時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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着任式

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 突然、城に住むアデリッサから連絡が入った。

 いや、悪魔に対して住むという表現には、些か語弊があるかもしれない。
 この悪魔は、常時城にいる訳ではないのだ。
 つまり、待機させている、が適切な表現だろうか。
 連絡がきたという表現も微妙に違い、正しくは【思念伝達テレパシー】にて直接話し掛けられた、となる。

 結局のところ、寝ているところを【思念伝達テレパシー】で、脳内に直接グレモリーの声が響き、叩き起こされた事に対して不機嫌になっているのだが、表に出せないので悶々としているという訳だ。

 女性達と過ごす大切な朝食の時間をいつもより早く切り上げ、急ぎ城へ【転移】した。

 城に到着すると、ボルストン王都から来た遣い二人が待っていた。
 一人は白い法衣で、いつぞやスーレの村に来た神官と同じ格好をしている。
 中性的な顔をした若い男だ。

 もう一人は、貴族礼服に身を包む、腹の出たおっさんで大臣だという。

 領主クラスの貴族の送迎には、失礼がない様に大臣クラスが出張ってくるらしい。

 魔法国と宣いながら、大臣がいる事に違和感があるが、国家運営には様々な役職が必要なのだろう。

  序列は、大臣より領主の方が上らしく、どうやら緊張しているのか汗を拭きながら、丁寧かつ丁重に挨拶をする。

「突然の訪問失礼いたします。
 王城にて、侯爵様に新領主の就任式に出席して頂きたいのです。
 王は大変多忙な為、今すぐご来訪頂きたく存じます」

 今すぐ城に来いと、大臣が頭を下げてお願いしている。
 面倒臭いが仕方ない。
 一度、王都に行けば【転移】も出来る様になるし。

「分かりました」

 城にあった礼服を、ラウールに手伝ってもらいながら着替え、遣いの二人に連れられて、城前にある彼らが乗ってきた転移装置の箱に入り込み、転移する。

 ドキドキするな。

 北の国ボルストンの王都、そして王城。
 どんな感じなんだろうか。


 ————ボルストン城


 どうやら、城前に転移したようだ。
 領主クラスであっても城内に直接転移させないのは、安全管理を徹底しているからだろうか。

 中央に城があり、周りに丸く広がる街がある。
 その城を眺める。
 白灰色の長方形の壁が、入り口まで十本程高く聳え立ち、魔石がいくつも埋め込まれている。
 何の魔石なのか、1メートルくらいの巨大な球体から高い魔力が感じとれた。
 俺にはこれが、悪魔迎撃用兵器だと分かる。
 魔王まで倒す力は無いかもしれないが、ある程度の魔物なら殲滅できるだろう。

 通り過ぎる人々の服装を見ると、魔導衣や法衣、魔法学園の制服などそれぞれだが、衣服一つとってもお洒落で動き易く作られている。
 なにより文化レベルが高い。

 城に入ると、不思議な違和感があった。
 キョロキョロする俺を見て、神官が話し掛けてくる。

「侯爵様、魔法が使えない者には感じとれませんが、城内には強力な結界が張られております故、魔法行使が出来ません。
 どうか、ご了承下さいますよう」

 成る程、城内もセキュリティ万全という訳か。
 城内にも至る所に魔石が設置されている。
 徹底的だな。
 だが、この程度の結界じゃ、俺の魔法を抑止できるものではない。
 とはいえ、今は魔法を使う必要が無いので大人しくしていよう。

 魔石制御の昇降機で三階へと上がる。
 前世で言うところのエレベーターか。
 振動を一切感じない事に軽く感動した。
 これは、いい物が見れた。
 やはり、魔道具は王侯貴族が独占している様だな。

 今回の目的地は、謁見の間では無く、議会の間に行くということで、案内されるまま廊下を歩く。

 赤絨毯はふかふかで、窓の装飾も煌びやかだ。
 何よりガラスの透明度が高い。
 少し黄ばんでいたり、小さな水泡が入ったりはしているが、ここまで綺麗なガラスを見たのはこの世界に来て初めてだ。
 工芸レベルも高いという事だろう。

 その窓の向こうには街が見える。
 一際目を引いたのは、魔法学園だ。
 そういえば学校という施設を見たのはここに来て初めてかも知れない。
 この国には、教育機関が圧倒的に少ない様だ。

