひっそりと伝えられてきた。ジョンテ領は昔からサルサーレの犬なのだ。
ジョンテ領がボルストン以外の自由な土地を得るには、南へ領土を拡げるしかない。
大戦後、南の森は危険地帯と化し、版図拡大は潰えたかに見えたが、ここにきて南の国に通じる可能性が出てきた。隷属国如きに、うまい汁を吸わせる訳にはいかぬ」
「隷属…………いやしかし、それから三百年も経っていますし、ジョンテ領主も最早ジョンテ家では無く、新参のテツオ侯爵になってます」
「サルサーレ卿が衰退したジョンテ家を潰して、新たな番犬を飼い始めただけだ。
それがいくら強い猟犬だろうが、我々には我々のやり方がある。
そこでだ、オッド卿。今から、湖水の祠に行って転移装置を止めてきてくれないか?」
「え?私がですか?あっ、いえっ!わかりました」
「ありがとう。私は卿に期待しているんだ。
研究所には既に依頼をしてある。直ちに向かってくれ」
マルディーニ公が話し終えると同時に、オッド卿は座していた椅子ごと転移して消えた。
空中庭園で一人になった公爵は、席を立ち、眼下に広がる雲海を眺めながら呟く。
「いずれ利権の全てを、私が独占してみせようぞ…………」
————————
————デカス山頂・テツオホーム
テツオは非常に酔っ払っていた。
いわゆる酩酊状態。
浴場を出た後、バスローブ姿でふらふらと彷徨い、リビングルームに戻ってきていた。
巨大なリビングダイニングキッチン。
四十人掛けのダイニングテーブルがあり、その奥にレストランばりのオープンキッチンがある。
窓際にあるリビングは、高級ホテルのロビーラウンジのように、多くのソファやローテーブルが並ぶ。
深夜帯である現在、程良い間接照明がエレガントで落ち着いた空間を演出していた。
「ちょっち飲み過ぎたかぁ?」
千鳥足のテツオは、近くにあったソファへなんとか近付くと、倒れ込むように身体を預けた。
長風呂で火照り、やたらと喉が渇き、冷えた酒を一気に飲む。
彼が持つ特別な【回復魔法】であれば、酔いなど一瞬で醒ましてしまうのだが、彼自身が酔っ払っている状態を受け入れている為に、悪循環でますます酔いが進行していく。
「くぅ…………くぅ…………」
「なんの音だ?」
一定間隔で何かの音が鳴っているのに気付き、テツオは辺りを見回した。
自動的に【探知】が付与されている目のお陰で、異音の正体はすぐに判明した。
誰かがソファで寝息を立てている。
とても歩けそうに無いので、ふわふわ浮遊して、寝息を立てる人物を俯瞰し眺めた。
【解析】
スペイド
年齢:19、身長:16●
B:9●、W:5●、H:8●
「むぅ、ぼやけるな」
酔っているせいで、うまく認識出来ない。
だが、待て。まさか、いるのか?
スペイド。
彼女はクラブ・アマンダのキャストで間違いない。そして、確かクラブナンバーワンのナイスバディの持ち主。
目をゴシゴシと擦り、近付いてじっくりと観察する。
真っ赤なミニドレスから長く細い両脚が、ソファの肘掛けに剥き出しで乗っている。
胸元には真っ白なファーが付いていて、組んだ腕の上でムッチリと胸が谷間を作っている。
ミニスカサンタやん!まさか、この世界でサンタに会えるなんて!完全一致!
「くぅ…………、くぅ…………」
しっかし、よぉ寝てんな。
確かアマンダに次ぐ最高売り上げを記録したって言ってたな。
普段は地味系の庶民的美人だが、今は化粧映えしてかなりセクシーになっている。
起こさないように、さわさわと脚を撫でる。…………起きない。
思い切って胸を揉む。…………起きない。
ドレスの胸元を引っ張り、胸を丸出しにする。
「ん…………、くぅ…………くぅ…………」
…………ふぅ、セーフ、起きない。
胸を揉みながら、乳首に吸い付き、舐め転がす。
「んんっ!」
……………………起きたか?
