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南の森③・赤帯
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勇者軍を解散し、それぞれに別れを告げて国元へと帰還する。
魔王軍との戦いでは戦力を供出していたが、実際には前進防御だと言っても良い。戦って追い払う事で周辺から魔物を駆逐していたわけで、中間にある都市は疲弊しているし、町や村落などは言うまでも無いだろう。そんな場所を可能な範囲で復興させながら首都へと戻って行く。
簡素な復興作業を終えるたびに、無事なエリアへと移動するたびに感謝の声と歓声は増えていく。それが疲れ果てた兵士たちを慰める唯一のモノなのかもしれない。
「我らが国王陛下。長らくの不在、誠に申し訳ありませぬ。ですがようやく果たしました」
「よくぞ戻って来てくれたな。魔王の討伐、見事であった。日を置いて皆を労をねぎらう宴を催そう。だが疲れておろう、酒と一時金を出すゆえ今は休むが良い」
司令官であるレオニード伯爵が帰還を告げると国王陛下は鷹揚に頷いた。
そして陛下が伯爵の後ろに居る俺達に向けて笑みを向けると、一同の興奮はボルテージを上げる。MAXとはいかないが皆が感動し、誰もが国王陛下万歳と声を上げ、魔王を打ち破るキッカケとなった我が国の国王を讃える。それは自分たちの苦労を癒す何よりの薬だからだ。人間、努力が報われたと思う時が一番癒されると言う者も居る。
やがて部隊長たちが割符を受け取り、金と酒を貰うために退出。俺と伯爵も一時的に陛下の元を退出し、後に王宮の一室に通されることになった。
「ここには話の判る者しか通しておらぬ。少々の事には目を瞑るゆえ楽にしてよいぞ」
「はっ。お言葉に甘え失礼いたします」
「御尊顔を真近に拝し、光栄であります」
陛下の言葉は一応の形式だ。無礼講だと信じる馬鹿は居ない。
伯爵は略式で、俺は可能な範囲で敬礼をして席に着いた。周囲に居る貴族は王党派に所属する側近と言う所だろう。伯爵はともかく俺の動きを見てウンウンと頷く者が居る。俺が鄙びた民衆の出であると確認しつつ、形式でしかない言葉を信じて礼を失していないことに満足しているのだろう。要するに新参者へのマウント取りである。
「さて、大戦の英雄を我が国に招くにあたり、どれほどの地を与えて良いか悩んでおった。しかし本当にゴルビーで良いのか? 領都であるゴルベリアスでさえ都市と言うほどではないぞ?」
「直答を許す。陛下の御下問に答えよ」
「はっ。失礼いたします」
伯爵から話が通っているので、基本的に相互確認でしかない。
一問一答など存在せず、事前に決めた内容を読み上げる程度の内容でしかなかった。緑化を目的としているが、他の砂漠と違って可能性がある事。人力ではコストに見合わないが、自分ならばゴーレムで省力化出来る事。その後の開拓並びに遊牧民や海賊対策として、特化したゴーレムを少しずつ造るという事を説明していく。
それらを陛下と貴族たちは頷いて聞くというセレモニーであった。
「よろしい。ではひとまず男爵に列しよう。その言が真実であると判った時、陞爵させる。それで問題ないな?」
「新貴族たちは男爵を最高位といたしますが、色々な意味で貫目が足りませぬ」
「広さのみを考えれ伯爵が相当しますが、彼の地であれば妥当かと」
貫目というのは、つり合いが採れるかどうかを示す言葉だ。
俺は勇者ではないものの英雄の一人であり、馬鹿正直に褒美を当てると定義された褒賞を越えてしまう。特例を出せばやっかみが増えるが、荒野と砂漠だけのゴルビー地方ならば問題ない。そして俺が緑化計画を持っているのでいずれ子爵とすることが内定しており、『あの国は英雄をたかが男爵に留めているそうだ』などと噂されることも無いだろう。
