時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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プレルス城

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 プレルス領の二大クランの一つである【深淵の監視者アビスウォーデン】。
 在籍団員数は二百名を超え、金等級ゴールド団員数は領内最多の八名。
 サルサーレ領最大クラン【北の盾ノールブークリエ】ですら、つい最近まで二人しか金等級ゴールドがいなかった事を鑑みれば、かなり規模が大きいクランだといえる。
 人数が多くなれば、内部事情も複雑になっていくのは仕方のない事だろう。

 救助者が誘拐犯として指差したのは、その【深淵の監視者アビスウォーデン】に所属するアンリという名の金等級ゴールド団員だった。
 以前、同クランと揉めた時に、縄を使って場を収めようとした齢五十程の渋いおっさんだ。
 正直言って全然知らない人だし、事情もよく分からない。

「アンリ…………なんでだ?」

 団長であるセリーナが詰め寄るが、アンリは何も言わず俯いた。

「おいっ、嘘だろっ!否定しろよっ!
 お前は団をまとめてきた古参の一人だ!
 ありえねぇよっ!」

「どくんだっ!聴取は我々が執り行うっ!」

大渓谷の守護者ビッグバレーガード】の団員達がアンリを拘束し連行しようとするが、セリーナがしつこく食い下がる。

「誰かに命令されたんじゃねぇのか!
 それとも、脅されているとかよぉ!」

「くどいぞ!セリーナ!
 今、お前達全員連行したって構わないんだぞ!」

 アンリが連れて行かれないように周りを取り囲んでいた【深淵の監視者アビスウォーデン】の団員達は、セリーナが手を上げると渋々ながらも命令に従い、…………道を開けた。
 縄の得意なアンリが自ら縄に縛られ連行されるその姿を見て、団員達からは得もいえぬ悲壮感が溢れている。

 別に、セリーナや【深淵の監視者アビスウォーデン】に肩入れする訳では無いが、なんとなく居心地が悪いのは何故だろう。

大渓谷の守護者ビッグバレーガード】の一人が、俺の元に駆け寄り、頭を下げる。
 今から城に行くので同行してほしい、と。
 恐らくは、プレルス女伯爵カウンテスからの言伝だろうが、お忍びで来訪したにも関わらず、俺の存在を把握していたというのか?
 だとすれば、俺の行動をどこまで把握しているのか?

 街まで戻ると、四人乗りの豪華な馬車が用意されており、俺達はそれに乗り込んだ。
 俺の隣に座ろうとしたアデリッサとアルが頭をぶつける。
 何やってんだか。

「あ、ごめんねー!」

「えっ?あっ、すいません。えっ?どちら様ですか?」

 アデリッサは頭を摩りながら、混乱している。
 それもそのはず。アルは力を抑える為に【隠密】状態にまで存在を消し、認識し難くなっていた。
 そして、紹介はこれからだ。
 俺はニーナを抱えているので、対面側にアデリッサとアルを並んで座らせた。

「紹介しよう。こいつはアルだ。さっき谷で拾った」

「え?谷で拾ったって…………
 ああ!分かりました。
 私はアデリッサです。宜しくお願いします!」

 アデリッサには【脳内伝達テレパシー】で竜の存在を教えておいた。

「あれ?
 んー、まぁいいかー。よろしくねー。
 で、そっちの寝てる子はー?」

「こいつはニーナ。
 このパーティで悪魔を倒したんだから、この二人はお前の恩人でもあるな」

「あ、そっか!ありがとねー」

 相変わらずノリが軽いな。
 恐らく誰に対しても一緒なんだろうな。
 長く生きると個というものに対して執着が無くなるのだろうか?
 アルは、馬車の中から見える街並みに夢中になっている。久々に地上の風景が見れて嬉しそうだ。
 アデリッサと目が合うと、優しく微笑み、小声で話を振ってきた。

