時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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南の森⑩・大天使

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【精霊魔法】を酷使し続けるハイエルフの肩に、そっと手が添えられた。
 肩から伝わる優しい温もりに、メルロスは緊張の糸が切れたように崩れ落ちたが、倒れる事は無い。
 いつだってご主人様が受け止め支えてくれる。

「ご主人様……」 

「よく頑張ってくれた。
 お前がいなければ、使い魔共はとっくに全滅していただろう」

「ありがとうございます」

「魔力は回復させた。今すぐメリィの意見が聞きたい。あの騎士の呪いを解く事は出来るのか?」

 敵を助けようとするその言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。
 だが、ご主人様の事は誰よりも知っている自負がある。
 ご主人様が助けると言ったら、何があっても助けるのだろう。
 それでも、今回ばかりは無理かもしれない。

「これ程強い呪いを解くには、神官長クラスの術師、清められた祭壇、そして長い施術時間が必要です。
 ですが、この限られた状況で、私が解呪に臨む場合、いくつかの条件が必要となります」

「出来るならそれでいい。条件は?」

「対象を弱らせる必要があります。あとは時間を確保できれば」

「因みに弱らせるとは、具体的にどういった状態なんだ?」

「戦闘不能が最善となります。気絶、服従、支配、動かなくなれば手段は問いません」

「…………なるほど」

 なかなかに難しいな。
 リリィがリザラズを圧倒している今が、一番チャンスかもしれない。
 ともあれ、俺には試したい事が一つあった。
 懐からアモンの魔玉を取り出し、リザラズに向けて翳す。
 そう、呪いと言えば、魔人カースが記憶に新しい。
 頭に術式が浮かび上がり、リザラズに掛かっている呪いへ干渉を開始した。
 魔玉では解呪自体は出来ないが、呪いが掛かっている箇所を、自在に移動させる事が可能だ。
 呪いを手足に移動させ、より強い呪いを刻み込み、動きを止めてしまえばいい。
 まさに逆転の発想。冴えてるね、俺。

 それがきっかけとなり、リザラズは突如苦しみだした。
 リリィが攻撃の手を止める。
 呪いが手足に移った事で、頭部への抑圧が減り、意識が戻ったようだ。

「…………ここは、どこ…………だ?」

 地獄の底から呻くような悲痛な声に、リリィは胸を強く締め付けられた。

「ここは、ボルストンよ」

「ボル…………ストン?
 グゥゥゥ、…………ワタシは魔界で、テキを、グォォォ、テキをォォォオ!」

 混乱するリザラズが槍を突いたが、リリィは既に後方へ飛び、テツオの側まで来ていた。
 いよいよ手足が動かなくなってしまった騎士は、その場でよろめき倒れてしまう。

「テツオ!あれは何!酷いわ!」

「な、何が?」

 え?俺、怒られてる?動きを止めたんだぞ?
 むしろGGだろ?

「…………勝負は既に着いてたわ。
 それなのに、彼をあそこまで苦しめるなんて!」

「いや、呪いを解くには動きを止めろって、メリィが言うから。
 目には目をって言うだろ?」

 何に怒られているのか、全く分からない。
 しかも、アレは敵で、今は戦闘中だ。
 こいつ、実はヒステリックな一面があるのか?
 彼女は自分を落ち着かせるように、ふぅっと小さく息を吐いた。

「魔玉を使い出してから、テツオは変わり始めたわ。
 悪魔の力を使う度、貴方は闇に取り込まれていってるんだと思うの。
 とても、とても危険だわ。私は、貴方が心配なのよ」

 テツオに詰め寄るリリィの前に、メルロスが割って入る。

「リリィ、貴方は自分の主人が信じられないのですか?」

 俺が闇に取り込まれているだと?
 ハハハ、冗談キツいぜ。
 俺は大量の魔力を有し、魔法を、悪魔を、闇を、自在に操れる。
 だから、今まで生き残ってこれたんじゃないか。
 分かってないのは、リリィの方だ。

「メリィ、どうやらリリィは、天使の力が覚醒して自信が付いたようだ。守護天使のアイデンティティってやつか?」

「待って!何か大きな力を感じる!リザラズが!」

「至近距離で急に大きな声出すなよ。ビックリするだろ」

 リリィが叫ぶ。
 その声に促され、全員がリザラズの方を見る。
 今更、リザラズがどうしたってんだ。

「ああ、ギャビー…………、ずっと側に居てくれたのか…………」

 リザラズは、地に這いつくばったまま、虚空を見つめ、何か呟いている。
 とうとう気が触れたか?まぁ、最初から発狂していたようなもんだから大差無いが。

「何をブツクサ言ってやがる。
 さぁ、メリィ。あいつはもう動けない。リリィの為に、呪いを解いてやってくれ」

「お待ち下さい。呪いは既に解けています」

「嘘だろ?…………良かったじゃないか」

「いえ、それが…………消えているのは、呪いだけではなく、ご主人様の使い魔も」

「え?」

 そういえば先程から待機させていた使い魔達との魔力パスが微弱になっている。
 あいつら、どこいった?

