時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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エルドール②

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 遅かれ早かれ、この日が訪れると心の隅ではわかっていた。

 年数などははっきりと覚えていないけれど、およそ六百年以上前、ここエルドールで、土の大精霊の依り代である神官長シャシャラの娘メルロスとして生を受ける。

 自分で言うのも可笑しいが、昔から真面目なエルフだったと思う。
 そもそも、世界を構築する自然そのものである精霊と、永く共存するエルフの感情は非常に乏しく、ハイエルフともなれば自我が薄れていき、精霊と一体化していく者もいる。
 エルフ族は総じて真面目なのだ。
 冗談などを理解出来る者はごく僅かだろう。
 理解出来たとて理屈が解るだけで、それで笑う者は更に数を減らす。
 そんな面白味の無い退屈な種族なのだ。

 土精霊のノムラさんは、子供の頃から一緒だった。
 小さくてフワフワで、とても可愛いモグラ型の精霊。

 幼くして精霊の加護が受けれたのは、血統と思っていたが、女王エルメスは私が優秀だからだと褒めてくれたのを覚えている。
 二百歳を超え、最年少とやらでハイエルフとなった時には、毎日が退屈で退屈で仕方なかった。

 それでもする事がないので、精霊の力を引き出すべく修行を繰り返す日々が続く。
 そんなとある日、精霊の意識が垣間見えた。
 完全に接続リンクしそうになった。
 自我が消し飛び、自然と同化する感覚。
 私が私で無くなる恐怖。

 それ以降、父がどれだけ私に呼びかけようが、私は自分を閉ざした。
 ノムラさんはいつでも私に力を貸してくれる。
 それで十分だった。

 それから約百年後、人間がエルドールに訪れた。
 ここに迷い込む人間は百年に一度はいたと思う。
 だが、この人間はいつもの迷い人とは違っていた。
 ここを探し求めてやって来たと言う。

 エルフと心を通わせる不思議な力を使い、次々とエルフ達を懐柔していった。
 ハイエルフ達はそれを遠巻きに眺めている。
 精霊の力を引き出している数少ないハイエルフ達の殆どは、人間に無関心だった。
 私はあの様に感情を無くしたくない。
 だが、人間にも興味が無かった。
 つまるところ、私も他のハイエルフ同様に無関心だったのだ。

 それからすぐに、エルドール内が慌ただしくなってくる。
 魔族が大陸に攻めてきたのだと人間が言う。
 大陸が魔障で満たされれば、自然は荒れ果て、エルドールは滅ぶ。
 女王は人間に協力を約束した。
 そしてその日、エルドールは二つに割れたのだ。

 父は協力を拒んだ。
 人間には無関心でも、退屈が嫌な私は大陸へと行きたかったが、父に止められた。

 人間は勇者と名乗り、女王に度々贈り物をしていた。
 女王に惚れたのだ、と。
 ハイエルフである女王が、徐々に表情を変えていく。
 勇者がいよいよ決戦に向かう前には、透き通る程の青白い顔が赤くなっていた。
 人間界に行った事のあるエルフが、あれは恋心、恋愛感情なのだと教えてくれた。
 人間と恋に落ち、ハーフエルフという混血が生まれる事も知った。
 結ばれる可能性を知ってしまった。

 それに私は憧れてしまったのだ。

「恋がしてみたい」

 人間からしてみれば長い戦が終わり、大陸から魔族は去り、戦争に行った殆どのエルフ族は戻らなかった、と父から淡々と聞かされる。
 同胞が大勢亡くなったのに、父の表情からは悲しんだ様子が無い。
 そもそも感情が乏しいのだ。
 いや、既に感情は切り捨てたのかもしれない。

 戦が終わり、女王はしばらく皆の前に姿を現さなかった。
 悲しみに明け暮れているのだと、戦士長が説明してくれた。
 人間と接するとこうまで感情が溢れてくるものなのだろうか。