「子供の頃に聞いた昔話の知識ですけど、その……もっと怖い存在なのだと思ってました」

「俺も最初は面食らったな。
 まぁ、俺もアルとあまり変わらないかもしれない。
 この世界は未だに驚く事ばかりだ」

 馬車に揺られながら、しばらく穏やかな時間を過ごした気がした。
 ぼうっとしていると、ニーナの目がパチリと開き、俺と目が合う。
 起きたら労ってやろうと思っていたので、良く頑張ったな、と頭を撫でてやると、ニーナは何も言わず抱き付いてきた。
 肩が少し震えている。
 仕方ない。目的地に着くまではこうしといてやるか。
 右手で頭を撫でながら、ニーナの身体の下に潜る左手で乳首を弄り続けた。
 うまく死角になっているようで、他二人からは見えていないようだ。

 その後、馬車は街並みを通り過ぎ、深い森へと入っていく。
 城は森の中にあるらしいが、周囲からかなり濃い魔力が感じられる。
 防衛の為か、はたまた隠匿の為か。
 これは気を引き締めていった方がいいかもしれない。
 茨や蔓といった植物にみっちりと覆われた古城が現れた。
 城の周りを囲む花壇には、赤や黄色といった多彩な花々が咲き誇り、これが女領主の美意識かと思ったが、よく見ると花壇の上を何かが飛んでいる。
 光の屈折、あるいは羽から舞い落ちる鱗粉に魔力を透し、不確かな実体化を繰り返すその様を俺は見逃さない。

 あれは…………妖精フェアリーだ。

 手の平サイズの妖精達が、花壇の上をまるで泳ぐように楽しく舞っている。
 警戒心の強い妖精達が、人間の兵士達が近くにいるにも関わらず、ごく当たり前に馴染んでいるのはどういう訳か。
 思案している内に、目的地に到着したようだ。

 従者は、我々が降りたのを確認すると一礼し、そのまま馬車に乗り込み、来た道を戻っていった。
 俺達の帰還方法はプレルス城備え付けの転移装置から、という事だろう。

 女性兵士が受け継ぎ、城内へと案内してくれた。
 背丈の倍はある大扉から、広いエントランスに入ると、中はより濃い魔力に満たされている。
 問題なのはその魔力量より、質だ。
 濃艶で扇情的な波動が城内全体を渦巻いている。
 そういえば、エントランス、廊下と来て、通り過ぎる全員が女性じゃないか?
 兵士も使用人も誰もが女性。男性は一人もいない。
 これは女伯爵カウンテスの趣向なのか。

 やたらと長い道程を経て、いよいよ女伯爵カウンテスがいる謁見の間へと通されるといった時に、扉前に待ち構えていた執事と名乗る女性に呼び止められた。
 どうやら、女伯はまず領主だけの謁見を希望しており、同行者は別室で待ってほしい、との事。
 断る理由もないので承諾する。
 執事は、三人の姿が見えなくなったの確認してから扉を開けた。

 ————————


 謁見の間は広く、壁から天井まで自由に舞う妖精がデザインされた装飾が施されている。
 まるで美術館のように美しい。
 そして、奥には玉座に座るピュティロがいた。
 ここには彼女しかいない。
 俺に気付くと勢いよく立ち上がった。
 何やら驚いた顔をしているが、なんだろう?
 それにしても、この部屋は更に強い魔力が満ちている。
 これは、…………フェロモンだ。
 身体に絡み付いてくるような媚薬の如きフェロモンが俺を誘惑する。
 サキュバスに慣れていなかったら、骨抜きにされていたかもしれない。
 このピュティロ・プレルスという女伯は、単なる人間の貴族ではないのか?

「ああ、ヨハン!ヨハンなの?」

 ピュティロが豪華な貴族らしいドレスをひらひらとはためかせ、俺に向かって急ぎ駆け付け、全体重を預ける様にもたれかかる。
 なんていい匂いなんだ。綿の様に軽いのに、ボリューミーで柔らかい肉感はしっかりと伝わってくるではないか。
 クラクラするぜ。

「ピュティロ・プレルス女伯爵カウンテス
 私はテツオです」

「えっ?
 あぁ、申し訳ありません。とんだ失礼を…………」

 悲しげな顔をして、ピュティロは俺から離れた。
 ヨハンと言う名は聞いた事がある。
 確かピュティロの夫の名前だ。とっくの昔に死んだと聞いている。
 この領地は歴史が古く、昔から女系が領主を務めている。真偽は分からないが、女しか産まれない家系だとか。