「ギャビー…………?ってあのギャビー?」

「おい、リリィまで独り言かよ?」

「ギャビーは大天使ガブリエル様の愛称よ。まさか、ああっ!」

 すると洋館側から大きな声が聞こえてきた。

「テツオさーん!ゲームはたった今終わりました!そちらの勝利でーす!
 また次回お会いしましょー!」

 アスティは焦った。

 アイツが出てくるなんて、とんだイレギュラーだよ。
 今の魔人形態じゃ、とても太刀打ち出来ない相手。
 十分楽しませて貰ったし、彼の闇堕ちも進んだし、退くにはいい頃合いか。

 アスティは、扉向こうの闇の中へ逃げようとしたが、大きな力がそれを拒んだ。
 リザラズの頭上に、突如出現した眩い光球から発せられる高潔な波動が、アスティの身体を焦げつかせる。

 ————魔王アスタロト、貴様ノ所業、見逃す訳にいかぬ


 荘厳な音声が響く。
 光球にしか見えないが、漂う雰囲気は、前に遭遇した天使レミエルより、時の女神に近い。
 どこからか、大きな鐘の音が何度も響き渡り、聖なる光が周囲一帯へ放射しだした。

「ああっ、お兄ちゃん!身体が熱いよう」

「坊やぁ、あの光はダメェー!」

 ミルクとプリンが、太陽を嫌がる吸血鬼の様に、光の熱に悶え苦しむ。
 バイコーン、リザードマン、インプ、ライガーらの魔力パスは既に消失している。
 強化されているミルクとプリンの身体ですら、徐々に崩れ始めた。
 二体が俺の手を掴み、救いを求めるが、もはや為す術が無い。
 俺自身、傷一つ付いていないが、身動き一つ取れないのだ。
 この光は悪魔にだけ効果があるのか?
 数秒と保たず、リリムとサキュバスが消滅してしまった。
 洋館では、アスタロトことアスティも呆気なく消滅した。

 そこで、光の照射がピタリと止んだ。
 何棟も建っていた洋館は全て消え去り、幾分か小さくなった光球は、残った四人だけを優しく照らし続けている。
 俺の身体は自由になったが、事態が飲み込めず、立ち尽くしていた。
 なんなんだ、この目まぐるしい展開は?


 ————リザラズよ、残す言葉は、あるか?

「うう…………我々は……海を渡ったが、何の成果も……得られませんでした!」

 ただの光の玉にしか見えない大天使ガブリエルとやらが問いかけ、聖騎士リザラズは意味不明な事を呟き、呻いた。
 何の話だ?そういえばこの世界にきて、俺は海をまだ見た事が無い。
 海かぁ、海と言えば、海の幸。海老、蟹、マグロ、マグロギャル、水着ギャル、海行きたい。
 雑念が過ぎるくらい、意味の分からない時間が経過している。もう帰っていい?

 また光球から音声が響く。

 ————あれから長い年月が過ぎ去った。時代は絶えず移りしもの。汝の役目は既に終わった。
 天環の聖域で安息の時を過ごすが良い。

 暖かい風がリザラズを包み込み、光球と共にどこかへ消え去った。
 森は静寂に包まれる。
 リリィは、【翼】が消えると共に、気を失ったので、かろうじて両手で受け止めた。
 相当、疲弊しているようだ。

「…………終わったのか?」

「きゅ~」

「森から悪しき反応が消えた、とノムラさんが言ってます。いずれ精霊達が元の森へと再生する事でしょう」

 俺の独り言のような疑問に、メルロスが応えてくれた。
 顔には出さないが、メルロスもかなり疲れている。

「そうか、終わったんだな」

 ディビットやアスティとは何だったのか?
 服屋の店主が魔王だったとは驚いたが、本当に死んだのかは、定かではない。
 いや、そんな事は今考える事ではない。
 使い魔全滅のショックが、俺の中で消化できていないようだ。
 精神的にもっと強くならねば。

 …………さて、どうするか?
北の盾ノールブークリエ】の進行状況も気になるとこだが、この二人には休息が必要だ。
 ここで一旦休憩を取ってもいいが…………何かの気配を感じる。

 まだまだ気を抜く訳にはいかないみたいだな。

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