「くぅ…………くぅ…………」
…………起きない。
地味なのに巨乳ってギャップが、あそこにビンビンくるな。
酒と香水と石鹸の匂いが混ざり合って、めっちゃムラムラしてくる。
ふぅ…………入れっか。
ズププ…………
「ほら入っちゃったぁ。こんなとこで寝てっからだよぉ?」
「くぅ、くぅ、ふぅん…………」
呼吸は荒くなってきたが、まだ寝続ける可愛いスペイド。
「ほらほら、ズボズボ犯されちゃってるよぉ?」
股を開かせ、両脚を左右の肘掛けに乗せ、より深く肉棒をぶち込む。
酔っているせいで力加減が出来ず、ピストンが次第と激しくなっていった。
「あっ、あんっ、あっ、あれっ?あぁんっ!」
「ヌプヌプさせてもらってるよぉ」
「ご、ごしゅっ、じんさま?あ、あん、あんっ」
微睡みと快楽がごちゃ混ぜになり、何が起こっているのか分からないスペイド。
だが、いつの間か丸出しになった胸が揉みくちゃにされ、下半身に鈍くて熱い衝撃が絶え間なく続く事で、少しずつ意識を取り戻していく。
最初は、深く酔って寝てしまったせいで、変な夢でも見ているのかと思ったが、身体に伝わる衝撃と重量があまりにリアル過ぎて、夢では無いのだとようやく理解した。
なんと!ご主人様が寝ている私を犯していた!
下劣でいやらしい薄ら笑いを浮かべ、低俗で卑猥な言葉を次々と垂れ流し、私の身体を弄んでいる。
唾や汗が飛んでくる。酒混じりの口臭がキツい。強く握り潰される胸や強く押し込まれた背中が痛い。乱暴で粗雑な一連の行為から、性欲の捌け口としか思われていないのが如実に伝わってくる。
…………それなのに。
嬉しくて嬉しくて堪らない。
幸せ過ぎて涙が溢れてくる。
この瞬間の為に、生を受けたのだとさえ思う。
ご主人様に助けられた殆どの女性は、ここで、その時を待ち焦がれているようだった。
でも、私は違うと思っていた。幼い頃から心に決めた男性がいたからだ。
メルロス様に、治療期間の日数を尋ねると、二週間から一ヶ月程度だと教えて下さった。
その間、クラブで働いて、助けてもらった恩を少しでも返し、好きなあの人の元へ帰ろうと思っていた。
誘拐されていた四百五十二日間、あの人の顔も名前も全て、忘れた事は無かった。
あの人に捧げる筈だった私の大切な初めてが、寝ている間に一瞬で奪われてしまった。
そして、あの人の何もかもを一瞬で忘れてしまった。
好きでもなんでもなかった。忘れる事が出来て幸運とさえ思う。良くある恋は盲目というヤツだったのだ。
ご主人様の寵愛をいただいている最中に、別の男性の事など考えたくもない。
「ウヒヒ、トロトロになってきたなぁ。
ミニスカサンタちゃんにクリスマスプレゼントやぁっ!オラァッ!」
「ご主人様っ!あん、好きですっ!私っ!あぁーっ!」
大量の熱量が身体の中に迸り、お腹を幸せでいっぱいに満たしていく。
頭がチカチカして、身体がビリビリと震える。
以前、メルロス様に、治療が終わり次第ここから去りたいと伝えた時、彼女は、「そううまくいくかしら?」と困った顔をして笑っていた。
どうしてそんな事を言ったのか分からなかったが、今ならはっきりと分かる。
ご主人様から離れるなんてもう考えられない。
みんなも早く抱いてもらったらいいのに、とほんの少し思ってしまった。
酔っているせいかも知れない。
ご主人様は更に深く酔っているようで、フラフラと起き上がると、聞き取れない独り言を言いながら、私の身体をふわりと持ち上げ、どこかへ連れて行った。
ここから先はかなり断片的な記憶になる。
本当にあった事なのか、夢の中の出来事だったのか定かでは無い。
ずっと頭がチカチカしていた。
場所はおそらく浴室だった、と思う。
視界が霧がかっていて、多分それは湯気だと思ったからだ。
「はぁい、みんな並ぼうねぇ」
私は全裸のまま、壁一面の窓ガラスに、両手をついて身体を支えていた。
