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南の森の主②
しおりを挟む(なんだこいつ…………?)
お互いの第一印象は奇しくも同じだった。
竜最大の体格と筋力を持つ伝説の緑竜ファヴニール。
龍神の域に達し、数多ある神通力の中には【千里眼】も備えている。
眼前に現れた男が、アルドゥヴァインの話にあった人間だと、すぐに分かった。
竜は、人間を凝視しながら思考する。
なんだこいつ?
……確かに、凶々しい魔玉を二個所持している。
あれが、魔王の核である事は間違い無き事。
しかし、この小僧、冒険者らしき格好をしてはいるが、些か弱過ぎやしないか?
無論、我も人間が元々弱い種族であると認識しておる。
それでも、人間は経験を重ね、成長を遂げ、強くなる事もまた理解しておる。
だが、眼前の小僧には、経験からくる成長が一切感じられない。
記憶にある歴戦の勇者や英雄達には、各々独自の風格や矜持があった。
それなのに、此奴からは何も伝わってこない。
言うなれば、恐怖を知らぬ赤子の如し。
古代竜である我が前で、恐怖も萎縮もせず、それどころか、森の妖魔とイチャついておるではないか!
こんな奴が、アルドゥヴァインの主人だと!認めぬ!絶対に認めぬぞ!
————————
なんだこいつぅ~?
竜?大蛇?いや、手脚と翼があるから竜だよね?この竜が森の主かぁ。
高層ビルみたいに大きなデビルプラント数本がぐにゃりと曲がりくねって、抜け出せなくなっちゃってるよ。
一瞬、ほんの一瞬、この巨大ななりに、でっかい眼にびっくりしたけど、それよりも驚愕なのはこの悪臭!
こいつの口から、絶えずドロドロ流れてくるこのヘドロみたいな汚濁が、こいつを中心にして沼になっちゃってんじゃん。
身体もカビか細菌か知らねーけど、ヌメヌメできったねーし。最悪だ。
これ、頭に術式が浮かび上がるから分かったけど、カースに呪われてるみたいなんだよなぁ。
あぁ、臭え、オエッ!駄目だ、耐えらんねぇ。
そうだ、アルラウネの芳香を嗅げば凌げるかも。
あ、コラ、逃げんなって。
あー、もう、さっさとこいつの呪いを解いて、森林クリーン化大作戦しかねぇな。
森の主も呪いを解けば、恩を感じて俺を認めざるを得んだろ。
今なら、カース起因の呪い限定だが、解呪いけちゃう気がするし。
————————
遂に互いが口を開いた。
第一声がこちら。
「さぁ、始めるか」
解呪を始めようと近づくテツオへ、大きく口を開けた竜が咆哮を放った。
まさに不意打ち。
【竜の息吹】
「えっ?」
【時の回避】
衝撃波の威力もさることながら、汚濁の毒素が強烈過ぎて、生死を彷徨っているところで、時の流れが遅くなる。
全身の皮膚や肉が爛れ、骨が見えているところもあった。
俺、こんな状態で生きてるといえるのか?
必死に【回復】し、崩壊した身体を再生させた。
そういえば、後ろにいたアルラウネは!
急ぎ振り返り、隈なく探したが、姿は見当たらず、既に消滅したのか、反応も消えている。
この竜、なんて奴だ!
「森の主が、森に棲む者を殺すとはな」
「森に湧く虫の一匹や二匹、数えるに能わず」
人間が踏んだ蟻を気にするのか?的なロジックは聞き飽きた。
「呪われてるくせに、偉そうだな。
森も護れてねぇのに、森の主とか、マジ草生える。いや、大樹生えて絡み付くわ」
「ほう、古代竜を愚弄するとは…………」
「愚弄?俺は怒ってんだよ。
もう魔力温存する必要も無い。
何も気付かずに悶え苦しめ、アホ」
「魔に侵されし人間よ、死の底で悔い改め……」
【時間遡行】
【時間停止】
【竜の息吹】を吐く前に時を戻し、そして止める。
時間操作、解禁だ!
【時間遅行】だと、この竜に行動を認識される可能性があるので、完全に停止しておく。
動いている竜を初めて見たが、超巨大な爬虫類ってだけで、確かに、恐竜ジョノニクスを一口で食べれるその大きい風貌には驚いたが、デビルプラントに封じられ動けないのであれば、恐怖を感じるまでには至らなかった。
魔王や天使には、恐怖や畏怖といった、人間がそう簡単には抗えない威圧があったが、この竜からはそこまでのものは伝わってこない。
古代竜、龍神といえど、生命体の枠は越えれないという事か?
