時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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ボルストン魔法学院

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「リンツォイの全魔力で、この魔石を何個満タンに出来る?」

「どれだけも何も、私の魔力量では魔石一つすら半分も貯めれません」

「そうか……」

 空になっている檻へと入り、魔力抽出装置である鎖をおもむろに掴む。

「うおぉぉ!」

 掴んだ瞬間に術式が発現し、黒ずんだ鎖が紫色に鈍く発光すると、みるみる俺の魔力を吸収していく。
 余りの吸収速度に、思わず声を上げてしまった。

「いけない!
 急激に魔力を失うと気絶や精神崩壊、最悪ショック死する恐れが!」

「え?そうなの?
 まぁ、見てろ!」

 逆に魔力を自ら流し込んでいく。
 程無く魔石が満タンとなり、白い光を放ち出した。

「魔石がフルチャージしている!
 こんなに速く!」

 驚くにはまだ早い。
 俺は更に魔力を込め続けた。
 次から次へと、魔石がイルミネーションの様に点灯していく。

 人間には到底出来るわけが無いと思っていた、理解不能な現象を目の当たりし、賢者はその圧倒的な魔力量に、驚愕を通り越して震えだした。

「あ……あぁ……まさかこんな事が……」

 賢者が言葉に詰まっている。
 帰るなら今のうちだ。

「これでしばらくは保つだろ。
 じゃあ、今度こそ行かせてもらう」

「あっ……」

 話す隙も与えず【転移】でこの場を後にした。

 賢者か。
 確かに強い魔法を使いはしたが、魔王を倒せるレベルにあるとは思えない。
 これからまだまだ強くなる伸びしろがあるのか、それとも英雄の数さえ揃えば相乗効果が期待出来るのか、どちらも定かでは無いが、先行きが心配になるな。
 そういえば英雄って全部で何人いるんだろう?
 時代によって違うのか?

 まぁ、いいや。


 エナに会いに魔法学院とやらへ行こう。

 ——————


 ——ボルストン魔法学院

 リンツォイの結界の所為でノイズが邪魔をしたのか、ボルストン王都の上空に【転移】してしまう。
 とはいえ、空からの方が魔法学院を探しやすいともいえる。

 外観が赤煉瓦と緑の屋根で構築されているので大変分かりやすく、すぐに学院前へと着いた。
 ここにエナがいるのか。
 校門を潜ろうとすると、守衛さんに止められてしまい中に入る事が出来なかった。

 先程、ボルストン王から賜った領主のペンダントを提示しても、何の効果もなく丁重に断られる始末。
 え?
 貴族で領主だよ?
 VIP待遇じゃないの?

 透明化して潜入しようかとも考えたが、エナの前で実体化すれば、他の生徒や教師やらが驚くかもしれない。
 わざわざ事を荒立てる事も無いだろう。

 王や賢者と会った事実を記録保存セーブする。
 次に【時間遡行クロノスフィア】で登校時間前に時を戻した。

 これが失敗だった。
 魔力を著しく欠乏し、軽い疲労状態に陥ってしまった。
 急ぎ、自分を【解析】してみる。

 テツオ
 年齢:25
 LV:21
 HP:430
 MP:8700/1005000

 魔力量が一万以下まで低下している!
 この数値は、常人はもちろん、魔法専門職よりも高い魔力量ではあるのだが、高い魔力量であればあるほど、自分の総魔力量が極限まで減ると、こんな事になるのか。

 足がフラつく。
 用水路の脇に設置されたベンチに、崩れるように座り項垂れた。

 各魔法の必要最低限の魔力消費量を、威力、距離、時間諸々を全て無視して数字にすると、

【火球】10
【回復】20
【転移】500
【時間遅行】5000
【時間遡行】10000

 となる。

 魔力量一万以下の何と心細い事か!
 時空系魔法はもう使えないのと同意。

 ……ああ、頭が重い。
 リンツォイの言った通り、一気に魔力を消費すると、魔力欠乏により様々な不具合が引き起こされるみたいだ。
 魔力の減少が原因なので、【回復】は根本的な解決にはならない。

 …………ああ、辛い。
 上半身を屈めて休んでいると、多数の足が見えだした。
 若い男女の足。
 制服姿から学生と分かる。
 魔法学院生の登校時間か。
 道幅が結構広いので、ベンチで項垂れる怪しい男の側には誰も近寄らない。
 はぁ~、面倒くせぇ。
 息をするのも面倒で嫌だ。

 すると、足音が近づいてくるではないか。

「テツオ様?」

 この声は。
 俯いたまま、視線だけを声の主に向ける。
 そこには心配そうな顔をするエナの姿があった。

「何かあったのですか?
 顔色が優れないようですが?」

 ああ、エナ。
 こんな情け無い姿を見られるとは。

「ふぅ、野暮用で王都まで来たんだが、ちょっと魔力を使い過ぎてな。
 ここで休んでるんだ」

 エナの顔を見て安心したのか分からないが、徐々に意識が薄れていく。

「失礼します!」

 急にエナが、俺の脇に手を添えて起き上がらせた。こんなアグレッシブなタイプだったっけ?