ちなみにこの国では貴族は『伯爵』を基本単位としている。
公爵は王族のみ、侯爵は一部の功臣が名誉として列せられる。そして領地の広さや地位の重要度で伯爵に任じられることになり、小さな領地や課長クラスは男爵と言う訳だ。子爵は次席という意味で存在し、領地貴族ならば長男で騎士団領ならば副将と言う事になる。
「レオニードからは既に金策の目途は付いたと聞いておる。他の者は数年ほど免じる予定になっている筈だが、早い段階から国庫に収めるが良い。さすれば誰もが新貴族の筆頭と見ようぞ。場合によっては末の娘を姫とし、嫁がせても良い。その場合にアンドラの名跡は子に与えれば良い」
「陛下……お戯れを。何処の地も疲弊しておりまするぞ」
「それにユーリ様は確かようやく十歳になったばかりの筈」
陛下の言葉に重臣たちは異なる意味で苦笑している。
砂漠と荒野ばかりの土地を貰って、どうやって税金を収めろと言うのか。そして下の娘だが『今は』姫ではない……要するに妾に産ませた子供なのだろう。英雄の血を王家に取り入れる……にしては場所も縁も遠いが、だからこそ好都合な相手なのかもしれない。その証拠に他の貴族たちも冗談だとしか思っていない。まあ戦続きで困っている状態の領地が多いし、格式の低い妾の娘なら丁度良いと思っているフシもあった。こういう所もマウントなのかもしれない、何しろ側近たちはみんな王家の血が何処かで入っており、王の娘を嫁に迎えることに嫉妬心は入らないのだから。
なお、普通の男爵の税金は金貨で300ルーブルほど、新参の男爵は500ルーブルだそうだ。伯爵は1000ルーブルだが、それも加算して計算されるだろう。1200か1300というところかな?
「ミハイルよ。何か言いたいことはあるか?」
「陛下からいただく御恩、並びに諸卿がたの御厚情には感謝の念も堪えませぬ。まずは水利と治水を兼ねて、近くにある大河に堤と用水路を築くことで、その念に替えたいと思います」
陛下からの最後に言葉に俺は膝を着く。
して欲しい事の質問というよりは、どんな貢献を国家に示すかを問うているからだ。俺としても他の領主たちに話を通しておかなければ、『うちの領地に掛かる場所で勝手な事をするな!』と言われてしまう。だが、ここで宣言して置けば側近たちが自分のコネクションで勝手に伝えてくれるだろう。彼らへの付け届けも必要だが、ひとまず必要な手続きはこれで終了となった。
「ゴルビー男爵、ミハイルよ。そなたに剣を授ける」
「偉大なるオロシャの王、レオニス陛下に忠誠を。この国と陛下に光あらんことを!」
こうして略式ながら任命と宣誓の儀式を終える。
所詮は側近しかいない身内だけのセレモニーであるが、仲間内で新参者を歓迎するだけならばこれで十分だ。後日の儀式で大々的にやるのだろうが、ここまで来れば内定からほぼ決定だと言ってよい。肩の荷が下りたという所である。
(そういえば名前は適当に考えたから、その辺りも追加が必要だな。ひとまずセカンドネームを決めるとして、色々と近況やら近くの勢力のメモでも書いておくか)
ちなみに貴族は同じ名前も多くセカンドネームが存在する。
大抵は父親または母親の名前を付けるのだが、初代は好きな単語をもじるそうだ(主に勇ましさや知性を想起させる言葉が多いとか)。俺は悩んだ挙句ゴーレムを見ながらゴーリキーとしておいた。ミハイル・剛力・ゴルビー男爵という名前になる感じだな。仮にユーリちゃんがうちに嫁いで来たら、ユーリ・レオナ・ゴルビーとなり『姫』としての冠詞が付くか付かないかだろう。先日度付随してアンドラの名跡とか言っていたが……おそらくは妾を残して全滅した地方領だと思われる。領地はくれないが、家名を次男・三男の為に用意してやっても良いという話かと思われる。
ともあれ、諸手続きを終えた俺は勇者軍に参加した兵士や傭兵の中で、信用が置けて暇している連中を雇用して領地へと赴くことにしたのである。