お尻を突き出すような姿勢だった。
窓に映る雪山の夜景と一緒に、いくつかの人影が見える。
他の女性達も、私と同じ全裸、同じ姿勢で横一列に並んでいたのだ。
「ウヒヒ。絶景絶景ェ」
何故か分からないが、私を含めて二十四人の女性達が、この場に今一緒に居るのを理解していた。まるで同じ意識を共有しているように。
「まず一人目ェッ!」
そして、心の準備のないまま、突如、身体に快感が突き抜けた。
触られていないのに、挿入ってないのに、あそこが刺激され続けている。
一番端にいる女の子が、ご主人様に挿入されたからだと、全身で理解っていた。
同じ様に、みんなも感じていたと思う。
もちろん、その理由も理屈も、私達には到底分かる筈もない。
「突き放題ィ、ヤリ放題ィ」
ご主人様は、ゆっくりと順番に女の子達を、後ろから突き進み始めたのだ。
何故かリアルに伝わってくる快感に、膝から崩れ落ちそうになりながら、自分の順番が来るのを必死で待ち続けた。
順番が来なくても、既に何度もイッていたのだが。
「連続貫通タイムアタックいくぞお」
ご主人様の両手が、遂に私の臀部をがっちり掴んだ時、私は呆気なく絶頂する。
敏感な身体への容赦無いピストンに、私はあっという間に気絶した。
それでも、共有される刺激で覚醒し、また絶頂して気絶する、を何度も何度も繰り返し、休む暇を与えてもらえない。
興奮、熱狂する二十四人の淫らな嬌声が乱れ飛ぶ。
絶え間無く続く快楽。ハーレムと呼ぶに相応しい乱交宴。神話に聞く幸福の楽園、エデン。
ああ、ご主人様。
私達をもっともっと可愛がって下さいませ。
転移装置の中から出てきた、いや、取り出された天使。
横たわったままピクリとも動かず、ずぶ濡れの長髪が顔を覆い隠しているので、死んでいるのか生きているのかさえ全く分からない。
「教会じゃ神の奇跡と呼ぶが、なんのこたぁねぇ。無理矢理天使を閉じ込めただけの、非道な箱さ。
いや、箱というよりも棺だな。
一説には、悪魔が大陸に攻め込んだ際の移動手段の為に造られたって話もある」
研究員が口を滑らかにしながら、手慣れた手付きで、天使を大きな布で手際良く包み込んでいく。
それを抱えてスッと立ち上がると、成人女性の大きさはあった筈の布包みが、頭一つ分くらいに縮んでいた。
見間違いでは無い。確かに縮んでいる。
「えっ?それ、小さくなってないか?」
「聖布の効果だよ。さぁて、用事は終わったんで帰りましょうか、貴族さん」
「あ、ああ。これでこの転移装置は使えなくなったのか?」
「動力源を抜いたんだ。俺達が戻ってすぐに機能は停止するだろう。これで、依頼通りの事は全てしておいた」
「お前が請け負った依頼とは何だったんだ?」
「探るねぇ。ほんとにあんた、マルディーニ公爵の使いか?
…………まぁ、いい、教えてやるよ。
依頼とは、この転移装置に記録された転移先リストの抹消と動力源の回収だ。
どうやらマルディーニ公には、これを使わせたくない奴がいるんだろうな」
「…………」
「理解が難しかったか?へへ、だから、お前に任されたのかもしれねぇな。
貴族は怖い奴等の集まりだ。せいぜい気を付けろよ」
————————
————ボルストン国・マルディーニ領
————空中庭園
空の上に小さな島々が浮いていた。
元々は一つの大きな島に、豪華な宮殿が建造されていたのだろうか、既に朽ち果て、島は分裂し、散り散りに点在している。
その遺跡のような庭園が残る島に三つの人影があった。
「悠久の魔女デネブよ、お前の眼には何が映る?」
ボルストンには、三名の公爵が在位する。
その一人、マルディーニ公爵は険しい目付きで新聞を読みながら、宙に浮いた水晶を覗き込む女性に話を振る。
その新聞には、実写にしか見えないテツオの肖像画と、その記事が一面に記載されていた。
「ジョンテ領の森にて、大いなる脅威が取り除かれた」