 いつまで経っても勇者は戻らなかった。
 人間の寿命が短命なのは私も知っている。

 それから百年が過ぎて、女王が再び輝きを放ち出した。
 以前より眩く洗練されたその光は、エルドール中を包み込む。
 その時、私はそれが慈愛の光だとまだ気付いていない。
 女王は優しく微笑みをたたえる様になる。
 その表情を初めて見た時、呼吸が辛くなる程に胸を強く貫かれた。
 その表情について聞いても、女王は教えてくれない。

 「恋を知りたい」

 父の制止を振り切って、私はついに人間界へと降りた。
 今から約五十年前だ。

 人間界は何もかもが新鮮だった。
 感情が街に溢れている。
 綺麗な感情、邪悪な感情、様々な感情が頭になだれ込む。
 人間は美しく、そして醜い。

 特に貴族という人間は、弱者を虐げ私腹を肥やしていた。
 人間の悪い感情について詳しく知ろうと探っているうちに、悪魔の存在に気付いてしまう。

 ————悪魔がいた!

 三百年経っても、戦争が終わっても、まだ悪魔は大陸に隠れ潜んでいたのだ。
 不完全なハイエルフでは魔王に敵わない。
 あっさり捕まってしまうとは情け無い。

 牢獄の日々、次々と人間が捕まり、数が増えていく。
 私は商品が傷付かない様、治癒する為だけに生かされていた。
 心を摩耗していくのが自分でも分かる。

 一年後、とある人間が私達を助けだす。
 まさか、誇り高きハイエルフが人間に助けられるだなんて。
 その人間はやたらと胸や脚をチラチラと見ていやらしい顔をするので、結局人間の雄なんてものは、欲望に塗れたただの獣と変わらないと思い至った。

 ところが、父は光文蟲を私に届けて欲しいとその人間に頼んでいた!
 しかも父自ら出向き、呪いまで解いたのだと!
 あの人間嫌いの父が!
 それどころか、その人間に助けて貰った恩を返せ、と私に命じた。

 次第と頭の中が、その男でいっぱいになる。
 確かに今まで見てきた他の男とは何かが違う。
 名はテツオ。

 それからは早かった。
 ご主人様となったその男は誰に対しても優しく、そして強い。
 牢獄で皆が話していた恋という事象。
 胸がドキドキするという反応も一致する。
 これが、これこそが、女王エルメスが三百年前に体験した恋愛感情だったのだ———。


 ————————


 遅かれ早かれ、この日が訪れると心の隅で分かっていた。

 ご主人様が私の力を求めている。

 リリィも、ご主人様の役に立つ為にここエルドールで修行をして飛躍的に力を伸ばした。
 誇り高きハイエルフがいつまでも人間の足手まといなんて許されない。

 そうして私はご主人様に付き添われ、五十年振りにエルフの国へと帰ってきた。
 懐かしい精霊の風が優しく頬を撫でる。
 ここはずっと時間が止まったかの様にただ在り続けるのだ。
 何も変わらない。

 私は土精霊ノームの祭壇前で祈った。

 何時間経ったろうか。
 荘厳な気配を感じる。
 間違いない、父だ。

「メルロス、顔を上げなさい」

 厳格な声が、私を呼ぶ。
 恐る恐る目を開くと、私は絶句した。

 私を見る父の目に涙が。
 ……泣いている!
 あり得ない。
 信じられない。

 混乱している私を父は強く抱きしめた。

「よく……、よく戻ったな」

 その慈愛に満ちた優しい声を聞いて、私の目からも涙が溢れた。
 父には感情が無かったんじゃない。
 神官長としての責任感から感情を抑えていただけだ。
 キュウキュウとノムラさんが喜ぶように私達親子の周りを飛び回った。

「さぁ、メルロス。
 精霊の力を受け入れるのだ」

 父が私の肩に手を置き、精霊魔法を唱えると、徐々に私の意識が遠のいていく。
 まるで自然と同化してしまいそうな、以前感じた恐怖が再び私を襲う。
 消えたくない!