勇者軍を解散し、それぞれに別れを告げて国元へと帰還する。
魔王軍との戦いでは戦力を供出していたが、実際には前進防御だと言っても良い。戦って追い払う事で周辺から魔物を駆逐していたわけで、中間にある都市は疲弊しているし、町や村落などは言うまでも無いだろう。そんな場所を可能な範囲で復興させながら首都へと戻って行く。
簡素な復興作業を終えるたびに、無事なエリアへと移動するたびに感謝の声と歓声は増えていく。それが疲れ果てた兵士たちを慰める唯一のモノなのかもしれない。
「我らが国王陛下。長らくの不在、誠に申し訳ありませぬ。ですがようやく果たしました」
「よくぞ戻って来てくれたな。魔王の討伐、見事であった。日を置いて皆を労をねぎらう宴を催そう。だが疲れておろう、酒と一時金を出すゆえ今は休むが良い」
司令官であるレオニード伯爵が帰還を告げると国王陛下は鷹揚に頷いた。
そして陛下が伯爵の後ろに居る俺達に向けて笑みを向けると、一同の興奮はボルテージを上げる。MAXとはいかないが皆が感動し、誰もが国王陛下万歳と声を上げ、魔王を打ち破るキッカケとなった我が国の国王を讃える。それは自分たちの苦労を癒す何よりの薬だからだ。人間、努力が報われたと思う時が一番癒されると言う者も居る。
やがて部隊長たちが割符を受け取り、金と酒を貰うために退出。俺と伯爵も一時的に陛下の元を退出し、後に王宮の一室に通されることになった。
「ここには話の判る者しか通しておらぬ。少々の事には目を瞑るゆえ楽にしてよいぞ」
「はっ。お言葉に甘え失礼いたします」
「御尊顔を真近に拝し、光栄であります」
陛下の言葉は一応の形式だ。無礼講だと信じる馬鹿は居ない。
伯爵は略式で、俺は可能な範囲で敬礼をして席に着いた。周囲に居る貴族は王党派に所属する側近と言う所だろう。伯爵はともかく俺の動きを見てウンウンと頷く者が居る。俺が鄙びた民衆の出であると確認しつつ、形式でしかない言葉を信じて礼を失していないことに満足しているのだろう。要するに新参者へのマウント取りである。
「さて、大戦の英雄を我が国に招くにあたり、どれほどの地を与えて良いか悩んでおった。しかし本当にゴルビーで良いのか? 領都であるゴルベリアスでさえ都市と言うほどではないぞ?」
「直答を許す。陛下の御下問に答えよ」
「はっ。失礼いたします」
伯爵から話が通っているので、基本的に相互確認でしかない。
一問一答など存在せず、事前に決めた内容を読み上げる程度の内容でしかなかった。緑化を目的としているが、他の砂漠と違って可能性がある事。人力ではコストに見合わないが、自分ならばゴーレムで省力化出来る事。その後の開拓並びに遊牧民や海賊対策として、特化したゴーレムを少しずつ造るという事を説明していく。
それらを陛下と貴族たちは頷いて聞くというセレモニーであった。
「よろしい。ではひとまず男爵に列しよう。その言が真実であると判った時、陞爵させる。それで問題ないな?」
「新貴族たちは男爵を最高位といたしますが、色々な意味で貫目が足りませぬ」
「広さのみを考えれ伯爵が相当しますが、彼の地であれば妥当かと」
貫目というのは、つり合いが採れるかどうかを示す言葉だ。
俺は勇者ではないものの英雄の一人であり、馬鹿正直に褒美を当てると定義された褒賞を越えてしまう。特例を出せばやっかみが増えるが、荒野と砂漠だけのゴルビー地方ならば問題ない。そして俺が緑化計画を持っているのでいずれ子爵とすることが内定しており、『あの国は英雄をたかが男爵に留めているそうだ』などと噂されることも無いだろう。
ちなみにこの国では貴族は『伯爵』を基本単位としている。
