時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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革命軍②

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 まずは、目隠しだ。

水の障壁アクアウォール

 堀の水を魔力で高く巻き上げ、今から橋の上で起こる出来事を、水の壁でもって遮蔽しておく。

 それを見た強面カルロスが必死の形相になり、慌てふためく兵士達に再び支持を出す。

「えぇい!もうこのまま押し切るしかない!
 勝てば我々が正義だ!」

 発言といい、怖い顔といい、いちいち苛つかせる奴だ。
 あいつは特に懲らしめてやる。
 
 散歩をするように、ツカツカと盾を構えた兵士に向かい、ゆっくりと歩いていく。

「ふざけやがって、放て!」

 刺々しいデザインかと思われた盾から、その棘自体が何十本と前方へ放たれた。
 紫色の液体まで噴き出している。
 恐らく毒か何か、小技が効いてる。

時間遅行クロノスラグ・弱】

 人間が視認出来るギリギリのスピードで動けるように、時間の流れを少しばかり遅くした。

 ゆっくりと射出されている棘を横目に、橋の端、石造の欄干を渡って回り込み、盾兵の背後に移動する。

 禅寺にて僧が修行者を棒で打ち据えるかの如く、盾兵のガラ空きの背中を棒で叩く。
 これは、心の浄化だ。

 次に、その後ろで指示を出していたカルロスに近付く。
 流石に実力者なのか、俺の動きに少しばかり反応できていて、豪速球を予測する打者がバットを振るように、ハンマーを振りかぶっていた。
 だが、それじゃあ遅い。
 遅過ぎる。

 武器を取り上げ、残った遠心力を利用してカルロスの胴体に自らのハンマーを食らわせておく。
  自分で自分を攻撃して、俺が味わった痛みを思い知るがよい!

 更に後列に布陣する二十人近い弓兵や魔道兵の頭を、ぽこぽことモグラ叩きし終えたところで【時間遅行クロノスラグ・弱】終了。
 門より向こうにいる、武装しただけの領民達は攻撃対象から外した。

 ——時流を正常に戻す。

 ザッパアアアン…………


 兵士長ロナウドも俺の動きが見えていた。
 だが何も出来ず、目まぐるしく動く俺を、ただ必死に目で追う事しか出来なかった。
 動けなかったのだ。

 水の壁が重力を取り戻し、元あった堀へと戻っていく。
 ザザザと流れる水の音に合わせ、兵士達が次々とドミノの様に倒れ、吹っ飛んだカルロスは絶叫しながら、堀に発生した奔流へと呑み込まれていった。

 残った水飛沫により、橋に虹が架かっている。

 その虹の向こうに、新しい領主と革命軍のリーダーだけが立っている光景に、民衆はただ唖然としていた。
 いきなり終わったのだ。
 いきなり、全ての兵士が倒れていた。
 何があったのか分からないでいる。


「俺の今の動きがなんとなく見えていた様だな。
 かなりの力が無ければ不可能なんだが」

「は、早い……」

 ロナウドは手に持っていた剣を地面に落とし、戦闘の意思を放棄した。
 ロナウド達に扇動されていた領民達も、次々と武器を放り出し、その場にへたり込んだ。

「なんでこんな事をしている?」

 スキンヘッドに問う。

「知れた事だ。
 貴族の腐敗が許せなかったからだ」

 正論だ。
 名前を訪ねると、男はロナウドと名乗った。
 以前ジョンテ城に従事していた兵士長だとも。

「見るにお前はアレと違い正義感が強そうだ。
 実際は、黒幕がいるんじゃないのか?」

 堀で、自らの鎧の重量で溺れそうになっている強面を指差して引き合いに出し、ロナウドを問い詰める。

「民衆の苦しむ声に応え、我々は立ち上がったのだ。
 もし黒幕がいたとしても、我々が話す訳が無いだろう」

 ふむ。
 こいつが言う事も一理ある。

「じゃあ、何も言わなくていいよ」

「は?」

 あっさり引き下がる俺の言に、ロナウドは呆気に取られた。

「俺はここの新しい領主、テツオだ。
 エリックや貴族達の犯罪を摘発したばっかりに、代わって貴族にさせられた者だ。
 前任の不祥事で何かと人手不足で困っている。
 そこでだが、お前達を兵士として雇いたいんだがどうだろうか?」

 ロナウドは予想外の提案に言葉を失った。
 頭が追い付いていない。

「お、俺達は兵を挙げ、新領主のお前を二度も襲ったんだぞ?
 それを今更…………本気で言ってるのか!」

「なんだよー?
 まだ降参じゃなかったのか?」

 渋々、棒を構え直す。
 ロナウドは慌てて両手を振った。

「降参っ、降参だ!
 既に!
 ……お前、いや貴公は、二度も噛み付いた犬を許し、尚且つ飼うというのか?」

「悪いのは全てエリックら貴族達で、お前達は何も悪くない。
 むしろ犠牲者はお前達の方だ。
 これからは俺が守るから、またこの領地の為に頑張ってくれないか?」

 守る…………だと?