そして、ブレスで死ぬ前のアルラウネに再会する。
こいつがこのままこの場所に居ては、都合が悪い。
無理矢理、魔力パスを通し、俺の使い魔にしておこう。
自分よりレベルが低い相手なら、強く抵抗されない限り登録出来る。
無論、時間操作中であれば、抵抗出来るわけも無い。
使い魔にしておけば、任意で設定した転移先へ送還出来るようになるので便利だ。
その後、登録を済ませたアルラウネを、テツオ城地下にある女型エネミー専用プライベートルームへと転移させた。
————これで、ようやく集中できる。
竜の状況だが、動かせるのは、恐らく顎と手脚の指くらい。
とりあえず、剥き出しになった腕部分を【幻鉱石の剣】で斬りつけてみる。
キィン…………
「硬っ」
金属音が鳴り、あっさりと弾かれてしまった。
「なんちゅう硬い鱗や。でも、まぁ、魔力を込めへんかったからな。
これならぁ、どうや!」
ガギィン……
衝撃に負け、【幻鉱石の剣】が砕け散る。
「おいおい、マジか?高位悪魔を一撃で倒せる程の魔力込めたんやぞ?まだ弾くんかよぉ」
それでも少しは斬れたのか、鱗の表面に線のような傷が残った。
更に、バアルの闇魔法【三連闇刃】を放ったが、引っ掻き傷がうっすら付いたに過ぎなかった。
これじゃ、車に硬貨で引っ掻き傷付けたいたずら犯やないか。
だが、俺の怒りはこんなもんじゃない。
傷が付いた箇所へ集中攻撃を敢行。
ストックしていた【幻鉱石の剣】を放出し、連射し続けた。
延々と剣が当たっては壊れていくが、それでも傷口が少しずつ開き、ゆっくりと、だが確実に裂けていく。
さらにその裂け目を、【炎魔法】で焼き、【闇の縛鎖】で引っ張り、遂に右腕を斬り落とす事に成功した。
残る四肢も、同時進行で斬り落としておく。
竜は手脚が無くなり、蛇のようになってしまった。
————時流を戻す。
「グオオオオォォオオオ!」
けたたましい慟哭が響き渡る。
竜の鼻頭に立ち、剣先をキンキンと突き刺しながら話す。
「偉大な古代竜ならよぉ、そんな情けない声出すんじゃねぇぜ」
「貴様ぁ…………、我を倒しに来たのかぁ…………?」
「森の主なんだろ?お前に認めてもらい、この森を貰いに来たんだよ。
俺の力を認め、俺の配下になれば、呪いを解いてやろうじゃないか」
「こんな事をして、無事に済むと思っておるのか?たわけが!
見ておれ、この程度すぐ治せるわ!」
竜が【回復魔法】を唱えると、切断された手脚が引き寄せられ、くっ付いて、たちまち元通りになった。
チートじゃねぇか。どんだけ大変な思いして斬り放したと思ってんだよ。
【解析】
古代竜・ファブニール
真名不明
LV:245
HP:6580/53000
MP:3520/26000
え?まさかステータスが見れるなんて思ってなかった。
呪われて弱っているせいか?見られても平気だからか?
とはいえ、レベルもHPも桁違いだ。
呪いも無く、封じ込められてなかったとしたら、俺なんて瞬殺だろう。
悪魔が封印を選んだ理由がよく分かった。
こんな規格外生命体は、魔王であれど相手にしてられないだろう。
「この程度ならこの通り、再生出来るわ」
「なんで治しちゃうかなぁ、意味無いのに」
【時間停止】
また時を止め、再度、四肢を切断した。
「グゥゥゥオオオオオオ!」
そして、慟哭。
「五月蝿いなぁ。喚くんじゃないよ。気に食わないが、助けてやるって言ってんだから」
【闇の縛鎖】
闇の鎖でもって、その巨体を縛り付け、尻尾部分から渾身の魔力を込めて引っ張った。
沼にハマった車をウインチで救助するように、デビルプラントで出来たアーチの中から、竜をズルズルと引き摺っていく。
極論だが、竜なんて手脚さえ無ければ、蛇のようなもんだ。
手脚の引っ掛かりが無くなり、絡み付いたデビルプラントから、見事、竜の身体を取り出す事が出来た。
救助している間に、マモンの魔玉を使い、竜に掛かっている呪いを、魔玉の中へ吸い取る。
リザラズで試すまで知らなかったが、マモンの魔玉は、実は呪いを自在にコントロールできるみたいだった。
まだまだ未知の部分があるが、とりあえず今はこれでいい。
「貴様…………、まさかこの為に、我の腕と脚を切ったと?」
「他にも手段があるにはあったが、お前は俺を怒らせたからな。
敢えて、この痛みを伴う救助方法を選んだ。
分かるか?お前は俺に、助けられたんだ」
「グゥゥゥ…………」
唸る古代竜。
俺の【回復魔法】により、既に四肢は再生し、身体を覆う鱗は以前の輝きを取り戻している。
体力も全快した事で、身体が一回り大きくなっている気もした。
「ゴォアアアアアアア!」
轟音が、頑丈なデビルプラント群を、激しく震えさせた。
大きな翼を広げ、全身をしならせる古代竜。
ただ、欠伸をしただけ、だった。
スケールの桁が違う。
漲る生命力、迸る威圧。
その圧倒的な存在感を前にして、自分が如何に矮小な生き物なのかを思い知らされる。
————龍眼に光が戻った。
ダンプカーのタイヤくらい大きな眼が、ギョロリと動き、俺を捉えた。
呪われ弱っていたさっきと、眼力が全然違う。
射抜かれるような殺気が浴びせられる。
「殺りたいなら、殺れよ」
なんとか絞り出た言葉がコレ。
死を受け入れてしまい、戦うって概念が頭からすっぽり抜け落ちてしまいました。
「グーハーハーハーハーッ!」
何だ?笑っているのか?
「見事なり!
我の完敗だ、強きニンゲンよ。
我は龍神ファブニール。其方を認めよう」
「は?」
「認めたと言っておるのが判らぬのか?
ならば…………我が魂の真名は、ラズヴェンラズース。
これより、其方に永遠の忠誠を誓い、支配下に降ろうぞ!」
————竜が起き上がって、仲間になりたそうにこちらを見ている。
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