 さっきも見たが、魔法学院の女子の制服はスカート姿で中々にそそる。
 なるほどなるほど。
 参考になるな。

「こちらでございます」

「あ、すいません」

「い、いえ。
 失礼致します」

 しばらくぼうっと外を見ていたようで、反射的に謝ると、神官が恐縮して下がっていった。

 大きな扉を開けると、そこそこの広さの部屋があった。
 女性神官が数人立っていて、俺を見て会釈する。
 奥の方に、更に扉があるのか。
 女性神官が一際豪華なその扉を開けると、広間の中央にドンと大きな円卓があった。

 席の数は七つ。
 五席は先に到着していた領主で既に埋まっている。
 座っていた五人が、一斉に俺へ視線を向けた。
 威圧感が半端無い。

 ああ、苦手だ。

 こんな偉そうな奴らに囲まれて、今からしばらく過ごさなきゃいけないなんて、苦痛でしかない。

 内訳は、男性が四人、女性が一人。
 男性は俺よりずっと年上のおっさんばかりだ。
 といっても、流石は土地を治める領主といった風格、貫禄を一目で感じとれた。
 女性はアラサーといったところだろうか。
 貴族だけあって綺麗な熟女だ。
 若い頃はかなりの美人だったろう。
 今でも充分に美人だが。

 あら?サルサーレ公爵!
 そうだ、公爵もいるんだった。
 公爵が手を振って空いた席に俺を呼んでくれた。
 知っている人がいるだけで、なんて心強いんだ。

 いそいそと空いた席の方へ行き、会釈して背もたれのやたら高い椅子に座る。

「座る前になにか挨拶するべきでしたか?」

「いや、いいんだよ。
 何かあれば私がフォローしよう」

 サルサーレ公爵はニコニコと微笑んでくれている。
 ほっ……
 後は全て公爵に丸投げしよう。

 しばらく黙って座っていると大臣が、王様がお出ましになりますと、急ぎ我々に伝えに来た。
 どんな王なんだろうか。

 しばらく緊張して立って待っていると、王専用の扉からボルストン王が入ってきた。

 顔は皺だらけの爺で、胸の位置よりも長い髭がある。
 だが、目力が強い。
 魔法使いの見た目通り、魔力の高さも伺える。
 戦えば強いかもしれない。

「諸君、多忙にも関わらず此度の参会感謝する。
 ふむ。
 其方がテツオか。
 余がボルストン王だ」

 おお、流石に威厳があるな。
 王が手を挙げると全員座りだしたので、俺も座ろうとすると、大臣がこちらへどうぞ、と俺を王の元へと先導する。
 ああ、着任式だっけ。

 大臣が粛々と手に持った巻物を読み上げた。
 俺が侯爵位を叙爵し、新領土を拝領する辞令が下される。
 これにより、公式に貴族・領主となったらしい。
 こんな簡単に領主になっちゃって本当にいいのか?

 大臣に言われひざまずくと、王が俺の首に魔石が嵌め込まれたペンダントを掛ける。

「大任ではあろうが、其方に実力がある事はサルサーレ公から聞いておる。
 どうか民の為に力を尽くしてほしい。
 この通りだ」

 王が俺に頭を下げて頼み込んでいる。
 大臣が慌てておやめ下さいと言うが、王は意に返さず俺の手を握りしめている。
 これをどう捉えたらいいものか分からないが、そこまで悪い王では無さそうだ。
 もし、これが演技であれば、今後かなり警戒していく必要があるが…………

 式典が一通り終わったのか、大臣の指示で席に着く。
 そして、王も円卓を囲む様に席に着いた。
 王の席が一段高くなっているとはいえ、俺達と同じ目線で会議をするという事か。
 王が円卓に座る領主一人一人見渡した後、ゆっくり口を開いた。