「お、おい」

「学院の医務室へご案内します!」

 周りの目が気にならないのか、エナは俺を支えながら学院内へと急いだ。
 生徒と一緒だからか守衛は俺を気にする様子もない。

 玄関口から学院内へ入ると、正面にすぐ医務室があるらしく、流れるようにベッドに寝かされた。

 エナが誰かとひそひそ話をしている声がする。
 どうやら女性の声のようだが。

「突然すいません、先生」

「真面目で大人しい君が、まさか男を連れ込んでくるなんてねぇ」

「か、からかわないで下さい」

 エナが俺の症状を先生とやらに伝えると、先生はやってみなさいと返す。

「え、でも……」

「君にはその力があるんだよ」

「……分かりました」

 何が分かったのか分からないが、話が何かの方向にまとまったようで、二人が俺の横へとやってきた。
 何が始まるんだ?
 などと考えるのも面倒くせぇ。
 目を開けるのも嫌だ。

 エナが何やら唱え始める。
 途端に暖かい光が部屋中を覆い尽くした。

 な、なんだ?
 何が起こっている?

 エナの頭上に何か人型の光が見えるような。
 羽……?
 これは……天使、なのか?

 エナが俺に手をかざすと、身体の中に暖かい波動が巡っていった。
 奇跡魔法。

 何をされたのかは分からないが、何が起こっているのかは分かる。
 体力と魔力が微量ながら回復し続けているのだ。
 それよりも、状態異常が解除されている事に驚きを感じる。

 黄色い髪を束ねた女先生が、眼鏡を掛け直して、俺に説明を始めた。
 濡れた唇がセクシーな美人だ。

「これは巫女だけが使える奇跡魔法と言われるもの。
 正に神の御使の慈悲。
 僧侶などでは、扱うことが出来ない回復魔法の一つさ」

「天使……」

 エナが俺の手を掴んで、優しい笑顔を見せる。
 可愛い。
 手が温かい。

「テツオ様。
 元気になって良かったです」

「ありがとう、エナ」

「いえ、お礼を言うのは私の方です。
 会いに来てくれたのですよね?」

「え?
 今、テツオ様って…………
 もしかしてあの侯爵マーキス様なの……ですか?」

 美人女医が俺とエナの再開シーンを中断して割り込んできた。
 しかし、ふぅ、どうやら俺の名声は王都にまで知れ渡っているようだな。

「二人はサルサーレ領出身。
 お知り合いだったのですね」

「はい、テツオ様が私を巫女になるよう送り出してくれたのです」

「そうか、ではここはエナに任せて私は授業に向かうとしよう。
 エナも落ち着いたら授業を受けるように」

「ありがとうございます」

 そう言うと女先生は俺に会釈をすると医務室を出て行った。
 女医ではなく、学院の教師だったのか。
 先程【解析】でチラリと見てみたが、名前はシエル、歳は24才、レベル43の魔法使いだった。
 レベル40ちょいで先生になれるのか。

「テツオ様が貴族になられたと聞きました。
 やはり、テツオ様はとても凄いお方だったのですね」

 エナは俺の手をずっと握ったままだ。

「別に凄かないよ。
 成り行きで貴族にさせられただけで。
 俺はただの冒険者だ。
 それより、エナは大丈夫か?
 元気でやってるのか?」

 そう訊ねると、エナは握った俺の手にコツンと額を当てた。
 金の髪がサラサラと流れ落ち、エナの顔を隠す。

「私は……元気です。
 でも、寂しい時もありました。
 テツオ様にとてもお会いしたかったです」

 俺の手に暖かい何かが伝う。
 エナの涙だ。

「エナは泣き虫だな」

「ごめんなさい」

 片方の手でエナの頭を優しく撫でる。
 サラサラの髪の毛、小さな頭部。
 エナ、可愛い。

 エナは落ち着きを取り戻すと、涙を拭って、近況をゆっくり話し出した。

 エナはこちらにきて、世界にいる勇者や英雄がどこにいるのかを、巫女の力で探し出す役目を終えた後、俺の役に立つ為に何か出来ないか、賢者リンツォイに相談したらしい。
 そして、聖女を目指す為、学院に通う事になった。

「俺の為?」

「はい。
 私はテツオ様のお役に立てるのなら何でも致します」

 ここにきて好感度がマックスを振り切ってないか?
【魅了】は既に解けた筈だが。

「エナ、巫女の力は凄い。
 聖女になってもいいが、巫女としても精進しておいてくれ」

「分かりました。
 テツオ様がそう言ってくれるのでしたら、私頑張れます!」

 華奢な手をぐっと引き寄せる。
 エナは流れるままに俺に抱きしめられた。

「ああ、テツオ様……」

「今夜、時間が出来たら俺の名前を呼ぶんだ。
 会えなかった分たくさん可愛がってやるからな」

 えんじ色の制服越しにも、胸の大きさがはっきりと分かる。
 白シャツに緑のタイはとても良い。
 左手で肩を抱き寄せ、右手でムニュッと胸を触る。
 ああ、柔らかい。

 エナは顔を赤らめ、小さくはいと返事をした。
 何を想像しているのか、その顔を見るだけでも興奮してくる。
 今すぐにでも襲い掛かりたいくらいだが、ここは学院内だし、戻らなければいけないしだし、夜まで我慢しようだし。
 その為にも、絶対に【転移】の魔力を、絶対に残しておかなければ、絶対にいけない、絶対に。

「じゃあ、そろそろ行かないと。
 エナ頑張るんだぞ」

「はい。
 テツオさまもお気を付けて」

 エナはいい嫁になるなぁと妄想しつつ【転移】した。
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