 信じられないその言葉に、ロナウドの目から涙が溢れ出す。
 突っ伏して嗚咽した。

 貴族への反逆罪は、即死刑。
 引き返せない意志で決行した。
 自慢だった鍛えた兵士達が次々と倒れ、剣を手放した時は死を悟った。
 そして、家に残してきた家族を頭に浮かべた。
 ……もう会えないと思っていた。

 自分より一回りは若いだろう領主の寛大な采配に、ロナウドはただただ頭を下げ続けるしかない。
 いつの間にか自分の背後で自分と同じ様に、兵士達が頭を垂れている。
 誰一人死んでいない。それどころか傷一つ無いではないか。
 完全なる敗北。

「どうか……どうかよろしくお願いします!」

 よし!
 これにて解決だ!
 民衆に向けて拳を上げる。

「小競り合いは終わった!
 彼等は兵士として、再びこの街を守ってくれる!
 これから我々は、一丸となってこの街を守っていくんだ!」

 事の顛末を見届けた民衆から、次第に歓声と拍手が巻き起こり、門前や堀周辺は、騒ぎを聞きつけた大勢の人でごった返した。

 悪魔を追い払い、革命を未然に防いだ、若き新領主。


 ——領民が新領主を認めた瞬間である。


 よし、カルロスが堀に沈んで浮かび上がってこない事以外には、誰も命に別状はない。
 上手くいった。
 兵士長ロナウドに、こいつらを連れて今日は帰れと告げ、俺は急ぎ城に向かって走った。
 そう、俺は急いでいる!

「テツオ様、アデリッサさんが私の盾になって……」

 城に入るや否や、テツオ様テツオ様と女性達が俺に詰め掛けてくる。

 女性全員が朝、俺の指定した制服を着ているせいで、何か不思議な気分になってくる。
 俺の記憶にジョシコウセイというジャンルがあった。
 その女子高生……とやらが着ていた制服を、記憶をたよりに作らせた。
 素材や飾り付け等は微妙に違うが、ミニスカート具合は非常に宜しい。


 ——早く助けてよ


思念伝達テレパシー】を使ってグレモリーが催促してくる。
 いかんいかん、矢の刺さった女がグレモリーで安心していたが、皆の手前アデリッサを早く助けなければ。
 速やかに制服美女達を掻き分け、彼女の元に駆け寄った。

「テツオ様……」

 俺を視界に捉え、苦しいくせに無理して笑顔を作るアデリッサ。
 胸に矢ががっつり突き刺さっているのに。
 まぁ、上位悪魔が本体だから死にはしないんだけどね。
 しかし、アデリッサの人格が出ているから、俺が回復してやらないといけない。

「もう大丈夫だ」

 胸から矢を抜き、【回復】を掛ける。
 傷がどうなったか確認する為に、制服の胸元部分を指で引っ張って覗く。
 ツヤツヤの白い肌。
 細くて綺麗な鎖骨の向こうには、窮屈そうに下着に収まった胸の谷間を確認!
 いやいや、傷を見ないとな。

 ふむ、傷口は綺麗に消え、何の問題も無い。
【回復】凄いなぁ。
 ただ、制服には矢の貫通した穴が残ったままだ。
 アデリッサ以外の女性に矢が刺さっていたら、と考えたらゾッとする。
 これは、もしかするとグレモリーが女性達を守ったのかもしれない。

 ラウールが横から声を掛けてきた。
 顔色は相変わらず酷いが、少なからず事態が収まった事で安堵している表情だ。

「テツオ様、お見事でした!
 兵も戻り、民の心も掴んだようですね!
 アデリッサ嬢も本当に無事で良かった……
 あぁ、本当に……良かっ……た…………」

【睡眠】を掛け、ラウールの自室に【転移】し、強制的に寝かしつける。
 お前は少し休んだ方がいい。

 玄関に戻り、皆の前に立つ。

「アデリッサ、すぐ動けそうか?」

「はい、テツオ様のお陰ですっかり大丈夫です」

「よし、ではこれからテツオプロジェクトの全貌を皆にお見せしよう」

 女子高生の格好をした美女達がわぁと声をあげ、パチパチと拍手をする。

 うん、反応をちゃんとしてくれるって嬉しいよね。

 思わぬイレギュラーがあったが、手短かに済んで良かった。

 さぁ、いよいよ街づくりの時間だ。
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