公爵は王族のみ、侯爵は一部の功臣が名誉として列せられる。そして領地の広さや地位の重要度で伯爵に任じられることになり、小さな領地や課長クラスは男爵と言う訳だ。子爵は次席という意味で存在し、領地貴族ならば長男で騎士団領ならば副将と言う事になる。
「レオニードからは既に金策の目途は付いたと聞いておる。他の者は数年ほど免じる予定になっている筈だが、早い段階から国庫に収めるが良い。さすれば誰もが新貴族の筆頭と見ようぞ。場合によっては末の娘を姫とし、嫁がせても良い。その場合にアンドラの名跡は子に与えれば良い」
「陛下……お戯れを。何処の地も疲弊しておりまするぞ」
「それにユーリ様は確かようやく十歳になったばかりの筈」
陛下の言葉に重臣たちは異なる意味で苦笑している。
砂漠と荒野ばかりの土地を貰って、どうやって税金を収めろと言うのか。そして下の娘だが『今は』姫ではない……要するに妾に産ませた子供なのだろう。英雄の血を王家に取り入れる……にしては場所も縁も遠いが、だからこそ好都合な相手なのかもしれない。その証拠に他の貴族たちも冗談だとしか思っていない。まあ戦続きで困っている状態の領地が多いし、格式の低い妾の娘なら丁度良いと思っているフシもあった。こういう所もマウントなのかもしれない、何しろ側近たちはみんな王家の血が何処かで入っており、王の娘を嫁に迎えることに嫉妬心は入らないのだから。
なお、普通の男爵の税金は金貨で300ルーブルほど、新参の男爵は500ルーブルだそうだ。伯爵は1000ルーブルだが、それも加算して計算されるだろう。1200か1300というところかな?
「ミハイルよ。何か言いたいことはあるか?」
「陛下からいただく御恩、並びに諸卿がたの御厚情には感謝の念も堪えませぬ。まずは水利と治水を兼ねて、近くにある大河に堤と用水路を築くことで、その念に替えたいと思います」
陛下からの最後に言葉に俺は膝を着く。
して欲しい事の質問というよりは、どんな貢献を国家に示すかを問うているからだ。俺としても他の領主たちに話を通しておかなければ、『うちの領地に掛かる場所で勝手な事をするな!』と言われてしまう。だが、ここで宣言して置けば側近たちが自分のコネクションで勝手に伝えてくれるだろう。彼らへの付け届けも必要だが、ひとまず必要な手続きはこれで終了となった。
「ゴルビー男爵、ミハイルよ。そなたに剣を授ける」
「偉大なるオロシャの王、レオニス陛下に忠誠を。この国と陛下に光あらんことを!」
こうして略式ながら任命と宣誓の儀式を終える。
所詮は側近しかいない身内だけのセレモニーであるが、仲間内で新参者を歓迎するだけならばこれで十分だ。後日の儀式で大々的にやるのだろうが、ここまで来れば内定からほぼ決定だと言ってよい。肩の荷が下りたという所である。
(そういえば名前は適当に考えたから、その辺りも追加が必要だな。ひとまずセカンドネームを決めるとして、色々と近況やら近くの勢力のメモでも書いておくか)
ちなみに貴族は同じ名前も多くセカンドネームが存在する。
大抵は父親または母親の名前を付けるのだが、初代は好きな単語をもじるそうだ(主に勇ましさや知性を想起させる言葉が多いとか)。俺は悩んだ挙句ゴーレムを見ながらゴーリキーとしておいた。ミハイル・剛力・ゴルビー男爵という名前になる感じだな。仮にユーリちゃんがうちに嫁いで来たら、ユーリ・レオナ・ゴルビーとなり『姫』としての冠詞が付くか付かないかだろう。先日度付随してアンドラの名跡とか言っていたが……おそらくは妾を残して全滅した地方領だと思われる。領地はくれないが、家名を次男・三男の為に用意してやっても良いという話かと思われる。
ともあれ、諸手続きを終えた俺は勇者軍に参加した兵士や傭兵の中で、信用が置けて暇している連中を雇用して領地へと赴くことにしたのである。
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