「その剣を持つ姿を見て、亡き夫ヨハンと見間違えてしまいました。
 その剣は、どちらで?」

「谷底で見つけました」

「ああ、やはり…………そうですか」

 辛そうに顔を顰めたピュティロは、感情を隠す様に俺にお辞儀をすると、謁見の間から繋がる隣の部屋へと案内した。
 そこは応接間だった。部屋が狭いから充満しやすいのか、また一段と魔力が濃い。

 成人男性十人がゆったり座れる程の大きな革張りのソファに、ピュティロと対面する様に座る。
 濃い魔力で喉が渇いたのか、出された紅茶を一気に飲み干す。脳天を揺さぶるような不思議な味がした。

 ピュティロがじっと俺を見ている。
 美しい女性だ。
 人間離れした綺麗な顔立ちに、煌めく黄金色の髪は風も無いのにふわふわと揺れて光っている。髪から何やら光の粉が出ているような?

「その剣は、亡き夫ヨハンの剣でした。
 魔力が込められた聖剣です」

「なんと、形見でしたか。見つけられて良かった」

 やはりこの剣はいわく付きの特別な一品だったか。
 速やかにテーブルの上へと剣を置く。

「此度の一件、娘の幼馴染みだけでなく、大勢の民草を救い出し、あの恐ろしい谷を鎮められたと聞いています。
 とても、お礼のしようがございません」

 改めて、深々とお辞儀をするピュティロ。
 流石は貴族。ここまでの、優雅さ、品格を持つ女性には人間界では中々お目に掛かれない。

「それでも領主様の手を煩わせた以上、何もしない訳には参りません。
 テツオ侯爵マーキス、何かお望みの物はありますか?」

 望みの物か…………
 この国の領主達とは、なるべく友好な関係を結んでおきたい。
 貸しを作るだけでも十分そうだが、ピュティロはそういう訳にはいかないと、金貨や宝石、美術品等の値打ちのある物を次々と提示する。
 本来なら金品でのやり取りが一番スッキリするんだろうが、正直言ってジョンテ領の経済は右肩上がりの好景気であり、全く金に困っていない。

「どうしましょう…………
 これではお礼のしようがございませんわ」

 ピュティロは困ったとばかりに身体をくねらせ、しなを作った。色っぽい仕草だが、上品さはしっかり保たれている。
 二十代前半にしか見えない若さに、熟女を彷彿させるセクシーさ、更に貴族の気品を兼ね備えてるとは、なんてけしからん領主なんだ。見ているだけでクラクラするぜ。

「こ、困らせてしまい申し訳ありません」

 なんだろう、これだけ高貴な方を前にすると緊張のせいか、どうにも喉が渇く。
 それを察したピュティロが、再び淹れてくれた紅茶を、またも一気に飲み干した。
 ふぅ、やっぱり変な味がする。
 貴族にしか分からない深みがあるのだろうか?
 そもそもこの紅茶は俺が知っている紅茶では無い。色は薄紫色で、甘い匂いはするが、甘味は無い。むしろ苦いくらいだが、後味は悪くない。

「では、お礼の話は後にして、別の話をしましょうか」

 無性に身体が火照りだす。汗ばんできた。
 部屋が暑いのか?俺が熱いのか?
 頭がクラクラする。
 ピュティロが鈴を鳴らす。
 気がつくと、部屋に一人、縄に縛られた男が蹲っていた。

「テツオ様、この男が誰かご存知でしょうか?」

 ピュティロの声が何故か遠くに聞こえる。それでも、これが誰なのかは分かる。
深淵の監視者アビスウォーデン】団員で人攫いをしていた男。

「アンリ…………」

 何故、ここに?
 ピュティロは立ち上がってまた俺のカップに紅茶を注ぐ。
 それにしても、やたらと喉が渇く。もう何杯目だろう。
 あれ?身体がふわふわする…………

「やっと効いてきたようですね。
 一般男性ならほんの一滴でも意識が保てないというのに…………フフフ。
 流石は今話題の冒険者様。お強い方は好きですわ」

 …………何を言っている?
 駄目だ、意識が保てない。
 まさか、領主が…………こんな…………事を…………


 ————テツオは、そのままソファに崩れ落ちた。

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