全身を白いローブに包み込んだ女性は、水晶から目を離す事無く、淡々と応えた。
事務的なその声は、若い女性のようにも聞こえる。
「つまり危険地帯が攻略された、と?」
公爵と同席する恰幅のいい貴族の男が、魔女の背中に向かって問いかける。
公爵の手がほんの少し震えた。
「南の森にて、古代竜、天使、悪魔の出現を感知し、その後全て消失。森は現在、無力化しておる」
「その中に、テツオ侯爵に与する勢力はいたのか?」
魔女の言葉足らずに思える簡素な説明に、公爵が食い気味に質問をかぶせた。
「天使、悪魔の加勢は皆無。古代竜から従属に至る僅かな機微を確認した」
「竜…………か。古代竜を単純な戦力として数えるなら、ジョンテ領は我が国で最も強い武力を保有する事になるのか?」
「竜種の軍事利用は、お主らの法律で禁じられているであろう」
「侵略に使えないというだけで、防衛には使える。
そもそも、侵略戦争を仕掛ける気があるのなら、法律を遵守する者などおるまい」
ローブの女はどうやら質問には答えるが、自ら話し出す事はしない。あくまで回答者の役割に徹しており、聞かれた事以上は語らないようだ。
「…………質問は以上だ」
魔女デネブと呼ばれたローブの女性は会釈する事なく、消える様にその場からいなくなった。
「…………相変わらず得体の知れぬ女ですな」
「そう言うな、オッド卿。ああ見えて四百年以上この空中庭園に棲まう魔女だ。
その在り方が、彼女の途方も無い魔力量を証明している。
我々の生殺与奪は、デネブの気分次第だぞ」
「そ、それは、確かに…………」
オッド卿は遥か上空にいる事を再認識し、額の汗を拭きながら畏まった。
「さてオッド卿、テツオ侯爵は南の森を越えた後、南の国への接触を試みると思うか?」
「ええ、はい。恐らくその可能性は高い、かと」
「頭の痛い事だ。冒険者などが貴族になるとたちまち問題を起こしおる。しかも、場所が悪い」
「場所、ですか」
「卿も知っての通り、我が国ボルストンはその昔、魔族侵攻に対抗する為、いくつかの小国が統合して興った大国だが、真のボルストン国とは、我がマルディーニ領や王都領を含む門閥貴族が治める四大天領のみ。
西国アディレイからの牽制目的で派生してきたアディレニス領、統合前はボルストンに次ぐ大国だったサルサーレ領と、その同盟国だったジョンテ領、この三つは元を辿れば、我々の敵国だった。
そして、ジョンテはサルサーレの隷属国に過ぎぬ。
当時、サルサーレが統合の条件として提示した条約は、あろうことかジョンテ領隷属の継続。
この不都合な真実は、歴史の影に葬られたかにみえたが、一部王侯貴族にだけはひっそりと伝えられてきた。ジョンテ領は昔からサルサーレの犬なのだ。
ジョンテ領がボルストン以外の自由な土地を得るには、南へ領土を拡げるしかない。
大戦後、南の森は危険地帯と化し、版図拡大は潰えたかに見えたが、ここにきて南の国に通じる可能性が出てきた。隷属国如きに、うまい汁を吸わせる訳にはいかぬ」
「隷属…………いやしかし、それから三百年も経っていますし、ジョンテ領主も最早ジョンテ家では無く、新参のテツオ侯爵になってます」
「サルサーレ卿が衰退したジョンテ家を潰して、新たな番犬を飼い始めただけだ。
それがいくら強い猟犬だろうが、我々には我々のやり方がある。
そこでだ、オッド卿。今から、湖水の祠に行って転移装置を止めてきてくれないか?」
「え?私がですか?あっ、いえっ!わかりました」
「ありがとう。私は卿に期待しているんだ。
研究所には既に依頼をしてある。直ちに向かってくれ」
マルディーニ公が話し終えると同時に、オッド卿は座していた椅子ごと転移して消えた。
空中庭園で一人になった公爵は、席を立ち、眼下に広がる雲海を眺めながら呟く。
「いずれ利権の全てを、私が独占してみせようぞ…………」
————————