「こ、怖い」

「怖くは無いよ。
 受け入れるんだ」

 肩に添えられた父の手から私を安心させようとする気持ちが伝わってくる。

「でも怖い」

 私が私じゃなくなっていく感覚。
 自然と一体化したらご主人様を二度と感じられなくなる。
 私はもうご主人様を知ってしまった。

 そっとご主人様の手が背中に触れる。
 勇気が湧いてくる。
 ……何も怖くなくなった。

「メリー、大丈夫だ」

 意識が遠退く脳裏にご主人様の言葉が響き渡る。
 今、ご主人様は大丈夫だと言い切った。
 絶対的な安心感。
 私の恩人。
 私の全て。
 私の……愛。

 意識が、消える————。

 ————————

 それは全ての精霊の記憶。
 記憶が次々と身体を貫いていく。

 火が始めた生命。
 水が産んだ生命。
 風が作った生命。
 土が育んだ生命。
 それらが奪い、また生まれる。

 これはエルフの歴史。
 とても抱えきれない重み。

 平和ばかりでは無かった。

 無蔵の生命を摘み取った戦士長が苦悩している。
 魂を鎮める神官長が地面に突っ伏している。
 エルフの死を悼み霊を慰める女王が延々と泣く。

 精霊はその全ての場面において私達と共にあった。

 何千年もの昔から精霊はずっと見守っていたのだ。

 記憶が現在まで戻ると、目の前が真っ白になる。


「……キュウ……」


 真っ白い光の先から、いつも一緒にいた土精霊ノームの声が聞こえてきた。

「……ノムラさん?」

 集積した光がノムラさんの形に浮かび上がってくる。


「……やっと話しぇたね。
 じゅーっと待ってたよ」

「話せた……の?」

 ノムラさんは私の質問には答えず、鼻をピクピク動かして喜んでいる。
 もしかすると頭に流れ込む意識を、私が言葉に置き換えて理解しやすくしているのかも知れない。
 ともかく、今信じられない事にノムラさんと意思疎通が出来ている。

「ボキと話しぇるって事は、もうボキの力をじぇんぶ使えるって事。
 でも、これはボキを大精霊にしゅる長い旅の始まりにしゅぎないのであった!」

 ノムラさんから眩い黄金色の風が吹き付け、私の身体を包み込んでいく。
 精霊の意思を感じる。
 自然が身体の中を巡る。
 とてつもなく大きい力の奔流。
 そしてまた、私は眠る様に意識を失った。


 ————————


 目を開けると、エルドールの広い空があった。
 とても永く眠っていた気もするが、一瞬だった気もする。
 どうやら私は、恐れ多くも精霊の祭壇上に寝かされているらしい。

 視線を横へ移すと、父と女王、そしてご主人様が立っている。
 もしかして目覚めるまでずっと待たせていたのだろうか。
 申し訳ない気持ちになってすぐに立とうとしたが、身体が思うように動かない。
 辛うじて口は開くが、肝心の声が出ない。
 精霊の波動を短時間に大量に浴びた事でしばらく精神と身体がうまく機能しないと女王が教えてくれた。
 本来なら時間を掛けて、精霊の力を引き出していくものらしい。
 父は安堵の表情を向け、私の頬を撫でた。

「よくやった、メルロス。
 精霊の力は常に共にある」

 今は何も怖くない。

「では、彼女を家に連れて帰りますね」

 ご主人様が私をヒョイと抱き抱えた。
 とても嬉しくて、だけど恥ずかしくて、でも身体が動かないせいでもどかしい。
 色んな感情で頭がいっぱいになった。
 こんなに感情が持てるようになったのも、全てご主人様のお陰だ。

 ————————

 ————

 ——


 ご主人様は身体が動かない私を、何度も何度も乱暴に突き続けた。
 動けない状態の私を見て興奮しているご主人様に、私も凄く興奮してくる。
 でも、動けなくて私は何も出来ない。
 絶頂を迎え痙攣する私を見ると、すぐに回復するご主人様のあそこ。
 何度も何度も私の中を掻き乱す。
 そしてまた私の中で迸り、幸せが満ち溢れる。

 とても熱い。

 昔見た女王以上に、今の私の顔は紅潮しているだろう。

 ああ、もうご主人様無しでは生きていけない。

 人間の短命が、ただただ恨めしい———。
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