「さて、テツオ侯爵という新しい仲間を加えて初めての会議であるが…………
 まずはジョンテ領とサルサーレ領で起こった悲しい事件から議題にするしかあるまい」

「それについてはまず私めから報告させていただきます」

 サルサーレ公が手を挙げ、事の顛末を嘘偽りなく説明する。
 娘が関与していた事も全て。

 しかし、娘に関しては王は済んだ事だと言い、他の領主からも特に異論は無かった。
 それよりも、他領主が気にしている事は二つ。

 貴族を騙し、長年この国に悪魔が潜んでいた事実を危惧し、それを見破り打ち倒した俺の力に興味を持っている事だ。

 全員が俺の方を見ている。
 サルサーレ公にも詳しくは話していないので、俺が語るしかあるまい。

 さて、どこまで話していいものか。
 とりあえずネタを小出しにしながら様子を見よう。

 知り合いが拐われ調査をすると、ジョンテ家の貴族が実行犯だと分かり、仲間に人間に化けている悪魔がいた。
 魔力の弱まっていたその悪魔を、西の国の英雄とクランの協力を仰ぐ事でついに倒す事ができたのだ、と簡単に説明する。

 王が黙って俺を凝視しながら話を聞いていた。
 なんだこの圧は……
 しかし、嘘は言っていない。
 全て事実だ。
 一応、注意喚起しておいてやろうか。

「助けた者の中にエルフ族がいました。
 そのエルフが言うには、まだまだ人間に化けて潜んでいる悪魔がこの国にいる、と。
 皆さんもどうか注意して下さい」

 俺の言葉に領主達が顔を見合わせている。
 自分の領地に、まさか悪魔が潜んでいるとは、夢にも思っていないのだろう。
 皆が黙っていると、またも王が話し出す。

「うむ。
 魔法省でも何か対策を講じることとしよう。
 して、テツオ侯爵マーキスよ。
 ジョンテ家は既に貴族では無くなった。
 あの地をずっとジョンテ領と呼ぶわけにもいくまい。
 新しい領地名があれば申請するがよい」

 俺はその提案を丁重にお断りした。
 ジョンテ家には、ラウールという有望な後継者がいるので、いずれ彼に領主を譲りたい思いがある。

 議題が次に移った。
 これが本題かもしれない。

 王が、この国に勇者が現れた事、それを各領地で大々的に発表するように伝えた。
 領主達が歓喜に沸く。
 そうか、人間達にはそれだけ勇者という存在が心の拠り所になるのか。

 南の国のとある領地が、悪魔に占領された事や、東の国が戦争の準備をしている事も、発表するかと思ったが、最後まで誰も言わなかった。
 まだ情報制限しているのかもしれないな。
 むやみに民を混乱させる訳にはいかない。
 だとしても、領主達には伝えるべきなのではと思うのだが。

 だが、王は最後に自領をしっかり防衛するよう念を押してから退室していった。
 もしかすると、王ですらも口止めさせられている可能性があるな。

 大臣が、魔石ペンダントの使用方法を教えてくれた。
 このペンダントがあれば、各領地の転移装置へ、領主のみが転移出来るようだ。
 転移する際は、互いのペンダントが光るらしい。
 転移希望を拒否する場合の使い方も、しっかりと教えてもらう。

 自分から【転移】するのは自由気ままだったが、領主の誰かが、自領に転移してくると思うと、ストレスを感じるのは俺の我が儘なのか?

 とりあえず、ペンダントが光るという面倒な機能があるので、今日中に全領地へ跳ぶのでお願いします、とだけ伝えておいた。
 一度場所が分かってしまえば、後は魔法の【転移】で跳べばいいだけだ。
 転移装置を使わなければ、他領主のペンダントを光らせずに済む。

 式も会議も終わったので、領主達は次々と席を立つ。
 退室する際、領主達は互いに二、三言葉を交わしたが、そこまでの親密さは感じない。
 そんなものだと言えばそれまでだが、もっと手と手を取り合う関係なのかと思っていたが。

 サルサーレ公に娘アデリッサの事を聞かれたので、息災を伝え、別れの挨拶を済ませた後、部屋を出る。
 城前まで戻れば、転移装置があるらしい。

 せっかく王都まで来たのに、なんか拍子抜けしたな。
 それだけ世界情勢は、トップシークレットなのかもしれない。

 そういえばエナはどこにいるのだろうか?
 恐竜退治に行かなきゃいけないんだが、折角来たんだし、やっぱりエナに会いたい。

 城の中を探索するか。
 俺は【透明インビジブル】を唱え姿を消した。
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