————デカス山頂・テツオホーム
テツオは非常に酔っ払っていた。
いわゆる酩酊状態。
浴場を出た後、バスローブ姿でふらふらと彷徨い、リビングルームに戻ってきていた。
巨大なリビングダイニングキッチン。
四十人掛けのダイニングテーブルがあり、その奥にレストランばりのオープンキッチンがある。
窓際にあるリビングは、高級ホテルのロビーラウンジのように、多くのソファやローテーブルが並ぶ。
深夜帯である現在、程良い間接照明がエレガントで落ち着いた空間を演出していた。
「ちょっち飲み過ぎたかぁ?」
千鳥足のテツオは、近くにあったソファへなんとか近付くと、倒れ込むように身体を預けた。
長風呂で火照り、やたらと喉が渇き、冷えた酒を一気に飲む。
彼が持つ特別な【回復魔法】であれば、酔いなど一瞬で醒ましてしまうのだが、彼自身が酔っ払っている状態を受け入れている為に、悪循環でますます酔いが進行していく。
「くぅ…………くぅ…………」
「なんの音だ?」
一定間隔で何かの音が鳴っているのに気付き、テツオは辺りを見回した。
自動的に【探知】が付与されている目のお陰で、異音の正体はすぐに判明した。
誰かがソファで寝息を立てている。
とても歩けそうに無いので、ふわふわ浮遊して、寝息を立てる人物を俯瞰し眺めた。
【解析】
スペイド
年齢:19、身長:16●
B:9●、W:5●、H:8●
「むぅ、ぼやけるな」
酔っているせいで、うまく認識出来ない。
だが、待て。まさか、いるのか?
スペイド。
彼女はクラブ・アマンダのキャストで間違いない。そして、確かクラブナンバーワンのナイスバディの持ち主。
目をゴシゴシと擦り、近付いてじっくりと観察する。
真っ赤なミニドレスから長く細い両脚が、ソファの肘掛けに剥き出しで乗っている。
胸元には真っ白なファーが付いていて、組んだ腕の上でムッチリと胸が谷間を作っている。
ミニスカサンタやん!まさか、この世界でサンタに会えるなんて!完全一致!
「くぅ…………、くぅ…………」
しっかし、よぉ寝てんな。
確かアマンダに次ぐ最高売り上げを記録したって言ってたな。
普段は地味系の庶民的美人だが、今は化粧映えしてかなりセクシーになっている。
起こさないように、さわさわと脚を撫でる。…………起きない。
思い切って胸を揉む。…………起きない。
ドレスの胸元を引っ張り、胸を丸出しにする。
「ん…………、くぅ…………くぅ…………」
…………ふぅ、セーフ、起きない。
胸を揉みながら、乳首に吸い付き、舐め転がす。
「んんっ!」
……………………起きたか?
「くぅ…………くぅ…………」
…………起きない。
地味なのに巨乳ってギャップが、あそこにビンビンくるな。
酒と香水と石鹸の匂いが混ざり合って、めっちゃムラムラしてくる。
ふぅ…………入れっか。
ズププ…………
「ほら入っちゃったぁ。こんなとこで寝てっからだよぉ?」
「くぅ、くぅ、ふぅん…………」
呼吸は荒くなってきたが、まだ寝続ける可愛いスペイド。
「ほらほら、ズボズボ犯されちゃってるよぉ?」
股を開かせ、両脚を左右の肘掛けに乗せ、より深く肉棒をぶち込む。
酔っているせいで力加減が出来ず、ピストンが次第と激しくなっていった。
「あっ、あんっ、あっ、あれっ?あぁんっ!」
「ヌプヌプさせてもらってるよぉ」
「ご、ごしゅっ、じんさま?あ、あん、あんっ」
微睡みと快楽がごちゃ混ぜになり、何が起こっているのか分からないスペイド。
だが、いつの間か丸出しになった胸が揉みくちゃにされ、下半身に鈍くて熱い衝撃が絶え間なく続く事で、少しずつ意識を取り戻していく。
最初は、深く酔って寝てしまったせいで、変な夢でも見ているのかと思ったが、身体に伝わる衝撃と重量があまりにリアル過ぎて、夢では無いのだとようやく理解した。
なんと!ご主人様が寝ている私を犯していた!
下劣でいやらしい薄ら笑いを浮かべ、低俗で卑猥な言葉を次々と垂れ流し、私の身体を弄んでいる。
唾や汗が飛んでくる。酒混じりの口臭がキツい。強く握り潰される胸や強く押し込まれた背中が痛い。乱暴で粗雑な一連の行為から、性欲の捌け口としか思われていないのが如実に伝わってくる。
…………それなのに。
嬉しくて嬉しくて堪らない。
幸せ過ぎて涙が溢れてくる。
この瞬間の為に、生を受けたのだとさえ思う。
ご主人様に助けられた殆どの女性は、ここで、その時を待ち焦がれているようだった。
でも、私は違うと思っていた。幼い頃から心に決めた男性がいたからだ。
メルロス様に、治療期間の日数を尋ねると、二週間から一ヶ月程度だと教えて下さった。
その間、クラブで働いて、助けてもらった恩を少しでも返し、好きなあの人の元へ帰ろうと思っていた。
誘拐されていた四百五十二日間、あの人の顔も名前も全て、忘れた事は無かった。
あの人に捧げる筈だった私の大切な初めてが、寝ている間に一瞬で奪われてしまった。
そして、あの人の何もかもを一瞬で忘れてしまった。
好きでもなんでもなかった。忘れる事が出来て幸運とさえ思う。良くある恋は盲目というヤツだったのだ。
ご主人様の寵愛をいただいている最中に、別の男性の事など考えたくもない。
「ウヒヒ、トロトロになってきたなぁ。
ミニスカサンタちゃんにクリスマスプレゼントやぁっ!オラァッ!」
「ご主人様っ!あん、好きですっ!私っ!あぁーっ!」
大量の熱量が身体の中に迸り、お腹を幸せでいっぱいに満たしていく。
頭がチカチカして、身体がビリビリと震える。
以前、メルロス様に、治療が終わり次第ここから去りたいと伝えた時、彼女は、「そううまくいくかしら?」と困った顔をして笑っていた。
どうしてそんな事を言ったのか分からなかったが、今ならはっきりと分かる。
ご主人様から離れるなんてもう考えられない。
みんなも早く抱いてもらったらいいのに、とほんの少し思ってしまった。
酔っているせいかも知れない。
ご主人様は更に深く酔っているようで、フラフラと起き上がると、聞き取れない独り言を言いながら、私の身体をふわりと持ち上げ、どこかへ連れて行った。
ここから先はかなり断片的な記憶になる。
本当にあった事なのか、夢の中の出来事だったのか定かでは無い。
ずっと頭がチカチカしていた。
場所はおそらく浴室だった、と思う。
視界が霧がかっていて、多分それは湯気だと思ったからだ。
「はぁい、みんな並ぼうねぇ」
私は全裸のまま、壁一面の窓ガラスに、両手をついて身体を支えていた。
お尻を突き出すような姿勢だった。
窓に映る雪山の夜景と一緒に、いくつかの人影が見える。
他の女性達も、私と同じ全裸、同じ姿勢で横一列に並んでいたのだ。
「ウヒヒ。絶景絶景ェ」
何故か分からないが、私を含めて二十四人の女性達が、この場に今一緒に居るのを理解していた。まるで同じ意識を共有しているように。
「まず一人目ェッ!」
そして、心の準備のないまま、突如、身体に快感が突き抜けた。
触られていないのに、挿入ってないのに、あそこが刺激され続けている。
一番端にいる女の子が、ご主人様に挿入されたからだと、全身で理解っていた。
同じ様に、みんなも感じていたと思う。
もちろん、その理由も理屈も、私達には到底分かる筈もない。
「突き放題ィ、ヤリ放題ィ」
ご主人様は、ゆっくりと順番に女の子達を、後ろから突き進み始めたのだ。
何故かリアルに伝わってくる快感に、膝から崩れ落ちそうになりながら、自分の順番が来るのを必死で待ち続けた。
順番が来なくても、既に何度もイッていたのだが。
「連続貫通タイムアタックいくぞお」
ご主人様の両手が、遂に私の臀部をがっちり掴んだ時、私は呆気なく絶頂する。
敏感な身体への容赦無いピストンに、私はあっという間に気絶した。
それでも、共有される刺激で覚醒し、また絶頂して気絶する、を何度も何度も繰り返し、休む暇を与えてもらえない。
興奮、熱狂する二十四人の淫らな嬌声が乱れ飛ぶ。
絶え間無く続く快楽。ハーレムと呼ぶに相応しい乱交宴。神話に聞く幸福の楽園、エデン。
ああ、ご主人様。
私達をもっともっと可愛がって下さいませ。
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